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またおぶってやろうか?

 テーブルに広げられた地図を見ながら、サテュロスが状況を教えてくれた。これで敵戦力の配置やバリケードの位置など、この街と魔族領の大まかな地形がわかった。これで単独行動の機会があっても何とかなりそうだ。


「いい? ここが今アタシたちのいるマノグラード。ここを川沿いに北上すると翼魔族の集落、ブラックバレーがあるわ。で、アタシたちの間ではブラックバレーのどこかにプロバビロンの祭祀場があるって言われてるわね。だからこのブラックバレーに行くまでの道にバリケードが作られてるってわけ」

「アズリエル、それは本当なのか?」

「ああ、間違いない。まずはブラックバレーを目指す」

「わかった。……ところで、二つの街の人は何をしてるんだ?」


 住人からの抵抗運動とかないのだろうか? 聞いてみると人族とはまた違った価値観を持っているのだと知ることができた。


「マノグラードはみんな様子見ってとこね。パニックにはなってないけど、自粛ムードってとこかしら」

「目的は支配ではない? 遺物確保が優先ってことか……?」

「ブラックバレーの人の多くはあまり戦いが得意ではないんだ。いつか言わなかったか?」

「邪し……サリエル封印の影響、だったか?」


 邪神と言いかけて慌てて言い直す。


「そうだ。魔族の神は人族のそれより影響力が弱い。だから魔力の高い巫女に神を降ろして一族の力を高めているんだ。翼魔族は巫女が神の力を私物化してしまった結果、封印された。我ら翼魔族の力が弱まるのも無理はないだろう?」


 人族の間ではただの言い伝えと考えられている神の話だ。魔族の間ではかなり生活に根差したものだったらしい。


「でもお前、あんなに強かったじゃないか。メメントを軽くあしらってただろ?」

「プロバビロンで集めた魔力を取り込んだと言ったろ。あの場限りの一時的なものだ」


 それを聞いて、俺はふいに不安になる。


「なあ。それってもしかして……プロバビロン攻略にはこちらは魔法なしであの時のお前ぐらいのヤツを相手にするのか?」

「いや、そこまでの心配は無用だ。魔法が不発にならなければプロバビロンは魔力を回収できない。確率ゼロでは誰も魔法を撃たないだろう?」

「なるほど、確かにそうだな」


 確率設定はちゃんと魔法を使ってもらうように考えられた設計になっていたようだ。その話を聞いて俺も胸を撫でおろす。


「話を戻すわね。敵戦力はブラックバレーから人を回してバリケードの建設をしているみたい。定時連絡は使役魔法使いがテイム済の魔獣を使ってるみたいね。こちらとしてはバリケードが完成する前になるはやで叩きたいけど、少ないとはいえマノグラードに潜伏してる敵戦力を放置すると挟み撃ちされるかもしれないわ」

「先にこの街にいる過激派の敵戦力を叩く、ということか?」

「そうね。作戦だけど――」


 作戦会議の後、俺たちはいったんサテュロスと別れてロベルトの家で休んだ。ロベルトは意外にも料理が出来たようで、質素ではあったが食事をふるまってくれた。ロベルトは寝床をアズリエルに譲ったので、男二人は床に敷いた毛布とソファでそれぞれ眠った。そして翌日。


「そろそろ行こう」


 俺たちはマノグラードから少し離れた森の中を通って回り込み、ブラックバレーに続く街道が見える位置に着いた。作戦はこうだ。まずサテュロス達がブラックバレーを目指してマノグラードを出発する。俺たちはそれを離れて監視しておき、怪しい人物がいたら拘束、後を追うものがいたらそれを挟撃する。要するに、二重尾行だ。


「これだけ大回りするとさすがに少し遠いな。大丈夫か?」

「問題、ない」


 振り返って尋ねるとアズリエルはそう強がった。しかし体は正直なようで、少し息が上がっているようだ。それよりも一人しか姿が見えないのはどういうわけだ?


「ロベルトは?」

「ちゃんといるぞ」


 森の少し奥の方から返事があった。ロベルトは俺たちより更に大回りしているようだ。


「魔法が使えねえんだ。少しくらいは薬草なんかがあった方がいいだろ?」


 年の功というやつなのか、ガサツに見えて気配りのできる男だ。行きずりのマーリンを受け入れて面倒を見たのも頷ける。


「薬は専門外ではなかったのか?」


 寝る前に聞いたがロベルトは上下関係が嫌いらしく、呼び捨てだけでなくタメ口を使ってほしいそうだ。確かにフラットな関係を好む人間には城で働くのは苦痛だろうな。


「専門外でも自生してる草の知識くらいはあるっつの」

「まさか、毒草とかもあるのか?」


 少し不安になって尋ねる。ここまで普通に草木をかき分けて来たが、迂闊だったろうか?


「街とか街道の近くにはねえから安心しろ。もしあるんならお前に先導させたりしねえさ」

「そりゃどうも。アズリエル、そろそろ行くぞ?」

「ああ、すまない。もう大丈夫だ」

「またおぶってやろうか?」

「バカにするな。さっさと行くぞ」


 アズリエルは魔王らしい尊大さで答えた。




 その後、俺たちは作戦通りに遠目に街道の見える位置に到着した。馬車がなんとか引ける程度には整備された山道を半日ほど歩けばブラックバレーに着く。サテュロス達が通る時刻まではあと少しだ。


「本当に別行動で大丈夫か?」


 俺はロベルトに尋ねた。


「固まってたら敵を見つけられねえだろ。それにいざとなりゃこいつもある」


 ロベルトは腰にぶら下げた爆弾の袋を軽くたたいて答えた。


「見張りは本当にここだけなんだろうな?」

「どうせ連絡手段は限られてるからな。見張りよりもバリケード設営を急いでんだろ」

「プロバビロンの祭祀場の場所が割れてない上に、場所を知ってる私には人質が使える。それに、素通りされても力比べで勝てるなら気も緩むさ」

「そして設営が終われば防衛は最小限にして、メメント・モリ攻略組に合流ってわけか」


 先行した奴らはすでに倒したわけだが。遺物確保が最優先事項という点は変わらないわけだ。


「逆に言えば増援はバリケード完成まではほぼない。プロバビロン奪還に集中しよう」

「じゃあ俺はそろそろ行くぜ。アズ、アレク……気をつけろよ」


 ロベルトは俺たちと別れ、その場を離れた。ロベルトは魔獣使い、もしくは伝令の魔獣を見つけて仕留める役割。俺たちはサテュロスの後追い部隊があればサテュロス達と挟んでせん滅することになる。

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