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黄金猿への追撃

黄金猿(こがねざる)”の本拠地のある街”ホルル”。その街の一角には和式建築と呼ばれるものを取り入れた建築様式の建物が存在していた。


木と紙の香りが静かに漂う和式建築は、華美ではない落ち着いた美しさを持っていた。

深い色合いの柱と梁が空間を支え、障子越しに差し込む柔らかな光が室内を淡く照らしている。

磨き上げられた板張りの廊下は足音を静かに響かせ、庭へ続く縁側からは風に揺れる竹の音がかすかに聞こえていた。


そんな建物は今落ち着くとは程遠い剣呑な雰囲気を放っていた。


黄金猿(こがねざる)”の大頭と若頭2人、一人の白衣の女が集まり今回の被害について話し合っていた。


「ここまで被害を出すとはどういうことじゃい。うちの顧客リストは流出し信用はがた落ち。武器庫を襲われ戦う術を失って挙句の果てには儲けの奴隷まで解放されただぁ?なめてんのか、お?」


大頭であるスキンヘッドにサングラスをかけた大男──キン=ロウガンが若頭の一人に凄む。しかし若頭は震えることなく淡々と説明する。


「こちらの警備に穴があったとは思えません。今回は騎士団も導入し万全の警備でやらせてもらってました。ですが敵はその騎士団すら突破して逃げたんです。脅威度の設定が甘かったんでしょう」


「賢く説明しやがって。だがそうだ。俺たちは襲ってくる敵対組織を過小評価していたみてぇだ。これは俺たち幹部の責任だ」


普通であればここで激高するところだが、大頭はそんな無駄なことはせず、自分たちの認識の甘さもあったと非を認める。


その中でもう一人の若頭が現在の行っている施策を発表する。


「今若いもん使って探り入れさせてます。捕まった大臣の行方は未だにわかっていませんがそっちは騎士団がどうにかするはずっす。問題は当面の資金援助先があまり見つからないということっすね。いくつかとのスポンサー契約は切られており金銭面に前ほど余裕がなくなりやした」


「そこが本当に困るところなんだよねぇ。君たちのところにいるのは私の研究が問題なく続けられるからだよ?わかっているのかい?」


そう言って白衣の女──イレニア=ドラグ=ストラリアは用意されたお茶を飲みながらそう口にする。


彼女は”黄金猿(こがねざる)”と契約を結び、複製体の研究を行うことを約束していた。

黄金猿(こがねざる)”は研究素体や資金、場所や人材の提供。イレニアは”黄金猿(こがねざる)”への戦力提供と研究成果の共有を渡す契約である。


「だからお前のいる施設はまだバレていないだろう」


「まだ、ね。君らの経済、武力、そして人員を司る拠点がばれていて襲撃されたんだよ?そんなのが相手だ。いずれ私の居場所も見つかるだろう」


「ならどうするってんだ!?手立てもねぇのに」


「竜しかありません」


幹部会が行われている部屋に一人の眼鏡をかけた優男が現れる。名をシエン=ロウガン。”黄金猿(こがねざる)”大頭の息子である。


「竜だと?だがあの研究施設は破壊され、まだ再開できていないのでは?」


「ですからそれを再開させるのです。危険だからという理由であのような辺境の土地で研究させていましたが、安全を考慮しこの街で研究を再開するべきでしょう」


「馬鹿な!この街で複製の研究だと!?もしあの研究所のように魔物が暴れでもしたらおしまいだぞ!?」


若頭はそう否定する。最初の時にソラが潜入した研究所は魔物の暴走によって崩壊したのだ。

そんな危険な研究を街中でやることにひどい抵抗感を覚えたのだ。


だがシエンはそれを笑いとともに否定する。


「そんな弱気な考えでどうします?すでにうちは先手を打たれ被害がでかくなっています。それに私の派遣した影人(オンブル)ですら討伐されてしまう始末です。敵の戦力はこちらをはるかに上回ります。であれば危険を冒してでも対抗手段を用意するべきでしょう」


「しっかりとした技術で用意すればいいだろう!反乱の危険のある技術などこっちにとっても毒でしかないぞ!」


「私はなんでもいいよ。研究さえできればね。でも竜の実験に関してはかなり時間がいるよ?足りるの?」


イレニアは時間が果たしてあるのかを訪ねる。現状すでに”黄金猿(こがねざる)”は大幅に戦力を低下させ、資金面ですら怪しくなっている。だがシエンはそんなイレニアの問いに笑みで答える。


「問題ありません。なぜなら私たちにはこれがあるのですから」


そう言ってシエンは一つの書類をイレニアに渡す。それを見たイレニアは目を見開き、狂気的な笑みを浮かべるのだった。









































ここロマリア小王国は自然とともに生きる国である。

外界への道は少なく、基本的に切り立った山々が国を隠し通している。

渓谷の中に街を作り、天然の要塞として街を守ることが多く、むしろソラ達が襲撃していた街の様な防壁に囲まれた平地の街のほうが珍しいのだ。

この国の王都は石山の中に作られており、巨大な自然が王都を守る防壁となっている。

そしてその王都を守るように周囲に四つの街が存在し、王都への道を管理する重要な拠点となっているのだ。

そのうちの一つである貿易都市”ホルル”にはソラとクロエが潜入のためにやってきていた。


ソラは右腕と左腕に包帯を巻いており、三日前の戦闘の傷がまだ完治できずにいた。クロエは特に傷らしいものは見えず、肌には傷一つ見えない。


2人は旅人の装いをしており、街の中の雰囲気を確かめつつどこに”黄金猿(こがねざる)”の拠点があるのかをさがしているところであった。


「にしても何でソラサングラスなんかしてるの?」


「バカお前あれだけでかい襲撃をした後に傭兵でもトップクラスの俺がこんなところで歩いてたら怪しいだろ」


現在ソラはサングラスをかけ自前の白髪はオールバックにして後ろで括って束ねている。服装はローブを上から羽織り、中には軽装の少し安めの防具を身につけ、そこまで高位の実力者じゃないように見せつけている。


クロエのほうも装いは同じではあるが、その顔は美しく歩くものほとんどの視線が飛び交っている。


腰まで伸びた黒と銀の髪は滑らかな艶を持っており、透き通るような碧い瞳は見つめる人を吸い込むようだ。

整った顔立ちはどこか幻想的な美しさを感じさせるが、彼女自身は気さくで明るく、いつも楽しそうな笑顔を浮かべている。

風に揺れる髪をなびかせながら軽やかに歩く姿は、まるで陽光の下を駆ける妖精のようだった。


そんな存在と一緒に歩くソラは目立って仕方ないという風に溜息を吐く。


「お前よくそんなんで情報担当とか言うてるよな」


「あ、馬鹿にしたでしょ今。あたしレベルに可愛いと情報のほうから寄ってくるの!」


「どうだか。目立つ時点で微妙だろ」


「むっかー。そこまで言うなら情報収集で勝負しよ!どっちがいい情報を持ってこれるか競うよ!」


ソラのほうを指さして宣言するクロエにソラはもう一度溜息を吐いてあきれた目つきをサングラスの下でする。


「ガキかよ」


「あ、負けるのが怖いの?あれだけ言ってて自信ないんだ」


「上等じゃねぇか。だったら負けたほうが今日の晩飯おごりだ」


ソラもソラで負けず嫌いである。煽られてしまっては乗らざるを得なかった。


2人はそのままその場で別れて各々の方法で情報を集めようと動きだす。


ソラはまずは酒場へと向かい、適当な席に座って酒と肴を頼み周囲へ聞き耳を立てる。


すると近くに座っていた冒険者たちの会話が聞こえてくるが、少しの間聞いていてもあまり実りのある話は聞こえてこない。


他の席の冒険者も同様で、欲している情報を持っていそうな会話が聞こえてこなかった。まぁ仕方ないと割り切ったソラは、店主の前にいくらかのお金を取り出し置く。


店主は肩眉を上げてどういう意図だと視線を向けてくる。


「ここに来たばっかりの新参なんだ。できればここら辺のことについて教えてくれないか」


「この国に旅とは珍しいもんだ。何にもねぇだろうに」


「そうでもないさ。天然の自然に囲まれてるからこそ味わえる食材の旨みがここにはある。そして高額の魔物。賞金稼ぎにはうってつけだろ」


「はっ!違いねぇな。ってことはお前さんもあいつらと同じように魔物を追い求めてやってきたってところか」


そんなところだと口にした後、盃の中に入っていた酒を一気に飲み干し、空になった盃を店主に差し出しお代わりを要求する。


それが気に入ったのか同じ酒を注いだまま店主が話始める。


「それでどんなことが聞きてぇんだ?」


「この街一番の宿といい飯屋はあるのか?」


「この俺様の飯を食って他の飯屋を聞くなんざふざけた野郎だ。だがこの街一番と言えば東通りにある”茶銀”がおすすめだ。あそこは絶品だ。宿はうちの隣の”休信庵”がおすすめだ。安価でいいベッドが用意されている」


「いいベッドか。そりゃいいことを聞いた。あとで予約を取るとするよ」


ソラは言われたことをメモしていき、他には何かないのかと尋ねる。


「そういえばこの街に入るときに感じたんだがなにかピリついてないか?」


「ほう?おめぇさんしっかりと空気が分かるやつか」


店主は目の前のソラがこの街に漂っている緊張感を感じ取りつつも、飄々とした態度をとっていることからただものではないことが伺えるのだった。


店主の言葉にソラはまぁなと口にし、肴を口に入れて酒を頬張る。肴の塩辛さが酒の苦みとマッチして喉を鳴らす。


「それで?やっぱ最近の物騒な話関連か?」


「ま、そこら辺の話は知ってるんだな。最近はいろんな施設が襲撃されていて反乱軍の仕業って言われてるらしい。だがここだけの話だが襲撃されたのは”黄金猿(こがねざる)”の施設らしい」


「”黄金猿(こがねざる)”?この国に潜んでるって言われてる裏組織か?なんでそいつらが反乱軍に襲われるんだ?」


「さぁな。だが襲われた拠点はすべて”黄金猿(こがねざる)”関係らしい。なんらかの亀裂があったんじゃねぇかってのが巷での噂だ」


「なるほどな。もう少し精度のある情報を扱ってそうな奴に心当たりはないか?この街で過ごすにしても何も知らないままじゃやばそうだ」


「いい心がけじゃねぇか。値は張るが信頼できる情報屋を知ってるぜ。紹介状を書いといてやるよ」


そう言って店主は奥へと下がっていき、少しして店主の乱雑な字で書かれた手紙がソラに渡される。


ソラは礼を言った後に酒をすべて飲み干してその場を後にする。







紹介状と一緒に渡された地図の場所に辿り着いたソラ。そこは古物商の店で店頭にはなんらかの遺跡から発掘される品々が置かれていた。


中に入ると扉に付けられていた鈴が鳴り、来店を知らせる音が鳴る。奥のほうから一人の男が現れ、ソラの前に現れる。


「いらっしゃーい。何をお探しで?」


「紹介状を預かっている。これだ」


そう言ってソラは紹介状を差し出す。男はそれを受け取り、内容を読み始めると笑みを浮かべて奥へと案内する。


奥に通されると一つの部屋があり、その中に入ると外から扉を閉められる。部屋の中は暗闇に覆われ、突如目の前に淡い光が灯される。


「ようこそ”導きの星”へ。本日はどんな情報をお求めで?」


「いやお前かよ」


目の前には一人の少女が座っていた。


翠色の髪を高い位置で結い上げた猫耳の少女は、風に揺れる長いポニーテイルをなびかせている。

頭の上に生えた柔らかな猫耳は感情に合わせてぴくぴくと動き、大きな瞳にはいたずらっぽい輝きが宿っている。


少女の目の前には水晶の様なものが置かれており、その中には何らかの文字が高速で動いていた。


少女の名前はリンファ=コウスイ。ソラが懇意にしている情報屋で傭兵を始めたころからずっと愛用している存在だ。


そんな存在が目の前にいたためソラは力が抜け、その部屋の中に用意されている椅子に座り込む。


「それで?なんでこの街にいるんだ?リンファ」


「ふっふっふっ。よくぞ聞いてくれました!まぁそこまで深い理由があるわけじゃないんだけどね。”黄金猿(こがねざる)”の動向を調べてただけなんだよね」


リンファの話によると最近の”黄金猿(こがねざる)”の経済状況が何かおかしいと気が付いたらしく、それがどういった理由なのかを調べていたとのこと。


そして直近で起きている”黄金猿(こがねざる)”周りの不祥事が余計にリンファの意欲を掻き立てていたとのこと。


その結果”黄金猿(こがねざる)”の本拠地まで自ら情報収集しにきていたのだった。


「そしたらまさかソラ君がいるなんてねぇ。もしかして今回の件にかなり関わっています?」


「さてな。たまたまいるだけさ」


「情報提供代金5万」


「あぁそうだ俺がぶっ潰した」


ソラの腕時計型の端末に一件の通知が届くと、自身の口座に入金があったことがわかる。


「やっぱりそうだよね~。にしても”黄金猿(こがねざる)”の拠点を三つも破壊するなんて何考えてるんだか」


「さぁな。依頼主については俺も詳しくは話せん。それに悪いが依頼内容までは言えねぇからな」


「知ってるよーん。ソラ君がそういうことは口が堅いのは知ってるからねー。でもこの街にいるってことは本部が狙いだよね?なにかいるの?」


「まぁ落ち着け。それよりも俺はお前がどこまで情報を仕入れてるのが知りたいんだ。この街の情勢に”黄金猿(こがねざる)”の情報、そんでもってイレニアっていう科学者についてだ」


金額として70万円ほどの金をリンファに送金したソラ。その送られた金額を見てリンファは水晶を操作し始め、空中にいくつかの情報をスクリーンとして表示し始める。


「これが私が集めた情報だよー。まぁ全部ハッキングしたりして集めたんだけどね」


リンファの情報は基本的にインターネット内にて行われる。落ちている情報だけではなく高度なプロテクトが施されている場所にもアクセスして情報を盗んでいく。


そうやって市井に出回っていない情報を集めることで情報屋としての価値を高め、自身の価値を高めているのだ。


並みの情報屋よりも情報の精度も高く、ソラがずっと愛用しているのもそのひとつである。


ソラは浮かび上がる情報すべてに目を通していき、”黄金猿(こがねざる)”の本部である建物にイレニアなる人物が出入りしている姿が映し出されていた。


「イレニア。複製技術を専攻している異端児ねー。どんな感じだったの?」


「実際に会ってはいないが奴の技術には触れた。正直凄まじいの一言に尽きるな。俺が戦ったのはフラッシュウルフに影人(オンブル)だったが、両方とも実際の奴のまんまだ。特に影人(オンブル)を量産されて一人でも強い奴に寄生されるだけでかなり厄介だろうな」


実際ソラとクロエは苦戦し、雫という存在の援護がなければもう少し戦闘が長引き、他の騎士団の援軍が間に合ってしまいどうなっていたかわからないような状況だった。


「でもなんでイレニアは”黄金猿(こがねざる)”っていう裏組織に協力してるんだろうねー?研究するんだったら他の大きいところに行けばいいのに」


「確かにな。”灰狼会(はいろうかい)”なんかここらへんだと幅聞かせてるだろ。いやそもそも”黄金猿(こがねざる)”があそこの下部組織になるよな?」


"灰狼会(はいろうかい)"は北北西地域の裏社会にその名を轟かせる巨大組織である。


山岳国家ロマリア小王国。

交易国オストラル小国。

中世文化の色濃いクローヴァ王国。

そして大陸屈指の軍事大国アイゼル大王国。

灰狼会は、その四か国の裏側に深く根を張り、密売、諜報、暗殺、政界工作にまで手を伸ばしていた。


表舞台に姿を現すことは滅多にない。

だが裏社会に生きる者でその名を知らぬ者はいない。


その下部組織である”黄金猿(こがねざる)”にイレニアは在籍しているが、なぜ大元組織であるところに在籍せずに下部組織に存在しているのかがわからなかったのだ。


「灰狼ねー。まぁ確かにあそこは武闘派が多く在籍してるけどその分敵も多いよねぇ」


「まぁあまり大きな動きをするとあそこまでの組織なら目立つからな。・・・目立たないように下部組織に研究を任せてるのか?」


「あーなるほどね?だったらこのイレニアを匿うための場所ってこと?でもそこまでするほどなのかな?」


ソラはすでに今”悪魔の星(エトワール・ノワール)”がこの件に参入しているのを知っているため、他にも敵がいるのを感じ取っていた。


悪魔の星(エトワール・ノワール)”――。

それは世界中の裏社会にその名を轟かせる闇組織である。


その勢力は一国に留まらず、大陸全土へと広がっていた。

あらゆる国でその影は潜み、あらゆる争いでその影はあらゆる姿を象り介入する。

特に大きな戦争になると必ずと言っていいほど介入し、何らかの目的を達成するとその姿を消している。


組織の本拠地は不明。

幹部の素性を知る者もほとんど存在せず、“どこにでも現れ、どこにも存在しない組織”として恐れられていた。

構成人数すら不明な組織。幾度となく追跡作戦が行われてきたがそのすべてが失敗に終わっている。


そんな組織が介入しているこの件は想像以上に大きな話になってくるだろうと考えていた。


「まぁこれだけの情報が揃っていたらとりあえずは今後の方針に繋がるな」


「あーいまいどありー。その感じだと近い内にここでまた何かありそうだね」


「さぁな」


ソラはもう用はないと席を立ちあがり、その場を後にしようとする。そんなソラにリンファは最後の情報を授ける。


「お得意様だから最後に特別な情報を上げる」


「なに?」


「”時の祭壇”」


「・・・?なんだそりゃ」


「情報は端末に送ってあるから帰ったら確認してみてねー。お友達と一緒に」


ソラは何のことかわからなかったが、その場を後にしクロエと合流しようと考えるのだった。






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