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これが聖剣……?

俺は内心かなり驚いていた。俺たちが村の上空に着いたとき、予想に反してメメント・モリ側が劣勢だったからだ。イスラフィールには各メンバーを村の近くまで交代ように頼み、俺は戦況的に一番まずそうなルビーのもとへ雷魔法を放ちながら落下したのだった。


「下がってろ、巻き込まれるぞ」

「はい!」


 俺は背中越しに見えるルビーに指示を出す。彼女は元気よく返事をし、ジャスミンを連れて村へ後退した。俺を見る目がやけに輝いていたように感じたのは気のせいではないと思う。


「雷魔法【極大】ショックベール」


 イスラフィールがマーリンを連れて下がったのを確認したあと、俺より両手に魔力をこめて左右に打ち出す。正門前の広場には敵の進軍を防ぐべくそびえ立つ、雷の壁が出現した。近くにいた騎士は痺れて弾かれるか、攻撃を仕掛けて弾かれるか、様子を見るかの三択いずれかだ。もともとは冒険者をしているときに使おうと思っていた守りの魔法だが、パーティで使えなかったことで今回遅まきのデビューとなった。その隙にイスラフィールがメメントを抱えてさらに後退し、魔法に気付いたメメントが遺物の力で壁の後ろ側へ移動する。


「雷魔法【絶大】雷伝」

「ぐああああっ!」


 前方に敵しかいないことを確認した後は簡単、屠るだけだ。近くにいた騎士が剣を振るより早く魔法を撃ち込む。撃たれた本人が悲鳴にも似た声を上げたのはもちろんだが、この雷は周囲の騎士にも伝わってダメージを与えていく。雷とともに悲鳴も連鎖していったが、意外にも倒れた者はいない。俺は首をかしげる。


「思ったより威力が低いな……? いや、あの鎧が軽減しているのか」

「ぐ、貴様!」


 分析しながら彼らを見回していると、撃ち込んだ騎士が少しよろめきながらもこちらを睨んでいる。少しだけイラついたので遠慮なく攻撃することにした。


「雷伝、雷伝、雷伝、雷伝」

「ああああああっ!」


 何度か撃ち込むと騎士団は次々に倒れていった。魔王軍に撃ったときは事前に雷雲を仕込んでおいたのだが、今回は素で撃ち込んだのと王国の対魔法鎧だかのせいで、絶大クラスでも一撃とはいかなかったのかもしれない。俺以外に立っている者がいなくなった時点で魔法を止め、息を吐いた。


「まあともかく……終わったな」




 村へ戻り、正門をくぐって広場まで早足で向かう。見回せば全員が集まっていて、外を警戒しつつもそれぞれの状態を確認した。一番傷が深いのはメメントのようだが、それでも致命的な傷を負った者はいないらしい。


「アレク様~!」


 ルビーが泣きながら抱き着いてくる。そのへんを転げまわったかのように泥まみれだ。その顔を見れば、やはり結構危なかったらしい。


「よく頑張ったな、ルビー。血が出ているぞ? 大丈夫か?」

「大丈夫……ぐずっ……ジャスミンが、治してくれたから」


 泣きじゃくるルビーの頭を撫でてやった。ルビーが指さす方を見ると、当のジャスミンは疲れたのか岩にもたれて肘をついている。一瞬目が合ったかと思ったが、ぷいっと露骨に逸らされた。冒険者をしていたときのような塩っぽい対応で、ちょっと悲しい。


「アレクよ、随分早かったの。おかげで助かったぞ」


 少しだけナーバスな気分になっていると、傷の治療が終わったのかメメントが話しかけてきた。魔法が使えるようになったがまだ大人モード継続中のようで、俺より少し背の低いメメントの肩越しにはマーリンがイスラフィールに抱き着いているのが見えた。


「まあな。お前が一番重傷だったと思ったが?」

「わしは大賢者ぞ? 治療など朝飯前じゃ」

「はいはい。まあ無事なら良かったが、何があった? 魔法に加えて遺物を持ったお前が追い詰められるなんて」


 魔法無しでもルビーよりはやれるはずのメメント。魔法が解禁された今の状況で有象無象相手に手傷を負うというのは意外だし、不可解でもある。メメントは少しばつの悪そうな顔をしたあと、真剣に質問に答える。


「そのことなんじゃが、のんびりはしておれん。王国騎士団の連中、全員遺物を持っておった」


 その言葉に俺は眉をしかめる。王国の遺物はミストルテイン一つという話だったはず。ジョーから引きはがしてこの戦場に持ってくることは考えられるが、複数どころか、数十人いた騎士の全員が遺物を持っているのはどう考えてもおかしい。


「なんだと? 王国は一体遺物をいくつ持ってるんだ」

「それがなんと……全員同じ遺物、ミストルテインだったんじゃ」


 深まる謎に俺は首をひねった。ミストルテインという遺物の特性だろうか。ちらりとマーリンを見る。イスラフィールと親しげに話すマーリンは、なぜこのことを話さなかったのだろうか。知らなかったのか、それとも……。


「言ってる意味がよくわからんが……それを回収すれば俺たちが有利になるってことでいいのか?」

「ふむ? そう言われれば確かにそうじゃな。よし、急いで回収に向かうぞ」


 と、いろいろ疑問はあるものの遺物持ちであれば騎士たちを放置するわけにもいかず、メメントと二人で戦場だった正門前の草原へと回収に来たのだが。


「おのれ……」


 倒れていた騎士団の何人か立ち上がろうとしている。ずいぶんタフだと思ったが、ミストルテインは生命力を高めるんだったか。また暴れられても面倒なので再び雷伝を撃ち込むと、おとなしくなった。その後、倒れている騎士の一人が持っていた剣を拾い上げたのだが、疑問はこれでは終わらなかった。


「これが聖剣……?」


 たしかにジョーが持っていたものと似ている。だが、その刃はボロボロで黒く濁っており、元の剣と同じものとはとても思えない。メメントの方に目を向けると、手を顎に当て、眉をしかめている。


「アレクの雷には遺物の破壊効果でもあるのか?」

「さあ……? ないと思うけど――」


 と言いかけて、ダリウスとの話を思い出す。彼は遺物について何か言いかけていた。それと関係があるかもしれない。


「そういえば、王国では遺物の研究をしていると漏らしたのを聞いた。もしかすると、不完全だが遺物の複製に成功したんじゃないか?」


 俺の言葉にメメントの眉間の皺がいっそう深くなった。


「それだと説明はつくが、わしらにとってはまずい話になるのう」

「それを含めてみんなと話をしたいな。で、こいつら……どうする?」


 村の前に転がった約六十の騎士を見る。


「とりあえずは剣と鎧を剥いで拘束じゃ。監視はわしのエレメントでもできるし、装備無しなら一人につき二体もいれば十分じゃろう」


 人数が多かったので、村に置いておくスペースが取れない。相談した結果、かつて俺とジャスミンとが修行した丘に、メメントが氷の牢を設置して拘束することになった。そして、午後からは全員集まって話し合いの場が設けられる。

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