はやっ!
「さて、先ほどわしのエレメントがいくらか集まり、村の監視を任せられるようになった。これでようやく、全員が集まって話ができるの」
昼食後にメメントの呼びかけで広間に集まり、作戦会議が始まった。皆それぞれ緊張感を持っているようだが、ルビーは先ほど起きたばかりでまだ目をこすっている。
「メメント様。ボクからここまでの状況を」
「うむ。ではマーリン、頼むぞ」
「改めて、ボクはマーリン。訳あってこの戦いを止めたいと思ってます。ボクのこと怪しいと思うかもだけど、信じてほしい。で、とりあえず一番情報を持ってそうなボクが、今わかっていることを伝えます」
それからマーリンはこれまでの状況を整理して皆に伝えた。
王国が俺とメメント、それにアズリエルを追ってこの村を狙っていること。プロバビロンが魔族の過激派に乗っ取られて悪用され、魔法が使えないこと。魔族の過激派もまた、遺物を狙って村を襲ってくること。王国側は遺物を前線に持ち出していること、魔族は魔法無しでも高い身体能力がそれぞれ脅威であること。そしてこれら両方の戦力が薬物による身体強化をしてくること。
「だいたい現状ボクらが置かれている状況はこんな感じですね」
「戦力差がひどいな」
「そうですね。魔法での範囲攻撃が出来ないので、シンプルに数で押されるときついです。敵戦力が集まる前に、一刻も早くプロバビロンを押さえないとジリ貧ですね」
「ねえねえ、ところで……遺物って何?」
ルビーが机に突っ伏しながら尋ねた。
「遺物といえば、以前メメント様がおっしゃったのは勇者の遺体……じゃないですか?」
これはジャスミンの意見だ。
「それは遺骸、じゃな。遺物は文字通り物じゃ。勇者など強い力を持つ者が長く身に着けていた装備や武具などがそれにあたるかの」
「その遺物も、遺骸と同様に世界を滅ぼすほどの力があるということですか?」
「いや、遺骸ほどではない。じゃが遺物も強い力を秘めていることは間違いない。それに、遺物の長所は遺骸とは違い、特別な加工や儀式などせずともそのまま使える点じゃ」
「つまり、確保できれば大きな戦力だが、奪われれば一気に窮地に立たされるということか」
遺物の強さはジョーの攻撃で見たが、もしあれが直撃していれば、俺は死んでいたかもしれない。ジョー程度でもそれだけの威力が出せることを考えれば、遺物というものの強さが理解できるだろう。
「じゃあ、遺物はあたしにも使えるの?」
「村の遺物、エクスカリバーは剣なので……ある程度は剣が扱えた方が良いかと思います」
「ダメじゃん! ちなみに、他の遺物ってどんなのがあるの?」
「王国の聖剣ミストルテインとか……」
「また剣じゃん!」
剣を扱う者自体が多いので、遺物が剣に偏るのも不自然ではないが。
「ま、まあ遺物の特殊能力自体は活かせますから……」
一人だけゆるい雰囲気のルビーに、マーリンでも困惑しているようだ。
「特殊能力って?」
「遺物には元の持ち主の魔法特性に近い特殊能力があるんです。結局はその能力の強さがイコール遺物の強さですから」
強かった元の持ち主の能力を疑似的に借りられるような感じだろうか? マーリンの言う性能差は、強さよりも扱いの難しさによって変わりそうだ。
「では、エクスカリバーはどんな能力なのですか?」
「雷魔法が撃てて、近距離の瞬間移動ができます」
「……え? めちゃくちゃ強くない?」
雑な感想だが、俺もルビーと同意見だ。自分で使っておいてなんだが、雷魔法はかなり強い。それに瞬間移動までついてくれば狙われる理由も理解できる。それをマーリンがなぜ知っているのかは疑問だが。
「ミストルテインはどうなんだ?」
「見た限りでは生命力強化と衝撃波ですね」
遺物無しのジョーでは撃てそうにない衝撃波による攻撃と、おそらく絶大クラスの魔法を受けても生き延びる生命力。それならばあの強さも納得だ。
「魔法無しで相手にするのは厄介だな……」
「遺物のことはその辺で良いかの?これらを踏まえて今後どうするか、じゃ」
「はーい」
ルビーが返事をして座りなおす。すっかり目が覚めたようだ。
「マーリンから大まかな作戦は話したと聞いておるが、改めて共有しておくぞ。最優先は村の安全確保じゃ。つまり遺物、エクスカリバーの回収。これはわしがこれからエレメントを使って始める」
全員黙って頷く。
「次に、魔法を使用可能にすべく、プロバビロンの奪取もしくは破壊。これにはアレクとアズリエルで向かってもらう」
「そのついでに捕らわれたイスラフィールの解放も追加になった。アズリエルの姉だそうだ」
俺が補足する。
「アズリエルちゃんて、お姉ちゃんいたんだー!」
ルビーがずいぶん能天気なことを言っている。不快ではない。むしろ重い雰囲気が和むので助かる。
「ああ、まあな……。アレク、すまないがよろしく頼む」
アズリエルが改めて頭を下げた。俺も頷いて返事をする。
「ふむ。まあそこら辺は今考えても仕方なかろう、魔族領に向かう二人で話し合って段取りを決めてくれ」
「わかった」
ずいぶん素っ気ないような。もしかすると村を襲撃されたことを根に持ってるのか? 無理もないが……。まあ信頼されていると前向きにとらえよう。
「その間わしらは村の防衛じゃ。何か質問は?」
「プロバビロン攻略は二人で大丈夫なのですか?」
ジャスミンが挙手してこちらを見る。
「確かに不安は大きいが、信じるしかない。まず移動手段がないからのう。それに、魔法無しでついていってもアレクの足を引っ張るだけという可能性もある」
「う……それはそうですね」
「エクスカリバーって剣なんでしょ? アレク様以外に使える人いるの?」
大人しく引き下がったジャスミンに代わり、ルビーも手を挙げた。
「ボクは使えますよ?」
「いや、エクスカリバーはわしが持つ。童の姿ならまだしも幸いわしはこの姿じゃし、マーリンはその籠手があるじゃろ?」
「……そうですね。正しい判断です」
マーリンは食い下がるかと思ったが大人しく引き下がった。メメントが剣も扱えるのは知らなかったが、氷の滑り台で遊びつくすくらい時間を持て余しているなら剣の練習もしていたかもしれない。もしくは、旧い友人の遺品を得体の知れない小娘に渡したくなかったか。
「猶予がどの程度あるか知っておきたい。遺物さえ確保できれば、俺はのんびりプロバビロンを攻略しても構わないのか?」
「掘り出すまでの時間にもよりますが、タイムリミットは遺物を使う王国の態勢が完全に整うまでのおよそ一週間、といったところでしょうか」
「一週間か……覚えておこう」
マーリンの提示した期限は最長で、という意味だと思った方がいいだろう。可能ならば三日か四日で戻ってきたいところだ。
「皆も、良いかの?……ではエクスカリバー回収に向かおうぞ」
そうして俺たちはメメントを先頭にしてメメント邸跡へ。
「……ということで、これがそのエクスカリバーじゃ」
古の勇者が振るったとは思えないほどに、今なお銀色に輝く刀身。瓦礫の隙間から美しい剣がエレメントとともに這い出し、メメントの手に渡った。
「はやっ!」
ルビーはメメントの狙い通り驚いている。その反応を見て、メメントは嬉しそうに笑っていた。
「そうじゃろ? ざっとこんなもんじゃよ」
「綺麗な剣ですね……」
ジャスミンは剣に見とれているようだ。俺とマーリンは黙ってその様子を見ている。
「では、次のフェーズへ移行じゃな」
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