騎士団激突
奴隷売買施設を襲撃し、奴隷を開放したことで騒ぎを大きく起こしたソラとクロエの二人は夜の街の裏路地に当たる場所を走っていた。ソラは捕縛したこの国の防衛大臣を担ぎながら疾走しており、いつもよりかは少し速度が遅かった。
そんな二人の目の前に突如として魔術が降り注ぎ、行く手を遮る。余波が二人を襲うがそんな事意に介さず二人は攻撃してきた方向を見る。路地の周りの建物の上に黒装束の集団が立っていた。そして魔術で発生した煙の向こうには完全武装した騎士の集団が油断なくこちらを見つめて立っていた。
「動きが速いな。もしかしてこいつなんか位置特定する魔導具でもつけてるのか?」
「これ突破するしかないね。正面から騎士団とやり合うのめんどいんだけどな~」
クロエは腰に添えていた二本の短剣を抜き放ち、逆手に構える。ソラもガントレットとレギンスを装備し、構えをとるために気絶した防衛大臣であるロスを地面に寝かせる。
それを見てまずは正面の騎士団が動き出す。大きな盾を前面に構えて前に進みだす。動きはそこまで速くはないが、一列に並んだ大盾の突撃が二人に襲い掛かろうとする。
それに対してどう対応しようかとクロエが考える中、ソラが前に出て拳を握り締め、その右拳に魔力が内側から湧き上がり集中する。
「無天流【撃天】」
その拳を大盾ではなく地面に叩き込むことで凄まじい地割れを産み出し、隊列を崩す。崩れた隊列と体勢の騎士団にクロエが壁を伝って一気に駆け寄ると、短剣を巧みに扱い騎士たちの甲冑の隙間に刃を通していく。
重装備の騎士たちはクロエの速度に反応できずにその命を散らしていく。大盾の騎士たちの背後には槍を構えた騎士たちが構えており、クロエに対して突きを勢いよく放つ。
クロエは命を奪った騎士の持つ大盾を奪い、自身に襲い掛かる槍を防ぐために使う。踏ん張りを効かせて槍の一撃を受け止めると、その大盾を足場にしてソラが槍を構え終えた騎士たちに突貫する。
無天流【撃天】がまたもや叩き込まれ、大きく陥没する地面と周囲に衝撃波が発生する。集団の中に入り込まれた騎士たちは槍を捨て、すぐさま剣を抜き放ちソラに襲い掛かる。
正面から襲ってくる騎士の剣を無天流【流天】でいなし流れるようにカウンターで拳を叩き込む。拳が叩き込まれた甲冑は大きく陥没し、その一撃は鉄の鎧で身を守る騎士の命すら刈り取る。
攻撃が繰り出されたことでそれを隙だと判断したほか2人の騎士がソラの背後より襲い掛かる。上段と横薙ぎの二撃はまたもや無天流【流天】によっていなされる。上段の攻撃の軌道をずらし、横薙ぎに振るわれた斬撃にその上段の斬撃をぶつけることで防ぐ。
防がれた二人の騎士にその場で飛び上がりつつ蹴りを二人の顔に叩き込み、吹き飛ばす。吹き飛ばされた騎士は他の騎士にぶつかって地面に倒れ込む。ソラはそのまま地面に着地すると同時に雷属性魔術【雷球】を発動させて自身の周囲に雷で形成された球体を産み出すとそれを周囲に解き放ち、騎士たちにぶつける。
次の行動につなげようとすると、上空より魔術が降り注ぐ。炎でできた槍が幾つも降り注ぐ。ソラはその場から後ろに跳躍し、それを回避する。頭上の黒装束のほうに視線を向けるとすでにクロエが殺到し、血祭りにあげている最中であった。
「アッハハハハハ!!よわいなー、魔術だけが取り柄の人らは!!」
「なんだこいつ!?防御まじゅt──」
「喋る暇があったら魔術を展開したらいいんだよ?」
指示を出そうとしていた黒装束の首から血飛沫が噴き出す。別の黒装束がクロエに魔術をぶつけようとするが、放たれた魔術はクロエの背後に出現した黒い障壁によって防がれ、そして飲み込まれる。
闇魔術【黒盾】。闇属性魔力の特性である吸収の効果を強く出した魔術で魔術的攻撃を受け止めるとその魔術の魔力を吸収し、無効化する魔術である。クロエはそれを相手の攻撃のタイミングで発動させ、相手の魔術師の攻撃全てを無効化しながら蹂躙していく。
(魔術師殺し。あそこまで洗練された闇魔術もなかなか見ないな)
人にはそれぞれ魔力の属性が決められている。先天的なものもあれば後天的に発言するものも在る。そして魔力属性にはそれぞれ決まった特徴が存在しており、それらの属性の魔術はその特性を引き出したものとなっているのだ。
闇属性の特性は吸収と放出。この特性を極限まで引き出せるように訓練したのがクロエなのである。ソラはそんなクロエの魔術に身震いしつつ、襲い掛かってくる騎士を地面に殴り伏せる。
(魔術に対しての絶対的な優位性。だからこそああいった魔術師の集団に突撃できるんだろうな。魔術師にとっては嫌な相手だな)
そんな風に考えつつも相手を武力のみで叩きのめすソラを横目に見ながらクロエもソラについて考えていた。
(全然雷魔術を使ってない。ほぼ武術のみであの騎士団相手に圧倒してる。あたしの闇魔術はあくまで魔力に対しての優位性はあるけど純粋な武力は苦手なんだよね。あれでいて全く本気じゃないだろうし相手したくないなぁ)
もし自分が相手するならどうするかを考えつつ、黒装束を圧倒するクロエ。すでに逃げ腰になりつつある黒装束を逃がさないため、クロエは自分の背後に数多の闇属性の矢を生成し、解き放つ。
「闇魔術【黒き矢】」
凄まじい速度で魔術師たちに殺到する闇魔術の矢。防御魔術で防ごうとするがその魔術すらも吸収して貫通し、黒装束の命を断ち切っていく。
2人はお互いの対処法について考えながら騎士団と黒装束を圧倒し、気が付けば全員が地面に倒れ伏す結果となっていた。黒装束は全員が全滅し、騎士団も生き残りは少なく、無事なものは誰一人いない状態だった。
しかしそんな倒れ伏す騎士団の奥より一人の騎士がゆっくりと現れる。少し大きめの剣を鞘から抜き放ち、あふれ出る魔力を抑えることをせずに悠然と進むその男は、この国が誇る騎士団の副団長であるガルファという男であった。
ガルファは剣をソラに向け、そして一気に駆け出すと一剣流【一閃】をソラに叩き込む。しかしソラは【流天】を使い繰り出された技をいなす。目にもとまらぬ速度だったのにもかかわらずいなすことに成功したソラは、反撃とばかりに蹴りを放つ。
しかしその蹴りを悠々と片手で受け止めたガルファはそのままソラを勢いよく持ち上げようとする。ソラは逆に勢いよく地面を蹴り、勢いよくガルファのつかみから抜け出す。ガルファが視線を上に向けるとこちらに向けて闇魔術【黒き矢】が降り注ぐのが視界に映る。
闇魔術【黒き矢】はソラを避けるように殺到し、ガルファの身体に突き刺さるかに思われたが、その身に纏った黄土色の鎧が輝き、魔術を防ぎきる。
「防御魔術の魔力密度たっか。吸収しきれないのウケる」
「当たりそうでひやひやするわ」
ソラが着地すると同時にソラの隣にクロエも静かに降り立つ。そんな二人を値踏みするように眺めるガルファは、その硬く閉ざしていた口を開く。
「強いな貴様たち。この俺だけでは貴様たちを止めるのは難しいかもしれん」
「お、諦めてくれんのか?」
「正直戦いたくはないな。だがその後ろで倒れている大臣は置いていってはくれないか?」
「無理無理。そんなの言わなくたってわかってることじゃん」
「言葉にすることで覚悟を決めたいんだろう。俺たちからこのおっさんを奪おうとしてるんだからな」
その通りだと苦笑いを浮かべ、ガルファは剣を正眼に構える。そして一気に魔力を開放し、そのすべてを刀身に集めていきながら、上段に構える。
「覚悟は決めた。まずはこの一撃を捧げよう」
そう言って魔力で形成された巨大な剣をそのまま振り下ろす。一剣流【巨閃】。魔力を巨大な刃に変えて振り下ろすだけのシンプルな斬撃。そんな斬撃をソラは両手に魔力を滾らせ、振り下ろされた一撃を白羽取りで受け止める。
「なに!?」
「これやると全員驚いて固まるんだよなぁ!!」
そんな隙を見逃すことなくクロエは動き出しており、ソラの横をすり抜けて一気にガルファに接近する。そして短剣を取り回し、ガルファにその短剣を突き立てようとする。
ガルファは横に転がることでそれを回避する。その際に魔力で形成された刃は霧散する。クロエは回避されたことで隙を晒すこととなるが、その場で回転し逆に追撃を仕掛ける。
追撃の短剣は受け身をすぐさまとったガルファは下から剣を掬い上げることでそれをそらす。そのまま攻撃に移そうと意識を変えるが、いつの間にかガルファにソラが近づき、一瞬で脇腹に蹴りを叩き込む。
一瞬のことで反応できなかったガルファはそのまま吹き飛び、裏路地の建物の壁を突き破って建物の中に突っ込んでしまう。部屋の中の机を破壊して床に滑りつつも、なんとか体勢を起こしたガルファ。
周囲は薄暗く、どこから襲い掛かってくるかわからない。すぐに光源となる炎魔術【炎球】を周囲に発現させる。明かりが灯ると同時にガルファの周囲に黒い棘の触手が蠢いていた。
「闇魔術!?」
「【黒き棘】」
ガルファに闇属性の魔力で形成された棘が殺到する。ガルファは水平に剣を構え、その場で一気に回転しながら斬撃を放つ。
「おぉぉぉぉおおお!!!」
魔力で形成した刃を纏わせその場で横回転することで魔力の軌跡を残した斬撃を放つことで襲い掛かる闇の棘をすべて弾く。すべて弾くと同時にその場から一気に跳躍し、建物の天井をすべてぶち抜いて屋上にガルファは移動する。
「【身体強化】」
身体強化魔術を身体に刻み、身体能力を強化することでパワーとスピードを上げたガルファに対し、その動きを予測していたのかガルファの後ろにすでに右拳に魔力を充填していたソラが現れる。
「無天流──」
「炎魔術【灼熱の鎧】!!」
灼熱の炎で形成された鎧が近寄ることを拒み、そして攻撃すらもその炎で焼き尽くす。しかしそんなものをものともせず無天流の技を叩き込む。
「──【撃天】!!」
ただただ自分の鍛え上げてきた技をその灼熱の鎧に叩き込む。まずは熱気による蒸気の壁が拳の勢いを削ぐ。灼熱の炎が拳に纏わりつき、魔力同士をぶつけ合うことで魔力攻撃を防ぐ。凄まじい衝撃が周囲に突き抜け、そして炎がその衝撃波で凄まじく揺れ動き、搔き乱される。
しかし攻撃を防ぐことには成功し、身体へのダメージは軽微に済ませたガルファ。しかし踏ん張りがきかずに屋根の上を滑りながら吹き飛ばされる。
「ぐぅッ!?!?馬鹿力め!!」
「隙だらけじゃーん」
そんなガルファにクロエが飛びかかる。ガルファは声に反応して滑りながらもなんとか剣を振るい、なんとその刃はクロエの身体に届くこととなる。そのまま一気に力を込めて剣を振りぬくと、クロエの身体が真っ二つになる。
しかし真っ二つにされたクロエは笑みを浮かべ、そのあとすぐに黒く全身が染まると黒い棘が一気に体から吹き出し、ガルファの身体に突き立てられる。
「なにッ!?」
(【闇分身】か!?その中に【黒き棘】を忍ばせてたわけか!しくじった!)
そう思考する中で、闇の棘が脇腹に突き刺さる。口の端から血が流れ落ちるが、そんなこと気にせずに棘をすべて断ち切ってその場から大きく跳躍し、別の建物の屋上に飛び移る。
しかし息を継ぐ間もなく着地した場所に魔力を充填したクロエが空中でガルファ目掛けて手をかざす。
「闇魔術【闇撃】」
凄まじい闇属性の砲撃がガルファの身体を飲み込もうとする。ガルファは魔力を身に纏い、更には鎧にもいつもより多く魔力を込めることで防御をとり、その砲撃をその場で受け止める。自身の剣の腹で受け止めつつ耐えるガルファ。
そんなガルファの背後に拳を作り、腕を振り絞ったソラが現れる。
「【撃天】」
放たれたのはたった一撃。しかしその一撃は的確にガルファの剣を背後から弾き、そしてそれによってクロエの放った【闇撃】がガルファとソラを飲み込む。
クロエはソラごと撃ち抜くのを確認し、追撃を駆けるように自身の上空に闇属性の槍をいくつも創り出し、それをガルファごと倒壊した家屋に叩き込む。槍は着弾と同時に爆発を巻き起こし、ガルファに少なからずダメージを与える。
ガルファは自分を覆いつくす瓦礫を吹き飛ばし、倒壊した家屋から飛び出すことでさらなる追撃を回避しようとする。しかしそんなガルファの動きを予測していたソラが稲妻の如き速度でガルファの前に回り込み、地面にガルファを拳で殴りつける。
突然現れたソラに対応できなかったガルファはそのまま地面に倒れる。すぐに動き出そうとしたが、体が痺れて動き出すことができない。そんな隙だらけの姿を逃すはずもなくクロエとソラは魔力を充填させ、ガルファに魔術を叩き込む。
「【闇撃】!!」
「【雷鳴の剣】」
追撃とばかりに雷属性で形成された魔力の剣がガルファに叩き込まれ、刺すまじい雷撃がガルファの身体を焼き、ガルファの鎧を削っていく。そして放たれた追撃の闇の砲撃が完全にガルファの鎧を砕き割り、そのまま爆発が巻き起こり、ガルファの身体は大きく吹き飛ばされると別の家屋に突っ込んでしまう。
ソラとクロエは一度合流し、この隙にこの場から離れようとする。ソラは防衛大臣を担ぎ、クロエと一緒にこの場から逃げ出そうとする。
2人は家屋の上に飛び上がり、屋根伝いに防壁のほうへと進んでいく。東側の防壁を抜けた先に脱出手段が用意されているのだ。
しかしそんな二人を追いかけるようにして先ほどとは別の黒装束の人間たちが次々に現れ、襲い掛かってくる。
ソラは手がふさがっているため、それらへの対処はクロエが行うこととなる。クロエは黒装束の者たちを相手に次々と屠っていく。襲って来る魔術は自身の闇魔術で全て防ぎ、逆に反撃することで的確に命を刈り取っていく。
それを繰り返しながらようやく辿り着いたのは東側の防壁。二人は勢い良く飛び上がって防壁の上に飛び上がり、防壁の上に着地する。クロエは着地すると懐から一定方向に光を照らす装置を取り出し、東側に何度か光を点滅させる。すると薄暗い森の中から同じような光の点滅が見えると、クロエは大きく頷いてソラに告げる。
「うちの子たちが待機してるみたい。一旦その大臣は回収して・・・ソラ?」
「来るぞ」
ソラは大臣を床に下ろし、先ほどまでいた場所を見つめる。するとその方向に凄まじいまでの魔力を感じ、何かが輝いているのが確認できる。
その場所ではガルファが今できる最大の魔術を構えているところであった。
すでに体はボロボロで立つのはやっとの状態。鎧は全て砕け散り、インナーウェアしか上半身は残っておらず、下半身の鎧も所々砕け散り、血も多く流す状態であった。しかしガルファは自国のために立ち上がり、魔術を解き放つ。
「灼熱の業火は凝縮し、紅き光となって照らす。光の奔流は我が敵を包み込み、全てを焼き尽くす。詠唱炎魔術【灰燼の光】!!」
凄まじい魔力の凝縮とともに、一条の光の奔流がソラ達目掛けて放たれる。放たれた光は凝縮された炎の塊。その熱量は凄まじく、遮蔽となっていた建物はまるでそこに何もなかったかのように溶けて消失し、ソラ達に襲い掛かる。
クロエは発現していた魔力量でかなりの魔術が放たれると予測しており、すでに射線上にクロエの闇の盾が幾つも展開され、魔力を吸収しようとするが、吸収しきれずにどんどん破壊されていく。
「まじ!?」
驚きつつも受けきれないと判断したクロエは回避に出ようとするが、すでに回避しきるのは難しい。ソラは逆に迎撃の構えをとっており、迫りくる光を見て拳を握り締め、突く。
「無天流【崩天】」
凄まじい熱を放つ炎の奔流がクロエとソラに迫る中、ソラは落ち着いて拳を突き出した。放たれたのは何の変哲もない拳撃。しかし接触した瞬間、荒れ狂う炎は一瞬止まり、そして消え去ってしまった。
その光景を見てクロエは驚愕の顔でソラを見つめる。ソラは少しバツが悪そうにしつつもあまり詮索するなと口にする。
クロエは追求することはなく、ソラを引き連れて仲間のいる森の中へと入っていく。
ガルファは残っていた全ての力を使った一撃が防がれたため、その身体を地面に投げ出し大の字になって倒れ込む。
そんなガルファに1人の優男が近づき、声をかける。
「燃料切れですか?」
「何も残ってはいないさ。大臣もそのまま連れ去られたしどうすべきか」
「仕方ありませんので既に対応策は取らせて頂きました。アレを使います」
「なに・・・?」
ガルファが疑問の声を出すと同時に街の外の森で大きな爆発とともに火柱が空高く立ち上がるのだった。




