影人襲来
ソラとクロエは森の中で潜んでいた一団と合流する。
その一団はクロエの組織の部隊であり、街の防壁の上から拠点を狙撃していた部隊でもある。
一団の中にいる両目を包帯で塞いでいる少女はその身に合わない巨大な包みを持っており、ソラは一目見てその人物があの狙撃を行っていた人物だと判断する。
少女はソラの視線に気が付き、少し頭を下げてお辞儀をする。それに応えながらソラはクロエに視線を向けるとクロエが一団に指示を出していた。
「とりまこの森抜けるよ。”黄金猿”があそこまで騎士団を動かせるとは思わなかったからちょっとやばいかもね」
そんなクロエの言葉に合わせるように森の中に異変が現れる。
突如として一段の前に黒い靄が出現する。その靄は人型を取っておりなんらかの魔力的要因が関わっているのだと判断できる。
しかしなにかを考える間もなくソラから大きな声で警戒の言葉が飛ぶ。
「影人だ!!何してくるかわからねぇぞ!!警戒を─────」
「【火柱】」
しかし最後までソラが説明するよりも早く影人が動く。炎属性で形成された柱がその場にいた五人の足元より出現し、中心にいたソラ達を焼き尽くそうとする。
火柱の中からソラとクロエはすぐさま飛び出し脱出し、他の三人も遅れて中から飛び出してくる。
しかしそのうちの一人の前に炎を全身で纏った影人が現れ、その手に握った影でできた剣を使って頭と胴を別れさせる。
慌ててクロエがその一体を蹴り飛ばすことで他の2人を助ける。
「さっきの騎士の影人か」
影人とは魔物の一種で魔力で体を形成する魔力集合体である。魔力溜まりと呼ばれる場所で出現する魔物で冒険者ギルドという場所が定めたランクではC~Sとなっている。なぜここまで差があるのか?それはこの魔物の特性に合った。
その特性は対象となる存在の影に取り憑くことでそのものの能力をコピーできるのだ。これによってランクが変動することとなる。そして厄介なことに魔力は空気中に存在している魔力を使用して魔術を使用するため、魔力切れというものも起きない。それにより対象となる存在よりも厄介になることが多いのだ。
そんな影人が三体、ソラの前に三体ともが炎を纏って現れる。
(あの炎はあの時使ってた身に纏う防御魔術か。魔力切れもないからあれで常時身を守りつつ最大火力をぶっ放せるわけか)
影人の一体が影でできた剣に炎を纏わせてソラ目掛けて突撃する。ソラはそれを【流天】で軌道をいなし、逆に拳を身体に叩き込む。
しかし生半可な攻撃では炎の鎧を突破できず、放つ熱波によって拳は受け止められて弾かれる。
(ちっ!めんどいな、もっと魔力がいるな)
そんなソラの考えに合わせるように一発の魔力の弾丸が影人の纏う炎の鎧に突き刺さる。
その一撃は衝撃だけで影人を吹き飛ばし、ソラから距離を離させる。
それを行ったのは眼帯の少女で、その手には黒く巨大な銃と呼ばれるものを構えていた。
「援護する」
「だーめ。雫ちゃんは戻ってね」
雫と呼ばれた少女の背後にクロエが現れ、肩を叩く。クロエにそう言われた雫と呼ばれた少女は渋々といった感じで銃をもう一度担ぎなおす。
もう一人の仲間とともにこの場から離れる雫。大臣を担いだ仲間とともに離れていく雫をクロエは手を振りながら眺め、そして向き直る。
そこには五体の影人が立ち塞がっており、全員が炎の鎧を身に纏わせていた。
炎の鎧は【灼熱の鎧】。灼熱の業火で身を守る魔術である。ベースとなっているのは先ほど戦っていたガルファであるため、その当人が使える魔術や武技すらもすべて使えるのが影人なのである。
(さっきの副団長が5人いるってこと?流石にちょっときつくない?この状況)
少し分が悪いなとクロエは内心で思いつつも、内なる闘争心は抑えきれず口元には笑みが浮かばれていた。
口元を隠していない仮面だったため口元の笑みを隠しきれなかったクロエ。そのまま短剣を手の中で遊ばせ、そして魔力を一気に開放させる。
2本の短剣を逆手に持ち、今までの日にならない魔力を開放したクロエはそのまま影人に飛びかかる。
「あはっ!!」
一瞬の内に数度斬りつけたクロエ。しかし影人の炎の鎧は揺らめくだけでそのすべてを受けきる。
反撃とばかりに影人の手に握られた影の剣が煌めく。
クロエは短剣でその一撃を受け止め、別の個体の影人の斬撃も空いている短剣で受け止める。
しかしそれによって隙だらけになったクロエにさらにもう一体が襲い掛かる。だがその影人はソラによって殴り飛ばされる。
だが影人の纏う炎の鎧は先ほどよりも密度が高く、もっと魔力を練り込まなければ突破できない。
ソラはとある事情であまり魔術を練ることができない。そのため許容量を超える魔力を叩き込まなければ突破できない防御魔術などは苦手としていた。
「さぁてどうするか。まぁやりようはあるが・・・」
そう言って自身を囲う3体の影人に意識を向ける。ソラは笑みを浮かべ両拳をぶつける。
すると拳にガントレットが装着され、そのガントレットから勢いよく魔力が噴き出す。
「自分で魔力が練れないならこうやって外部から補給すればいいんだよ」
襲い掛かる影人に対してソラは無天流の技を巧く使いこなし、外部補完の魔力で炎の鎧を突破してダメージを積み重ねていく。
無天流【烈天】が3体を襲い、凄まじい拳打が影人の身体を撃ち抜く。だが炎の鎧がそのすべてを受けきり、衝撃だけが影人の身体を貫く。
実体があればそれだけでも脅威だったが影人は魔力生命体である。実体はなく魔力によって現実に干渉しているため基本的に物理攻撃が効かない。
そのため魔力による攻撃が必須なのだが、その魔力による攻撃もあまり効果はない。特定の属性で葬るか体内で高速に移動している核を破壊することでしか倒せない魔物である。
そんな影人はソラが物理的な技しか使っていないことから魔術が得意ではないと判断し、脅威にならないと判断して影の剣を構えて襲い掛かる。
ソラは影人たちの動きを見て自分を嘗めていることにすぐに気が付き、怒りが心の底から湧き上がる。
瞬間ソラの姿が掻き消え、稲妻の軌跡がその場に残る。雷魔術【迅雷】によって稲妻の如き移動を可能とする強化魔術である。
これによって一瞬で影人の包囲から抜け出したソラは2体の影人を空中に蹴りあげる。
そして一体だけになった影人の隙だらけの背中に拳を叩き込み吹き飛ばすと、そのあとを追いかけるように駆けだす。
駆ける速度はさらに加速していき、ソラの姿が掻き消えると同時に吹き飛ぶ影人の身体に
ソラの拳が叩き込まれる。
「無天流【瞬天】」
音速の速度で敵を殴り、速度という重さを味方につける一撃を影人に叩き込むと、その衝撃だけで炎の鎧は吹き飛び、体内で高速で移動していた核にも罅を入れることとなった。
自身の核に罅が刻まれたことを自覚した影人は焦燥感が芽生え、すぐに目の前の存在を始末しなければならないと考える。
だが影人は炎の鎧が剥がれていることに未だに気が付けていなかった。さっきまでソラが有効打を与えられていなかったのは【灼熱の鎧】を纏っていたからである。
今はその鎧は剥がれており、ソラの攻撃は全て通ることとなる。その影人が最後に見たのは無数の拳が自身に撃ち付けられる光景であった。
【烈天】による連続技で核を破壊したソラ。体勢を立て直して戻ってきた2体の影人はソラを警戒して取り囲んで周囲をゆっくりと回り始める。
だがソラも無闇には動けないでいた。
先ほどの【瞬天】は音速での動きを行うため肉体にかかる負荷が尋常ではないのだ。
【迅雷】も同じ原理のため、ソラの肉体は今現在悲鳴を上げつつあり、節々で痛みが出始めていた。
(おんぼろの肉体だなほんと。強化魔術を常時使えねぇから不便で仕方ねぇ。それに【崩天】の余波で右腕が動かしにくい。骨に異常があるんだろうなこの痛みは)
先ほどから感じる痛みに少し顔を顰めつつも目の前の影人から目をそらさないようにするソラ。
影人が動き出そうと一歩を踏み出そうとした瞬間、蒼い閃光が動き出そうとしていた影人1体の足を吹き飛ばす。
突如として足を失ったことで体勢が崩れた影人。その無防備な顔面を思いっきり蹴りあげることで破壊したソラは、そのままもう1体のほうへ向き直る。
視線の先では剣を振りかぶった腕がまたもや蒼い閃光で貫かれており、破壊されているところだった。
先ほど襲撃した拠点の狙撃と同じ光だったため、ソラは小さく感謝の言葉を溢し魔力を体内で循環させ、無事な左拳に集中させる。
強力な攻撃が来ると判断したのか影人は身に纏った炎をさらに増やし、魔力密度を上げることで防御力を高める。
ソラの放った【崩天】がガルファの強力な魔術を破壊した時と同じように影人の身体を一瞬で破壊し、霧散させてしまう。
その消滅の仕方から核を一瞬で破壊されたことが傍目から見ればわかる。残った影人は頭を再生させて立ち上がり、炎の鎧を解除して逆に炎をすべて剣へと纏わせる。
守っても仕方ないと判断したのか一気に攻勢に出ようとする影人。
放たれるのは一剣流【巨閃】。通常と違うのは纏う魔力が炎だということ。
巨大な炎の刃を上段に構えた一剣流【巨閃】は、その刃をそのままソラ目掛けて振り下ろすこととなる。
巨大な爆発と火柱が立ち上がり熱風が森の中を突き抜ける中、クロエは2体の影人と激戦を繰り広げていた。
クロエは影人を屠ることのできる魔術は持っているのだが、ガルファの力を持つ影人が2体相手のため、その魔術を発動させる隙を見出せていなかったのだ。
(どうにかして隙を作らないとジリ貧だなぁこれ。楽しいけど長引くのはだるいんだよね)
さてどうするか。そう考えていたクロエの目の前で影人の頭が2体とも吹き飛ぶ。
すぐに狙撃だと気が付いたクロエは笑みを浮かべて感謝の言葉を述べる。
「さいっこうだよ雫!!」
すでに安全圏に避難し、少し離れた山の上からスコープを使って戦っている二人を眺めていた雫は小さく笑みをこぼし、その場を後にする。
そして最高の援護をもらい隙を作り出せたクロエは短剣をクロスさせ、魔術を紡ぐ。
「【深淵を纏うもの】」
闇が刀身を覆う。光を飲み込まんとするほど真っ黒な刀身は短剣の刀身をすべて覆い隠し、刀身の長さまで変えてしまう。
もはや剣と同じ長さとなった短剣を少し振るい、頭を再生させている2体の影人を真っ二つに両断する。
通常であればその程度であればすぐに再生するが、その一撃は再生することができず、霧散が始まってしまう。
影人はわけもわからぬままそのまま消え去ってしまい、その場には黒い核が2個地面に転がることとなる。
【深淵を纏うもの】。闇属性の魔力を纏わせる強化魔術である。
闇属性の特性である吸収するという力を色濃く反映したもので、触れた魔術的な効果を吸収し無効化してしまうのだ。
それによって再生するという効果を吸収し、無効化させたことで影人は再生することもできずにそのまま霧散して消えてしまうこととなったのだ。
地面に転がる2個の核を拾い、自身の空間属性で作り出した保管用の空間にそれを仕舞いこむと爆発が起きていたほうへ足を運ぶ。
爆発のあった場所は所々で樹が燃えており、地面は黒焦げになっていた。そしてそんな悲惨な場所の始発点となる場所でソラは倒木の上に座ってゆっくりとしていた。
ソラの服は所々が燃えており、流石に先ほどの一撃をいなしきれなかったのだと判断したクロエ。そのままお疲れーと声をかけ近づく。
「さすがに疲れた。追加報酬を求めるからな」
「あたしもさすがに想定外。ここまでの戦力が出てくるなんて思わなかったし」
そう言ってクロエもソラの横に座りこむ。少しだけ休憩しても問題ないだろうと判断した結果である。
本来であればすぐにでも離れるべきではあるが、消耗した状態では危険と判断してのことだ。
「多分だがあの影人は複製研究の結果だろうな。まだあそこまでの戦力は確保できてないと思ったぜ」
「あたしが調べられてない拠点が確実にあるね。しかも研究拠点じゃなくて製造拠点があるはず。影人の量産なんかされたらたまったもんじゃないしさっさと見つけ出さないと」
「流石にこのまま引き下がるのは気になるしなぁ・・・追加依頼があるなら引き受けるぜ」
クロエはソラの言葉に少し驚いた。金銭面次第で手伝うと言ってくると考えていたため、先に向こうから依頼について口を出してくるとは思わなかったのだ。
ソラは内心で今回の件は今後の情勢的に見過ごせないものだった。それに研究所で見た竜擬きの事も気になっており、もしあれの完成個体がいたらと考えていたのだ。
あんなものが世に解き放たれた時の混乱を考えると震えが止まらなくなるものだ。それにソラはそういうことが起きかねないことを知ってしまった。
知ってしまったからには放っては置けないのがソラという男なのだ。
「事が事だし依頼料はたぶん弾むよ。それに規模がちょっとでかいし流石に応援呼ばないとなぁ」
「現地入りしてる奴らが少ないのか?」
「そもそもうちは少数精鋭。雫以外の二人も雇った傭兵だよ?」
「まじか。実働部隊が少ないのか」
「うちは情報戦が基本だったからねぇ」
さて、と言ってクロエは立ち上がり、ソラもそれに合わせて立ち上がる。
ソラもクロエもこちらに近付いてくる一団に気が付いたからこそ立ち上がったのだ。
街のほうからやってきているため確実に追撃部隊だと判断できる。
2人はすぐに動き出し、夜の森の中へとその姿を消すこととなる。
その日”黄金猿”は経済的な打撃もさることながら信用問題にも傷がつき、スポンサーのいくつかが離れることとなるのだった。




