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ぶー

「全員揃っておるな。それでは状況の擦り合わせをしようかの」


 メメント・モリへ襲撃に来た騎士たちの捕縛はメメントのエレメントに任せ、会議を始めることにする。俺たちが宿にしている建物の一番大きい部屋に入ると、俺とメメント以外のメンバーは全員集まっていた。特に打ち合わせ等はしなかったが、おそらくはエレメントを通じて連絡がいっていたのだろう。会議はイスラフィールの紹介に始まり、魔族領で起こったことを簡単に伝えた。


「で、ルビーに質問なんだが。リオレッドというのは……」

「はい。アタシの兄です」


 予感が当たって、少しだけ憂鬱になる。あのシスコンが村に来たら騒がしくなるだろうな。そうは思いつつもルビーの兄というのであれば、できるだけ嫌な顔は見せずに流すことにした。


「妙なところで縁があるものだな」

「すみません、お兄ちゃんが迷惑をかけてしまったみたいで……」


 俯いてしゅんとするルビー。俺のナーバスな気分を読み取ったというよりは、単に迷惑をかけたことに対してだろう。毎度暴走する兄の行いに、妹として謝罪していた姿が目に浮かんだ。


「ルビーが気にすることはない。知り合いなら村の防衛に参加してもらうとするか」

「アズのことですから、ブラックバレーを守るためにもリオレッドさんは連れてくると思いますよ」


 イスラフィールのおそらく当たっているであろう予測に苦笑いで返す。ルビーも困ったように笑った。


「アレク様、イスラフィールさん……」

「さーて、次はこちらじゃ。といっても、あまり話すことはないがの。……つい先刻までは」


 俺が不在の間の戦闘は、偵察を追い払った以外では、今回の一戦だけだったようだ。平和で何よりだが、肝心のこの一戦には大きな問題があったように思える。メメントも同じ考えらしく、その表情からは悔しさをにじませていた。


「じゃがこの戦いでわかったことは多い。共有しておくぞ」

「頼む」


 そこからはメメントによる戦闘の反省点が挙げられる。遺物は強力だが、それ故に自分の戦闘スタイルが曲がってしまったらしい。仮に、百の自分の力と二百の遺物の力を持っていたとする。上手く使えば三百以上の力が出せるはずだが、メメントは遺物を使っての戦いは初陣であったために持て余した。結局は合算できずに不慣れな二百の方だけ使って戦ったせいで劣勢に陥ったとのことだった。


「遺物があれば大丈夫だと思ったが、そんな落とし穴があったのか」

「誤算はもう一つある」

「六十本のミストルテイン、だな」


 メメントの戦力が二百だったとしても、敵が五や十なら負けるはずはなかったのだ。


「ミストルテインのレプリカ……仮に複製遺物としようか。あれの戦力はどのくらいだ?」

「ミストルテインは性質を聞いた限りどちらかといえばディフェンシブな遺物じゃ。本来は弱い者が持ってもあまり脅威ではない。じゃがあの本数と騎士団連中の連携によって化けた。その強さは、たった三十人でわしらとほぼ互角じゃった」


 遺物持ちのメメント、メメントを除けば最高級の魔法使いジャスミン、おそらく俺と同じ雷魔法使いのマーリンと、主にジャスミンの前衛を務めるルビー。俺がこの四人を相手に戦うことを想像してみた。……結論、できれば対戦したくない。そんな手合いと遠征してきた一般兵が三十人ぽっちで互角。そう考えると、王国の戦力は並大抵のものではない。そして、俺はそんな国に追われているのだ。自然と渋い顔になる。


「それは……メメント・モリどころか魔族領を含めても、あっという間に王国に滅ぼされるぞ」

「そのはずなんじゃが、今のところそうなっていない。なぜじゃろうな?」

「余裕で勝てると思ったんでしょー?」


 全体的に重めな空気の中、一人ルビーが鼻を鳴らす。あいつらは少なくともお前には勝っていたと思うのだが。しかしながら、ルビーの切り替えの早さには驚かされる。さっきまであんなにも小さくなっていたというのに。いつもの光景が戻ってきたような気がして、肩の力が自然と抜けた。


「それもあるだろう。他に考えられるのは……」

「今回は実戦でのデータ収集が目的だったとか、かのう?」

「重要参考人程度ではあまり多くの兵を出せない、という線も考えられますね」

「遺物を複製するとなると、莫大なコストがかかるのではないでしょうか」


 ルビーが一番に発言して空気が軽くなったのか、色々な意見が出た。とはいえ、どうしても可能性の域を出ない。王国の正確な戦力がわからないのでいったん保留とし、エレメントでの情報収集を続けつつ、アズリエル達の到着を待つことになった。


「メメント、王国内の様子はどうだ?」


 俺はエレメントを使っての情報収集の成果を尋ねる。王国から逃げる道すがらばらまいたエレメントたちが仕事をしていれば、多少は状況がわかるはずだ。


「遺物絡みの機密情報は持っとらんぞ?」

「わかってる。王国の動きの方だ」

「まず、わしらの手配は取り下げられておらん。あと、これは最新情報じゃが、わしらが騎士団を倒したのも知れ渡っているようじゃ。大部隊を動かす準備に入っておるような慌ただしさじゃの」

「えー、はやくない?」


 口を尖らせるルビーの言い分は確かにそうだ。ついさっき撃退したばかりにも関わらずもう連絡が行き渡っているとは。撃退しても思ったより状況が好転していないことに、俺は少し嫌気がさしてきた。


「アレクさんの活躍でもう魔法が使えますから。きっと彼らの後方に連絡係がいたのでしょう」


 イスラフィールの言に、なるほどと頷く。パーティ単位ではほとんどないが、軍のように大規模なものは伝達系の魔法を使って行うことが多いと聞いたことがある。そういう魔法に乏しい魔王軍は翼魔族がその役割を担っていたのかもしれない。


「問題はどうやって王国と和解するかだ。王を始末するだけなら偽装魔法を使えば話は簡単なんだが……」

「殴り込みじゃダメってこと?」


 きょとんと首をかしげるルビー。ダメです。


「方法がそれしかないならやむを得ないが、穏便に済ませないとまた村が危ないだろ?」


 王が討たれても王国がメメント・モリにとって良い方に向かうとは限らない。俺たちが代わりに治めるにしても、何かしらの大義名分がなければ民は誰も従わないだろう。それに、そもそも俺は別に国を治めたいわけでもない。


「わしとの約定を無視したとか、無実の罪で指名手配してしまったとか、そういうあちら側の非を王に認めさせるのが一番じゃな」


 村の防衛が第一という考えのメメントはやはり俺に同意してきた。ジャスミンはつまらなさそうに反論する。


「しかし先に武力を行使してきたのは王国ですよ」

「事実はそうでも、どうせ魔王を匿ったとか難癖付けて正当化してるだろうな」

「うーん……?」


 しばらくの沈黙の後、俺は腹をくくって切り出した。


「やはり王国に行かないと、だな。大部隊が村に向かってくるなら、守るよりも手薄になった城を攻める方が早い」

「アレク、さっきと言ってることが違わない? できれば穏便に済ませるって」


 ジャスミンが呆れているが、そのくらいは俺もわかっている。


「できないなら仕方ないだろ? 王を殺さずにうまく説得できれば少しは状況も変わるだろう」


 わざわざ殺さずに、と前置きして少し含みを持たせた。俺の真意をルビー以外はなんとなく察しているようだ。説得の方法は一つではない。


「本当かのう……?」


 事実上の村を囮にする宣言に、メメントは不安そうに眉をしかめている。


「気持ちはわかるが守りに入ればジリ貧だぞ。誤解だと嘯く暇もなくなる」

「うむ……。そうじゃ、イスラフィールとやら。偽装魔法で村を隠したりはできんのか?」


 期待に満ちたメメントの視線を向けられたイスラフィールは、申し訳なさそうに弱弱しく笑った。


「メメントさん、偽装魔法はそんなに便利なものではないのです。残念ですがご期待には応えられません」

「ぐぬぬ……」


 やむを得ないとは思いつつも、メメントは納得しきれないようだ。大部隊が攻め込んでくるとなれば、村が今回の襲撃以上の危険にさらされる恐れがある。


「攻めるのは俺が行く。何日かすれば魔王軍から援軍が来るはずだ。メメントはそいつらと協力して村を守ればいい。一戦交えたあとだし、細かい作戦は後日にしよう。以上だが、他に何かあるか?」

「アレク様、あたしも行っていい?」


 すかさず手を挙げたルビーに、俺は少し考えてから首を横に振った。


「ルビーは村に残った方がいい。俺が猫魔族のお前と一緒に行けば、王国からはメメント・モリと魔王軍が本当に手を組んだように見えてしまう」

「ぶー」


 俺たちの中には、もっといい解決方法があるかもしれないという思いと、他にいい方法がないという思いがせめぎ合っていた。不満げなルビーをはじめ、会議は若干の消化不良感を残して終わった。

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