↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
108/124

108 未来の皇后は大変です

私が今回の訪問団の責任者なんて……。

パパもママも、


「爺ちゃん、ばあちゃんに会ってこい」


って気軽に言ってくれるけど、そんな気軽なことじゃないわ。


思い出すのよ、春香。


日本でOLをしていた時、

グループリーダーになってプロジェクトを任された時のことを……。

……そんなのないわよ。

只のOLよ、事務員よ。

そんなことしたことないわ。


じゃあ学生時代は……。

ないわね。

精々、遠足の班長くらいよ。

どうしましょう、この濃い面子。


どうしろと。

問題児ばかりじゃない。


なによ、宰相なんか。


「これはこれは、未来の皇后陛下の外交ですな」


轟海号へと乗り込む前、

宰相は楽しそうな笑みを浮かべながら、そんなことを言ってきた。


「この年齢でもう、このような大任を果たすとは。

 とても楽しみに見させて頂きます」


ですって。

あんた宰相なんだから、私のサポートしなさいよ!

下手すれば、アレク殿下の御代にも宰相でしょうに!

私は、トール夫人といちゃつきながら轟海号へ

乗り込んでいく宰相を睨みつける。


いい年して、人前でいちゃつくんじゃないわよ。


なにが『夫婦水入らずの旅』よ。

ここぞとばかりにアトランティス・ザ・ムーと外交するつもりのくせに。

だったら少しは外交官らしくしなさいよ。


……いけない、いけない。


私がしっかりしなくちゃ。

ここで上手くいかないと、将来アレク殿下の御代にも響くわね。


「はぁ……」


なんでこの年で、こんなに悩まなくちゃいけないのよ。

中身は大人だけどさ。


やがて、アトランティス・ザ・ムーとのいつもの交易品を

積んだ轟海号が、静かに動き出した。


こんなにもクルー以外の人を大勢乗せるのは初めてだ。

当然、客室が足りなくなった。


気にするなとは言われたけど、本当に大丈夫なのかしら。


公爵家用の部屋には女性陣。


宰相は船長と同室。


あとは急遽、貨物室に作った部屋に入ってもらっているけど……。

問題ないのかしら。

魔法使い様までいるのに。


片道二日の予定だけど、海流によってはもっとかかる可能性もある。

一応、船内は揺れない作りになっているけど、

大型の魔物なんかに襲われたら結構揺れるわよ。


まあ、滅多に現れないけど……。

……駄目ね。


これはフラグよ。

私は嫌な予感に襲われ、すぐに船長へと振り返った。


「船長、いつもより警戒して」


突然の指示に船長が片方の眉を上げる。

けれど何も聞き返すことなく、

すぐにクルーへ警戒を強めるよう指示を出してくれた。


ごめんね、船長。

越権行為で。


でも、きっと海流も荒れるし、大型の魔物も来るわ。

こういう時のお約束って、そういうものだから。


しばらくすると、海面から差し込んでいた光が徐々に弱くなっていく。

そろそろ、日の光が届かなくなる深さだもんね。

ヘイムの皆様も、先程まで耐圧ガラス越しに

眺めていた海中の美しさが見えなくなり、残念そうにしている。


仕方ないのよ。


本来、海の中ってこんなものよ。

恐ろしい水圧と暗黒が広がっているの。

私もクルーも、今の人型のままだったら同じ。

メタモルフォーゼをして海人にならないと、

あっという間にぺっちゃんこになってしまう。


でも、すごいわよね。


海人になれば、これからますます増していく水圧にも耐えられる。


地上の日の下と同じように海中を見ることもできる。


当然、息継ぎなんて必要ないし、

目的地の方向までなんとなく分かってしまう。


初めて人魚になった時は、そのことに驚いたものよ。


なんでそんなことが可能なのか聞いてみたら、

誰も当たり前すぎて気にしてなかったわ。


下手に日本の常識があると疲れるわね。


私を含めてクルーは皆、海人になれるから心配ないけど……。

万が一、事故でも起きたらどうするのかしら。

ヘイムの皆様は助からないわよね。


船のシールドは大丈夫かしら。


エンジンは?


緊急時の安全装置は?


「はぁ……」


なんか心配事ばかりだわ。

これ、一週間もかからない公務よね。

これよりもっと大きな責務を、私はこれからずっと背負っていくの?


皇后なんてやってられないわ。

早まったかもしれない。

リスティーナ様は分かっているのかしら。

帝国全土って、どれだけの人口がいるのよ。


「はぁ……」


シンデレラストーリーって、物語だからいいのよね。

その後の統治なんて描いてないもの。


船長から、ヘイムの皆様も外が暗くなったので部屋へ戻ったから、

私も自室へ戻って休むように言われた。


でも、もう少しここに居させて。


自室に戻ると、間違いなく誰か来るわ。

アンリシア様か、宰相か、トール夫人が。

アトランティス・ザ・ムーとの外交に必要な情報を仕入れにね。


さて……。

どこまで喋っていいのかしら。


確かに私は未来の皇后かもしれない。

でも、今はまだ婚約者。

そして西園寺公爵家の娘として、アトランティス・ザ・ムーの

八大氏族の一員として振る舞わないといけない。


まあ、私が知っていることなんて大したことないけど。

それでもアンリシア様達が知らないことも知っている。


そうね。

最低限、

アトランティス・ザ・ムーの外交姿勢だけは話さないと不味いかな。


ちょっと違うのよね。


みんな、アトランティス・ザ・ムーは鎖国をしていると思っているけど、

別に鎖国をしているわけじゃないわ。

国民が外国へ行くのを止めてはいないし、戻ってくるのを咎めもしない。


ただ、荷物検査は厳しいけどね。


海底都市という閉鎖空間だから、

細菌とか外来種を持ち込まれると困るのよ。


そして、自慢じゃないけど文明はこちら側の方が発展しているわ。

それを持ち出されると、防衛上の問題とか色々困る。


だから国外から人が来ても、表面上の国の様子しか見せない。

決して、本当の顔は見せないわ。


みんな驚くでしょうね。


どう見てもギリシャ風の街並みなのに、

その奥へ入ると現代どころか未来の設備が沢山あるなんて。

まあ、今回の滞在では見られないでしょうけど。


そうね。

この線でいきましょう。


なぜ殆ど国交を開かないのか。

それはアトランティス・ザ・ムーの人に話をさせればいい。

私は触りだけでいいわ。

あまり待たせても良くないし、そろそろ行きましょうか。


「艦長、そして皆様。お騒がせしましたわ」


私は元気よく提督席から立ち上がり、

艦橋の皆様に挨拶をして自室へ戻った。


そして――。

ほら、いた。

アンリシア様と宰相だ。


私が何事もなかったように自室へ案内すると、

二人とも苦笑いを浮かべた。


今更ですわね。

中身が大人だとバレてますし。


本来ならお茶でも出すところですが、船内は火気厳禁。

そのことを伝えて、お許しを頂いた。


そして案の定、アトランティス・ザ・ムーのことを聞かれました。


私は先程考えていた通りに答えていく。

私自身、そんなに奥まで行ったことがないですから、

簡単なことしか答えられません。

まあ、お二人ともあまり納得していませんでしたけど。

なので、一つだけ教えてあげました。


「恐らく、正式な国交を持つことは無理ですわ」


二人の表情が変わる。

私はそのまま言葉を続けた。


「例え私が八大氏族の一員で、

 将来皇后になるとしても、それは無理です」


そして、おそらく――。


「私がアレク殿下と結婚すれば、

 もう二度とアトランティス・ザ・ムーの地を踏めないでしょう」


なぜなら。

お二人だけでなく、地上の方々が考えているように、

アトランティス・ザ・ムーには莫大な資源があります。

超帝国や異星からの侵略者などの戦火から逃れたこともありますし、

もう地上にはないレアメタル等もあります。


「この噂が本当だとしたら、お二方はどうしますか?」


私の問いに、宰相は少し考えてから答えた。


「それはもう、是非交易をして頂きたいですね」


でしょうね。

私だって欲しいですわ。

でも、それをアトランティス・ザ・ムーは認めません。


「交易したいのは、アステリア帝国だけですか?」


宰相が黙る。


「他の国もしたいでしょう」


莫大とはいえ、限りある資源です。

地上の国々が求めれば、あっという間になくなってしまいます。

そんなことになれば、

アトランティス・ザ・ムーの資源が枯渇してしまう。


「それに対して、地上の国々は何を

 アトランティス・ザ・ムーに与えてくれるのでしょう?」


金銀財宝ですか?


そんな物は沢山あります。

アトランティス・ザ・ムーには必要ありません。

充分、アトランティス・ザ・ムーは潤っているのです。


それに、そんな交易を始めれば沢山の地上の人が来るでしょう。


きっと揉めますわ。


そして、アトランティス・ザ・ムーの富を奪わんと争いが起きる。


「別に、軍事力で攻めてくるだけが侵略ではないでしょう?」


宰相様。

今、あなたの頭にいくつか策が浮かんだでしょう。

私がじっと見つめると、宰相が僅かに顔をしかめた。

そういうことです。


「私達は争いを望みません」


この深い深海が、それを防いでくれているのです。

私は少しだけ身を乗り出した。


「もしかして宰相様。潜航船の速度と時間などを記憶して、

 アトランティス・ザ・ムーの位置を探っていませんか?」


今度こそ、宰相の表情が固まった。


やっぱり。


「残念ながら無理ですよ」


そんなスキルも魔道具も意味をなしません。

過去、何度も同じことを試した者がいましたが、

全て無駄な努力となっています。


アトランティス・ザ・ムーを囲む海流が、全てを乱してしまいますから。


「それに、海底資源を手に入れてどうされます?」


現在、帝国政府が進めている公共事業には必要ないでしょう。

国内の資源で充分まかなわれていますからね。

だてに第一妃教育を受けていません。


「海軍の工廠に回されるのでしょう?」


大陸連合国との戦闘に備えて、と聞いています。


「ですが、それが将来アトランティス・ザ・ムーへ

 向かわないとは言い切れないでしょう?」


宰相が苦虫を噛み潰したような顔をした。

そう。


もう大変なんです、第一妃教育。


どれだけ覚えることがあるのですか。

ええええ、軍事機密もありましたよ。

大丈夫ですよ。

西園寺公爵家には話していません。


それもテストなんでしょう。


私が話さないか、監視がついているのも知っています。


「はぁ……この年でもう自由がありません」


プライバシーの侵害ばっちこいですよ。

アンリシア様、笑い事じゃないですよ。


あなた様はもう慣れているかもしれませんが、

私はまだ小学部の小娘なんですよ。


本当に転生者も考えものです。

前世の感覚がありますから、今世の常識についていくのがやっとです。

前世の記憶や感覚がなければ、

当たり前のこととして受け入れられたでしょうに。


「ということで、国交を結んで交易をしようなんて考えないで、

 適当に挨拶して観光でも楽しんで下さい」


私は宰相へ向き直る。


「宰相様も遅い休暇なのでしょう? トール夫人と楽しんでください」


そして今度はアンリシア様を見る。


「アンリシア様は、あの問題児達をきちんと管理してくださいね。

 問題を起こさないでください」


すると宰相が、急に真面目な顔になった。


「さすがは、未来の皇后陛下ですね」


そして座ったまま、恭しく頭を下げる。

「頼りになります。どうか今後とも、

 アレク殿下や帝国をお願い致します」


だ~か~ら!


私はまだ子供なんです!

なんで仕事させているのですか!


アンリシア様も、そんなに真剣に悩まなくても。

誰が来ても、どこの国が来ても同じですから。

しっかり引率係をしてくれたら問題ありませんから。

すると、先程まで黙って考え込んでいたアンリシア様が口を開いた。


「のう、春香嬢」


眉間にしわまで寄せている。

何でしょう。

もしかして、そんなに大事な外交でしたの?

私は身構えた。

そしてアンリシア様は、真剣な表情のまま私に尋ねた。


「酒はどこで手に入る」


……は?


酒?


ビール?


ワイン?


ウイスキー?


とかの酒ですか?


「そうじゃ、幻の酒じゃ」


アンリシア様の目が輝く。


「西園寺公爵家からヴァルナに贈ったじゃろう」


ええと……。

魔法使い様の快気祝いでしたわよね。


あれ、私も飲んでみたいですわ。


パパもママも、おじい様も、一口も飲ませてくれないんです。

みんな美味しそうに飲んで……。


宰相が呆れた顔で私達の酒談義を聞いていますが――。

宰相様。

耳が大きくなっていますわよ。


トール夫人から言われてますよね?


トール夫人だけでなく、ハーケン夫人も、何よりムラマサ親方が。

みんな、アトランティス・ザ・ムーに行くとなった時、

屋敷で凄かったですもんね。


さて。

どこで手に入れましょうか。

後でこっそり飲ませて頂けるのでしたら、協力しますわよ。

というより、魔法使い様が欲しいと言えば貰えるのでは?


「駄目じゃ。ヴァルナは酒に興味がないから、話が素っ気なくてな」


アンリシア様が難しい顔で腕を組む。


「上手くねだれるとは思えん」


うーん。

なら、やはり外交の挨拶でいくつか貰うしか……。


……あれ?

そういえば。

魔法使い様は七葉様からの招待ですのよね。

なんでアトランティス・ザ・ムーに行くのかしら。

七葉様も来てるのかしら。

もしかして魔法使い様は、他国の人が入れない所まで行くのでしょうか。


…………。

どうしましょう。


アトランティス・ザ・ムーの皆様は、

魔法使い様が『アレ』なのを知りませんわ。

見て聞いたことを、ペラペラ喋ってしまいますわ。


あとで艦長と相談しないと。


これは、お二方には相談できませんわ。

海流が乱れたり、大型の魔物に襲われたりする前に相談しないと。


……今日、寝られるかしら。


その後、たわいのない話をして、私は再び艦橋へ向かいました。

艦長が出してくれたコーヒーが美味しかったですけど……。

余計に寝られなくなりましたわ。



そして――。

フラグを立てたのに、何事もなく無事に着きました。


おかしいなぁ。


もしかして、帰路でしょうか。

轟海号がアトランティス・ザ・ムーと同じ深度まで潜り、

国を守る海流を越えた、その瞬間。


暗闇だった海底に、明かりが灯りました。


艦橋へ来ていたヘイムの皆様から、一斉に歓喜の声が上がります。

分かりますわ。

私も何度見ても感動します。


悪意を持った者を拒む海流。


そして、どこまでも続く暗闇。


その二つを抜けた途端、目の前に現れる光景。


そこは、まさしく桃源郷。


海藻やサンゴ礁が、地上の草原のようにどこまでも広がっている。

その上を、地上の動物や鳥のように無数の魚達が泳いでいく。


色鮮やかな魚の群れが、轟海号の前を横切っていった。

そして、その海の草原の向こう。

巨大なドームに包まれたギリシャ風の都市群が、

海底に規則正しく並んでいる。


「あっ……」


誰かが声を漏らした。

無理もありませんわ。

初めて見たら、誰だってそうなります。


やがて都市の方から、いくつもの影がこちらへ向かってきた。

海人の警備兵でしょう。

水中スクーターのような物を手にした編隊が、轟海号へと近づいてくる。


……あれ、怖いですわよ。


そもそも、あんな物を使わなくても、海人が自力で泳いだ方が速い。

では、なぜ持っているのか。


あれは魚雷ですわよ。


あれ一つで、この轟海号なんて沈んでしまいますわ。


念の為、こちらから西園寺公爵家の潜航船であること、

そして乗っているのも西園寺公爵家の者であるという合図を送る。

それを確認した編隊は、迎撃態勢から警戒態勢へ移行した。


数人が轟海号の左右に分かれ、そのまま並走を始める。

そして海中に、一本、また一本と誘導灯が灯っていった。


宰相様。

これを見て、アトランティス・ザ・ムーの力を感じてください。

あの超帝国ですら勝てなかったのですよ。


いつか追いつくと思っているかもしれませんが――。


アトランティス・ザ・ムーも、地上へ人を送っています。

血が混ざった西園寺公爵家みたいにね。

地上の技術力や情報も、常に仕入れているのですよ。

その対価として、西園寺公爵家にだけ、

地上へ出しても問題のない物が贈られているのです。


魔法使い様や生徒の皆様は、

この光景に感激してそれどころではないみたいですけど。

さすがに貴族の皆様の顔は少し違いますね。


アンリシア様も。


宰相様も。


トール夫人も、ハーケン夫人も、ミレディ様も。


皆、先程までとは違う目で海底都市を見つめている。

分かってくれて良かったです。


やがて誘導灯に従い、轟海号は一際大きなドームへと近づいていく。

誘導灯に混じって、船体へのスキャンが始まった。


問題はなかったのだろう。


轟海号を包むシールドと、都市のドームを覆うシールドが共鳴する。

二つの光が重なり合い、やがて境界が融合した。

そのまま轟海号は、

ドーム内部に設けられた港へとゆっくり接舷していく。


港には、すでに連絡がいっていたのでしょう。

国賓を迎える一団が待っている。


…………。

しまった。


私は、その光景を見た瞬間に固まった。

アステリア帝国との外交問題。

魔法使い様が奥へ案内された後のこと。

そればかり考えていて――。

魔法使い様が出迎えを受けた時の対応を考えていなかった。


「アンリシア様、宰相様」


私は恐る恐る二人を見る。


「魔法使い様は……問題なく対応できますの?」


二人が私を見る。


「歓迎されているのが自分で、

 他の方はおまけって分かっていますの?」


…………。

返事がない。


「いきなり『主賓です』って言われて、

 『えっ?』とか言いませんよね?」


…………。

「八大氏族の集まりで人見知りを発揮して、停止しませんよね?」


私の問いに――。


アンリシア様。


宰相様。


トール夫人。


ハーケン夫人。


ミレディ様。


全員が、


「あっ」


と固まった。


そして肝心の魔法使い様は――。

そんな私達の心配など露知らず、

生徒達と一緒になって初めて見る海底都市に興奮していた。

耐圧ガラスに張りつくようにして、目を輝かせている。


…………。

どうしましょう。

パパ、ママ。

やってしまいましたわ。





師匠のニューワールド講座 101

~アトランティス・ザ・ムーの秘密~


おまけ

師匠

なんです。

「今回、遂にアトランティス・ザ・ムーに来ましたけど。

海底都市とか、

海中に誘導灯まであってスゴイですよね。」

『そうですね。』

『本編でも少し語られていますが、

アトランティス・ザ・ムーは地上より遥かに科学も魔術も進んでいます。』

『そうですねぇ……。』

『宇宙を舞台にしたアニメや映画に出てくる未来都市を思い浮かべてください。』

『あれを海中でやっていると思えば、だいたい合っています。』

「それ、相当スゴくないですか。」

『スゴイですよ。』

『ホログラムを使って、実際には存在しない物をそこにあるように見せたり。』

『都市全体を守る防御フィールド。』

『重力制御はもちろんのこと、

海底でありながら穀物まで育てています。』

「海底で農業までやってるんですか。」

『やっていますよ。』

『地上との交易が途絶えたところで、

彼らだけで生活できる程度には文明が完成しています。』

『それには、ちゃんと理由があるのです。』

『実は――』

『彼らは現在の文明よりも前に存在した、

古い文明の生き残りなのですよ。』

「えっ。」

『かつて、深い海の底に独自の文明を築いた一族がいました。』

『彼らは外界とほとんど接触することなく、

海底で静かに暮らしていたのです。』

『そのおかげで、地上の文明が滅びた時も巻き込まれずに生き延びました。』

『そして、かつて海上にあった群島国家も、

彼らにとっては新しく生まれた地上文明を知るための

出張所のようなものだったのです。』

「じゃあ、アトランティス・ザ・ムーが沈んだから、

海人達が仕方なく海底に移住したんじゃ……。」

『違います。』

『元々、海底が彼らの本拠地です。』

『天変地異によって海上の都市が失われたので、

本来の住処へ戻っただけなのですよ。』

「全然違うじゃないですか。」

『地上では、その事実を知る者がほとんどいませんからね。』

『もっとも、天界では常識ですけど。』

『ちなみに創造神は知りません。』

「えっ。」

『知ろうともしていません。』

「創造神ですよね?」

『創造神ですよ。』

『きっと知ったら驚くでしょうねぇ。』

『自分ではとっくに滅びたと思っていた文明が、

今でも海底で元気に暮らしているのですから。』

「相変わらずですね、創造神様……。」

『だから、アトランティス・ザ・ムーの海底都市はスゴイのです。』

『長い歴史もそう。』

『そこで積み重ねられてきた技術もそう。』

『地上では失われてしまった技術も、

ここでは当たり前のように受け継がれています。』

『ですが――』

『私が本当にスゴイと思うのは、

そこではありません。』

「違うんですか?」

『それほどの力を持ちながら驕らず、

地上を支配しようともせず、

静かに、平和に暮らしていることです。』

『力があるから使う。』

『自分達の方が優れているから他者を従わせる。』

『そんなことをせず、

ただ自分達の生活と海を守りながら、

長い年月を生き続けてきた。』

『それこそが、アトランティス・ザ・ムーの本当の凄さだと私は思いますよ。』

「なるほど……。」

『そして、ヴァルナさん。』

「はい?」

『分かっていますか?』

『そんな国に――』

『あなたは今、国賓として招かれているのですよ。』

「…………。」

『どんな醜態を晒すのか楽しみ――』

『もとい。』

『心配で心配で、胃が痛いです。』

「今、絶対楽しみって言いましたよね。」

『言ってません。』

「言いましたよ!」

『さあ、ヴァルナさん。』

『国賓らしく、堂々と行ってきなさい。』

『私は少し離れた所から見ていますので。』

「なんで離れるんですか!」

『巻き込まれたくありませんから。』




作者メモ

※本編のおまけ設定です。読み飛ばしても問題ありません。

※本編とは時空が違います。

※本編の都合により、設定が変わる事があります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。