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では、やってみせてくれ!

「アズリエルさん、魔王が様になってますね……」

「まあ、あいつは本物の魔王だからな……」


 足音を殺し、声を潜めて進む。俺たちはアズリエルが注意を引いている間に城への侵入していた。あまりにもあっけなく入り込めてしてしまったので、俺はやや拍子抜けしていた。


「地下はそっちの道だ。気をつけてな」

「アレクこそ。……無理しないでね」

「心配ない。ジャスミンこそ、危ないと思ったらすぐに逃げろ」


 どこか不満げなジャスミンと別れたのは潜入後すぐの事だった。一人になった俺はひとまず謁見の間を目指す。避難が速やかに行われたのか、城の中は人の気配がほとんどしない。騎士さえいないのは不気味だった。以前メメントと訪れた時とは全く別の場所のようにさえ感じる。周囲を警戒しながら進むと、人影が一つ見える。


「アレク殿、やはり君か」

「ザカライアさん……」


 王を探す途中、謁見の間の扉の前でザカライアが待ち構えていた。魔王の方へ向かうでもなく、王を護るでもなく。彼はただじっとこちらを見つめ、静かに問いかけてきた。それなりに距離はあったが、彼の堂々とした声は静まり返った城内によく響いた。


「我が王をお探しかな?」

「ええ。俺とメメントの指名手配を解除してほしくて、そのお願いに参りました」


 できるだけ自然な笑みを浮かべ、こちらの要求を伝える。ザカライアは表情を崩さず、ただ肩をすくめるだけだ。


「悪いが立て込んでいてね。知ってると思うが客を待たせているんだ。あるいは君が彼女の仲間だということであれば、君は私の方でおもてなしさせてもらうが?」

「いえ、お構いなく。騎士団長殿のお手を煩わせることはしません。こちらから王のもとへ伺いますので」

「王を護るのが騎士団長である私の務めだ。話は伝えておくから、引き返しなさい」


 少しずつ語気が強まってくるザカライアの言葉に、俺は身構えつつも再び望みを伝えた。


「出兵を止め、大賢者と話し合いの場を設けていただける、と?」

「伝えはするが、それは私の一存ではできないことだ」

「では俺も退くわけにはいきません」

「……残念だ」


 ザカライアはゆっくりと剣を抜く。二本持っていたが、抜いたのは遺物ではない方だ。様子見かポリシーか、何にせよ遺物を相手にしないでいいと思えば多少は気が楽になる。


「遺物は使わないんですか?」

「心配してくれるのか? やはり使い慣れた剣の方がしっくりくるのでね。それに、この遺物は私の護衛対象でもある」

「剣を使う戦いになると? 雷魔法……」

「遅いッ!」


 俺が魔法を放つ前に、ザカライアは一瞬で間合いを詰めて斬りかかってきた。想定以上の速さに、なんとか受けたもののバランスを崩してしまった。ザカライアの動きはまるで川の流れのように自然だった。その動きの滑らかさとは裏腹に、振るわれる剣には激流と言えるほどの重みを感じた。


「くそっ……!」


 俺は小さく悪態をつき、間合いを取ろうと跳び退く。しかしザカライアはすぐに近づいてきて剣を振るう。まるで見えない糸でつながっているかのように。こちらの動きを読み切っているようなスムーズな攻撃に、魔法を放つ体勢を取ることができない。


「噂に聞く勇者の力とはその程度か?」


 仕方なく剣で応戦するが、ザカライアは俺の攻撃を涼しい顔で受け流していく。逆に俺はザカライアの鋭い一撃を防ぐのがやっとだ。


「ぐ……どうして……!」


 ポテンシャルでは明らかに俺が勝るはずだ。こちらには身体強化のスキルがあり、身体能力を補強するための魔力も人より多いはずだ。それなのに俺の方がどんどん壁際に押されていって、魔法など撃つ暇もない。彼の魔法か、遺物による生命力強化か。そのどちらかを疑ったが、ザカライアの答えは俺の想像とは違っていた。


「簡単なこと。私と君では剣術のレベルと……潜り抜けた修羅場の数が違うのだ!」


 反論できなかった。彼にこそ劣っているだろうが、そこまで自分の腕が悪いわけではないはずだ。俺はパーティでたった一人、魔法無しで前衛を務めていたのだから。それは身体能力だけでカバーできる問題ではない。視野、反応、判断、体力などそれらすべての総合力だ。しかし、プロバビロンをめぐる戦いのときに感じたわずかな焦りが、ここにきて現実として突きつけられる。俺はこれまで同格の、あるいは格上の相手と戦ったことがほとんどなかった。


「守ってばかりでは勝てないぞ?」

「あなたを、足止めできれば、十分では?」

「強がるな。大賢者殿が守りを捨ててまで城に来るとは思えん。魔王とアレク殿が倒れればこちらの勝利は揺るがない」

「魔王が、倒れる? 騎士団長の、あなた抜きで、ですか?」

「君はメメント・モリで王国の新たな力を見たと思うが」


 苦し紛れの揺さぶりも通じないどころか、こちらの不安要素を言い当てられてしまう。全て見透かされていた。俺は歯を食いしばり精一杯強がってみせる。首元に迫る剣を力で押し戻した。


「俺が……あなたを倒せば、問題ない……!」

「ほう。では、やってみせてくれ!」


 この状況を打開する糸口を見つけなくてはならない。極端なインファイト戦法によって魔法は封じられ、剣での戦いはこちらが不利。勝負は俺が致命的な傷を負う前に、魔法を使う隙を作れるかどうかにかかっていた。

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