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23 気にするなと言われても

師匠が不機嫌だ。


そりゃもう盛大に。


普段なら、俺が余計な事を言った瞬間、


『師匠キーック』


が飛んでくる。

しかし今日は違う。

蹴りがこない。

怖い。


毎回思うのだが、師匠は球体だ。

光る、浮いてる、丸い。

どう見てもUFOだ。

なのに、なぜか表情や仕草が分かる。

今も、


「ものすごく不機嫌です」


という空気を全力で放っていた。


その師匠の前で、頭を掻きながら苦笑いしているアンリ先生。

そして、少し緊張した顔をした若い男女二人。

ミレディさんは少し離れた位置で、静かにため息をついている。

いや、状況が全く分からない。

こちらの困惑に気づいたのか、ミレディさんが口を開いた。


「姫様、店主殿が困っています」


静かな声だった。


「事情をお話しないと」

「うむ、そうじゃな」


アンリ先生は腕を組み、大きく頷く。

そして、ぽんと俺の肩を叩いた。


「店主、すまぬが――この二人、ここで働かせてくれんか」

「えっ?」


いきなりだ。

流石に理解が追いつかない。


「いや、その……急に言われても……」

「姫様」


ミレディさんが即座にツッコミを入れる。


「経緯を説明しないと理解できません」

「初めからきちんとお願いします」

「分かっておる、まったく」


アンリ先生は、


“やれやれ”


というジェスチャーをする。

いや、この場合それやるの、

ミレディさん側ですよね。


「実はのう」


アンリ先生はカウンター席に腰掛けながら語り始めた。


「我が最近、ここに入りびたっておるだろう」

「まあ、はい」

「父上と母上にばれてのう」


父上、母上。

なるほど。

茶毛親方が言ってた通り、本当に良い所のお嬢さんなんだな。

ベルンさんが気を遣う位だし、

上級騎士とか、かなり偉い騎士の家なんだろう。


「でのう」


アンリ先生が頭を掻く。


「言い訳というか、色々話しておったら、飯の事になっての」


嫌な予感。


「家の料理人が泣き出した」


はい?



ふぉわんふぉわんふぉわん。

※回想に入ります。

(なお、回想中の括弧内は、傍で聞いているベルンハルトの勝手な想像が混じっています)



アンリ先生の家の食卓(帝室の食卓)


質素でありながら、どこまでも洗練された料理が並ぶ中。

涙を滝のように流しながら床に崩れ落ちる料理長。(宮廷料理長)


「姫様は……!」


料理長が震える声を上げる。


「そんな聞いた事もない料理人の料理がお気に召したのですか!」

「小さい頃から、私の料理が大好きだと言ってくださったのは嘘だったのですか!」


うわ重い。

アンリ先生が必死に宥める。


「いや、そんな事ないぞ!」

「今は料理長の方が上手いぞ!」


すると料理長は、涙まみれの顔を上げた。


「今は、とおっしゃいましたか」


怖い。


「もしや、もう私の料理に飽きておられるのですか」

「違う違う!」


アンリ先生が慌てる。


「お主の料理は帝国一じゃ!」

「この間の外国から来た客人(外国の来賓)も喜んでおったじゃろう!」

「しかし!」


料理長は食い下がる。


「最近、朝食どころか夜のお食事すら召し上がらない事が増えております!」


ここで言うな!

と、アンリ先生が顔に書いてある。

しかも、父上母上おるじゃろが。

アンリ先生の母上(皇后様)が、

優雅に紅茶を口へ運びながら言った。


「それは本当ですか、アンリ(多分、家族用の愛称)」

「外泊もしているとか」

「嫁入り前なのに感心しませんねぇ」

「いやいや母上!」


アンリ先生が慌てる。


「ミレディ(伯爵家令嬢)も一緒じゃし!」

「爺や(姫様付き高等執事)もおる!」

「それに、元騎士の一家や他の従業員も住んでおるから、やましい事など!」

(あっ。俺の事も話に出てる。)


アンリ先生の父上(皇帝陛下)が、

静かに口を開く。


「アンリよ」

低く、威厳ある声。


「そこの店、訳ありか」

「はい」


アンリ先生も真面目な顔になる。


「かなりの」

「仔細は、もう少し情報を集めてから」

「そうか」

「ホルトス(高等執事)やセバスからも聞いておる」


父上(皇帝陛下)は小さく頷く。


「そなたの事だから問題あるまい」

「だが、学園の件もあるだろう」

「ほどほどにな」

「あなたは甘すぎます!」


今度は(皇后様)が怒る。


「だからバカ(婚約破棄をやらかした第一皇子)に育つのですよ!」

「親不孝者が!」


うわぁ。

騎士の家(帝室)も大変だなぁ。


「……あやつは今どうしておる」

「部屋(帝室専用の幽閉塔)に謹慎させています」

「ですが、一向に反省が見えません」

「やれやれ」


父上(皇帝陛下)が額を押さえる。


「一度、稽古でも付けてやるかのう」


怖い。


「すまんなアンリ、迷惑をかける」

「いえ」


アンリ先生は苦笑する。


「家(帝室)の役に立てて本望です」


その後。

料理長の泣く声をBGMに飯を食ったらしい。

地獄か。


そして。

食後の紅茶を飲みながら、

アンリ先生がつい言ってしまった。


「店主の方が上手いのう」


料理長、再起不能では。

母上(皇后様)が興味深そうに目を細める。


「ほう?」

「これより美味しいのですかぇ?」

「いえ」


アンリ先生は慌てて否定する。


「母上のばあや(筆頭女官長)には及びません」

「じゃが、良い物を出します」

「それは一度味わってみたいものですねぇ」


その瞬間。

料理長、復活。


「決闘です!!」


立ち上がる。

怖い。


「その店主とやらと、私の料理の腕!どちらが上か勝負です!!」


大暴走である。


「いや待て待て待て!」


アンリ先生が慌てて止める。

父上も母上も笑っていたらしい。

いや笑い事じゃない。

結局。


「料理の腕はお主が上じゃ」


と何度も宥め、

決闘騒ぎはなんとか止めたそうだ。



ふぉわんふぉわんふぉわん。

※回想終了。




「その代わりにのう」


アンリ先生が、今回連れてきた男女を見る。


「我がどんな物を食っておるか気になるらしくての」

「料理の監視……(まあ毒や薬を入れんか)の確認じゃな」


うわ、物騒。


「それで、そなたの腕を見てこいと言われて選ばれたのが、こっちのハンス」


若い男が軽く頭を下げる。


「よろしくっす」


お、気さく。


「そして、偶に宿泊しておる事もあり、我の監視役に選ばれたのがアンナじゃ」


若い女性が、綺麗な所作で一礼する。


「アンナと申します。よろしくお願いいたします」


おお、上品。


「店主」


アンリ先生が、ぐいっと顔を近づけてくる。


「お主、従業員が足らんと言っておったじゃろう」

「我を助けると思って、な?」


両手を合わせて拝んできた。

いつものアンリ先生っぽくない。

いや、助かる。

助かるんだけど。


「財政がですね……」


俺は遠い目をする。


「マルタさんに帳簿つけてもらったら、うち結構ギリギリで……」


そこから俺は、仕入れ改善の話をする。

マルタさんの実家。

肉と穀物。

現地仕入れ。

頭下げ行脚。

お兄さんの嫌そうな顔。

でも両親が個人的に卸してくれる事になった話。

A〜Sランクは無理。

でもBランク食材が安定した話。


「だから、今の所も色々ありまして、仕入れ先を切り替え中でして、給料払ったら残らんのです」


するとアンリ先生が、察したように頷いた。


「給料は、うち(帝室)持ちじゃぞ」

「……はい?」

「我が家のごたごたじゃからの」


さらっととんでもない事を言った。


「住む場所と飯だけ出してくれればよい」

「ハンスは厨房」

「アンナはフロア」

「問題ないじゃろ」


えっ。

めちゃくちゃ助かる。


「ねっ師匠!」


俺は師匠を見る。


「いい加減機嫌直してよ!」

「俺頑張るから!」

「もっと美味い料理出せる店にするから!」

「『はぁ……』」


師匠とベルンさんが、

同時にため息をついた。

おっ。

ベルンさん、現金な俺に呆れてるのかな。

でもね。

給料、アンリ先生の家持ちですよ。

最高じゃないですか。



(ヴァルナ殿よう……)

ベルンハルトは顔を覆った。

(本当に分かっているのか)

(これ完全に帝室が囲い込みに来てるだろうが……)

さらに。

(知りたくもない帝室事情まで聞いちまったし……)

もう一度、深いため息。

天を仰ぐ。



《やはり帝国が動きましたか》


師匠は静かに考え込む。


《この皇女が来た時から、いつかはこうなると思っていましたが》

《女神様の計画の邪魔になるなら容赦しませんよ》

《それに、この間から嫌な気配もします》

《そちらも気になりますし……》

『本当に何も考えてませんね、ヴァルナさん。』


ひどい。

しばらく黙っていた師匠だったが。

やがて、いつもの調子に戻った。


『この店の店主はヴァルナさんです』

『自己責任で判断しなさい』


良かった。

機嫌直った。

きっと広くなったキッチンを一人で回せと言ったのに、

計画変更されたから怒ってたんだろう。

さっきも言ったけど。

俺、頑張るからね。



ハンスさんもアンナさんも、よくやってくれる。

本当に助かっている。

ハンスさんは文句一つ言わず、

下ごしらえから皿への盛り付け、簡単な料理まで色々手伝ってくれる。

包丁さばきも綺麗だ。

流石、料理人見習い。

俺も負けじと、いつも以上に料理を作る。

最近は厨房が戦場だ。

若い労働者達が朝から大量に食べるし、

配管工ブラザーズは昼になると当然のように現れる。

しかも最近、


「今日のおすすめは?」


とか聞いてくるようになった。

常連化してるじゃねぇか。


アンナさんも、ハルヴィンダちゃんとすぐ仲良くなった。

フロアスタッフとして、

明るく元気に働いてくれる。

接客も上手い。

所作が綺麗。

なんか立ち振る舞いからして違う。


「こちら熱いのでお気をつけくださいませ」


とか自然に出てくる。

俺なんて、


「熱いから気を付けてね」


だぞ。

育ちの差って怖い。

まあ、天界への料理だけは最初かなり驚いていた。

突然現れる謎の注文票。

そして、置いた瞬間に消える料理。

普通なら悲鳴を上げる。


だが。

アンナさんもハンスさんも、

最初こそ固まったが、

すぐに何事もなかったように働き始めた。

流石、アンリ先生の関係者。

肝が据わっている。


うーん。


説明した方がいいのか。

しない方がいいのか。

でも飲兵衛親方フォーにも、

ベルンさん達にもちゃんと説明してないからな。

まあいいか。




おっす。

おらハンス。


こう見えても子爵家の三男坊だ。

小さい頃から料理が好きで、

屋敷の厨房に入り浸っては、料理長に怒られてた。

長男だったら無理だったろうな。

でも三男だったおかげで、

好きにやらせてもらえた。


帝国学園では軍の後方支援科へ入り、

料理を学んだ。

そのまま宮廷料理試験に受かり、

宮廷料理人見習いになって、

ようやく正式な料理人になれたと思った途端――今回の辞令だ。


最初は左遷かと思った。

いや、だってよ。

同期の連中と、


「修行だ!」


とか言って、夜中に勝手に高級食材使って料理してたの、

絶対バレたと思ったし。

でも違った。


最近、姫様が入り浸ってる料理屋の調査。

しかも料理長からの強い要望らしい。


「敵情視察だ!!」


って料理長が叫んでた。

あの人、腕は本当に凄いんだけど、

時々おかしくなるんだよな。

まあ、宮廷料理人としての立場は保証されるらしいし、

新しい味を学べるチャンスだと思って来た。

姫様からは、


「絶対に正体をばらすな」


って言われた。

あと。


「不思議な事が起きても、いちいち気にするな」


とも。

最初は意味が分からなかった。

今なら分かる。

めちゃくちゃ分かる。

この店、おかしい。


まず店主。

ズボラ。

大雑把。

よくこの年まで生きてこられたなと思うレベルでお人好し。

というか馬鹿。


でも。


料理だけは本当に凄い。

色んな料理を知ってる。

レシピも見ず、

次々作る。

味はバラバラだ。

素人に近い物から、

一流寸前みたいな料理まである。

でも。

たまに、


「なんだこれ」


ってレベルの物が出てくる。


あと紅茶。

あれはやばい。

宮廷でも通じる。

なんなんだこのおっさん。

料理教えてくれって頼んだら、

普通に教えてくれた。


ただ。

教えるのが壊滅的に下手。

本人も自覚してるらしく、


「見て覚えて」


とか言いながら、

目の前で何回もゆっくり丁寧に作ってくれる。

助かるけどさ。

そんな大量に作ってどうすんだと思った。

客そんなにいねぇだろ。

そう思ってたら。

料理台に置いた瞬間、


料理が消えた。


いや待て。

何今の。

一瞬固まったが、

姫様に


「気にするな」


と言われていたので、

無理矢理納得した。


あと。

エマさんって家政婦さん。

あの人が消えない料理を片っ端から平らげていた。

辛口コメント付きで。

怖ぇ。


料理長。

今のところ、

おかしな店だけど不審な点はないぜ。

新しい料理覚えられるし、

かなりいい場所だ。


あと最近。

店主がパティシエっぽい事を始めた。

素人丸出しのケーキや焼き菓子を量産してる。

でもなぜか、

たまに無茶苦茶うまい。

これも報告しておくか。




私の名前はアンナ。


……まあ、本名は置いておいて愛称ですわ。


これでも伯爵家の長女。

行儀見習いも兼ねて帝宮へ上がり、

苦労して第一皇女殿下付きの侍女となる事ができました。


皇后様や第一皇女殿下付きの侍女というのは、

実力がなくてはなれませんのよ。

堕ちる直前の第一皇子殿下。

最近よくない噂しか聞かない第二皇子殿下。

第三皇女殿下。

あの辺りの侍女とは違います。


……まあ、コネだけで入った方々もいらっしゃいますが。


本当になぜ、あんな方々が帝室侍女になれるのでしょう。

ああ、いけません。

このような考えは帝室への不敬になります。

聡明な皇帝陛下や皇后陛下には、

きっと深いお考えがあるのでしょう。

……多分。


私は本当は騎士に憧れていました。

ですが。

この国では、どれだけ才能があっても女性は騎士になれません。

昔、婚約者にその夢を話した事があります。

大笑いされました。

ですので、

飲んでいた紅茶をぶちまけても文句は言わせません。

その話を同僚達にしたところ、

皆さま似たような経験をされていました。

そして知ったのです。

第一皇女殿下の侍女達が、

裏で鍛錬を積み、

密かに姫様護衛隊――

《プリンセスガード》

を結成している事を。

噂は本当だったのですね。

私は即日入隊しました。

騎士にはなれなくても、

帝室を直接お守りする存在にはなれる。

そこから必死に努力しました。

侍女として。

プリンセスガードの一員として。


そんなある日。

なんと姫様が、

最近とある飲食店へ入り浸り、

さらにお泊まりまでしている事が判明しました。

放置できません。


姫様は日々政務をこなし、

学園の馬鹿共(勇者一行)の相手までされているのです。

その姫様が、

学園近くの店に興味を持った。

これは重要案件。

ミレディ様や高等執事ホルトス殿が付いているとはいえ、

店主は男。

許せません。


厳正なる選抜の結果、

私が潜入する事になりました。

そして。

店主殿を見た瞬間。


「あ、これはないですわ」


と思いました。


ないない。


この店主殿と姫様がどうこうとか。

まずない。

安心しました。

とても店を経営できるようには見えませんが、

なんと。

スミズル親方とトレース親方がいるではありませんか。

ああ。

なるほど。

姫様、このお二方がいるからここへ。

納得しました。

確かに学園からも近い。

良い拠点ですね。


その後、料理をいただきました。

まあ庶民向けとしては及第点。

ただし紅茶。

あれは良いですわ。

筆頭女官長殿が淹れてくださる物には及びませんが、

十分帝室でも通じるレベル。

我が家に来ませんかしら。


まあ、この店には店主殿以外にも沢山住んでますし、

問題ないでしょう。

無理を言って付いてきた以上、

仕事はしなくては。

幸い。

新たな同僚となったハルヴィンダ殿はとても良い子ですし、

妹君のリナ殿、

用心棒殿の娘ソレイア殿も可愛らしい。

実家の妹を思い出します。

皆さん本当に良い方ばかりで、

すぐ仲良くなれました。


また休みの日に、

立派な庭園で、

エマ殿が店主殿に淹れさせた紅茶を飲むのが楽しみです。

……店主殿。

お茶請けの味はまだまだですわ。




人数も揃ってきた。

マジでもう少しで店開けるんじゃないか。

そう思っていた頃。

店の入り口近くに、

小さな待合室みたいなスペースが出来ていた。


ソファ。

観葉植物。

雑誌置きっぽい棚。


まじでファミレスじゃん。

そう思っていた時だった。

入り口に、一人の男が立っていた。


黒髪。

長い髪を後ろで束ね、

執事服に身を包んだ長身の男。

整った顔立ち。

気品ある立ち姿。


ああ。

アンリ先生の家の人かな。

そんな所立ってないで入ればいいのに。

みんなもう自分の家みたいに勝手に入ってくるぞ。

すると。

なぜか俺の口から、

自然に言葉が出た。


「おーい、キューブ!」


自分でも驚いた。

なんで名前知ってるんだ?


「そんな所に突っ立ってないで、入ってこいよ」


何の警戒もなく、

当然のように招き入れる。


男――キューブが微笑む。


そして。

店へ一歩踏み入れた瞬間。


ズンッ!!


店全体が大きく揺れた。


「うおっ!? 地震!?」


途端。

師匠が俺の前へ飛び出す。

凄まじいプレッシャー。

飲兵衛親方達も即座に立ち上がり、

バトルアックスを構える。

ベルンさんも剣を抜いた。

ハンスさん。

アンナさん。

皆、一斉に警戒態勢へ入る。


えっ。

なに。

みんな地震怖いの?


地震大国日本育ちの俺が、

この程度で驚くわけないだろ。

阪神淡路大震災も体験した。

熊本地震も体験した。

東京にいた時なんてしょっちゅう揺れてたぞ。


「えっ、何?」


みんなキューブ見てどうしたの。

確かに美男子だけどさ。

ベルンさんが、

俺の前へ立つ。


「ヴァルナ殿、奥へ!」


剣を構えたまま叫ぶ。

えっ。

なに。

何か来るの。

完全に今からバトル始まる空気なんだけど。


その時。

キューブの後ろから、

ぬっと現れた影を見て俺は理解した。

あっ。

エルミナさんだ。

しかも。

般若背負ってるみたいな顔してる。


「ベルンさん」


俺は慌てて止める。


「いくらエルミナさんでも、剣抜いて出迎えたら駄目だよ」

「たとえ怒り狂っていても」

「ヴァルナさん♡」


笑顔。

怖い。

書類束を抱えたエルミナさんが、

ずんずん迫ってくる。


「い・い・ま・し・た・よ・ね?」


やばい。

これ絶対。

また書類だ。


師匠のニューワールド講座⑲

宮廷料理人と侍女編


「ねぇ師匠」

『なんですか』

「本編に出てきた宮廷料理人とか侍女さんって」

「やっぱり貴族の子弟しかなれないんですか?」

『基本的には、その通りです』

「料理人って実力主義じゃないの?」

『実力だけでは無理ですね』

『特に帝室関係は』

『身元確認が最優先です』

「厳しいなぁ」

『宮廷料理人は』

『皇族の口に入る物を扱います』

『侍女は』

『皇族の生活そのものに関わります』

『危険すぎるのですよ』

「毒とか?」

『毒』

『暗殺』

『諜報』

『誘惑』

『派閥工作』

「最後の方怖いな!?」

『帝室とは』

『ありとあらゆる権力と欲望の中心です』

『色んな思惑が絡み合っています』

「うわぁ……」

『ですので』

『忠誠心が高く』

『身元が保証された者しか置けません』

「なるほど」

『まあ』

『それでも問題は起こりますが』

「起こるんかい」

『人間ですからね』

「妙にリアルだな」

「でも前に」

「ミレディさん、俺を雇うとか言ってませんでした?」

『あれは囲い込みです』

「囲い込み」

『“帝室所属”とは別です』

『優秀な料理人を』

『他に取られないよう確保したかったのでしょう』

「芸能事務所みたいなノリで言うな」


『ちなみに』

『侍女は基本、伯爵家以上の家格が必要です』

「高っ」

『メイドは男爵家以上ですね』

「メイドも貴族なの!?」

『上流階級の屋敷では普通です』

『礼儀作法』

『政治知識』

『派閥理解』

『全部必要ですので』

「メイドってなんだっけ……」

『なお』

『伯爵家以上でも』

『能力不足ならメイド止まりです』

「シビアだなぁ」

『逆に』

『後ろ盾や政治力で』

『侍女になっている者もいます』

「やっぱりあるのか」

『帝国も完全に清廉潔白ではありません』

「まあ、人間いるもんな……」

『ただ』

『どこの家の出身か分かれば』

『だいたい所属派閥も見えます』

「なるほど」

『その意味では』

『むしろ分かりやすい世界ですね』

「怖いけどな」




作者メモ

※本編のおまけ設定です。読み飛ばしても問題ありません。

※本編とは時空が違います。

※本編の都合により、設定が変わる事があります。


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