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くっくっく……冗談だろ?

 偽装魔法の効果切れになったので、俺たちは尋問を打ち切って牢を出た。


「お疲れ。見事な芝居だったぞ」


 アズリエルが茶化すようにそう言って俺の肩を叩く。乗せられては思うつぼだと自分に言い聞かせ、俺は冷静に話を進める。


「こいつ、どうするんだ?」


 牢を振り返ると、リオレッドはもう眠っていた。今の問答が全て夢だったと思うように仕向けられているのは、なるほど魔王の手腕には唸らざるを得ない。


「お前の知り合いなんだろう? メメント・モリに連れて行ったらどうだ」

「体よく厄介払いしたいだけだろうが、全く……」

「もう少し治療は必要だろうが、そこそこ戦力にはなるぞ」


 確かにリオレッドのタイマン性能は悪くない。薬なしで見積もっても、おそらくルビーよりは上だ。だがあのシスコンぶりを考えると、今あいつを本物のルビーに引き合わせれば面倒なことになるのが目に見えている。


「どうしてもと言うなら預かってやってもいい。その代わり、魔王軍からメメント・モリの防衛に戦力を割いてもらえないか?」

「……魔王軍を動かせば、下手をすると人族と魔族の全面戦争になるぞ」


 軍の話を持ち出した途端、アズリエルからは笑みが消えた。


「わかっている。しかし村の守りが不十分だと戦いに集中できない」

「攻めるにしても相手は王国だぞ? いかにアレクたちが強いと言っても、何か策はあるのか?」

「お前の偽装魔法で上手く立ち回れないか?」


 攻めも守りも魔王軍に依存することになるのはわかっている。だが、あんな便利な魔法があるのなら使った方が被害は少なくなるだろう。俺の希望を聞いたアズリエルは、呆れたように大げさにため息を吐く。


「あのなぁ……。さっきの私の話、本当にわかってるのか?」

「ちょっと王に直談判するだけだ。それに、どうせその魔法を使ったら誰にもバレないだろ」

「勇者の太鼓判は嬉しい限りだが、偽装魔法はそんな便利なものではないぞ」

「そうなのか?」

「その話は今はいいだろう。結論だが、軍を動かすのは厳しい。だが有志を募っての少数で援護くらいであれば、ごまかしも効くだろう」


 これが魔王としての最大限の譲歩なのだろう。こいつの部下のレベルはよく知らないが、サテュロスとかリオレッドくらいの戦力が五、六人程度だろうか。遺物と人海戦術で押してくる王国軍相手だと正直物足りないが、あまり贅沢は言えない。比較対象がメメントにジャスミンと、割と規格外の二人であるせいもある。ルビーはまあ、マスコット的な。全然戦えるんだけど。


「わかった。その有志の人選は任せていいか?」

「それは構わないが……」


 アズリエルは何か言いたそうに俺の方をまじまじ見ている。俺には結構はっきりと物申すタイプのこいつが言いよどむのは珍しくて、聞いてみることにした。


「どうした?」

「アレク、お前ちょっと丸くなった……か?」


 以前の俺はそんなに尖っていただろうか。


「そうか?」

「お前との付き合いはまだ長くはないが、前はもっとこう……全部自分で抱え込むような印象があったから……プロバビロンの開放も、お前は自分一人でするつもりだったようだし」


 戦力不足だったのだから当然だと思うのだが、自分の力でなんとかするという思考はおそらくもっと前に形成されたものだと思う。


「うーん……以前のパーティでは俺一人で前衛をやってたからかもな」

「何? ……はっはっは! お前が? パーティを? くっくっく……冗談だろ?」


 俺がそう答えるとアズリエルは突然声を上げて笑い出した。一体何がおかしいのか知らないが、冗談ではない。しかし、アズリエルは普段の笑い方までどこか魔王っぽさがある。これが素なのか、板についているというべきか。


「そんなに笑うようなことか……?」


 ひとしきり笑った後、アズリエルは痛いところを突いてきた。


「すまんすまん。だがお前の性格と強さを考えたら、普通のパーティは合わなかったんじゃないか?」

「うっ……まあ、当たらずとも遠からず、と言ったところか」

「そうか……。ふふっ……お前も大変だったんだな」


 なぜか魔王に同情される。俺が追放されたのは強さでも性格でもなく、プロバビロンのせいで魔法が使えなかったからなんだが。それは黙っておくか。不毛なので話を戻すことにする。


「それより、魔王軍の有志はどのくらいで集められそうだ? 俺はすぐにでもメメント・モリに戻りたいんだが」

「さすがに今すぐと言うわけにはいかない。しかし気持ちはわからないでもないが、そんなに急いで戻らなくてもいいんじゃないか? あそこには大賢者メメントを筆頭に強力なメンツが揃っている上、今は遺物まであるじゃないか」

「俺がメメント・モリを出てから何日も経っている。魔法が使えない間の戦闘は遺物頼みだったはずだし、魔法が使えるようになったのは敵も同様だ。そして遺物を持っているのだって王国側も同じこと。慌てる必要はないかもしれないが、あまりのんびりもしていられない」


 俺の想像だが、メメント・モリではメメント達が魔法で撃退した頃だろう。一度撤退した王国が態勢を立て直して再び村に攻めてくるまでには戻りたい。これは全て俺の予測でしかないので、まだ王国が攻めてきていない可能性もあれば、もっと最悪の展開もあり得る。後悔はしたくない。


「やはり心配……か。とはいえアレクも疲れているように見えるぞ。今日はブラックバレーで休んでいったらどうだ?」

「……そうだな。そうさせてもらう」


 確かに疲れはある。慌てて戻ったのに足手まといでした、では笑い話にもならない。俺はアズリエルの提案に同意して、ひとまず出口に向かう。話は終えたつもりだったが、不意に自分の左の籠手を見て、一つ考えが浮かんだ。


「アズリエル。最後にもう一つ、頼みがある」

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