50 食いたかったんだもん
やあ、みんな。
俺はハンス。
覚えているかなぁ。
ヘイムのキッチンのモブAだ。
自己紹介は以前したから、もういいな。
ところでみんな、冒険者パーティーって知ってるか。
よく転生者や転移者が口にするやつだ。
そんなの子供向けの物語にも出てこない。
異世界物語の中だけの話だ。
この世界にはありもしない。
……と思っていたがよ。
俺は今、その冒険者パーティーの一員だ。
もっとも全員、職業ってやつは料理人だがな。
潜るダンジョン名は――
“ヘイム・キッチン”
どうしてこうなった。
きっかけは、そう。
約一か月前だった。
店主がよう、そう言い出したんだ。
最後の客が帰って、キッチンの掃除をしていた時だ。
「ハンスさん、そろそろ、あれに手を出そうかと思う。」
真剣な顔をして、こっちを見る。
嫌な予感しかしなかった。
そして店主は高らかに宣言した。
「そう、ラーメンを!!」
ラーメン。
転生者や転移者が伝えたとされる伝説の料理。
伝わるとあっという間に世界中に広まり、
出汁の種類や麺の種類、
さらに上に乗せる具によって、
内紛が起きかけたという。
今やカレーと並ぶ庶民食。
いや、俺は知っている。
帝宮の宮廷料理人だった俺は知っている。
皇族の皆さまを始め、高位貴族も、
庶民の味と馬鹿にしつつ、
料理長や副料理長に秘密裏に作らせて食している事を。
あれに手を出すのか。
やめといた方がいいぜ、店主。
あれは別名パンデモニウムと呼ばれている。
確かに庶民でも食べられる値段でありふれているが、
その分奥が深い。
あんた、一体どれだけの料理に手を出すつもりだ。
この店にどれだけメニューがあると思ってるんだ。
「うちは大衆料理店だからな。求められたら出すんだ。」
とカッコいい事を言ってるが、
いつも涙目じゃん。
「そんな料理知るかーー!!」
「作った事ないわ!!」
と怒りながら、
なぜか作っているのが不思議だけどよ。
まあ、大体そう言われて作った料理は、
不味くはないってレベルで、
客も言った料理が食べられて嬉しいが、
味がいまいちなんで微妙な顔をして食っているがよ。
で、その日の夜はその料理の特訓を遅くまでしている事に。
更に最近、俺にもなんとなく、うっすらと見える。
お師匠様だっけか。
特訓前に作ってくれるのを。
最初は、いきなり調理器具が動いて料理を始めるから、
びびったぜ。
でもその後、
店主とお師匠様とエマさんと俺で、
その至高の料理を食べるのは最高だったぜ。
最初は命令でこの店に来て不満だったけどよ。
これだけで、
「俺の料理人生、一片の食いなし」
だよ。
えっ、字がおかしいって?
気にするな。
俺の語録がおかしくなるほどの味なんだ。
今更、宮廷に戻ってこいと言われても、
交代と言われても、
これは譲れねぇ。
なのにこの間、
店主が転移者である事をゲロっちまってから、
他のみんなも来るようになってしまった。
夜遅いのに。
さっき晩飯食ったばかりなのに。
社員食堂に座っていやがる。
流石に、ちみっこ達には健康に良くないと、
翌日にお師匠様がもう一度作ってあげてるけどよう。
女性陣もまずいんでないかい。
特に甘味なんか争奪戦が始まっているぜ。
そして最近はアンナさんがよう、
客に、
「メニューにない物も作ります」
って言ってるし、
ベルンの旦那やセバスの旦那も黙認して、
新料理が入った時はみんなに報告している。
お陰でメニューがどんどん増えているのに。
ここで禁断の料理を……。
帝都内のラーメン屋も、
その一品に全てを注いでいるんだぞ。
そう言ったら。
「俺も食いたい。」
「食いに行く時間がない。」
「ならば、自ら作るしかない。」
なんて言い出した。
そんな気持ちで手を出していい物なのか。
因みに店主は、
醤油>塩>豚骨>味噌
らしい。
俺は、
豚骨>塩>味噌>醤油
だ。
確認し合った時、店主との間で火花が散ったね。
お師匠様が、
「基本の味は醤油です」
と言ったので、まずこれを作ると店主は言った。
※諸説ありますが、ここは話の展開上、醤油でお願いします。
疑わしいが、お師匠様の言なら仕方がない。
次は豚骨を作る事を約束して、その場は収まった。
そして次の日には、ラーメンを作る専用の器具が揃っていたのは流石と思った。
だが、そこから色んな事があって、
ラーメン作りはお預けとなった。
そして先日、皇后陛下が来られて阿鼻叫喚となり、
その後も、
なんだ、
トール夫人とハーケン夫人が来られる事になり、
店主の料理の腕を披露する事になった。
なんか店主の目が死んでいたけど大丈夫か。
あんた昨日寝てないだろう。
朝起きたら、なんか大量の料理を作った跡があって凄かったぜ。
料理はどこにもなかったけどよ。
まさかエマさんが全部食べたのか。
「失礼な。私が食べたのは数十人分だけです。」
だそうだ。
どこに入るんだよ。
なんでも、これから来るお偉いさんや富豪相手に高値で支払わせる為に、
それに見合った料理の腕が必要だと、
お師匠様の特訓が始まったらしい。
トール夫人とハーケン夫人のお墨付きが出るまで続くそうだ。
店主が、
「おのれ、飲兵衛エイトめ」
って言ってたが大丈夫か。
まあ普段から姫様達をそう呼んでいるから今更か。
それから毎日、
朝と呼べる前から起きてパン作り。
その後、モーニングと出前の準備。
モーニングが終われば出前を完成させ、
そのままランチタイム。
その後はパティシエキッチンとキッチンの往復。
夕方からキッチンに立ち、
それが終われば片付けと明日の料理の仕込み。
それから、お師匠様の特訓だろう。
あんた寝てないだろう。
今日で何徹だよ。
えっ。
無駄に健康な体が恨めしい?
おかしくなっても、お師匠様が回復魔術を使って正気にしてくれる?
なんだよそれ。
やめろ。
俺の肩に手を置くな。
巻き込むな。
ほら、帝国学園の先生も夫人達の料理人も引いているぞ。
俺を置いていくな。
何?
俺にも資格があるだと?
そして思いつく。
お師匠様の事がなんとなく認識できるようになった時だ。
それは俺がここに来て、いつも思っていた事。
店主が時々、キッチンで遊んでいるのだ。
料理や素材相手に、
この人何やっているんだよ。
食い物で遊んでいるんじゃないと。
でも、お師匠様を認識できるようになった
その時から俺には見えてしまった。
遊んでいるんじゃない。
戦っているんだ。
料理と。
食材と。
なんで襲ってくるんだよ。
そして俺もそれから襲われるようになった。
初めての料理を作る時や、
まだ上手く作る事ができない時に。
その事を帝国学園の先生と助っ人の二人に話して見てもらったら。
「ほう、もしかしてこれは」
「知っているのか、ドンナー」
と、ハーケン夫人の料理人であるモーントリヒトが問いかける。
トール夫人の料理人であるドンナーが顎に手を当て答える。
「もしや、これはアステリア帝国に伝わる伝説の料理の流派」
「もしや、それは」
今度は帝国学園から来ているシュヴァルベ先生が問いかける。
「間違いない。流派至高不敗」
「なんと、あの伝説の」
「うむ。伝説によれば、その至高の味を求めるあまり、
料理や材料と戦い屈服させ、その戦いの後には全てが焦土と化すという。」
なにそれ。
訳が分からないのですけど。
「もしや、店主殿はその流派至高不敗の継承者なのか」
「それなら分かる。このレシピの多さに味の高低差」
「そして、この調理方法。まさしく流派至高不敗」
「ハンス殿、そなたも闘っておられる模様」
「ここに来て長いと聞く。まさかそなたも流派至高不敗か」
「羨ましい」
なんだよ、羨ましいって。
代わってやるよ。
いや、お師匠様の料理は譲れねぇ。
ちくしょー、どうすれば。
こうなったら、あんたらも巻き込んでやる。
俺はお師匠様に拝み願った。
「羨ましいそうです。流派至高不敗に入りたいそうです。」
そう願ったのがいけなかったのかな。
全ての業務が終わり、
帰ろうとした時。
店主が俺達四人を呼ぶ。
なんだとついて行くと、
社員食堂に皆が集まっていた。
おっ、これはお師匠様の新作ですか。
そう喜び席に着くと、
出てきたのは――
“醤油ラーメン”
おいおい、まさか。
本当にやるのか。
みんな楽しそうに食っているよ。
色々好みは違うみたいだが、
一口食えば、みんな黙る。
社員食堂には麺を啜る音だけが響いた。
至高のラーメンだ。
ああ。
これで豚骨食いてぇ。
気づいたら、汁の最後の一滴まで無くなっていた。
エマさんなんか五杯目だった。
俺もお代わりだ。
えっ。
醤油だけでなく、
豚骨・塩・味噌もあるって?
さすがお師匠様。
その後、全種類制覇してしまった。
当然、豚骨は替え玉で。
そして、みんな満足して、
片付いた後、
もう風呂入って寝るかと思ったが、
キッチンから出られなかった。
入り口に見えない壁がある。
通れない。
なんだ。
俺だけじゃない。
シュヴァルベ先生やドンナー、
モーントリヒトまでも。
まさかと思い後ろを振り返る。
スープの鍋から、
竜が鎌首をもたげている。
麺を置いている場所にいるのは、
鎌を持った死神か。
具材置き場には様々な魔獣が。
俺がお腹いっぱいで、
せめてスープだけでもと思って飲んだ鍋からはオークが。
な、なんだよ。
ここは噂に聞くダンジョンか。
騎士団どこだよ。
一体でも勝てねぇよ。
なのにこの数。
どうするんだよ。
姫様、『双星の断罪者』様。
出番ですよ。
そんな俺達に、
幽鬼の様な店主が近づいてきて、
それぞれに服を渡す。
なんだ。
ただの料理人の服装だよな。
まあ店主も着てて、みんな同じ制服か。
嬉しいけど、こんな時に渡さなくても。
「ごめんね」
えっ、何っすか店主。
「俺の力が足らないばかりに、こんな物しか渡せなくて」
いや、充分カッコいいし、お洒落ですよこの制服。
「普通のチェインメイル位の防御力しかなくて、ごめんね」
言ってる事は分からなかったが、
俺達はすぐに着替えた。
ないよりマシだろ。
あの化け物達を見た後はさ。
着替え終わった俺達は見てしまった。
化け物達の真ん中、
上空に浮かぶお師匠様を。
はっきりと。
そして聞こえた。
『ようこそ、我が流派至高不敗の道場へ』
『さあ、戦いなさい。明日の朝日を拝みたければ』
『さっき食べた味を再現するのです』
『今まで培った料理のノウハウを全てつぎ込んで』
なんだよ、ノウハウって。
俺まだ料理人になって数年だよ。
まだ見習いだよ。
『心配いりません。正しく作れば、この者達は襲ってきません』
だからラーメンの作り方知らねぇって。
横を見るが、
ドンナーとモーントリヒトが唖然としている。
こちらも知らないみたいだ。
シュヴァルベ先生が、
「教科書に載っている位しか。しかし実際に作った事は……」
駄目だ。
店主は知ってそうだが、
その幽鬼みたいな顔で作れるのか。
なんでそんな状況で始めちゃうわけ。
『さあさあ、ヴァルナさん』
『この後、いつもの修行もあるし』
『パンも作り置きではなく、明日の分は朝焼かないと』
『時間がありませんよ』
その言葉に、
店主がグールの様に足を動かして調理場へ向かう。
「だって、食いたかったんだもん」
なんだよ、その理由。
“だもん”っておっさんが言ってもキモイよ。
可愛くないよ。
なんで俺達まで巻き込まれてるの。
しかし、
そんな店主の背中を見ると放っておけなかった。
俺達はお互いの顔を見て頷く。
死ぬ時は一緒だぜ、兄弟。
今ここに、
冒険者パーティーが結成された。
挑むのは――
“ヘイム・キッチン”
難易度は知らん。
かなり高位だろう。
俺達はそれぞれの場所へ立つ。
店主は駄目だ。
俺達に指示を出せる状態じゃない。
一人でやってもらうしかない。
シュヴァルベ先生の指示の元、
闘いが始まった。
明け方だろうか。
店主が襟首を掴まれて、
お師匠様にパン工房へ連れられて行くのを見ながら、
俺達は意識を失う寸前だった。
『時間ですから、今日はここまでですね』
お師匠様の声が聞こえた。
今日はって、
まだやるのか。
そう思いつつ、眠りについた。
「おお、ハンスよ。死んでしまうとは情けない」
またそのネタかよ。
死んでねぇよ。
師匠のニューワールド講座㊻
ラーメン戦争編
「師匠」
『なんです』
「本編でラーメンのせいで大変な事になってますけど」
「ラーメンで本当に内紛とか起きたんですか?」
『起きました』
「即答!?」
『事実です』
『特に有名なのが』
『第四次ナルトは要るか戦争ですね』
「何その嫌な名前」
『元々ラーメンにはナルトが入っていました』
『長年愛されていた定番の具ですね』
『ところがある日』
『転生者と転移者の集団が言ったのです』
『ナルトは本来』
『蕎麦の具である』
『ラーメンのオリジナルには存在しない』
「うん?」
『そして』
『ラーメンからナルトを追放しようとしました』
「嫌な予感しかしない」
『そこから戦争です』
「戦争!?」
『現在でも大小含めて』
『血みどろの戦いが続いています』
「たかが具一つで!?」
『甘いですね』
『ヴァルナさん』
『昔』
『貴方と同じ事を言った元老院議員がいました』
「いたんだ……」
『会議中に』
『他の元老院議員達に』
『めった刺しにされました』
「怖い!!」
『その時』
『自分を刺した親友を見て』
『彼は言ったそうです』
「嫌な予感しかしない」
『メンマ、お前もか』
「やかましいわ!!」
『歴史に残る名言ですね』
「絶対違う!!」
『だからヴァルナさん』
『ラーメンに手を出した以上』
『半端な物は出せませんよ』
「なんで」
『スープ』
『麺』
『チャーシュー』
『メンマ』
『ナルト』
『海苔』
『ネギ』
『煮卵』
『つけ麺』
『油そば』
『麺の硬さ』
『背脂の量』
『全てに派閥があります』
「怖いなラーメン界」
『こだわりの人は本当に怖いですからね』
『カレーみたいに』
『とりあえず揚げ物全部乗せて解決』
『とはいきません』
「カレー派から怒られるぞ」
『ちなみに』
『流派アルティメットには』
『ラーメン四天王がいます』
「嫌な予感しかしない」
『これはいよいよ』
『料理バトルの予感ですね』
「しねぇよ!」
『秘技』
『超濃厚豚骨波動麺』
「やめろ」
『奥義』
『天地鳴動魚介スープ』
「やめろ」
『必殺』
『無限替え玉』
「やめろって!!」
『はっはっはっはっは』
『楽しみですね』
『ヴァルナさん』
『今こそ』
『我が流派至高不敗こそが』
『最強であると知らしめるのです』
「だから料理を戦わせるな!!」
※ラーメン戦争はフィクションです。たぶん。
※ナルト派と反ナルト派は今日も元気です。
※師匠は豚骨至上主義です。
※なお本人は全部美味しく食べます。
作者メモ
※本編のおまけ設定です。読み飛ばしても問題ありません。
※本編とは時空が違います。
※本編の都合により、設定が変わる事があります。




