36 Mamma mia!!
もう何よ、喉カラッカラなんだけど。
紅茶とケーキセット奢りね。そう、モンブランで。
こっちは喋り続けて疲れてんの。
それくらいサービスしなさいよ。
……はぁ? 涙流しても無駄。モテないわよ。
ええと、なんだっけ。
そうそう、監視付きの学園生活ね。
一応、女子生徒には女の、男子生徒には男の監視役が付くらしいんだけど、どこまで本当かは知らない。
だって分からないものは、分からないんだから仕方ないでしょ。
授業は色々やらされてるわよ。
まず読み書きから。
なんでこの年になって、一から文字の勉強しなきゃなんないのよ。
ありえんちゅーの。
ああ、計算は問題なかったわ。
数字、アラビア数字だったし。
あと、一番最初に叩き込まれたのがこれ。
この世界は絶対帝政。
日本みたいな民主主義じゃない。
“国民皆平等”なんて考えは捨てろって。
王侯貴族がいて、身分があって、上位者に逆らえば“不敬罪”。
処分されても文句は言えないって。
まあ、まともな王侯貴族は多少の無礼くらい流すらしいけど、
中には面倒くさいのもいるらしい。
特にジョブ関連。
高位貴族ほど、意味不明なジョブ持ちが多いとか。
《鉛筆削り職人》とか、
《早着替え名人》とか、
《寝つきの達人》とか。
……何その人生。
逆に下位貴族とか平民が、“当たりジョブ”引いて調子に乗るパターンもあるらしいけど、
卒業後に階級社会って現実見て詰む例も、嫌ってほど聞かされた。
で、私達転移者はどんな立場なのか聞いたら、みんな微妙な顔してた。
立場としては一般人。
でも、存在は放置できないって。
強力なジョブ持ちが多いから、国内の勢力も他国も、取り込もうとしてくる。
だから気を付けろって。
まあ、それは分かるわ。
実際、教室の外に出ると、やたらモテるし。
私だけじゃない。
他の奴らもだ。
ああ、でも佐々木は別。
《鑑定》スキルがトラウマ抱えて、まともに使えなくなったって噂が広まったせいで、誰も寄ってこない。
露骨すぎでしょ。
雪菜も同じ。
《狂戦士》なんて、いつ暴走するか分からない。
そんな危険物、抱え込みたがる奴なんかいない。
なのに、空気読めない熱血バカ――斎藤だけは違った。
「俺最近モテてさー!」
とか言いながら、《格闘家》ジョブ自慢してるの。
流石に殺意湧いたわ。
斎藤って、ここまでバカだったかしら。
まあでも、学費はタダ。
生活費も面倒見てくれる。
でも“この世界で生きる術を学べ”って言われてもねぇ。
私、《画家》とか興味ないし。
で、気づいたらみんな、なんとなくグループ分けされてた。
前向きにジョブ鍛える奴。
ハニトラに引っかかる奴。
現実忘れるためにスポーツや趣味に走る奴。
色々。
そんな中で、私達だけ浮いてた。
やる気のない私。
トラウマを抱えた“佐々木”。
暴走の恐怖と戦ってる“雪菜”。
家族を思って泣き続ける“柑奈”。
我らが勇者“松平”。
そして、なぜか混ざってる熱血バカ“斎藤”。
以上六名。
どこのグループにも所属しない、はみ出し者チームでーす。
文句ある?
放課後になると、なんとなく校庭とか寮のリビングに集まってた。
まあ斎藤は、いつも格闘技教師と青春してるんだけど。
なのに気づけば、なぜか混ざってる。
みんな、一人で部屋に閉じこもればいいのに。
でも多分、寂しかったんだと思う。
似た者同士ってやつ。
それに、佐々木も雪菜も柑奈も、今にも壊れそうだったし。
松平なんか、本当に勇者してたわ。
キモオタのくせに。
自分だって、ハズレジョブで落ち込んでたのに、
佐々木の隣に座って延々オタ話して、元気づけようとしてんの。
……キモオタなのに。
雪菜も平気そうに振る舞ってた。
委員長の仕事もちゃんとしてた。
でも夜、泣いてるの知ってる。
震える身体押さえ込んで、“怒りの精霊”と戦ってるの、見ちゃったから。
アンリ先生が言ってた。
「次はない」って。
前回は、アンリ先生が“怒りの精霊”に語りかけて鎮めた。
でも次暴走したら、敵味方関係なく死ぬまで暴れ続けるって。
それ聞いた雪菜、
「殺して」
って泣いたの。
「あんた皇女なんでしょ」
「配下の貴族の責任取って、殺してよ」
「じゃなきゃ閉じ込めて」
って。
私も柑奈も、抱きしめる事しかできなかった。
「私、自分で死ねるほど強くないの」
「助けて」
って泣き続ける雪菜。
昔は精霊魔法使いが沢山いて、どうにかなったらしい。
でも今はいない。
アンリ先生が、一番近くにいる“魔法使い”に頼んでみるって言ってた。
授業で習った、“魔術”と“魔法”の違い。
奇跡を起こす、本物の魔法。
世界に七人しかいない“魔法使い”。
でも期待するなって。
魔法使いは俗世に関わらないからって。
それでも、ないよりマシだった。
駄目なら神殿に入って、心を乱さず静かに生きるしかないって。
……ほんと、なんでこんな目に遭わなきゃいけないのよ。
柑奈もだ。
元はもっと明るい子だったのに。
ずっとスマホの家族写真見てた。
そんな見てたら充電なくなるぞって言ったのに、
ずっと見て、泣いて。
すぐ電源切れた。
それでも黒い画面見続けてた。
アンリ先生に、この世界電気あるなら充電できないのかって聞いたら、
「国家機密じゃぞ」
って教えてくれた。
私達や過去の転移者のスマホ、解析されたらしい。
似たような物も作られてるとか。
パネェわ異世界。
でも、“サーバー”って概念が分からなくて、
過去の《ネットスーパー》持ち転移者が色々やらかした結果、
神々に消されたらしい。
怖。
で、肝心の充電。
技術的には再現してるけど、私達のスマホには合わない。
使うと壊れるらしい。
つまり、もう充電は無理。
ただの薄い金属板。
それでもみんな、捨てられなかった。
日本で生きてた証拠だから。
そんな感じで。
やる気ない。
立ち直れない。
前を向けない。
そんなメンツで集まって、慰め合ってた。
当然、周囲からは避けられる。
こっちも、どうぞお構いなくって感じ。
完全に腫れ物扱い。
そんな私達をみかねて
アンリ先生が、気分転換にここへ連れてきてくれた。
……あーもう喋り疲れた。
次、苺ショートね。
は? 太らないわよ。
これでも燃費いいの。
そんな事言ってるとハゲるわよ。
……はぁ。
せっかくの気分転換なのに、みんな暗い顔。
雪菜はアンリ先生に連れられて奥行っちゃうし。
ほらほら。
柑奈も佐々木も松平も。
おっさんが今日はケーキ食べ放題だって言ってるんだから、頼んだ頼んだ。
「でも、あまり美味しくない」
って柑奈、本当の事言うな。
不味くはないでしょ。
まあ、実家のケーキ屋と比べたら……。
あ。
ごめん。思い出させた。
すると斎藤が机叩いて、
「なら冨樫(柑奈)が作ればいいじゃないか!」
とか言い出した。
「実家手伝ってたんだろ? ここでおっさんより美味いケーキ作れよ!」
……熱血バカ、余計な事を。
そして勢い余って、紅茶ひっくり返した。
冷めてたから良かったものの、危うく火傷。
頭から紅茶かぶった私に、おっさんが慌てて言う。
「奥に風呂あるから入ってこい! 着替えもある!」
は?
変態か。
どうせ覗きとかする気でしょ。
するとおっさん、
「俺はぼんきゅっぼんなお姉さん派だから、子供には興味ない」
って。
……それはそれで腹立つ。
で、“ハルヴィンダちゃん”ってケモ耳娘に案内された。
松平が後ろで、
「萌え……」
とか呟いてた。
だからキモオタって言われるのよ。
で、お風呂場行って驚いた。
なんでここに、日本製のシャンプーとかリンスあるのよ。
ボディソープや化粧品まで。
しかも女性用品まで揃ってる。
帝宮にも無かったわよ、こんなの。
私は慌ててそれ抱えて飛び出した。
おっさん問い詰めなきゃ。
どこで手に入れたのか。
そしたら廊下で、アンリ先生と雪菜、それに茶髪のメイドさんがいた。
「忙しい所すまんな、エマ。少し時間をくれんか」
アンリ先生がそう言った。
でも、“エマ”って呼ばれたメイドさんは、アンリ先生を見もせず、静かに雪菜へ歩み寄る。
「あらあら……珍しいものがいますね」
柔らかな声。
でも、その瞬間だけ空気が変わった気がした。
エマさんは、雪菜の肩口へそっと指を伸ばす。
まるで、そこに“何か”がいるみたいに。
そして。
何かを摘まむような仕草をした。
「さあ、あるべき場所へお帰りなさい」
囁くような声。
どこか遠くへ語りかけているみたいだった。
「大丈夫。この娘は、もう別の加護に守られていますから」
その言葉の意味は分からなかった。
でも次の瞬間。
雪菜が息を呑んだ。
「……えっ」
震える声。
「消えた……」
そして、崩れるように泣き出した。
「いない……もう聞こえない……!」
いつも纏わりついていた、あの禍々しい圧迫感も消えていた。
私達には見えなかった“何か”が、確かにいなくなった。
私は意味なんか分からなかった。
でも、とにかく嬉しくて。
雪菜に駆け寄って、一緒に泣いた。
その頭上で、エマさんが静かに微笑む。
「アンリ様。これは“貸し”ですよ」
その声音だけが、妙に印象に残った。
……いやいや。
それ、アンリ先生への請求よね?
私達じゃないわよね?
そう信じたい。
で、一通り喜んだ後。
雪菜が、
「……恵子、紅茶臭い」
とか言い出して思い出した。
「見てこれ!」
って、風呂場から持ち出した物を見せる。
雪菜も驚いてた。
泣いてたくせに、もう普通に食いついてくる。
そして。
「問い詰めるわよ」
って二人で盛り上がった瞬間。
建物が揺れた。
地震?
でも一瞬で収まったし、気にせず走り出す。
……あれ?
来た時より廊下長くない?
いや気のせい気のせい。
インターハイ出場のこの恵子様を舐めんな。
記録保持者だぞ。
全力疾走で店舗へ戻る。
すると。
「……え?」
店の内装、変わってない?
しかも。
柑奈のスマホ。
なんで電源入ってんの。
「ちょっと待って恵子ー!」
追いついた雪菜も、泣きながらスマホ見てる柑奈見て固まってる。
男共も、
「俺も!」
「俺のも!」
って騒ぎ始めた。
……ねぇ。
私達、いつの間に二階にいるの?
さっきまで一階だったよね?
そう聞こうとした瞬間。
背後から、大量の紙がぶちまけられる音。
振り返る。
そこにいたのは。
文化祭前日に三徹した漫研部員みたいな顔の女。
目の下クマ。
髪ボサボサ。
両腕いっぱいの書類。
そしてその女は、崩れ落ちながら叫んだ。
「Mamma mia!!」
師匠のニューワールド講座㉜
《狂戦士》編
「師匠」
『なんですか』
「今回も出てきましたけど」
「《狂戦士》って、そんなにヤバいんですか?」
『ヤバいですねぇ』
『かなり危険です』
「そんなレベルか」
『一応』
『作者をこの世界に引きずり込んだ』
『ロー〇ス島〇記』
『サ〇レ〇ト〇ビ〇ス』
『の影響がかなり入っています』
「隠す気ある?」
『そこを踏まえて』
『この世界の《狂戦士》設定ですが』
『まず前提として』
『《狂戦士》ジョブ持ちは』
『過去に肉親を理不尽に失っています』
「……重いな」
『そして』
『亡くなった者は』
『守護霊のように』
『普段は静かに見守っています』
「見守ってるだけならいい話なんだけど」
『ですが』
『宿り主が危険な目に遭った時』
『理不尽な暴力を受けた時』
『極度の悲しみや怒りを抱えた時』
『――暴れます』
「うわぁ……」
『守ろうとするのです』
『宿り主を』
『二度と失わない為に』
「……」
『ですが』
『死を迎えた理由が“理不尽”ですからね』
『当然』
『怒り狂っています』
『ですので』
『狂戦士化します』
「それって……」
『人間の精神では耐えられません』
『怒れる精霊と化した魂に』
『肉体も精神も引きずられ』
『壊れるまで戦い続けます』
「救い無ぇ……」
『もっとも』
『当の“怒りの精霊”側は』
『純粋に守りたいだけなのですが』
「余計つらい」
『昔は』
『精霊魔法使いがいました』
『彼、彼女らが語りかけ』
『本来、魂が還る場所へ導いていたのです』
「でも今はいない」
『はい』
『二百年戦争で消えました』
「うわぁ……」
『こればかりは』
『神聖魔法でもどうにもなりません』
『無理やり祓えば』
『“怒りの精霊”は消滅します』
『それに』
『宿り主の精神も壊れます』
「詰んでるじゃん……」
『ですので現在は』
『魔法使いに頼るか』
『あるいは』
『神殿奥で静かに保護され』
『世間と隔離された余生を送るしかありません』
「そんな……」
「じゃあ今回」
「エマさんがやった事って……」
『だ・か・ら』
『エマの存在は』
『世間に知られてはマズいのですよ』
「うっ」
『本来なら不可能な領域へ』
『軽々手を突っ込んでいます』
『なのに』
『あの不良妖精は……』
『ヽ(`Д´#)ノ ムキー!!』
「顔怖っ!!」
『高位精霊や妖精が』
『本気で“魂”へ干渉すると』
『世界の法則そのものが揺らぐのです』
「エマさん、思ったよりヤバかった」
『かなりヤバいです』
『普段メイドやって、馬鹿してますから忘れがちですが』
『あれ』
『本来、かなり高位の妖精ですからね』
「うちの店怖っ!!」
作者メモ
※本編のおまけ設定です。読み飛ばしても問題ありません。
※本編とは時空が違います。
※本編の都合により、設定が変わる事があります。




