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ふ、ふーん。そうなんだー

「俺だけでよかったのか?」


 なぜ自分だけが呼ばれたのか気になって、先を行くアズリエルに質問した。


「私だってたまには気も使うさ」

「どういうことだ?」

「……はぁ。耳を澄ましてみろ」


 アズリエルがため息混じりにそう言うので、俺は足を止めて聞き耳を立てる。後方で微かに二人の声が聞こえた。


「ロベルト……怖かった……」

「もう大丈夫だ……」


 アズリエルの言葉の意味を理解した俺は、早歩きでアズリエルに追いつく。


「お前も大変だな」

「……何を言う。こちらは片付いたんだ。むしろ大変なのはこれからのアレクの方だろう?」

「違いないな」


 アズリエルの言う通り、俺のミッションはまだ道半ばだ。魔法が使えるようになったので、メメント・モリは立て直している頃だろう。とはいえ、指名手配されている俺はメメント・モリに引きこもるわけにはいかない。いずれは王国の脅威を取り払わなければならないのだ。


「だが、サテュロス達とブラックバレーは大丈夫か?」

「かなり苦戦していたようだが、魔法さえあればあんな薬頼りの連中なんか脅威にならないよ。偽装魔法の恐ろしさはお前も身に染みただろう」

「ああ。まさかあんな形で思い知るとは考えもしなかったけどな」


 話しているうちに倉庫本来の入口に辿り着き、扉を開ける。昼頃に戦闘開始したはずだが外はもう薄暗く、夕日が沈みかけていた。


「お前を呼んだのは別の理由もあるんだ。あの猫魔族の男の尋問に立ち会ってもらいたい」

「俺が? どうしてだ?」


 男はもう虫の息だった。俺は治療もできないし、役に立てるとは思えないが。


「あいつ、驚異的な生命力だ。死なない程度に治療しただけのつもりだったが、もう意識が戻っていて口も利ける。それに偽装魔法があっても、無差別に暴れまわられると止められる者がいない」


 おそらく薬の効果が残っていたのだろう。さすがに無理ができる状態ではないと思うが、あの男の抱える憎しみはなかなかに根深そうだった。気力だけで死ぬまで暴れることも考えられる。その光景を想像した俺は不本意ながらも承諾した。


「困った男だな。わかった、案内してくれ」

「助かる。だが、その前にもう一つしておかなくては」


 首を傾げている間にアズリエルは俺の手を掴んで高く飛び上がった。ゆっくり浮上して崖の頂上に着くと、広場のように整地された場所になっていて、そこには多くの翼魔族がずらりと集まっていた。飛んできた俺たちを見て好奇の目を向けている者が多い。俺が想像していなかった光景に目を丸くして見回していると、集団の端の方にはサテュロス達の姿も確認できた。ざわざわしている広場に向けて、俺をどうするつもりなのかと警戒しながらアズリエルが声を張り上げて呼びかける。


「皆、聞いてくれ。こいつはアレク。今回の作戦に協力してくれた恩人だ。人族だが恐れずに接してやってくれ」


 そう言ってアズリエルは民衆の近くを飛んで回る。近づくと、彼らがかなり好き放題言っている声が聞こえる。アズちゃんをよろしくだとか、次期魔王様だとかなんとか。アズリエルはそんなんじゃないと怒っていたみたいだが、俺はその場を後にするまで呆気にとられたままぶら下がっていた。そのまま広場を一周すると、アズリエルは、以上だ、と告げてその場を後にした。アズリエルに連れられて崖の中腹にある足場に降り立ったとき、どっと疲れたような気がした。


「確かに人族の俺が紹介もなしにうろうろするのもなんだが、もうちょっとどうにかならなかったか?」

「さっきまで他種族に占領されていたんだから、顔見せはした方がいいだろ? このくらいで文句を言うな」

「事前に説明をしろと言ってるんだが?」


 ちょっとした言い合いをしながら降りた場所にあった扉の先へ進んでいく。先ほどと同じような洞穴の奥、倉庫の代わりに牢屋がある広場で二人の翼魔族が立ち上がり、俺たちを……いや、アズリエルを迎えた。


「魔王様」

「連れてきたぞ、こいつだ。腕っぷしの方は信用していい」

「……アレクだ」


 俺を見て二人の男が少し体を強張らせる。武装こそしているが戦い慣れしている感じではない。見張りの兵士と親交を深めに来たわけではないので、彼らは無視して魔王様と話を進めることにする。横目で見た牢屋には例の男が閉じ込められていたので、そちらを顎で指して尋ねた。


「で、あいつから何を聞きだすんだ?」

「主に薬の出処と避雷盾の在処だな。私はこの件に王国が絡んでると思うが、証拠がない。黒幕に繋がる情報が欲しい。あとは……」

「なんだ?」

「いや、すぐにわかる。私が偽装魔法をかけるから、お前が聞き出してくれ」


 さっきから必要な情報を何も話そうとしないアズリエルに、少し眉をしかめて抗議する。


「おい、どうしてそうなる」

「猫魔族の扱いは得意だろう? 始めるぞ。さっさと入れ」

「得意ってお前……はぁ」

「偽装魔法【中】夢幻」


 取り付く島もない。どうもここ最近、自分のペースで事が運ばない気がする。俺はため息混じりに仕方なく牢へ入った。中にはさっき黒焦げにした猫魔族の男が繋がれもせずに座り込んでいる。髪の毛はぼさぼさ、服はボロボロ。それに疲れた顔をしていて、戦った時から一気に倍近く老け込んだように見える。倒した直後の瀕死状態を思えば、このわずかな時間でかなり回復した方だろう。


「話しかけてみろ」

「あ、あー……お前……名前は?」

「……ルビー?」

「は?」


 確かに俺の知り合いにそんな名前の猫魔族はいるが、出会ったときですらこんなボロ雑巾ではなかったな。


「ルビー! 無事だったのか? どうしてここに?」


 虚ろだった男の目がぎらつき出す。話にもテンションにも全くついていけないが、どうやら俺のことをルビーだと認識しているようだ。だが、ルビーとは俺の知るあのルビーだろうか? 目と髪の色が同じだし、もしかしたらあいつと何か関わりのある人物……かもしれない。


「あ、えー……あなたは、誰ですか……?」

「俺だよ、リオレッドだ! まさかお前、お兄ちゃんを忘れちゃったのか……?」

「あー……覚えてる、覚えてる……」

「ルビー、元気ないな? もしかしてここの奴らに何かされたのか!?」


 こいつシスコンか? と言いたいところだが、ルビーが洞窟で軟禁されていたことを知っている身としては、心配する気持ちはわからないでもない。あまり疑われても困るので、とりあえず俺が知ってるルビーであるとして尋問を進めることにする。


「俺、ゴホン……あたしは大丈夫。あたしと別れてからお兄ちゃんはどうしてたのかなーって、心配で……」

「俺のことなんかどうでもいいんだ。ルビーこそ、どうしてここに?」


 面倒な奴だ。というか、こいつは翼魔族の牢屋にいるとわかっているはずなのに偽装魔法にかかっていることに気付かないのだろうか? 少し不思議に思って横目でアズリエルを見る。


「ふん、誰の魔法だと思ってるんだ。魔王を舐めるなよ」


 俺の疑問を察してか、アズリエルは俺の視線にそう答えた。こいつは部屋の入り口で腕を組んでこちらを見張っている。


「えーっと……お兄ちゃんと別れてから色々あって……変な人に捕まったり……」


 俺の説明はかなりたどたどしいが、アズリエルの偽装魔法が上手くごまかしてくれるのだろう。あのルビーじゃなかったら、もう知らん。


「ルビーが人族に捕まったことは、お前の友達に聞いたよ。……ひどいことされたりしてないのか?」


 俺への敵意むき出しだった視線とは真逆、心底心配している顔だ。若干の罪悪感を持ちつつもやけくそ気味に会話を続ける。


「まあ、その……大変だったけど、アレクって人に助けてもらって……。今はその、アレク……様のところでお世話になってるんだ……」


 自分のことを様付けで呼ぶのは、キザな勘違い野郎にでもなったみたいで抵抗がある。男はほっとしたような顔で息を吐く。


「そうか、無事なら良いんだが……もしかしてアレクって、あの俺を邪魔しに来た人族か?」

「そう。お兄ちゃんはどうしてアレク、様と戦ったの?」

「ルビーが人族に捕まったと聞いてから仲間とともに方々を探したんだが、見つからず……それなら、もういっそ人族を滅ぼしてやろうと思ってな」

「ふ、ふーん。そうなんだー」


 発想がぶっ飛んでてやばい。これはシスコン認定してもいいのではないか?


「しかし人族は数が多いし、種族として突出した魔法がなくともあの多彩さは厄介だ。だからまず魔法を封じてやろうと思ったんだ」

「それでプロバビロンを乗っ取ったの?」

「そうだ。魔王アズリエルは人族との争いに消極的だったからな。かといって魔王の座を奪うのも簡単じゃない。正直、行き詰っていた。そんな時、俺はある協力者から身体強化の薬と、近いうちに魔王軍が大きく動くという情報をもらった」


 やっと本題に入れたが、どうやらこいつは騙されていたようだ。魔法が解けても暴れないように、正しい情報を教えてやる。


「俺……あたしはその薬を作ってた人に捕まってたんだよ」

「何だと!? じゃあ俺は……」


 自責の念にとらわれるより前に話してもらわないといけないことがある。俺は続けて質問した。


「ねえお兄ちゃん……あの薬はどこで手に入れたの?」

「魔族領のある街で、ある人物が俺のグループにケンカを吹っ掛けてきたんだ。お前を探すにも八方塞がりで成果の出ない日々に苛ついてた俺達はケンカを買った。路地裏であいつの連れを軽く捻ってやった。だが、あいつの持っていた薬を連れの人族に飲ませるとどうだ。さっきまで俺達が圧倒していたにもかかわらず、たちまち手に負えなくなった。俺達が押され始めたその時、あいつは話を持ちかけてきた。俺が魔王軍を乗っ取って、この薬のすごさを証明してくれとな」

「どんな人だった……?」

「リーダーらしき男は顔を隠していてわからなかったが、やり合った連れの人族はよく覚えている。スキンヘッドで、人族にしては大柄だった。大剣と大地魔法を組み合わせて使っていて、あいつが呼んでいた名前は確か……スミス」


 またも心当たりのある名前が出てきた。俺の知るスミスはスキンヘッドではなかったが、髪型くらいは変わっても不思議はない。

 その後もいくつか話を聞いたが、他に王国に繋がるような確たる証拠は掴めなかった。

間が空いてしまい、申し訳ありません。

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