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これで俺が勇者だ!

「勝った、のか……。いや……」


 ザカライアのダメージはどんなに少なく見積もっても致命傷だ。俺はそんな死にかけの男に対し、細心の注意を払ってゆっくりと近づく。


「すみません、ザカライアさん」


 俺は小声で呟き、ザカライアの背中にある遺物に手を伸ばしかけて、止める。ミストルテインを奪えば、ザカライアは死ぬだろう。その事実に俺は震えた。モンスターを殺すのに抵抗はない。だが、人に対してはそうではなかった。少なくとも、剣で殺めるのは。俺はそんな迷いを振り払うように首を振る。もしザカライアがミストルテインを手に復活したら、俺の手に負えるかわからない。そして俺はメメント・モリを守るためにここへ来た。みんなの居場所と俺の潔癖さ、天秤にかけるまでもないはずだ。


「!?」


 俺が再び伸ばした手は、ミストルテインに届く前にザカライアに掴まる。それとほぼ同時にミストルテインが強く輝きだした。


「げほっ……させない。命に、代えても……」


 俺はザカライアの手を振り払い、距離を取る。俺の手を握ったザカライアの握力は弱々しかったが、掴まれた感覚が、今もなお怨念のように残っている。


「雷魔法【絶大】スパークジェイル」


 ザカライアを中心とした雷の障壁を張る。いつか邪神を葬ったボルトストリーマなら倒せた可能性は高い。しかし城を半分ほど消し飛ばすことになり、それでもし王を殺してしまっては作戦が台無しだ。このスパークジェイルは閉じ込めた対象が触れると発動するように設定してある。これなら周囲に被害が出ないはずだ。


「今のうちに王を探すか」

「サセナイ……!」


 ザカライアはゆらりと立ち上がり、背中の剣を抜いた。俺は寒気がして、相手は檻の中だというのに無意識に剣を構えてしまっていた。


「ォォォォオオオオオオッ!!!」


 ザカライアが前進して雷の檻に触れる。その瞬間、空間が裂けたかのような凄まじい音とともにスパークジェイルが発動した。しかしザカライアはひるむことはなく、雄叫びをあげながら檻をこじ開けようと力を込める。その手は崩壊と再生を絶え間なく繰り返していた。


「よせ! 死ぬぞ!」

「ガァッ!!!」


 スパークジェイルが破られてしまった。初めて使った形式とはいえ絶大クラスの魔法を身一つで。あまりのタフさに俺は戦慄した。


「傷が……」


 檻を破り、足を引きずりながらこちらへ向かってくるザカライアを見ると、傷の多くはすでに治癒が始まっている。それは村に来た騎士たちとは比較にならない回復スピードだった。ザカライアの血走った目が、ぎょろりとこちらを捉える。


「これがオリジナル遺物の力か……」


 不死身とも思える力を与える聖剣ミストルテイン。恐ろしくなった俺は、再び雷迅剣で斬りかかる。足のダメージが残っているなら再びハメることができるはずだ。


「グウウウウウ……!」


 ザカライアは俺の一撃目をミストルテインで受け止める。雷撃がザカライアを襲い、俺はその後の痺れた隙を狙ったはずだった。しかしザカライアは痛みに低く呻きながらも二撃目に反応し、これも防いだ。


「遺物の回復力で強引に受けるのか……っ!」


 もう仕留めるにはボルトストリーマしかない。俺はいったん距離を取り、震える手で狙いを定める。


「雷魔法【絶大】ボルトスト――」


 魔法を発動することはできなかった。代わりに口から温かいものが溢れる。さらに腹部にも違和感を覚えて下を見る。俺の腹には、背中から深々と剣が突き刺さっていた。不覚だ。ザカライアに集中していて、背後からの刺客に気付かないなんて。


 笑い声が聞こえる。


「あははははは! アレクをやった! これで俺が勇者だ!」


 剣が引き抜かれ、俺は体を支えきれずに膝をつく。かすむ目が捉えた刺客は、勝ち誇った顔をしたジョー・ダイエンだった。


「ジョー……お前……」


 言葉は血の塊に飲まれ、声にならない。腹からどんどん血が抜け出ていき、体は段々と寒くなった。


 そうだ、ジャスミンを呼ぼう。


 おかしい。通信用のエレメントがあったはずだが、体が動かない。



 思考も鈍っていく。すべてが黒く塗り潰される。



「あっはっはっはっは――」




 薄れゆく意識の中で、ジョーの笑い声だけが不快に響いていた。

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