”黄金猿”襲撃
龍暦3058年5月18日。雨。”黄金猿”奴隷管理施設に5時23分頃警備の交代要員が派遣。6時08分に現着時、施設内に異変を感じる。警備の門番がおらず、門は閉ざされたままであった。
門の内側へと警備が入り、警備員の詰所に向かうとそこには喉を斬り裂かれた死体が3体。いずれも警備員であり、交代する予定だった3人であった。交代でやってきていた人員は3人。異常事態を察知した交代の警備員はすぐさま本部に連絡。20分後、本部より実働部隊が到着し、すぐさま施設内の状況確認のために突入する。
施設は”黄金猿”の売買している奴隷を管理している施設で、奴隷の健康状態や所有スキル、今までの経歴が保管されているだけでなく、誰から売買契約の要請や申請、または要望が来ているかなども管理している施設である。
表向きは経済管理施設となっており、”黄金猿”が経営しているレストランなどの管理をしていることになっている。
実働部隊が突入後、施設内に生き残りはおらず、全員が息絶えた状態で発見された。ほぼすべての遺体が一撃で命を刈り取られており、反撃した遺体もいくつかあったが、そのどれもが本部に応援要請を出す前に殺害されていた。
侵入経路は不明。保管されていた金庫が金庫ごと盗まれており、計画的な犯行だと判断され周辺に聞き取りが行われ、厳戒態勢が敷かれることとなる。
また今後に警戒するということで重要施設での警備が強化されることとなる。
3日後の5月21日。今度は”黄金猿”の重要施設でもあった武器管理施設が襲撃を受けることとなる。武器管理施設は通常であればかなりの警備体制となっている。しかし今回は別の施設、主に金銭管理施設と奴隷売買施設の警備を強めていたため、その隙を突かれることとなる。
武器管理施設の襲撃に”黄金猿”の組織員が気が付いたのは、火の手が上がり施設全体を炎が覆いつくしたからである。これによって”黄金猿”の持っていた武器類はすべて炎に飲まれ消え去り、また火属性の魔力をため込んだ魔石が多く貯蔵されていたため、その後施設は大きく爆発。周辺の家屋などに被害を出すものの、人的被害は一般市民にはでなかった。
2度の襲撃を受けて”黄金猿”幹部連はこれが敵対組織による攻撃だと判断し、この国の上層部を動かすことで騎士団を動かすことに成功する。
夜は徘徊の騎士が多く回るようになり、”黄金猿”は自拠点の防衛に専念することとなる。
そして2度目の襲撃から2日目の夜、”黄金猿”の奴隷売買をしている施設を見下ろせる位置にある都市中心に聳え立つ大きな塔の屋根の上、そこに2人の人影が見えていた。
一人はソラ=アマハレ。傭兵業を6年ほど続けており今までに数多くの戦果を挙げている。その数多の戦果から”雷鬼”という二つ名で恐れられている存在である。中でも2年前のとある小国に雇われた際の防衛戦にて侵攻してくる敵国の3個大隊をたった1人で引き受けたという伝説が残っている。
実際にはソラ率いる傭兵団100人で抑えたのだ。
そしてもう一人は”悪魔の星”の構成員であるクロエ=カゲヤマである。隠密行動が得意であり、組織の中でも隠密による情報収集、要人暗殺や護衛などを請け負う人間である。悪魔率いる三人衆の一人で”闇”の異名で恐れられている。
そんな二人は屋根の上で眼下に見える”黄金猿”の奴隷売買施設を見下ろしながら襲撃計画を立てていた。
「さて、今日はどう攻めるか」
「流石に前回と前々回みたいにはいかないかなぁ。見た感じあの施設は結界が張られてるよね。あの結界は侵入察知結界だね。前見たことあるし」
「それに防御能力も高いな。従来型の結界だから四点に結界の起点たる魔石が置かれているんだろう。結界の強度を上げるために結界の外に魔石は置かれているだろうけどな。魔石を破壊すればそれだけで襲撃は露見する。ならどうするか?」
長距離からの狙撃。そう口にした瞬間この街の周囲を囲う防壁の上から高密度の魔力攻撃が放たれ、結界に直撃すると同時に結界が破壊される。施設内で騒ぎが大きくなり、警備にあたっていた人間たちが続々と外に出てき始める。
二撃目がさらに放たれ、今度は施設の正面入り口に直撃すると爆発を巻き起こし、警備の人間を吹き飛ばす。これにより意識が攻撃されている方向に向くこととなり、ソラとクロエは塔の上で静かに顔を隠す仮面を装着し、塔の屋上から飛び降りる。
奴隷売買施設の屋上に静かにに降り立った二人はそのまま静かに、そして素早く動いて屋上に備え付けられている扉の前に移動する。扉の奥に意識を向けると、こちらに向けて走ってくるのがわかる。クロエはソラの肩に手を置くと、自分の影の中に二人揃って沈み込む。そのあとで屋上の扉を開けて警備の組織の人間が現れ、警戒を始める。
「周辺を見張れ!!屋上からくる可能性があるぞ!!全方位警戒だ!!」
影に潜った二人は先ほどの場所のすぐ真下の部屋に移動しており、上からは先ほどの声が響いていた。
「最初っから屋上を見張ってたらいいのにね」
「馬鹿で助かるじゃねぇか。さて、とりあえずは侵入成功だな」
「んじゃあたしは奴隷の鍵回収してくるね。ソラは所長の殺害よろしく!」
そう言ってクロエは地面の影の中に潜りこむ。これが彼女の持っている魔術の一つであり、闇属性と水属性、そして空間属性という三つの属性を合わせた超高難度魔術である。これを使って影の中を自由に移動できるクロエは奴隷を開放するために鍵を探しに行くこととなる。
そしてソラはその間に奴隷売買施設を担当する所長を殺害する依頼となっている。ソラはすぐに動き出し、部屋の扉を少し開け廊下の状況を確認し、微弱の電流を周囲に一気に流す。
雷魔術探知の電流という魔術で、微弱な電流を周囲に流し、その電流がとらえた対象を術者に伝える魔術である。この魔術は情報魔術に反映することができ、ソラはこれを使ってマッピングを行う。
端末内にこの施設の地図が表示されていき、そして人員配備も表示されていく。ソラは常時この魔術を発動させつつ移動を開始し、そして所長のいるであろう部屋を探そうとする。
ソラは浮いている配備の人間を探し出し、一人で動いている存在を発見するとすぐさまそこまで隠密で向かう。そして一人でいる警備員の後ろに回り込み、口に布を押し当て喋れないようにし、雷魔術で高圧電流を流し込んで気絶させる。
ソラは気絶させたその警備兵を無人の部屋に連れ込むと、その男が持っている端末を懐から取り出す。スマホと呼ばれる端末で、それにはロックが仕掛けられている。しかしソラはクロエから預かっていたロックを解除するためのツールが入ったチップを取り出し、スマホに差し込む。
チップが刺さったスマホはロックが解除され、中を閲覧できるようになる。ソラはそのスマホを操作し、フォルダの中に今回の配置について記載されている警備表を発見する。それを確認すると所長室の所在を確認できる。
ソラはすぐに移動を開始し、人に出会わないルートを選択して迅速に、そして静かに移動を開始する。所長室の前に辿り着くと、中に電流を流し込み、中に3人いることを把握する。
(3人か。所長以外誰かわからねぇな。だがここで待っていても人が集まるだけだな)
ソラは懐から遮音結界を発生させる結界の魔術が刻まれた魔石を床に置き、そしてその刻まれた魔術を発動させる。それと同時に部屋の中に突入し、中の状況を確認する。
所長らしき人物は一番奥の椅子に座っており、その前に用意されている応接用の椅子に座っているのが1人、そしてその背後で立っているのが1人。立っている人物は侵入したソラのことに気が付きすぐさま動き、2人の盾になるようにソラに立ちふさがる。
ソラは一瞬で命を絶とうと拳に魔力を込めると、それを護衛の男に叩き込む。
「無天流【撃天】」
「ぐぅッ!?」
防御用の魔術を展開し、その攻撃を受け止める護衛だったが、想像以上の威力だったため後ろに後退しながら痛みを感じ動きが鈍る護衛。しかし攻撃をしっかりと防いだ護衛に感心しつつ、ソラは蹴りを横から放ち体勢を崩している護衛を横に蹴り飛ばす。
そのまま一気に所長の前まで移動して、いつの間にか装備している黒いガントレットの指先を鋭利な詰めの形にしてそのまま突きを放つ。
「無天流【穿天】」
「ごぽっ・・・」
一瞬で所長の心臓を穿ったソラは、すぐさま腕を抜き取り、そのまま背後にいるであろう存在に裏拳を放つ。しかしすでに復帰していた護衛が間に入り、ソラの腕を掴み取るとそのまま関節技を決めようとする。
ソラは電流を一瞬放ち、護衛の動きを一瞬だけ止める。その隙に腕を自由にしたソラは所長の席から離れ、入り口の前に移動する。
護衛は自身の背後に護衛対象を隠し、剣を抜き放つ。
(強いなこの護衛。守る意識がかなり強い。それにあの剣・・・騎士の剣だな。てことはこいつ騎士団関係者か?)
「グラウス。そいつを殺せ。、”黄金猿”との関係を見られてしまった以上生かして返すな」
「はっ。【換装】!!」
空間魔術の一つである【換装】で自身の空間魔術に登録している武装を呼び出す魔術である。逆に装備にこの魔術刻印が刻まれている場合、空間魔術を使えない人でも使うことができるのである。
これによって騎士甲冑を取り出したグラウスと呼ばれた騎士は、全身に黄土色の騎士甲冑を身に纏い、全身から魔力を滾らせる。グラウスは剣を構え、一歩を勢い良く踏み出すとともに構えた剣で突きを放つ。
放たれた突きにソラは腕に装着したガントレットをその突きに横から合わせる。
「無天流【流天】」
相手の攻撃をいなす武術を使い、グラウスの攻撃を防いだソラは、いなした攻撃にカウンターを合わせる。ソラの左拳にグラウスは両手で握っていた剣の右手だけを離して、腕の甲冑でその拳を受け止める。それに合わせて左手で握った剣をそのまま横薙ぎに振り払うことでソラを斬りつける。
左拳をグラウスに叩き込んだ体勢だったソラは右側のその斬撃に右拳を剣の下から掬い上げるように攻撃を当て、軌道を上にずらす。
そのまま自分自身は上に飛び上がり、空中で回転して回し蹴りをグラウスに叩き込む。叩き込まれたグラウスはそれをモロに受け、吹き飛ばされる。
グラウスは甲冑込みでかなり重量のある自分を軽々と蹴り飛ばしたことに驚愕しつつ、心臓を貫かれて息絶えた所長にぶつかったグラウスはそのまま地面に倒れ込む。
ソラは護衛の後ろに隠れれなくなった騎士団関係者に視線を向けると、そこには誰も座っていなかった。先ほどまで椅子に座っていた男はソラの背後に移動しており、いつの間にか甲冑に身を包んだ状態で剣を構えていた。
「一剣流【一閃】」
ただ速い一撃。それだけを追求した一撃がソラに放たれるが、ソラはそれを下にしゃがむことで回避し、その場で回転蹴りをまた放ち、足払いを行う。足払いをされたその男は地面に右手を突き、右腕の筋力だけでその場から大きく跳躍すると、先ほどまで自分が座っていた場所に戻る。
「ふむ。どこの人間だ?"唐木会"か?それとも”柊”か?」
「さて、な。これから死ぬ奴に名乗る必要もないさ、ベニキス王国防衛大臣のロス=H=ベニキス」
この国の防衛大臣であるロスは自分の剣を構え、そして盾を呼び出してそれも装備する。グラウスもその背後から起き上がり、その隣に並び立つ。
「グラウス。俺が前に出よう。お前は隙を見て奴を殺せ」
「はっ」
「この国の防衛大臣とこの国ナンバーツーが相手とは・・・恐ろしくて涙が出るな」
そう言ったソラは拳を握り、そして構える。【換装】で自分の脚にもレギンスを装備させる。そして自身の流派である無天流の構えをとり、そこからいくらでも技を繰り出せるようにする。
その構えを見て油断なく構える二人。そんな二人をあざ笑うようにソラが二人の間に現れる。
「雷魔術【迅雷】」
「なにッ!?」
一瞬で移動したソラに気が付いたのは二人の身体に拳が叩き込まれてからだった。ソラは一瞬の内に二人の身体に拳を打ち込み、二人の陣形を崩す。グラウスはすぐに立て直し、剣を構えてソラ目掛けて振りぬく。
しかし【流天】によって起動をずらしたソラは未だに体勢が崩れているロスを無視してグラウスのほうに踏み込む。
「来るかッ」
「無天流【撃天】」
放たれるのは鋭い拳の一撃。その一撃はグラウスの身体の中心に吸い込まれるように叩き込まれるが、間にグラウスの剣が割り込み、その一撃を防ぐ。今度は吹き飛ばされることなく、その剣で拳を受け止めたグラウスだったが、ソラは防がれたことに何の感慨を浮かべることなく二度目の拳を叩き込む。
次も剣で受け止めるが、体勢が崩れてしまう。しかし三度目の攻撃は放たれなかった。なぜならロスが背後から盾で体当たりをしたからである。
体当たりに気が付いていたソラはそれを受け止めるように回し蹴りを放ち、体当たりを受け止める。その蹴りにも【撃天】の武技が込められており、鋭い一撃が盾越しにロスに伝わる。
ロスは何とか踏ん張ることでその一撃を受け止めることに成功するが、次の攻撃を捌ききることができなかった。
「無天流【烈天】」
凄まじい連続の拳撃が放たれる。そのすべてが盾に叩き込まれ、その衝撃に耐えきれなくなった盾が粉々に砕け散る。砕け散った後も攻撃は続き、ソラの攻撃はロスの身体にいくつも突き刺さり、殴り飛ばす。
壁にそのまま殴り飛ばされたロスだったが、追撃させまいとグラウスがソラに襲い掛かる。
ソラは振り下ろされる一撃を何と指で受け止めてしまい、グラウスとその場で受け止めたまま固まってしまう。
「な、に!?」
「一剣流は太刀筋が読みやすい。だからこうやって受け止められるのさ」
「貴様のは極端すぎるだろう・・・」
あきれるグラウスに仮面の下で笑みを浮かべたソラは、魔力を右腕にため込み、それを解き放つ。
無天流【穿天】。魔力密度を高め、そして突きの瞬間魔力を高速回転することで貫通力を高め、相手を貫く技である。それによって甲冑ごと心臓を穿たれたグラウスは、血を吐きながらその場に倒れ込む。
それを見ていたロスはこの場から逃走するべきだとすぐに判断し、痛む体を引き摺って部屋から出ようとする。
しかしそれよりも早くソラの腕が動き、どうやったのかわからないが、ロスの腕が斬り飛ばされる。ロスが痛みに声を上げる中、通信が入ったソラは耳に取り付けた通信端末をタッチする。
「もしもし」
『あ、もしもーし。そっちどう?こっちは鍵回収して今さっき奴隷解放したよー。多分めっちゃ騒ぎになってんだけど気づいてる?』
「あぁ悪い。遮音結界でなんも聞こえなかったわ」
腕を斬り飛ばされても逃げようとしているロスの背中を足で踏み、逃がさないようにその場に縫い留める。
『それでどうなの?見つけたの?』
「所長はすでに殺害済み。あとはこの国の防衛大臣を捕まえた。ボーナス報酬でも出るのか?」
『え、まじ?それこの国に革命起こせるチャンスじゃん。確か反乱軍が組織されてんだよね今。そこにそいつ突き出したらこの国かなり荒れるからちょうどいいかも』
「荒れた隙にお前らが進出して勢力を増やすわけか」
『なんのことだか。とりあえず防衛大臣は縛って持ってきて。あとで反乱軍に投げとくから』
言われるまでもなくソラは電流を流して意識を奪い、斬り飛ばしたことで未だに血が流れ続けている個所に止血を施すと、空間魔術で拡張した倉庫の中に入れていたロープを取り出し、それでロスを縛り上げていた。全てを終えたソラは周辺に張っていた遮音結界を解除する。
すると怒号が聞こえ始め、鉄と鉄を弾く音や爆音が鳴り響く。ソラは奴隷たちが暴れているのだろうと思い、扉の外に出ると扉の前に駆け付けていた警備兵とばったり出会う。
「なん・・・貴様!?何者だ!?」
「敵襲!!てk」
「無天流【烈天】」
構えるよりも早くソラの連続攻撃が放たれ、警備兵を殴り倒す。一瞬で制圧された警備兵。すぐさま別の警備兵が来るのを察知し、ソラはロスを引き摺りつつクロエに合流しようとする。
クロエとはすぐに合流できたため、二人はすぐさま奴隷売買施設を脱出し、夜の街の中に消えるのだった。




