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42 その善意が招いたもの

全国のポニーちゃんファンの皆さん。


オハポニニでござる。


なにを言っているか分からんでござると?

さては、ポニーちゃんファンではないでござるな。


まあ、それはともかく。


松平家之介でござる。


故郷の日本のみんな。

僕は遂に異世界転移して《勇者》になったでござるよ。


スゴイでござる。

加藤氏や中川氏、一緒に異世界転移したかったでござる。

だが、この世界では《勇者》は外れジョブらしいのでござる。

器用貧乏で、しかも沢山いるらしいでござる。


さらに気づいたら“ござる口調”になっていたでござる。

多分、あのお店に行った辺りからおかしいでござる。

なのに「拙者」ではなく「僕」でござる。

中途半端でござる。

クラスのみんなの目が痛いでござる。


加藤氏、中川氏。

異世界転移って思ったより辛いでござる。


僕達を召喚したのは悪徳貴族。

しかも魔族だったのでござる。

召喚早々、僕達を騙して隷属の魔道具を着けさせ、

政治の道具にしようとしたのでござる。


夢も。

冒険も。

ロマンも。

何もなかったでござる。

あったのは汚い大人の世界だけだったでござる。


そうそう。

その時、真っ先に悪徳貴族の企みに気づき、僕達を助けてくれた佐々木氏。

今では立派な同士でござる。


学年一の秀才。

全国模試でも常に上位に入るスゴイ御仁で、昔は近寄りがたかったのでござる。

だが今では同じケモ耳愛好家でござる。


リアルでいるでござるよ。

ケモ耳。

その点だけは異世界転移して良かったでござる。


昨日は佐々木氏が新たな同士になってくれたし。

携帯も充電できたし。

委員長も《狂戦士》の呪いから解放されたらしいし。

いつも泣いていた冨樫氏も少し前向きになったし。

ケモ耳姉妹にも会えたし。

一緒に写真も撮ったし。

ドワーフ族や鬼人族にも会えたのでござる。

本当に幸せな一日だったのでござる。


――なのに。


今日は朝から教室の空気が変なのでござる。

昨日の夜、寝る前に通達があったのでござる。


『必ず遅れずに全員参加する事』

『一人でも欠けた場合、全体ペナルティを課す』


怖いでござるよ。

ここは平和な日本ではござらん。

絶対帝政の国。

身分制度が厳しく、

日本みたいに授業をサボってコミケへ行くなんて出来ないのでござる。

まあ、コミケはないのでござるが。

無いなら僕が作るでござるかな。


……話が逸れたでござるな。


とにかく厳しい世界でござる。

普通に過ごしていれば問題ないとは言われたのでござるが、

その“普通”が難しいのでござる。

日本と違い過ぎるのでござるよ。

そのせいで、毎日のように誰かが揉めているでござる。

特に戦闘系ジョブを持っている者達でござるな。

この世界の有力貴族に取り入った者もいるでござる。


佐々木氏曰く、


「あれは体の良い傀儡候補だから近づくな」


との事でござる。

実は佐々木氏、《鑑定士》のジョブ持ちでござる。

転移転生物では定番のチートスキルでござるな。

このスキルのおかげで、僕達は悪徳貴族の罠に気付き助かったのでござる。

その代償に、佐々木氏は死にかけたのでござるが。

アンリ先生がおられなければ、本当に危なかったでござる。

その時のトラウマでスキルが使えなくなっていたのでござるが、

最近は少しずつ克服し始めているそうでござる。

そして再び使えるようになった時。


見えたのが――

ハニートラップ。

だったそうでござる。


クラスの皆は、一部を除いて本当にモテるでござる。

しかも美男美女がわらわら寄って来るのでござる。

授業でも言われたでござるな。

転移勇者は強力なジョブやスキル持ちが多い。

だから様々な勢力が取り込もうとする。

気を付けろ、と。

拙者はてっきり、また悪徳貴族みたいなのが来ると思っていたのでござる。

しかし現実は違ったのでござる。

僕の所には誰も来なかったでござる。

やはり《勇者》は外れジョブでござるな。

再確認したでござる。


そして佐々木氏がこっそり教えてくれたのでござる。

その美男美女達。

全員、


『ハニートラップ』


と表示されていたらしいでござる。

怖すぎるでござる。

《鑑定士》のジョブが完全復活したと知られれば、

各勢力が放っておかないらしいでござる。

そりゃそうでござる。

見ただけで色々な秘密が解るのでござるから。

もちろん鑑定防止の魔術やスキル、魔道具もあるそうでござる。

だが最終的にはスキルレベル勝負。

転移者の《鑑定士》は、それほど価値が高いらしいのでござる。

だから、


「使えるようになった事は黙っていてほしい」


と頼まれたのでござる。

あのお店にいた皆にはバレているでござるが、多分大丈夫でござる。

……多分。


一人だけ不安な人物がおるのでござるが。


どうやら、その一人が今朝の騒動の発端だったらしいでござる。

さて。

教室には全員集まっているでござる。

遅刻者もいない。

だが。

席が四つ空いている。

皆、その席をちらちら見ているでござる。


問題児四人組。

授業をサボり。

勝手に街へ出て。

好き放題していた面々でござる。


全体ペナルティを覚悟した者も多かったと思うでござる。

そして始まる朝のホームルーム。

空気が重い。

重すぎる。

アンリ先生の機嫌が、めちゃくちゃ悪いのでござる。

それだけではない。

ミレディ先生。

勇者クラス担当の特別講師達。

さらには騎士まで教室にいる。

怖いでござる。

完全に何かあったでござる。


「さて、今日の予定じゃが大幅に変更じゃ」


アンリ先生の声が響く。

静かな声なのに圧が凄いでござる。


「もう知っておると思うが、そなたらの持っておるスマホじゃな」

「充電できるようになったのは知っておるな」


教室がざわつく。

そりゃそうでござる。

昨日、寮へ帰った時の皆の反応は凄かったのでござる。


まず委員長。

もう《狂戦士》に怯えていない。

以前みたいな頼れる委員長に戻っていたのでござる。

それだけでも目立つ。


そして冨樫氏。

いつも泣いていたのに、前を向いていたのでござる。


女性陣は妙に機嫌が良い。

しかも良い匂いがする。

何かあったのか。

皆が気付かない訳がないのでござる。

暇だからでござるかな。

それともモテる者は変化に敏感なのでござろうか。


しかし。

アンリ先生とミレディ先生との約束。

なにより店主殿の為にも黙っていたのでござる。

帝国政府との調整が終わるまで待つ。

そう約束したのでござる。


なのに。

斎藤氏が話してしまったのでござる。


悪気は無かったのでござろう。


本当に。

スマホが使えず落ち込んでいた女子達へ教えただけだったのでござる。


親切心だったのでござる。


だが。

その親切心が大騒動の始まりだったのでござる。

それを聞いた皆の反応は凄かったでござる。

一気にざわついたのでござる。

そんな中、真っ先に動いたのは委員長――天宮氏だったでござる。


「落ち着いて」

「今、アンリ先生が全員分の許可を取ってくれているから」

「早ければ明日か明後日には許可が下りるって言ってたから。」


そう言って必死に皆を説得していたのでござる。

さすが委員長。

頼りになるでござる。

それに、


「もう夕方なんだから」

「充電できる場所は飲食店だから」

「今から押しかけたら迷惑になるわよ」


とも言っていたでござる。

その言葉に、皆とりあえずは納得したのでござる。


――少なくとも拙者はそう思っていたのでござる。


でも。

どうやらそうではなかったのでござるな。


「その件じゃが、取りやめじゃ」


アンリ先生の一言。

それは死刑宣告にも等しい言葉だったのでござる。

教室が一気に騒然となる。


「えっ」

「なんでだよ」

「どういう事だ」


あちこちから声が上がる。

しかし。


「黙らんか」


アンリ先生の一喝。

教室が一瞬で静まり返ったのでござる。

怖いでござる。

本当に怖いでござる。

空気が凍ったでござる。


「今日、全員集まれと言ったが、ほれ」


アンリ先生が空席を指差す。


「四つほど席が空いとるじゃろ」


皆がそちらを見る。


「そやつらは今、牢屋の中じゃ」

「持っておったジョブも封印、もしくは剥奪じゃな」


誰も声を出さなかった。

ただ無言で顔を見合わせるだけでござる。


確かに問題児だった。

授業はサボる。

街で問題を起こす。

有力貴族の子弟とつるんで好き放題。


だが。

牢屋。

ジョブ封印。

ジョブ剥奪。

流石にそこまで何をやったのでござるか。

そう思っていると、


「質問があります」


一人の男子生徒が手を上げた。


森氏でござる。


正直、あまり好きではないでござる。

口下手な相手にだけ絡み、


「はい論破」


とマウントを取るタイプでござる。

だが、自分より頭の良い相手には絶対に喧嘩を売らないのでござる。

佐々木氏曰く、

どこぞの侯爵家の跡取りに取り入り、

その威光を借りて好き放題しているらしいでござる。


弱い相手ばかり狙うのでござる。

佐々木氏にも勝てない。

委員長にも勝てない。

鈴木氏にも勝てない。

悪徳貴族の屋敷では戦いもせず隠れていた。


なのに何故か態度だけは大きいのでござる。


「なんじゃ森」


アンリ先生の目が細くなる。

不機嫌度がさらに上がったのでござる。

相変わらず空気が読めないでござるな。


「木村達が逮捕とはどういう事ですか」

「ジョブの封印や剥奪など穏やかではありません」

「何をしたか知りませんが不当です」

「きちんと公正な裁判を行うべきです」

「裁判もなく処罰するなんて野蛮ではありませんか」


森氏。

だからここは日本ではないのでござる。

普段は身分制度を利用しているくせに、

こういう時だけ民主主義を持ち出すのでござるな。

周囲の大人達の目も怖くなっているでござるよ。


「ほう」


アンリ先生が静かに答える。

その静けさが逆に怖いのでござる。


「何をやったか知りたいか」

「罪状は不法侵入、押し込み、脅迫、強盗未遂、殺人未遂じゃ」


教室が凍りつく。


「叩けば他にも出てこような」

「しかも現行犯逮捕じゃ」

「何を裁判するんじゃ」


誰も反論できない。

アンリ先生は続ける。


「裁判とはのう」

「身分社会で上の者から不当に虐げられた者を守るためにあるんじゃ」

「後はちょっとした揉め事の仲裁じゃな」


そして。

今までで一番冷たい声で言ったのでござる。


「力を持った者が何の罪もない店に押し入り」

「殺人未遂まで起こしておいて」

「公正な裁判じゃと?」

「笑わせるでない」


ああ。

もうアンリ先生。

完全に超野菜人でござる。

戦闘力が見えるでござる。


「し、しかし!」


森氏が食い下がる。


「そんな事をすればボルン伯爵が!」

「木村の後ろにはボルン伯爵がいるんですよ!」


おお。

早速、有力貴族の名前を出したでござる。

さっき自分で否定していた身分社会を全力で利用しているでござる。


「ほう」


アンリ先生が笑う。

怖い笑顔でござる。


「後ろにボルン伯爵がおるのか」

「共犯か」

「ミレディ」

「ボルン伯爵を捕らえさせろ」

「取り調べじゃ」

「はっ」


アンリ先生の言葉に、ミレディ先生が静かに頷く。

次の瞬間、一人の騎士が教室を飛び出していった。


森氏。

そのボルン伯爵とかいう御仁を、完全に敵に回したでござるよ。

それが分かったのか、森氏の顔色が見る見るうちに青くなっていく。


「ボ、ボルン伯爵は関係ないでしょう!」


いや。

言ったのは森氏でござるよ。

拙者は知らんでござる。

すると森氏はさらに声を荒げた。


「そうだ!」

「それに俺達は好きでここに来たんじゃない!」

「あのダマムテサネ伯爵とかいう奴のせいで――」


そして。

言ってはいけない事を言ったのでござる。


「あんた皇女だろ!」

「この国の貴族がやった事だ!」

「責任取れよ!」


森氏。

本当に阿呆でござるか。

目の前におられるのは、この国の頂点に限りなく近いお方でござるぞ。

ほら。

騎士の皆さん。

一斉に剣へ手を掛けたでござるよ。

教室の空気が一瞬で凍り付く。

誰も息をしていないような静寂。

だがアンリ先生は小さく息を吐き、騎士達を手で制した。

そして静かに口を開く。


「責任か」


その一言だけで、教室中が震えた気がしたでござる。


「こうして教えておるではないか」

「この世界の常識を」

「スキルの使い方を」

「これから生きていく術を」


アンリ先生は森氏だけでなく、教室全体を見渡した。


「衣食住も用意しておる」

「小遣いまで出しておる」

「しかも帝国民の税金でな」


誰も反論しない。

いや、できないのでござる。

全部事実だからでござる。


「何が不満じゃ」

「監視されとる生活か」


しばしの沈黙。

そしてアンリ先生は言い放つ。


「よかろう」

「好きにするが良い」

「当面の生活費も持たせてやる」

「出ていくなり」

「クオン侯爵家にでも転がり込むがよかろう」


さらに。


「他の者もじゃ」

「今の生活が気に入らん者は好きにせい」


教室は静まり返ったままだった。

賢くなくても分かるのでござる。

今、自分達が生きていられるのは誰のおかげか。


アンリ先生が。

帝国政府が。

守ってくれているからでござる。


その保護が無ければ。


路頭に迷うか。

誰かの食い物になるか。

あるいは犯罪に手を染めるか。


そのどれかでござる。

流石に森氏も、そこまで馬鹿ではなかったらしい。

力なく椅子へ腰を下ろした。

だが森氏。

ここに残ったとしても、お主の居場所はもう無いと思うでござるよ。


特別講師達の冷たい視線。

騎士達の険しい表情。


そして何より――


アンリ先生も。

ミレディ先生も。


もう森氏を見ていなかったのでござる。

今までどんな問題を起こしても見捨てなかったお二人が。

でござる。

たぶんお優しいお方達だから。

大人しくしていれば卒業までは面倒を見てくれるかもしれん。

だが。


針のむしろでござるよ。


下手をすればクオン侯爵家にすら見捨てられるでござる。

拙者なら見捨てる。

腹の内はともかくとして。

いくら転移勇者とはいえ、

大勢の前で皇女殿下へ不敬を働いた者を庇う貴族などおらんでござる。


高い授業料でござったな。


森氏。



で、その後のアンリ先生の話によると――

件の四人が押し入ったのは、なんとあの店長さんのお店。


“ヘイム”


だったのでござる。


教室がどよめいた。

拙者も思わず佐々木氏と顔を見合わせてしまったでござる。

早速スマホを充電しに押しかけ、

頼むのではなく脅迫し、

さらには殺人未遂まで起こしたそうでござる。

幸いにも、あのお店は酒を出す店。

荒事に慣れた方々がおり、大事には至らなかったそうでござるが、

聞いているだけで胃が痛くなる話でござる。


そこで、


「斎藤」


アンリ先生が静かに名前を呼んだ。

斎藤氏がビクリと肩を震わせる。

いつもKY熱血バカでござるが、

流石に今のアンリ先生は怖いのでござる。

大人しく立ち上がったでござる。

ここでいつものように、


「はいっ!」


と元気よく立ち上がっていたら、

拙者、本気で筆箱を投げていたでござる。


「我は昨日言わなんだか」


アンリ先生の声は静かだった。

だが教室中が息を呑む。


「スマホの件は待てと」

「許可を取るまで話すでないと」

「我はきちんと許可を取ってきたぞ」

「それを今日、この時間に話す予定じゃった」


アンリ先生は斎藤氏を真っ直ぐ見つめる。


「なぜ待てんかった」

「なぜ話した」

「これは難しい政治が絡むと言ったはずじゃが」


斎藤氏は拳を強く握り締めた。

悔しそうな顔だった。


「放っておけなかったんです」

「他にもスマホが使えなくて悲しんでいる奴らがいて」

「自分達だけ充電できているなんて……」


まあ。

善意なのは分かるのでござる。

斎藤氏らしいでござる。

だが。

アンリ先生は首を横に振った。


「その善意で、何が起こった」


教室が静まり返る。


「木村達が店に押し入ったのじゃぞ」

「運良く怪我人は出なんだ」

「じゃが店は壊された」


斎藤氏が唇を噛む。


「お主が黙っておれば」

「四人も暴走せんかったかもしれん」

「他の者は黙っておったし」

「止めたであろう」


斎藤氏は何も言えなかった。

いや。

誰も何も言えなかったのでござる。


「斎藤」


アンリ先生の声が少し柔らかくなる。


「冷たいかもしれんが」

「ここはお主らがおった日本とは違うんじゃ」

「その歳でのう」

「もう大人として命を懸けて働いとる者もおる」


教室の空気が変わった。

説教ではなく。

教えになったのでござる。


「お主より若い他のクラスの貴族の子弟も」

「それぞれの家や家臣」

「領民の命や生活を背負っておる」

「この貴族社会で生き残るためにな」


アンリ先生は教室を見渡した。


「ただ上の者に媚びへつらっておる訳ではないぞ」

「どの家につけば生き残れるか」

「どう動けば家を繁栄させられるか」

「皆考えて動いておる」

「一時の情で動くな」

「その結果がどうなるか考えて発言しろ」

「考えて行動しろ」


重い言葉だった。

転移してから一番重かったかもしれんでござる。

そして最後に。

アンリ先生は少しだけ笑った。


「解ったら座れ」

「後日、一緒に店主に謝りに行こう」

「な?」

その顔は、


いつもの教師の顔だった。

怒っていたのではない。

教えようとしていたのでござる。


「……はい」


斎藤氏は涙を拭いながら座った。

教室の誰も笑わなかった。


その後。

アンリ先生から正式な説明があったでござる。


充電できる場所は飲食店である事。

一度に押しかけてはならない事。

店へ行けるのはアンリ先生とミレディ先生の許可を得た者だけである事。

行く時は必ず特別講師の誰かが同行する事。


さらに――

なんと。

お店には日本製のシャンプーや化粧品。

女性用品まであるそうでござる。


教室の女子達が一斉にざわついたでござる。

怖かったでござる。

男子が騒ぐより怖かったでござる。


もちろん持ち出しは禁止。

だが店内で使う事は許可されるらしいのでござる。

そしてその対価として。

お店でアルバイトをするのでござる。


働く場所は厨房。

もしくは喫茶スペースでの給仕。

その際は帝国学園商業科の講師と、

隠居した高位貴族夫人達の監督下で課外授業として行われるそうでござる。


最重要事項は一つ。

店や従業員に迷惑を掛けない事。


あと、

店内での活動も課外授業扱いなので、

指導者は全員「先生」と呼ぶ事。

当然、

アンリ先生もミレディ先生もでござる。


さらに。

昨日の四人の件があるため、

今からもう一度店側と打ち合わせを行うとの事。


そして最悪の場合――

受け入れ自体を断られる可能性もある。

そう覚悟しておくようにと言われたのでござる。

そこでホームルームは終わった。

でも。

多分でござるが。

あの店長さんなら大丈夫な気がするのでござる。

なんとなくシンパシーを感じるのでござる。

理由は分からんでござるが。


でも流石はアンリ先生でござる。

拙者から見ても破格の条件でござるよ。


これで委員長も。

冨樫氏も。

鈴木氏も。

お店で働けるのでござるな。


よし。


まずは佐々木氏と一緒に斎藤氏を元気付けるでござる。

そんな落ち込んだ斎藤氏は見たくないのでござる。

拙者もあの場にいた一人でござる。

店長さんには一緒に謝るでござるよ。


だから斎藤氏。

早くいつものKY熱血バカに戻るのでござる。


師匠のニューワールド講座㊳

ジョブ封印とはく奪編


「師匠」

『なんですか』

「今回」

「ジョブの封印とか、はく奪とか出てきましたけど」

「そんな事できるんですか?」

『できますよ』

『ジョブシステム自体』

『神々が人類へ与えたギフトですからね』

「へぇ」

『重罪人の場合』

『《天秤の女神》の神殿へ連れて行かれ』

『神託による裁定を受けます』

「神様直々か」

『そして』

『罪の重さによって』

『封印か、はく奪かが決まります』

「違いは?」

『封印は執行猶予付きですね』

『今後の生き方次第では』

『解除される可能性があります』

『ですが』

『はく奪は別です』

『未来永劫』

『二度と戻りません』

「うわぁ……」

『ちなみに』

『この神託』

『一説によると』

『アカシックレコードや閻魔帳を参照しているそうです』

「反則では?」

『ですので』

『言い逃れは不可能です』

「怖っ」

『会うたびに』

『“儲かりまっか?”』

『とか言ってくる女神ですが』

『油断すると恐ろしいですよ』

「そんなに?」

『きっと』

『ヴァルナさんの日本時代のパソコンの中身も』

『全部知っています』

「やめてぇぇぇぇ!!」

『ふふふ』

『天秤の前に隠し事はできません』


『それに、ここまでしないと、』

『犯罪を犯した人を、うかうか牢屋や流刑地に置いとけませんからね、』

『この世界には』

『どんな危険なジョブやスキルを持った者がいるか分かりません』

『封印もはく奪も』

『社会を守るための最後の手段です』

「なるほど」


「でもさ」

「それなら裁判なんていらなくない?」

「全部《天秤の女神》の神殿に連れて行けば」

「真実が分かるんだし」

『この馬鹿弟子がーーーー!!』

「痛い痛い痛い!!」

『そんな事をしていたら』

『人の世が育たないでしょうが!!』

『なんでも神頼みしてどうするんです!!』

『人は自ら考え』

『悩み』

『法を作り』

『裁きを執行する事を学ばねばなりません!!』

『それが文明です!!』

『いつまでも神々に頼っていたら』

『神話時代から先へ進めません!!』

「はい……」

『まったく』

『神と髪は』

『いつまでもあると思うなですよ』

「なんか一人だけ切実な話が混じったぞ」


「でも師匠」

「そんな便利な神託なら」

「みんな気軽に利用しそうだけど」

『もちろん有料です』

「えっ」

『《天秤の女神》ですよ?』

『商売の神格も兼ねていますからね』

「うわぁ」

『一般庶民や貧しい人達からは取りません』

『ですが』

『裕福な商家』

『大貴族』

『大商人』

『この辺りが相談に行くと』

『それはもう見事に請求されます』

「ぼったくりでは?」

『適正価格です』

「絶対違う」

『だから』

『会うたびに』

『“儲かりまっか?”』

『と聞いてくるのです』

『天秤は』

『裁きと商いの象徴ですからね』

「なるほどなぁ」

『ちなみに私は確信しています』

「なにを?」

『あの一柱』

『絶対に目が¥マークです』

「女神様に失礼すぎる!!」

『いえ』

『本人も否定しないと思います』

「余計に駄目だろそれ!!」



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