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17 見えてしまった少女と、増えすぎる店

「おねぇちゃんと、一緒ならどこでもいい、それにここ妖精さんいるし」


――えっ。


その瞬間、部屋の空気がぴたりと固まった。

思わず俺は、ぎぎぎ……と音がしそうな勢いで振り返る。

やばい。

エマさんの事、バレた。


「あっ、あのね、リナちゃん。妖精さんなんて――」


慌てて誤魔化そうとする俺。

だが、リナちゃんは不思議そうに小首を傾げると、ちいさな指で俺の頭の上を指さした。


「絵本で読んだよ。妖精さんがいる所は、とっても幸せな場所なんだって」


きらきらした目で、嬉しそうに続ける。


「お花がいっぱい咲いてて、可愛い動物さんがいて、みんな優しいの」


師匠。

この子、師匠の事見えているらしいですよ。

みんなの視線が、一斉に俺の頭の上へ向く。


『私の可愛さが伝わったみたいですね』


胸を張る師匠。

それでいいのか師匠。


『たまにいるんですよ。見える子供が。純粋で清らかな心を持った子がね』


そう言うと、師匠はふわりとリナちゃんの前へ飛んでいく。

そして、きゃっきゃとはしゃぎ始めるリナちゃん。


ふと視線を向ける。

赤毛親方と茶毛親方。

二人とも、特に驚いた様子はない。


「……前から見えてたんですか?」

「うむ」


あっさりだった。


「まあ、気配でな」


茶毛親方が肩をすくめる。


「どうみても、御使い様だしのう」


……俺だけ仲間外れ?

アンリ先生が、くすっと笑う。


「相変わらず面白い店主じゃのう」


ミレディは無言のまま。

ただ、軽く一礼する。


「見えてます?」

「いいえ、」


即答。

「ですが、説明は受けておりますので」


なんだその“業務理解してます”みたいな返し。

そのやり取りを見ながら。

エマさんが、静かにリナの前へと歩み寄った。


「……あなた、私の事も見えるのですね」


柔らかい声。

だが、わずかに鋭さが混じる。


「うん!」


リナは迷わず頷く。

その瞬間。

ほんの一瞬だけ。

エマさんの目が細くなった。

……あ、これ査定入ってる。


「エマさん」


慌てて口を挟む。


「この子いい子だから。ほんとにいい子だから」

「承知しております、旦那様」

にこり、と笑う。


怖い。

すごく怖い。

だが。


「歓迎いたします」


その一言で、空気がほどけた。


「ここは、安全な場所です」

「ほんと?」

「ええ」


リナちゃんが、ぱっと笑顔になる。

その様子を見て。

ハルヴィンダちゃんが、深く息を吐いた。


「さてと、まずは朝ごはんだな」


泣き疲れたのか、ハルヴィンダちゃんのお腹が小さく鳴った。

俺は笑ってキッチンへ向かう。


その間に、エマさんが居住スペースの案内を始めた。


「こちらがリビングになります。お風呂は毎日掃除しておりますので、安心してください」


にこやかに説明するエマさん。

なんというか、もう完全にこの家の主婦ポジションである。

好きなだけ見てくれ。

これから大事な姉妹を預けるんだ。

気になるのは当然だろう。


それに――。


秘密の一つを、みんなに打ち明けられた事で。

俺自身、どこか肩の荷が下りていた。



そんな安心感の中、ふと店側へ目を向けた俺は。


「……増えてる」


思わず呟いた。

店が。

また広くなっている。

テーブル席がさらに増え、店の真ん中あたりには、見覚えのない大きな台まで設置されていた。

どう見ても――バイキング用である。


「店よ……お前はいったい、俺に何をさせたいんだ……」


俺の乾いた呟きが、誰にも拾われる事なく消えていった。


その日のうちに、茶毛親方と奥さんが、姉妹の着替えや家具を持ってきてくれた。

一緒に来たお弟子さん達も、無事なハルヴィンダちゃんを見た瞬間、安堵したように涙ぐんでいた。


「よかった……本当によかった……」

「俺達が守ってやるからな!」

「何かあったら、すぐ呼べよ!」


熱い。

熱すぎる。

でも、そんな不器用な優しさに、ハルヴィンダちゃんは何度も頭を下げていた。

リナちゃんも、いつの間にかお弟子さん達に囲まれて、お菓子をもらっている。

うん。

なんだかんだで、いい空間だ。



翌朝。

いつものように店を回していると、入口の扉が勢いよく開いた。


「親方ぁぁぁぁ!」


飛び込んできたのは、興奮した様子のお弟子さん。

その手には新聞の号外らしき紙が握られていた。

新聞あるんだ、この世界。

俺がそんな妙な所で感心している間にも、お弟子さんは叫ぶ。


「出ました! また『双星の断罪者』です!」


ざわり、と店内の空気が動く。

差し出された新聞の一面には、大きくこう書かれていた。


【『双星の断罪者』大暴れ! 悪徳商人と悪徳貴族、お縄に!】


――例の地上げ連中だった。

昨晩、『双星の断罪者』と名乗る二人組が屋敷へ現れ、大暴れしたらしい。

そして、その後に突入した騎士団が見つけたのは。

今まで何度も帝国政府が調べても出てこなかった、不正の証拠の山だったという。


「うわぁ……」


思わず声が漏れる。

記事を読み進めながら、俺は別の意味でも驚いていた。


「……いや、写真あるんだ」


新聞には、しっかり写真まで載っていた。

仮面をつけた、赤髪と金髪の二人組。

片方は剣を振り回し。

もう片方は、悪党達を殴り飛ばしていた。


……なんか見覚えあるな、このシルエット。


そう思いながら記事を読む俺の後ろで、


アンリ先生が、何事もない顔でパンを食べている。


ミレディさんは、静かに紅茶を飲んでいる。


「店長お代わり」

「俺も」


若い労働者達のお代わりコールに急いで新聞を置きキッチンに走る。


……世の中には。

知らない方がいいこともある。

たぶん。


師匠のニューワールド講座⑬

写真と通信編


「師匠、写真あるんですね」

『ありますよ』

「しかもカラーですよカラー」

「日本でも普及したの昭和後期ですよ?」

『この世界、妙なところだけ進んでいますからね』

「相変わらずチーター案件?」

『ですね』

『ただし』

『日本のように小型化はされていません』

「でかいのか」

『シャッター音もかなり大きいです』

「隠し撮りできないやつだ」

『防犯対策です』

『下手に改造しようとすると』

『本体が壊れるように設計されています』

「ガチガチだな」

『まあ』

『どこの世界にもマニアはいますので』

『普通に改造されていますが』

「意味ないじゃん」

『表向き』

『小型・無音の機材は諜報機関専用です』

「やっぱりあるんだ」

『あと』

『携帯電話のようなものは存在しません』

「え、そこは無いの?」

『あれば機密漏れ放題ですからね』

「まあ確かに」

『代わりに魔術や魔道具で似たような通信は可能です』

「結局あるんじゃねえか」

『ただし一般には普及していません』

『一番の理由は――』

『権力者にとって都合が悪いからです』

「出た本音」

『証拠も拡散も制限できますからね』

「闇が深い」

『そのため』

『新聞・ラジオ・雑誌が主流です』

『テレビは現在、帝国中枢で検討中です』

「その段階なんだ」

『ですので』

『まずは料理の腕を上げて』

『メディアに取り上げられる店を目指しましょう』

「急に夢の話になったな」

『目指せ、ミジュロン五つ星です』

「なにそれ紛らわしいやつ!!」




作者メモ

※本編のおまけ設定です。読み飛ばしても問題ありません。

※本編とは時空が違います。

※本編の都合により、設定が変わる事があります。


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