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おやすみなさい……

 幸い俺たちの家は無事だったので、今日は全員でここに泊まることになった。


 今晩の見張りは昼寝をしたというルビーが買って出てくれ、今はジャスミンと一緒に食事の準備までしてくれている。その間はメメントが森に配置したエレメントの回収がてら見張りを引き受けている。俺も何か手伝うことはないかと厨房に聞きに行ったが、二人からは大丈夫だからゆっくりしていてほしい、と言われてしまった。


 思いがけず少し時間ができたので、食事の準備ができるまでアズリエルやマーリンと少し話をしておきたい。ほとんど立て続けの戦闘になったので、魔王領から逃げてきた彼女とはあれからまともに話をできていなかったし。そう思って村の中を探していると、広場の外れで二人が話しているようだったので顔を出した。


「ああ、アレク。君の話をしていたところだ」

「アズリエル、マーリン。取り込み中だったか?」

「いえ、問題ありません。むしろいいタイミングです」


 マーリンはそう言うと一歩下がって俺を加え、三人で輪を作った。


「これからのことをお話しておきます。最優先はもちろんエクスカリバーの確保。それまでは全員で村の防衛をしましょう。確保できれば村の方はひとまず安心ですから、次のステップに移ります。すなわち、プロバビロンの奪還です。そのためにアレクさんは魔族領へ向かってほしい。運河を越えるためにアズリエルさんも同行をお願いします。アズリエルさんならプロバビロンまでのナビゲート役も兼ねられますし。プロバビロンさえ奪還すれば魔法が使えますから、アレクさんが戻り次第、居残り組と合流して王国へ反撃する。これが私の作戦です」

「もう一つ、個人的な頼みがあるんだが……」


 アズリエルが控えめに提案する。


「なんだ?」

「私を逃がすために捕まった姉を助けてほしいんだ。名はイスラフィール」

「先生が?」

「ん? マーリン、知り合いか?」

「あ、いや……」


 どうにも歯切れが悪い。隠すようなことなのだろうか?


「まあいい。……ただ、こんな言い方をするのもどうかと思うが、もう殺されてるんじゃないのか?」

「姉は私や旧魔王軍へのけん制のために生かされている可能性が高い、と思ってる」

「ボクもそう思います。まだ生きているでしょう。魔族領では旧魔王軍による抵抗があるので、これを押さえておく必要があります。少なくとも、エクスカリバーを確保して完全有利な体制を作るまでは無事なはずです」

「なるほど。そうなると、潜入と破壊工作に加えて救出も、しかも魔法は無しでか。ずいぶん歯ごたえのありそうな依頼だな」

「私が旧魔王軍と合流できれば、反攻作戦を立てて隠密行動もしやすくなるか?」

「そうだな。魔王領に着いたら、まずは旧魔王軍を指揮してるヤツと接触するところから始めよう」


 食事の準備が出来てルビーが呼びに来たので、二人との話はそこで終わった。




「魔法なしで君が戦えるとは思ってなかったよ、ジャスミン」


 夕食後、ジャスミンに声をかける。夕食時はみんなに俺とメメントが村を離れている間の出来事を伝えておいたので、居残り組の話を聞くのはこれが初めてだ。


「あなたが王国に追われてたおかげね。あの連絡のあと、私、メメント様の真似をしてエレメントを作ってみたのよ。村の防衛のためにって。でも実際に襲ってきたのは魔族で、なぜか魔法は使えないし、用意したエレメントもあんまり戦力にはならなくて。もう危ないって時に、エレメントが動くなら私が直接動かせばいいんじゃないかって思ったの。それが正解だったみたいで、なんとか足手まといにはならずに済んだってわけ」

「流石は聖女様だな」

「茶化さないで。私、本当は怖かった。でも、この村を守るのはアレクとメメント様の頼みだもの。結界は破られちゃったけど、留守番もできないようではメメント様の一番弟子としてあんまり情けないじゃない」

「悪かったよ。あの状況で持ちこたえたんだ。十分すごい。よく頑張ってくれたな」


 なぜかジャスミンは赤くなっていた。慣れない戦い方で疲れたのかもしれない。


「うん。アレクも無事でよかった……その、アレク?」

「どうした?」

「あ、えーっと……あのマーリンって子とは、どういう関係なの?」


 ジャスミンらしからぬ、取ってつけたような質問だった。マーリンの正体について気になるのは俺も同じだが、知らないものは答えられない。


「あの子は俺たちを助けてくれたんだ。さっきも言ったろ?」

「本当にそれだけ? あの子も結構美人だったし、王都で何かあったんじゃ……」


 いつか路地裏でも聞かれたような話。ジャスミンはこういう話が好きなのか? 俺はそういう冗談は好きではない。


「勘弁してくれよ。じゃあ俺は先に寝るぞ、おやすみ」

「あ、ちょっとアレク……はあ。何でこんな事しか言えないのかな……」


 最後に何か言っていたが、疲れがあったこともあり面倒だったので、そこでジャスミンとの話を打ち切ってその場を後にした。




「アレクや。この状況、お主はどう見る?」


 家に戻って横になっていると、いつの間にかメメントがいて小声で俺に話しかけてきた。


「どうもこうも。王国と魔族の両方から狙われていて、魔法は使えない。特にお前とジャスミンの戦力低下が痛いな。なのに敵はそれを逆手にとって薬で身体強化して攻めてくる。王国は遺物まで持ち出して……おまけにこっちの遺物はガレキの下。お手上げだな」

「王国に残したエレメントからの情報じゃが、わしらは魔王の手先として指名手配されておる」


 逃走中に残したエレメントを活用して早くも情報収集をしているとは、流石に知恵が回る。


「……メメント、やっぱりジョーは生かすべきじゃなかったかな?」


 俺たちが魔王といるのを見たのはジョーだけだ。マーリンの言う様にジョーを殺していれば、遺物の脅威を排除できた上に魔王の手先扱いもなかっただろう。


「わしらは元々重要参考人として逃げてきたんじゃから、どっちみち指名手配は避けられん。冒険者殺しの罪人か、魔王の手先かの違いはあるがの。魔王の手先も容疑の段階じゃし、殺さんで良かったよ」

「そうか。……そういえばさっき、助けてくれたろ? ありがとな」

「村での戦闘のことか? あんな横槍、お主には不要だったじゃろ。それより……なんじゃ、さっきからお主らしくないの」

「別に……。ちょっと疲れただけだ」


 俺はそう言って、メメントに背を向けるように寝返りを打った。


「そうじゃな。わしも疲れた。邪魔して悪かったの」


 部屋を出ようとするメメントを引きとめて、俺はもう一つだけ尋ねる。瞼が重かったが、もう一つだけ聞いておきたい。


「……マーリンのこと。知っているか?」

「いいや、わしもあの森で初めて会った。なのにわしのことも、村の遺物エクスカリバーのことも知っておった。敵ではなさそうじゃが、何者なんじゃろうな」

「さあな……」


 最後にそう言った気がする。そこで俺の意識は途切れ、深い眠りに落ちていった。


「あの子、何となくお主に似ておるような気がするの」




 早く寝たせいか、早くに目が覚めた。散歩がてらルビーを探していると、家の屋根の上に座っていた。


「おはようルビー。見張りご苦労さん」

「あ、アレク様。おはようございます。早いですね?」


 こちらに気付いたルビーと挨拶を交わす。話しかけた瞬間、少しだけ表情が明るくなったように思う。


「まだ早朝とはいえ、寝すぎたくらいだよ。悪いな、ルビーも疲れてるのに」

「とんでもないです。それにあたしは、というか猫魔族自体がもともと夜型なんで」

「そうなのか? いつも早起きしてたから、そんな風に思わなかったな」

「それは二人とも修行を頑張ってたので、あたしも頑張らなきゃって思って」

「ルビーは偉いな。ともかく、昨夜はルビーのおかげでよく休めたよ。ありがとう」


 頭を撫でてやる。少しくすぐったそうにしているが、嫌がっている感じではない。


「いえ。アレク様の力になれたなら、良かったです」

「それにしても、大変なことになったな」

「そうですね。遺物を取り出して……魔法を使えるようにするんですよね? マーリンちゃんが言ってました」

「そうだな。おそらく俺とアズリエルで魔王領に向かうことになるだろう」


 反応がないのでルビーを見ると、目が閉じかかっている。


「見張り、交代するから眠ってきな」

「ふぁい……おやすみなさい……」

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