Ex:探し物ですか?
「アレク、大丈夫かな……」
アレクと別れ、私は一人で薄暗い城の地下を捜索する。
アズリエルが注意を引き、その隙をついてアレクが王にコンタクトを取る。アレクの説得が上手くいかなかった場合は、騎士団を撒いたアズリエルが王とアレクの元へ向かい、アレクが仲裁する形をとることで王と魔王の間に和平を結ばせる。魔王との和平が成立すればアレクとメメント様の指名手配は解除され、めでたしめでたし。というのが今回のメインとなる作戦だった。
「無茶してないといいけど……」
不安要素はたくさんある。この作戦だって上手くいくかはわからないけれど、そもそも国を相手にしているから多少の無理はやむを得ないと思う。だがそれよりも気になるのは、アレクのことだ。聞けば魔王領での戦いではそれなりのケガをしたらしい。
「なにが、危ないと思ったらすぐに逃げろ、よ」
私は彼に頼りないと思われているのだろうか。アレクは私に向かって、気をつけろ、とか心配ない、なんてすました顔で言うけれど、私に言わせれば彼の方がずっと危なっかしい感じがする。それはかつて一緒にパーティを組んでいたころからそうだった。余裕ぶった態度や、誤解されやすい言動がそう感じさせるのかもしれない。だが、実際にはアレクは強い。そして私は、その点に関して疑っていない。彼のふるまいは私をちょっぴり不安にさせて、けれどいつものすました顔は大丈夫なんだと安心させてくれる。だからこそ、こんなにも彼に心惹かれているのかもしれない。
「探し物ですか?」
「誰!?」
不意にかかる声に驚いて、私は声のした方へ向けて杖を構えた。暗がりから現れたのは、ドレスを着た大人の女性だった。
「私はフェルレインよ、可憐な侵入者さん。その白い法衣……ジャスミンさんね?」
「……聞いたことがあります。確かギルバート王の妹君でしたか。そんな方が護衛もなしにこんなところで何をしているのですか?」
「腹違いの、ね。私の目的は……そうね。きっと、あなたと同じところにあります」
まるで私の目的を知っているかのような口ぶりだ。すべてを見透かすような態度が、どうも気に入らない。眉根を寄せて、杖を握る手に力をこめる。
「殿下。私の目的は、あなたを人質にすれば簡単に達成できるかもしれません」
「まあ怖い。では行きましょうか。こちらです」
私は世間知らずのお姫様を少し脅かしたつもりだったのに、軽くあしらわれてしまう。その上、彼女は侵入者である私を先導して案内までしようとする。私は面食らった。
「え? どこへですか?」
「どこって……私を人質にして、最近出回っている薬物製造の証拠を突き止めるのでしょう? それに遺物を複製する施設も破壊するんですよね? 案内しますから着いてきてください」
「ちょ、ちょっと待ってください。どうして……」
驚きを隠しきれなかった。どうしてこの人は私の目的を全て知っているのだろう。王国に内通者がいたのであれば、さすがに作戦の前には教えてくれるはず。では彼女自身の判断による裏切りか、あるいは罠か。
「私は人の心が読めるのですよ。読心魔法です。だからですかね? この年まで独身で……」
フェルレインは、天気の話でもするようにあっさりと自分の魔法をカミングアウトした。むしろ独り身であるという話をする顔の方が深刻そうに見える。
「冗談を言ってる場合ではないです! どうして協力するなんて……」
「だって、嫌じゃないですか。私の愛する国に薬物なんかが広まったら。遺物の複製にしても、どうやって作るか国民に知れたら暴動が起きますよ。私に兄を止める力はありませんけど、今ならどさくさに紛れてまとめて処分できると思いまして」
国のことを考えているのは伝わってきたが、王族にもかかわらずかなり軽い感じの言い回しをする人だ。ちょっと私の苦手なタイプかもしれない。ついため息が出た。
「はあ……」
「想い人に託されたのでしょう? 早く行きますよ」
「へ? な、何を言っているのですか!」
「大きな声を出すと気付かれますよ。さ、早く済ませてアレクさんに褒めてもらいましょう」
ぐいぐい引っ張って私を連れて行こうとするフェルレイン。心が読める魔法のせいか、終始この人のペースに振り回されている。
「あ、ちょっと……!」
そのまま奥の部屋のドアを開け、ずかずか研究室のような部屋に入っていく。あまりのスピード感に止める間もなかった。入口の近くにいた男がフェルレインに話しかけてくる。
「フェルレイン様。どうしたんです?」
「ダリウス。この研究所にいては危険です。お前たちは早くお逃げなさい」
「何言ってんですか。魔王が来たのは聞いてますが、ここでやってるのはそんなときのための研究ですぜ」
研究員たちに手を止めるそぶりは見られないし、フェルレインは全く相手にされていない。いつもこんな調子で周りの人たちを振り回しているんだろうなと想像してしまった。
「魔王ではなく、このお嬢さんが爆破します」
……え!?




