舐めるなよ!
「雷魔法【大】暴雷ッ!」
前方に六つの閃光が走る。それはザカライアの脇をすり抜けて後方の壁を穿った。ザカライアは一瞬だけぴくりと眉を吊り上げたが、すぐに俺の懐に踏み込んで剣を振るう。白刃が俺の左肩を削いだ。痛みに顔が歪む。
「っ……!」
「お粗末だな。代償は小さくないぞ」
この男は少しでも隙を見せれば容赦なく攻め立ててくる。失敗が許される回数は多くない。有効そうな手立てを考えて、次の手を打たなければ。当たらなかった場合のリスクを文字通り痛感したが、後悔している暇はなさそうだ。
「考えるのは良いことだが、対応しきれるかな?」
「くっ……!」
そして隙はすでに、彼の手によって俺の肩に刻まれてしまった。防ぐのも手いっぱいだ。だが一つ思いついた。狙いをつけずに当てる方法。彼が絶対にいる居場所は、剣の範囲内。
「雷魔法【大】爆雷ッ!」
鍔迫り合いの状態から、俺は魔法を発動した。これまでのように手先で狙いをつけず、全身から放電する。それは間合いにいたザカライアを巻き込んだ。
「予備動作無しで、魔法を……っ」
「自分を……中心とした、全方位型なら。……構える必要は、ないでしょう?」
「しかし不慣れなようだな。魔法を放った君自身もダメージを負っている」
ザカライアは多少ひるんだが、それでも俺から大きく距離を取ることはしない。同じタイミングで俺も痺れていたのだが、なんとかザカライアに斬り殺されずに済んだ。
「ええ、それで目が覚めました。感謝します、ザカライアさん」
「感謝だと? ずいぶん余裕だな!」
余裕なんてなかった。痺れの感触が残ったままザカライアの剣を受け、躱す。受けるたび、動くたびに感じるびりびりとした刺激が、今は心地よく思えた。
「俺は……まだまだ強くなれる! 雷魔法【大】――」
剣に雷を流して振るう。ザカライアの剣とぶつかった瞬間、雷が弾けてザカライアを襲う。
「ぐ……」
「雷迅剣、ってところか」
ガード不可の剣戟。自分の新しい魔法に確かな手ごたえを感じる。歯をくいしばって耐えたザカライアは、心なしか笑っているように見えた。
「多彩だな。将来有望じゃないか」
「そう思うなら通してもらえませんか! 雷魔法【極大】雷迅剣!」
「だがまだまだ、まだまだだ!」
ザカライアは雷を纏った剣を受けずに躱し、彼の剣技は巧みなフェイントも交えて受け太刀さえ許されない。ほとんど地面を転がりまわっているような始末だった。そして俺が剣を振るうたび、当たらずとも雷の威力は弱まっていく。三度ほど空を切った頃には、ほとんど効果は失われていた。
「思ったより拡散が早い……か」
「付け焼き刃で倒せる私ではないぞ?」
ザカライアの指摘は、自分でよくわかっていた。負けられない戦い、ミスを許されない状況に、初めての魔法。俺は最大出力で撃つのをためらっている。かといって加減して様子見すれば、雷迅剣のように対応されてしまう。考えろ。
「これなら……どうだ? 雷魔法【極大】――」
「また雷迅剣だと? 舐めるなよ!」
再度、剣に魔力を集める。ザカライアはそれと同時と言っていいほどの反応速度で、魔法の発動前を狙って斬りかかってくる。俺はその突進を剣で受け止める。剣に込めることができた魔力はわずか。痺れはないが、雷撃が目的ではない。これで十分だ。
「雷光剣!」
俺の剣が落雷を受けたように白く輝く。
「な……しまった! ぐああああっ……!」
剣が放つ光を直視したザカライアは目を覆い、よろめいて後退する。初めて見せた大きな隙。すかさず雷迅剣で攻撃する。一撃で仕留めるつもりだったが、さすがと言うべきか。ザカライアはギリギリのところで体を捻り、致命傷を避けた。
「この、程度では……ぐうっ……!?」
剣の一撃に耐えたザカライアだったが、直後に雷迅剣の痺れが襲う。込めた魔力が増えた分、先ほどより痺れの時間も増えているようだった。
「雷魔法【極大】雷迅連斬!」
辛うじて急所を避けるザカライアだったが、雷迅剣は当たりさえすれば痺れてしまう。俺はその隙に再び雷の剣で斬りかかる。痺れているザカライアは避けきれず……あとは彼が倒れるまで雷迅剣を繰り返すだけ。これは……いわゆるハメ技だ。
「か、は……」
血だまりのできた床に、ようやくザカライアが伏せた。




