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18 リナの毎日

私、リナ。


リナ・ウォルフガング。


誇り高き狼族の娘。

ハルヴィンダ・ウォルフガングの妹。


最近ね、生活に大きな変化があったの。

住む所が変わったの。

パパとママ、そしておねぇちゃんと一緒に暮らしてたお家。

あの大好きだったお家が、壊れちゃったの。

お隣のジョン君のお家も。

いつもお菓子をくれたおばちゃんのお家も。

沢山沢山、壊れちゃった。


その壊れたお家のあとで、トレースおじちゃんとカルラおばちゃん、

それにスミズルおじちゃん。

ええと、あと店長さん。

みんなが、私達の大事な物をいっぱい運んでくれて。

それで、店長さんのお家に引っ越したの。


ジョン君や、おばちゃん達とお別れするの嫌だった。

でも、アンリおねぇちゃんが、


テイコクセイフという所が責任もって面倒みるって言ってた。

学校も通えるから、ジョン君ともそこで会えるって。


だから、ちょっとだけ我慢したの。



新しいお家は、とっても広いの。

本当に広いの。

だからね、エマねぇちゃんに聞いたの。


「どこまで広いの?」


って。

そしたらエマねぇちゃん、少し考えてから、にこって笑って言ったの。


「そうですね。私が把握しているだけでも、今行ける所の五倍位あります」


五倍。

五倍広いってどれくらいなのかわからない。


「ですが、さらに奥がありそうです。

 深くて、残念ながらまだ見えません」


そう言いながら、ちょっと悔しそうだった。


「早く大きくなりたい、広がりたいという意思は感じます。

 ですが、旦那様がだらしないので、なかなか難しいみたいですね」


うーん。


難しくて、よくわからなかった。

でも、迷子になったらどうしようって聞いたら、


「呼んでくれたら、すぐ迎えに行きます」


って言ってくれた。

だから安心。

それでね、学校が遠くなったの。

最初、転校って言われたの。

だから、ソレイアちゃんやジョン君とお別れしたくないって泣いちゃった。

そしたら、トレースおじちゃんとスミズルおじちゃんが、


「送り迎えしてやる」


って言ってくれたの。

でも、そのかわり。

いつもより早起きになったの。


朝はね、いつも焼きたてのパンの匂いで目が覚めるの。

とってもいい匂い。

起きたら、おねぇちゃんのお腹が鳴ってて。

いつも笑っちゃうの。

私は鳴らないわ。

だって、レディなんですもの。


それから、おねぇちゃんと顔を洗って、服を着替えて、一階の「社員食堂」って所に行くの。

そうするとね、エマねぇちゃんが、もう座ってるの。

いつも私達より早いの。

すごい早起き。

それで店長さんに、


「エマねぇちゃん、すごいね」


って言ったら、店長さんが、


「いや、あれは違うんだ……」


って、なんか遠い目してた。


最初に、エマねぇちゃんが言ってたみたいに


「だらしない店長さん」


って言ったの。

そしたら店長さん、床に手をついて涙流しちゃった。

おねぇちゃんに、


「本当の事でも言ってはいけません」


って怒られちゃった。


『子供はちゃんと見てますね』


って、師匠さんも頷いてた。


そうそう。

店長さんね、焼きたての美味しいパンと、沢山のお料理を出してくれるの。

味は、カルラおばちゃんの方が美味しいけど。

でも、食べるとね、すごくポカポカするの。

だから好き。


朝ごはんを食べたら、トレースおじちゃんとスミズルおじちゃんが迎えに来てくれるの。

おんぶしてくれたり。

肩車してくれたり。

そうして学校に行くの。

最初は、おねぇちゃんが送り迎えしたがってた。

でも、お仕事があるから行けないって。


「ごめんね」


って謝られたの。

だから私は言ったの。

大丈夫だよ、おねぇちゃん。


私も誇り高き狼族の娘だから。

ちゃんと我慢するね。

だから、お仕事頑張ってねって。


なんのお仕事かっていうとね、ここじゃない、もう一つの大きな食堂で「フロアスタッフ」っていうのをするんだって。

お料理を、お客様の所に運ぶお仕事らしいの。

学校でいっぱい勉強して、立派なレディになりなさいって、おねぇちゃんは言うけど。

立派なレディって、何かしら。


学校はね、とっても楽しいよ。

仲良しのソレイアちゃんと一緒にお昼食べて。

いっぱいおしゃべりして。

でも最近、ソレイアちゃん元気ないの。


「どうしたの?」


って聞いても、


「なんでもない」


って。

この間のおねぇちゃんみたいな顔するの。

《夜を司る女神》様。

どうか、ソレイアちゃんを助けてください。

……あれ?

ソレイアちゃんのお家って、《天秤の女神》様だっけ。

《軍神》様だっけ。

うーん。

あとで聞てみよう。


学校が終わると、おねぇちゃんが迎えに来てくれるの。

店長さんが、


「酔っ払いは学校行ったらだめでしょう」


って言って。

だから、おねぇちゃんが来るようになったの。

帰り道、おねぇちゃんに学校であった事をいっぱい話すの。

とっても楽しい。


お家に帰るとね。

社員食堂で

トレースおじちゃんとスミズルおじちゃんが

いつもお酒飲んでるの。


「ここ座れ」


って隣の席を叩くんだけど、お酒くさいから、


「やだっ」


って言ったら。

店長さんみたいに涙流すの。

変なの。

でも、ちょっと可哀想だから、近くの席に座ってあげると、店長さんが、


「エマさんには内緒だぞ」


って言って、色んなお菓子やケーキを出してくれるの。

でもね。

「内緒」って言っても、いつもエマねぇちゃんにバレてるの。

だって、ほら。

後ろで見てるし。


「えっ、どこ!? どこから!?」


って、毎回店長さん慌てるの。

それで、急いで同じお菓子を持っていくの。


『毎日毎日、学習能力がないですね』


って、師匠さんが呆れてた。


おやつ食べたらね、エマねぇちゃんの所に行くの。

学校のお話をいっぱいするの。

それから一緒に、お家を冒険したり、お庭で遊ぶの。

お庭には、いっぱいお花が咲いてて、とっても綺麗なの。

ノームっていう小人さん達や、ドリアドっていうお姉さんもいるの。

みんな優しいの。


ソレイアちゃんも、ここにいたら楽しい

のになぁ。

でも、エマねぇちゃんが、


「店長さんにも内緒ですよ」


って言うから、残念。

晩ご飯はね、社員食堂でみんな一緒に食べるの。


おねぇちゃん。

トレースおじちゃん。

スミズルおじちゃん。

エマねぇちゃん。

師匠って呼ばれてる妖精さん。

時々、アンリおねぇちゃんとミレディおねぇちゃん。

あと、ブラスおじさん。

みんなで机を並べて食べるの、とっても楽しいよ。


「あれ、俺は? ねぇリナちゃん、俺は?」


……あっ。

時々、トレースおじちゃんの奥さんのカルラおばちゃんも一緒。


それからね。

トレースおじちゃん達が帰って。

おねぇちゃんとお風呂に入って。

二階のリビングって所でいっぱいお話して。

それで寝るの。


私、前のお家がなくなって、寂しいけど。

今、とっても楽しい毎日を送っています。


《夜を司る女神》様。


どうか、いつまでも楽しい毎日が続きますように。

そして。

ソレイアちゃんに笑顔が戻りますように。


……そうだ。

明日、みんなに相談してみよう。

みんな、おねぇちゃんを笑顔にしてくれたの。

店長さんって言ってたから。


師匠のニューワールド講座⑭

貴族の不正と現実編


「師匠、前々回の話なんですけど」

『どれですか』

「子爵あたりの貴族って、不正多いって言ってましたよね」

「そんなに多いんですか?」

『ええ、多いですね』

「即答だな」

『まず、領地持ちの貴族ですが』

『こちらは比較的安定しています』

『領地からの収入がありますから』

『きちんと統治すれば、それなりに儲かります』

「ちゃんとやれば強いんだな」

『優秀であれば、帝国の要職にもつけます』

「勝ち組じゃん」

『問題は――』

『領地を持たない宮廷貴族です』

「来たな」

『彼らは基本、役人として働かないと収入がありません』

『実績を出せなければ、すぐに財政が詰みます』

「シビアすぎる」

『帝国は貴族の商売も奨励していますが』

『まあ、失敗する者も多いです』

「まあそうなるよな」

『典型的なのは――』

『先祖や親の七光りで育ち』

『実力も経験もないまま事業に手を出し』

『失敗して借金を抱え』

『プライドだけ高い状態で』

『商人に転がされる』

「テンプレすぎる」

『そして』

『不正に手を出します』

「ですよねー」

『その場合、帝国は喜んで処分します』

「え?」

『絶対帝政ですから』

『貴族の力を削ぐ絶好の機会です』

「こっちもこっちで怖いな」

『騎士団も動きます』

『平民出身が多いですからね』

『容赦しません』

「正義が強い」

『ただし』

『問題児もいます』

「出たな」

『高位貴族の子弟で』

『実力はないが政治力だけあるタイプです』

「一番厄介なやつ」

『騎士団でも出世できず』

『中途半端な立場で問題を起こします』

「リアルだなぁ……」

「で、宗教関係はどうなんです?」

『……ヴァルナさん』

『この世界、神が身近にいます』

『そして』

『普通に天罰が飛びます』

「え、怖」

『下手な不正は、神罰で終わります』

「即死コースじゃん」

『まあ』

『例外もありますが』

「あるの?」

『不正や混乱を好む神もいますので』

「やめてその情報」

トリックスター系ですね』

「絶対ろくでもない」

ええ、ろくでもないです』

「断言するな」



作者メモ

※本編のおまけ設定です。読み飛ばしても問題ありません。

※本編とは時空が違います。

※本編の都合により、設定が変わる事があります。

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