EX:メメント・モリ
「続々と集まっておる。今のところ、三十人くらいじゃな」
アレク様が村を出て数日たった。その間に村に攻め込んできたのは最初の数人だけ。それもメメント様があっさり追い返して、それ以来あの人たちは何もしてこなかった。
「メメント様ー、王国の人って強いの?」
「ルビーの言う強いの基準がわからんが……わしに言わせれば大したことはない。王国騎士団が面倒なのは、そこそこ質の良い装備と頭数の多さじゃ」
「それならさー、集まる前に倒しちゃえば良かったんじゃない?」
「村の防衛だけ考えるならそれでいいんじゃが、それじゃとわしとアレクが王国から完全にロックオンされるからのう……」
「だめかー」
あたし的には名案だと思ったんだけどなー。
「もう……ロックオンはされてると思うんですけど……」
ジャスミンは目の前に浮かんだエレメントをくるくると回しながら呆れてるみたい。でもほんとにそうだと思う。あたしは大きく首を縦にふった。そうじゃなかったらあの人たち、あんなふうに武器を持ってぞろぞろ集まって来ないよね。
「王国としても三十人くらいの出兵なら様子見じゃろう。本気なら最低でも一個師団くらいは来るんじゃないかの?」
いっこしだん、ってどのくらいだろう? 聞こうと思ったけど、先に話を変えられてしまう。
「その分、レリクトバッテリのチャージをする時間を確保できました。魔法ももう使えますし、最初の兵士程度であれば、三十人ならそうそう後れを取ることはないかと思います」
マーリンはメメント様から受け取った籠手を右手にセットしている。そう、昨日の時点でもう魔法も使えるようになっているのです。さすがアレク様だね。早く会いたいな。
「じゃあアタシ、寝ててもいーい?」
うーん、と伸びをする。日中の見張りはメメント様が、夜の見張りはアタシが担当してる。今は明け方で、これから見張りの交代時間だったのに村の正門前に集められた。正直もう眠いんだよー。
「ただの三十人ならそれでも良かったんじゃがのう……」
メメント様がため息。この状況じゃ無理もないよね。あたしもナーバスな気分になってくる。
「「「「「聖剣ミストルテインよ、力を示せ!」」」」」
遺物が三十本もあるなんて、聞いてないよー!
「生命魔法【極大】ザ・パワー!」
「強化魔法【絶大】ネコマタ!」
王国との戦いが始まった。村の正面から三十人の同じ格好の人たちが押し寄せてくる。その人たちが一斉に剣を振り下ろすと、攻撃が大きな竜巻のようになってこっちに向かってくる。
「あれは無理だよー! メメント様ー!」
「わかっとる! エクスカリバー!」
メメント様が剣を掲げると、剣が光を帯びる。その状態の剣をメメント様が振るうと、剣から出た光は竜巻とぶつかって激しい光と土煙を巻き起こして、両方とも消えた。
「やった!」
「はしゃいでいる場合ではないですよ、ルビー!」
アタシがガッツポーズしていると、後ろからジャスミンに怒られた。土煙の中から敵が続々と向かってきているのが見える。
「わかってる! 前は任せて!」
配置としては、メメント様とマーリンちゃんがそれぞれ一人で、あたしとジャスミンが二人組で戦う感じ。それぞれ十人くらい倒せば勝てるけど、どうだろう。
「騎士団が近づいてくるまでにボクができるだけ削ります!」
マーリンちゃんが両手から雷を連発して敵を狙い撃っている。右手の方が威力が高いみたい。でも敵も雷が当たったのになかなか倒れない。遺物の力で生命力が強くなってるって言ってたっけ。装備がいいって言ってたからおそろいの鎧のせいかな?
「前に出て数を減らす! 援護を頼むぞ!」
メメント様は敵のいる方へ突っ込んでいっちゃった。あたしがすることはジャスミンが安心して魔法を使えるように盾になること。メメント様の援護はジャスミンがしてくれる……と思ったんだけど。
「うわぁ!」
「ちょっと!」
敵はあたしの間合いの外から剣を振って、衝撃? で攻撃してきた。さっきの竜巻よりは威力が低いみたいだけど、とっさに避けたらジャスミンから怒られた。たしかにあたしが避けたら後ろにいるジャスミンが危ないけど、これは普通に防御できるのかな。もしかして大ピンチ?
「ねー、この攻撃ってどうやって防ぐの!?」
「身体で防ぐのではなく、魔力を伸ばしてぶつけるような感じで!」
ジャスミンのアドバイスを聞いて、飛んできた斬撃? に対して試してみる。上手く防げたみたいで、特に痛くもない。
「あ、できた!」
拳の先にもう一つ拳があるような感じ? でやったらできた。嬉しかったんだけど、喜んでいる場合じゃなさそう。ていうか、なんか、やけにいっぱい攻撃が飛んできてない……?
「ちょっ、あっ……まって……」
「ルビー!」
「あうっ……!」
しばらく頑張ったけど、慣れない攻撃を防ぎきれなくて当たっちゃった。吹っ飛ばされて地面を転がる。痛くて、涙目になりながらうずくまる。でも、あたしが倒れてるとジャスミンが危ない……。なんとか起き上がってジャスミンのところに戻る。あたしが倒れてる間、ジャスミンはエレメントに前衛をさせて頑張っていた。メメント様も囲まれて足止めされてるみたいだし、マーリンも距離を詰められてからは押されてる。
「ごめん、ジャスミン!」
あたしは戦線に戻ってジャスミンの前に立つ。ジャスミンは不安そうな声で聞いてくる。
「大丈夫なの?」
「めちゃくちゃ痛かったけど、なんとか……」
「メメント様が敵を減らしてくれてる。粘りましょう!」
倒した敵は全体の半分くらい。もうちょっと頑張ろう、そう思ってふと前を見ると、あまり好ましくない景色が広がっていた。
「あ……」
新しく、さっきと同じくらいの数の敵が近づいてきている。誰がどう見ても増援だ。
「「「「「聖剣ミストルテインよ、力を示せ!」」」」」
またさっきの光る竜巻が来る。アタシは咄嗟に叫んだ。
「メメント様ー!」
「ええい!」
乱戦の中からメメント様が飛び出して、エクスカリバーの攻撃で竜巻を防ぐ。打ち消すことはできたけれど、メメント様はその隙に後ろから攻撃を受けてしまった。
「うぐ……」
メメント様は血を流しながらも敵と距離を取っている。さっきまではぎりぎり持ちこたえていた均衡が、崩れてしまう。
「ルビー、危ない!」
中距離からの攻撃だけだった敵が、一気に近づいてくる。メメント様のケガにびっくりして反応が遅れたあたしの目の前まで、敵はもう迫ってきていた。
「ひっ……」
いつか死を覚悟した日のことがフラッシュバックする。暗い洞窟の中、ワイバーンが腕を振り上げている。あたしを叩き潰そうとしていて、あの時もあたしは何もできず縮こまっていた。
「アレク様……」
目の前の敵が剣を振り上げて、あたしは無意識に助けを求める。
その時、振り上げた剣に光が落ち、敵は焼け焦げて後ろに倒れた。これは……!
「無事か?」
たった数日の事なのにもう懐かしく感じる声に、あたしは思わず顔を上げる。あの日見たのと同じ、頼もしい背中。
「アレク様!」
あたしの勇者様が、帰ってきた。




