表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
26/79

26 家政婦は見ている

俺は今、大変な目にあっている。


バレてしまったのだ、《料理器具お取り寄せ》の事が。


そして俺は案の定、捕まり拘束され、《料理器具お取り寄せ》スキルを使わされている。

もう無理と言っても強制される。

しぶると頭に痛みが走る。


師匠はどこだ、助けて。


しかし見当たらない。


キューブは、頼れる執事カモン。


返事がない。


どうしてこうなった。

理由はすぐ解った。


裏切り者だ。


そう、彼女は最初から知っていた。

《料理器具お取り寄せ》スキルが生えてくる前から。

俺を使い、やりたい放題だったではないか。

初めて使用した時もいた。

そして、改めて師匠から教わっている時、彼女は見ていたのだ。


「旦那様、家政婦は見ているんですよ」


それが、彼女の第一声だった。

なぜだ。

なんの不満があった。

確かに掃除洗濯は任せっきりだったが、それ以外は自由だったろう。


給料も――


「店から出れないので、使えません」


食事も――


「もっと修行しましょう」


洋服も――


「ふっ、レディのおしゃれに限界はないのですよ」


なぜだぁエマさん、なぜ裏切った。


「旦那様、次はこちらです。」

「店長、こっちの布も見て下さい。」

「ヴァルナさん、この色の食器も素敵ですわ。」

「店長さん、これもいいですよ。」

「おにぃちゃん、お花の絵ついてるの!」


やめろ、次々と注文するんじゃない。

その瞬間。


『五月蠅いですよ、ヴァルナさん』

「相変わらず大げさですねぇ」


頭上と後ろから同時に突込みが入る。


あっ、そこにいたのね。

師匠、キューブ。


そう、あれから俺は《料理器具お取り寄せ》スキルの練習をしていたら、エマさん、ハルヴィンダちゃん、ちみっこ達、マルタさんにアンナさん――女性陣に捕まった。


そして、《料理器具お取り寄せ》スキルの実演を延々とさせられている。

原因はもちろんエマさんだ。


「お洋服出し放題、おしゃれし放題です」


とか言い出したのである。

待て。

確かに原料のクリスタルの山はバカでかいし、消費量も大したことない。

でも、俺の魔力は少ないのよ。

しかも何、おしゃれって。

洋服関係ないでしょ。


『どうやら、キッチンに立つ制服扱いで出てますね』


なにそれ。

アバウトすぎるでしょ。


「旦那様、次はこのカーテンを。」

「このレース可愛いですわ!」

「リナ、このお星さまの服好き!」

「ソレイアもこれ!」


女性陣が、部屋いっぱいに広げられた布や食器を囲み、楽しそうに盛り上がっている。

そのたびに俺は《料理器具お取り寄せ》を発動。


テーブルクロス。

制服。

食器。

カーテン。

クッション。

謎の装飾品。


どんどん増える。

あかん。

魔力不足で意識が――。

でもこれって。


『野菜民族じゃないですから、極限まで使っても増えませんよ』


なんですと。

この世界、「最後の幻想2」の成長システムじゃないの。


『参考にはしてますが、違います』


無念。

俺はここまでなのか。

しかしこのままでは、チート乱発で――


『これくらい構いませんよ。それに私利私欲じゃなくて、センスないヴァルナさんに代わって選んでくれているのですから、お礼に服の一着二着くらい。』

『そんなんだから、甲斐性なしなんですよ。』


ぐはっ。


『最初に出したカーテンが、星空カーテンって。この店に合う訳ないでしょう。本当にビックリしました。』


そう。

今、女性陣は店のカーテン、テーブルクロスや食器、ハルヴィンダちゃんやアンナさんが着る制服などを、ウキウキしながら選んでくれている。

カタログとかない為に、サンプルを次々と呼び出しては、


「こっちがいいです!」

「いや、この色も素敵ですわ。」

「あっ、この刺繍かわいい!」


と、あれやこれや話している。

彼女達のイメージ通りの物が出せないと、エマさんからアイアンクローで“お取り寄せ”される。


『《料理》が3になれば、連動してカタログ出せますから、頑張ってください』


師匠、それいつですか。

それまでこれ続くの。


『ヴァルナさんにセンスないのが悪いんです。』


せすねぇ。

もう彼女達に任せますか。


俺からは一つだけ。

夜の部の食器は木製の物をお願いした。

酒が入って酔っ払って割れたら危ないからね。

まだこの世界にない、割れにくくて見た目の良い樹脂食器なんか出したら、師匠にピーされるからね。

木製なら安全だろう。


飲み物用は悩んだ。

プラスチック製やソーダガラス製とかはまだないし、どうしたものかと思っていたら、飲兵衛親方達が解決してくれた。

知り合いのガラス職人に頼んでくれるらしい。

軽くて丈夫で見た目も良い物を。

飲兵衛親方達曰く、美味しく飲むのに妥協はしないらしい。


で、お酒の仕入れ先どうなったのと聞いたら、揉めてるらしい。

仕入れ先が代替わりして、飲兵衛親方達の頼みでも、実績のない店には卸せないと断られたそうだ。

なんか聞いた話だと、セバスさんは関係ないらしい。

そして短時間で決まる訳もなく、続きは明日へ。


だってエルミナさん来店。

部外者には秘密だしね。

でも俺、この状態で対応するの。

書類地獄始まるの。


えっ、はいまずは昼食ですか。


書類はその後。

今日は野菜たっぷりパスタですね。

配管工ブラザーズはメニューの昨日の続きね……。


そういえば、メニューのお品書き勝手に増えるよね。

写真と説明付きで。

作るの助かるけど、勝手に増えないで。

知らん間に頭にレシピ増えるの怖いんですけど。


最近、朝の若い労働者達が昼にも来るようになった。

距離あるのに、わざわざ来てくれてありがとう。

でもサラリーマンよろしく、貴重な昼休み時間が減るらしい。

近くにお店とか路上販売ないのかと聞くと、お店はあって値段も手頃だが、やはり量が欲しいらしい。

それに出遅れると行列に並び、ここに来るのと大差ないとの事だった。


「路上販売は、決められた場所でしか出店禁止です。」


エルミナさんが、パスタを食べながら説明してくれる。


「ゲリラ的にやられると、税金逃れが多いんですよ。」


なるほど。


「ヴァルナさん、路上販売するんですか。書類追加ですよ」


絶対やりません。

うーーん。

なら朝来てくれた時に、持ち帰りの弁当でも――。

弁当の使い捨て容器は環境に悪いし、返品してくれたら容器代返すとかの方法もあるが、夏場は怖い。

となると出前か。

これも夏場は不安が残るが、朝渡して昼まで炎天下放置よりマシだ。

アンナさんとベルンさん、あとセバスさんも昼間手伝ってくれるし。

ハルヴィンダちゃんあたりに頼むか。

最近まで働いていたから勝手知ったる現場だし、《超剛腕》スキル持ちだし、なんとかなるかな。


「で、どうです?」


とエルミナさんに尋ねると。

はい、お代わり無料にさせて頂きます。

その後、路上販売と出前の違いについて、エルミナさんが詳しく説明してくれた。


「路上販売は、移動販売・露天営業扱いになりますね。」


エルミナさんが、フォークを置きながら指を折って説明を始める。


「まず必要なのが、食品営業許可。」

「はい。」

「移動販売所の設備基準。」

「はい。」

「商業ギルドの許可。」

「はい……。」

「現場や道路の使用許可。」

「増えた。」

「私有地なら土地管理者の許可も必要ですね。」


多いわ。


「特に道路使用許可は揉めやすいです。勝手に現場前に止めると苦情が出ますから。」

「ゴミ、行列、騒音、衛生問題。あと近隣店舗とのトラブルもあります。」


うわぁ……。

日本でも見た事あるやつだ。


「ですがメリットもあります。」


そう言ってエルミナさんは、今度は逆の手を折り始める。


「作業員の方が、その場で好きな物を選べます。」

「衝動買いもしやすいですね。」

「あと、現場の空気は盛り上がります。」


なるほど。

祭りの屋台感覚か。


「一方、出前は飲食店営業の延長扱いです。」

「こちらは店舗営業許可と衛生管理、配達時の温度管理を中心に気を付ければ問題ありません。」


おお、こっちの方がまだ現実的。


「ただしデメリットもあります。」


ありますよねぇ。


「まず注文締切が必要です。」

「これは朝、食事の時に聞けば何とかなるか。」

「個別自由度も低いですね。」

「コース固定にするしかないか。」

「あと冷めやすいです。」

「時間停止アイテムボックスないからなぁ……。」


……うん。

出前の方がまだ現実的だ。

ただ、そこで気づく。

出前容器買う金ないぞ。

という事は、《料理器具お取り寄せ》か。


……うん、やめよう。

やーめた。


無理でした。

後日、エルミナさんがハルヴィンダちゃんの前で、


「出前の件、どうなりましたか?」


って聞いてきたから、バレてしまった。

そしてハルヴィンダちゃんに、


「さすが店長、みんなの事考えてくれてたんですね」


って嬉しそうな顔されたら、嫌って言えないじゃん。




晩御飯のあと。

後片付けはハンスさんとセバスさんに任せ、俺は再び拉致された。

エマさんが用意した一室。


「衣装部屋です」


なにそれ。

何、衣装部屋って。

ここ広いけど家だよ。

劇場でも、この世界にないけどTV局でもないのよ。

部屋に入った瞬間、俺は絶望した。

師匠、一着二着って言ったよね。

なんなのこの数。

ねぇベルンさん、マルタさんと仲良く服選ばないで。

キューブ、女性陣にあれこれ服を勧めない。

飲兵衛親方達も、孫娘に服を買ってあげて喜ぶおじいちゃんにならない。

その代金、俺の魔力とクリスタルだから。

女性陣には文句言えない。


怖い。


『本当にヘタレですねぇ。まぁ何か世の中に影響与える訳ではないですし、スキルの練習も兼ねて、たまにはいいのではないですか。』

『これから、皆さんには色々迷惑かけるのですから。』


ねぇ何それ。

不吉な事言わないで。


「おーい、店主どこじゃ。皆どこにおる」


おお、その声はアンリ先生。

この場をどうにかして。

ミレディさんも爺やもいる。

セバスさんが何か耳打ちしてる。


アンリ先生がニヤッと笑った。


嫌な予感しかしない。

そしてそのまま衣装部屋に入ってくる三人。

アンリ先生、俺スルー?

そのまま服を選びだしたよ。

とっても楽しそうだ。

最近忙しかったのかなぁ。

こうして見ると、アンリ先生も年頃の女性なんだろう。

爺やが咳払いする。


「アンリ様。アンリ様は此度、何もしておりませんぞ」


爺や、楽しそうにしてる所に正論だけど、水を差すような事言わない。

アンリ先生は、手に取った服と、はしゃぐ皆を見て、一瞬だけ寂しそうな顔をした。

そして俺を見る。


「そうじゃな、すまんかった店主」


こちらを見る顔は、いつものキリッとした顔だった。

あれ。

キリッとした顔って初対面の時だけのような。

いつも飲兵衛フォーだし。

ええい、だからそんな顔しないで。

いつもお世話になっているし……多分。

……今更一人や二人増えても違わんし。


「チョロイですね」


ミレディさんが、ぼそっと呟く。

その一言に固まる俺。

うなずく皆。

師匠が、珍しくアンリ先生の頭上を嬉しそうに飛んでいた。


師匠のニューワールド講座㉒

《料理器具お取り寄せ》編


「師匠」

『なんですか』

「《料理器具お取り寄せ》って」

「便利すぎません?」

『ええ』

『舞台装置という名の』

『ご都合スキルですね』

「メタい!!」

『ですが』

『ヴァルナさんの場合』

『“飲食店関係”かつ』

『“この世界に存在する物”しか出せません、』

「まあ、そこは制限あるんだな」

『ええ』

『未知の超兵器や』

『異世界文明を出されても困りますので』

「そりゃそうだ」

『それに』

『クリスタルの山が消えれば』

『物質変換の元がなくなります』

「つまり、今だけ?」

『今だけです』

『なんなら』

『世界中を旅して回ってもいいですよ』

「急に旅番組みたいになったな」

『熟練度が上がれば』

『クリスタルから直接魔力供給できますし』

『クリスタルがある限り』

『理論上、無限変換可能です』

「怖っ」

『まあ』

『資源が少なく』

『クリスタル輸出で外貨を稼いでいる国に行けば』

『ピーでしょうね』

「今ピーって言った!?」

『ヴァルナさんの予想通り』

『拉致監禁からの』

『物質製造マシーン化です』

「やめて怖い」

『ですので』

『本編で皆が割と善良なのは』

『感謝するべきなのですよ』

『口止め料程度』

『安いものです』

「世界観が急に生々しい」

『あと』

『絶対に』

『“通販スキル化”しないでください』

「通販スキル?」

『過去のチーターどもがやりました』

『異世界の未知物質』

『未知技術』

『未知食品』

『ばら撒きまくりました』

「うわぁ……」

『おかげで』

『新発見の価値は暴落』

『既存流通は崩壊』

『職人は失業』

『研究者は発狂』

「地獄だ」

『本当に大変だったのですよ』

『破壊神やトリックスターどもが』

『面白半分で配るものですから』

「神様のやることじゃねぇ」

『そのたびに』

『見つけ出して』

『権能を剥奪して回るこちらの苦労をですね――』

「師匠?」

『……はぁ』

『ですので』

『しつこいようですが』

『絶対に』

『そうならないようにしてください』

「わかったから」

「その目をやめて」



作者メモ

※本編のおまけ設定です。読み飛ばしても問題ありません。

※本編とは時空が違います。

※本編の都合により、設定が変わる事があります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ