少し遊んでやろう
「メメント、確認するぞ。王国騎士団はもう王都を出たんだよな?」
「ああ、お主らが王都に着いたのと入れ違いにな。あの規模じゃ、引き返すにも最低二日はかかるじゃろう」
手のりサイズのエレメントからメメントの返事が聞こえる。俺、ジャスミン、それに合流したアズリエルの三人は王都まで来ていた。偽装魔法を使えば街に入るのも宿を取るのも簡単だった。
「しかし、アレクがマーリンに遺物を渡すなどと言い出したときは驚いたぞ」
「マーリンを信じると言っただろう。万が一の時は俺が責任を取る。それに、お前より遺物の扱いは上手そうだしな」
「ま、まあ古今東西の武術を極めたわしでも、遺物を扱うのは初めてじゃったからな……」
もう少しからかってやっても良かったが、お互いあまりのんびりしている時間はない。もたもたしていればメメント・モリが危険に晒されてしまう。俺は大人しく話を進めた。
「魔王軍の連中はどうだ?」
「居心地悪そうにしているのもおるがの。イスラフィールが面倒を見てくれておるから心配はないじゃろ」
一足遅れてやってきたアズリエルがメメント・モリ防衛のために連れてきた協力者たち。戦力になるにはなるのだが、中には駐留するのに抵抗のある者もいるとのことだった。つい先日、自分たちが襲撃したばかりの村で厄介になるのは、やはり内心は複雑だろう。それがたとえ村側の要望で、村の防衛のためとはいえ。
「そうか。まあ、なんだ。仲良くやれよ」
「お前さんこそ、我が弟子をよろしくな。アズリエルとも仲良くせえよ」
「はいはい。じゃあ気をつけろよ」
「お主もな、アレク」
エレメントが環境音も拾わなくなったことで通信が切れたことを確認する。あちらからは聞こえているかもしれないが、それは気にしても仕方がないことだ。メメントとの会話を終えた俺は、二人の元に戻った。
「準備できたか?」
「ええ。行きましょう」
ジャスミンは一つ息を吐いて立ち上がる。そんな彼女の周囲にはいくつものエレメントが整列していた。ジャスミンによって生成されたエレメントたちは、メメントのものよりも透き通っている。そのせいか、中心にいたジャスミンはさながら水面に佇む泉の精のようで、それだけで絵になる光景だった。俺は目を奪われそうになったが、強引に視線を切ってもう一人に声をかける。
「早いな。アズリエルは?」
「問題ない。さっさと終わらせよう」
左手に籠手を装着したアズリエルが息巻いている。二人とも気合は十分で、俺の次の言葉を待っていた。俺は軽くうなずいて号令を出す。
「行くぞ!」
さあ、作戦開始だ。
「我こそは魔王アズリエル! 人族の王よ……裁きの刻だ!」
城のバルコニーに降り立ち、魔王のマントを羽織ったアズリエルは大声で名乗りを上げる。騒ぎを聞きつけた騎士達が餌に群がるネズミのように続々と集まっていった。
「我を相手に揃えた駒はたったのこれだけか?」
「狼狽えるな! 相手は一人、魔王を討ち取る好機だぞ! 対空戦闘の準備だ!」
不敵に嗤う魔王と戦うべく、騎士団は慌ただしく隊列を組んで攻撃を始めている。アズリエルは堂々とした態度で迎えうった。
「少し遊んでやろう。人族の力を見せてみよ」
アズリエルは上空を飛び、矢や魔法をあざ笑うかのように躱していく。
「そんなものか? こちらからも行くぞ。偽装魔法【小】裏目」
「う、うわああああああ! く、来るな!」
「どうした!?」
アズリエルの羽一本ほどの大きさをしたの魔力の矢を飛ばした。それに当たった騎士は正気を失っていく。ある者はめちゃくちゃに剣を振り回し始め、ある者は悲鳴を上げて追い立てられるように走り回る。何人かがそのような状態に陥ると、騎士たちの間には目に見えて動揺が走った。
「ははははは! 踊れ踊れ!」
「怯むな! まだ被害はない!」
魔王の高笑いが響く。
・一話を短めにしてみました。
・回想編は迷った末カットしました。もし要望あればキリのいいところで差し込むかもしれません。




