お前たちの好きにはさせない
村に着くと、もう日が沈み始めている。村はマーリンに聞いていた通り、魔族に襲われていた。
襲撃開始からあまり時間が経っていないのか、結界こそ破壊されていたが敵の数は少ない。まだ被害はそこまで大きくないようだ。村へ近づいていくと、留守を任せた二人の姿を見つけた。ルビーは巨漢の魔族と睨み合っている。ジャスミンは戦力外かと思ったが、メメントが使うのに似た、エレメントのような水の塊を使って戦っていた。
「急ぎましょう。ボクは遺物の防衛に向かいます。アレクさんはお二人を」
「わかった。メメント、アズリエル。お前たちはここにいろ」
「ま、仕方ないのう」「わかった」
アズリエルを降ろし、二人を村の外れに置いてジャスミンたちのもとへ急ぐ。
「大丈夫か?」
「アレク様!」「アレク!」
ルビーもジャスミンも大きなケガはない。一安心だ。敵は六人。なんとかなりそうだ。
「アレク・サンドーラ? 不在ではなかったのか!」
大柄で角の生えた魔族が俺を見て騒ぎ出した。体だけではなく声も大きい奴だ。
「悪いが、もうお前たちの好きにはさせない」
「仕方ない、これを使うぞ……」
「ああ」
魔族たちは示し合わせたように懐から何かを取り出し、口に含む。
「させるか!」
俺は魔族が口に含んだそれを飲みこむ前に斬り込んだ。
二人までは斬り伏せることができたが、他の魔族はみるみる体が膨らんでいく。
「アレク様! これって……」
その様子を見てルビーも思い出したようだ。少し青ざめている。
「ああ。あの時の薬だろうな」
グランドケイブで初めてルビーに会った時、マスク姿の人物に捕まって薬の研究を手伝わされていた。
そこで開発されたものと服用時の急な体の膨らみ方がよく似ている。それに、先ほどジョーが使ったものもそうだ。
「覚悟しろ、アレク・サンドーラ!」
残りは四人。声の大きい魔族が俺に向かってくるのかと思いきや、こちらには別の二人が立ちはだかる。
「俺がまずこの二人をやる。その間、できれば一人ずつ足止めしてくれ」
「やってみます……」「わかったわ」
魔族側もこの布陣で勝機があると思っているようだ。俺の方に二人向かってきた。狐顔の魔族と、狸顔の魔族。狐の方が足が速くスピードで翻弄してくる。狸の方はスピードは並だがパワーがありそうだ。
まずは正面の狸へ瞬時に近づき、剣を振り下ろす。狸は手持ちの棍棒でこれを防いだ。流石に元のフィジカルが強い魔族が薬を使うと伸び幅も大きい。以前やりあったマスク野郎はしょせん非戦闘員だったということか。
剣戟の隙をついて狐が俺の側面へ回り込み、曲刀で斬りかかってくる。俺は跳び退いてかわし、狐の方へ振り向きざまに剣を薙いだ。自分の剣がかわされると見るや狐はすぐさま回避に切り替えて俺の剣から逃れる。
この一合でわかる。こいつらが俺を足止めしているつもりなのだ。その間にルビーとジャスミンを倒し、俺に全員で仕掛ける算段だろう。ルビーとジャスミンを足止めに使い、俺が敵を叩くというこちらの方針と変に嚙み合った形だ。お互い、考えることは同じか。
俺が来た時点で二人は消耗していたことを考えると、のんびりはできない。薬の副作用とか効果時間切れに期待もしない。まず他の二人に手を出せる足のある狐の方を始末したい。狐は不用意に近づいてこないので、釣るためには、まずは狸へ仕掛けなくてはならない。
狸に再び斬りかかる。こいつも無理に反撃はしてこない。防御に徹していれば狐が俺の隙を作るからだ。中々いいコンビだな。実にイライラする。
膠着しそうに思われた形勢だが、意外にもあっさり決着がつく。俺が斬り込むタイミングで狸がバランスを崩し、一撃が通ったのだ。驚いて隙を晒した狐もそのまま斬り捨てて、あとは二人と戦っていた奴らを押し切って終わった。
「流石アレク様です!」
「助かったわ、アレク。ありがとう」
「ああ。二人とも、無事でよかった」
不自然な隙が生まれたのはおそらくメメントの仕業だろう。あいつには後で礼を言っておかなくては。
それからメメントたちと合流して旧メメント邸、今はガレキの山に向かうと、ちょうどマーリンが魔族を倒した後だった。
「魔法は使わなかったんだな」
「こんなところで無駄打ちはできませんから。メメント様、この下のエクスカリバーは取り出せますか?」
「いくらわしでも魔法無しでは無理じゃ。出してあるエレメントをかき集めるまでは待ってくれ」
「……わかりました。では次の襲撃に備えて、今のうちに休んでおきましょう」
「待て、次とはどういうことだ?」
「その前に、あなたは誰なの?」
俺の質問に割り込んで、ジャスミンがもっともな疑問を投げかける。
「ボクはマーリン、皆さんの味方です。アレクさんたちには話しましたが、ここに埋まっている遺物が狙われています。これを狙っているのは魔族だけではありません。王国も態勢が整えば仕掛けてきます。ですが、魔族はさっき倒しましたし、王国もまとまった戦力が揃うまでは手を出さないでしょう。休息をとるなら今しかないかと」
思えば王都から走り詰めだったし、いろんなことがありすぎた。俺たちはマーリンの言う通り、少し休むことにした。
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