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まだ終わってねえだろうが

 祭祀場の入口あたりで爆弾を使用したアズリエル。たしかロベルトは魔法換算で大クラス程度の威力だと言っていたが、この爆風の逃げ場がない場所であるにも関わらず、外で使われたものより弱いように感じられた。爆風が治まってきたところで、俺は立ち上がって状況を確認する。


 まず、俺は無事だ。まだ耳鳴りが残ってはいるが。俺が危なければそもそもアズリエルは爆弾を使ったりはしないだろう。俺のことをどう思っているかは別にしても、本来は優しい子だと認識している。そして、残念ながら祭壇はまだ破壊できていないようだ。頑丈に作られてはいるようだが、さすがに傷みはある。猫魔族の男は探すまでもなく、俺と中央にある祭壇の間あたりに倒れていた。姿を確認できたということは、偽装魔法は破れたようだ。アズリエルの姿はない。イスラフィールも同様だ。


「アズリエル?」


 呼びかけるが返事はない。猫魔族の男はいったん無視して入口の方へ向かう。無事だと良いのだが。


「アレク、無事だったか?」


 入口の重々しい扉を開くと、アズリエルが駆け寄ってきた。なぜか眼鏡をかけている。


「悪かった。ケガはないか?」

「ああ、おかげさまでな」


 俺は皮肉めいた同意をする。アズリエルはすぐに俺の異常に気付いた。


「って、してるじゃないか、ケガ! 本当にすまない! 大丈夫か?」

「爆発で追ったケガじゃない。それより、なんであんな無茶をしたんだ。密室にいきなり爆弾を放り込むなんて、らしくないな」

「俺がやらせた」


 無精髭の男が近づいてくる。先ほどアズリエルが掛けていた眼鏡はこの男のものだったようだ。ケガをしているのか、右腕を首から布で吊っていた。イスラフィールはその傍ら、男の外套を敷いた上に寝かされていた。


「ロベルト……」

「偽装魔法を使っているのは相手の方だったように見えたんだが、どういうつもりだ?」


 睨むようにこちらを見るロベルトの問いに、俺は目を逸らしたくなるのをこらえて答えた。


「すまない……。俺は嘘を吐いた。俺は偽装魔法なんて使えないし、マーリンからはこの籠手は雷魔法が撃てるとしか聞いていない」


 俺は頭を下げた。ロベルトは黙って俺を見ている。眼鏡越しでないせいもあってか、とても険しい顔つきだった。


「勝てると思った。そして実際に戦っても俺はポテンシャルであの男よりも上だった。でも偽装魔法を使われて……思い知った。俺は甘かった」

「アレク。顔上げろよ」


 ロベルトは優しく言ったと思う。だからこそ俺はすぐに従えなかった。


「でも……」

「いいから」


 その言葉で重い頭を上げた。その時、俺に頬に衝撃が走る。


「……っ!」


 一瞬何が起こったかわからなかったが、どうやらロベルトに殴られたらしい。俺はしりもちをついて、頬をさすりながらロベルトを見上げた。後ろでアズリエルが困惑している。


「ロベルト! アレクもケガをしているのに……!」

「それで許してやる。それに……まだ終わってねえだろうが」


 俺はロベルトのその言葉に頷いて再び扉をくぐり、祭壇の方に戻った。猫魔族の男は起き上がっており、俺を見つけると牙を見せるように唸っている。黒く輝いていた八本の尻尾は、先ほどよりも淡くなっていた。


「さっきのは魔王だな。やはりあいつが手引きしたのか」


 俺は答えなかった。もう油断も慢心もしてはならない。人質も解放された。後はシンプルに、こいつを倒してプロバビロンを破壊するだけだ。ただ深く、斬り込む。


「うお……」


 男は俺の初撃を体勢を崩しながらも防いでくる。それは、ステータスのアドバンテージがなければ俺の全力もこの程度なのだ、という現実を意味している。俺はそのことを噛みしめながら二撃目、三撃目と斬り込み続けた。


「こいつ……さっきまでと雰囲気が……!」


 俺の方が強い。それは間違いなかった。しかしこの男、剣だけで押し切るには時間がかかりそうだ。薬の効果が薄れるのを待つのも、もう止めだ。俺は斬りつけながら祭壇の中央へと男を誘導する。男は一度距離を離そうと必死だが、俺もそうはさせない。じりじりと祭壇の傍まで押し込んだ。


「はあっ!」


 俺は隙を見て突き、男は咄嗟に下がろうとした。しかし、男の後ろには祭壇が控えており、足を取られる形で祭壇に横たわる形になる。俺は倒れた男へ向けて剣を突き立てた。


「ぐあああっ!」


 男の叫びが響く。辛うじて身をよじることで急所は外したが、剣は杭のように突き刺さった。結果的にこいつは俺と同じ脇腹に傷を負うこととなる。ただし、この男の場合は穴が開いたわけだが。俺は右手を緩めず、左手の籠手を起動させる。


「雷魔法【絶大】」

「く、くっそおおおおお!」


 暴れる男をよそに、俺は男越しに祭壇へ向けてマーリンに教わった通りに魔法を放つ。


「――ボルトストリーマ」

「ぎゃあああああああああああっ!」


 閃光が迸り、男を飲みこむ。この世のものと思えないほどの絶叫さえも、光に飲みこまれたように途中から聞こえなくなった。そして男を飲みこんだ光は、まだ食べたりないと言わんばかりに祭壇を穿ち、地面を砕いていった。


「こいつ……まだ生きてるのか」


 しばらくして雷魔法の光が収まると、男にはまだ息があった。相当なダメージは負っているが、恐ろしいしぶとさだ。祭壇は砕け、地面は大きくえぐられ、祭祀場全体もあちこちひび割れている。しかし、この男がクッションになったせいか、完全に破壊できてはいないようだ。ステータスを確認するが、魔法の成功確率はゼロのままだ。


「もう一撃……」


 俺は再度、最大威力で籠手から雷魔法を放つ。プロバビロンがこれほど頑丈ならば、ここまで温存したのは正解だったと言えるだろう。ただ、それでも二撃目の雷魔法はストックが無くなったのか発動こそしたものの威力は物足りなかった。しかし、大クラスの爆弾、絶大クラスの雷魔法と続けて攻撃を受けているので、さすがに耐えきれなくなったのか部屋が崩れ始めた。


「アレク、やったのか?」


 その音を聞いたのか、アズリエルが少し明るい声色で絶賛崩壊中の部屋に入ってきた。もう眼鏡はかけていない。


「おそらくな」

「崩れるぞ。早く戻って来い」


 続いて入ってきたロベルトが俺達を急かした。眼鏡は彼の元へと戻っていて、既にイスラフィールを背負っている。


「ああ、急ごう」

「アレク、そいつは?」

「このまま生き埋めにしてもいいが……話を聞かないと」


 俺は焦げ臭い男を肩に担ぐ。崩落に注意しつつ、俺達はプロバビロンの祭祀場を後にした。


「どうする、このまま村まで戻るか?」


 隠し通路の途中で俺は前を行く二人に尋ねた。


「とりあえず倉庫までは行くぞ。薬の備蓄がある。外で魔法が使えるようになっても、すぐ治療してもらえる状況じゃねえだろうからな」


 ロベルトが答えた。背中にいる女性の翼でこちらから顔は見えなかった。


「わかった。それにしてもロベルト、よく無事だったな」

「たりめーだろ。ま、ちょっとヘマしちまって作戦通りとはいかなかったがな」


 ロベルトは腕を吊っていたので、弓が射れなかったことはわかる。しかしあのタイミングのいい爆破はどうやったのだろう。一応聞いてみたがはぐらかされてしまった。


「ならこいつの偽装魔法はどうやって見破ったんだ?」

「ケガ人の癖にさっきからごちゃごちゃうるせえなあ。どうでもいいだろうが」

「そいつの眼鏡だよ」


 めんどくさそうな物言いのロベルトをよそに、アズリエルが答えてくれた。


「あ、おいアズ……」

「別にいいだろ、そのくらい。ほら着いたぞ」


 そんな話をしているうち、無事に倉庫まで戻ってくることができた。魔族領でのミッションは達成だ。

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