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とてもそうは思えないが

 今まで俺の魔法が発動しなかったのは確率がゼロだったのではない。俺の魔法は常に発動確率99%を示していた。だが、一人だと魔法が発動しなかったことはなかったし、逆にパーティで魔法が発動したこともなかったのだ。だから確率なんて信じていなかったが、今回もまた信じられないことになっていた。


 ゼロとは、どういうことだ?


「おいジョー! お前、魔法が使えなくなってないか?」

「関係ないだろ……今、そんなことは!」


 俺に攻撃が当たらず段々イラつきを見せ始めるジョー。こいつはかなり強くなってはいるが、まだ脅威とはいえない。


「仕方ねえ、本気で行くぜ」


 そういうとジョーは攻撃を止めて何か取り出し、口に運んだ。魔法が使えないこの状況、俺から反撃するには間合いが遠い。


「はああああああっ!」


 ジョーの体が大きく膨れ上がる。これは……さっきのはまさか、あの薬か?


「聖剣ミストルテインよ、力を示せ!」


 ジョーはさらに持っていた剣を掲げて叫んだ。よく見ると騎士団長が持っていたものと同じ剣だ。剣は白く輝き、ジョーの呼びかけに応えて力を増していく。身体強化の薬に国宝の遺物。本気というのもあながち冗談ではないらしい。背中に嫌な汗が流れる。


「アレク、逃げて!」


 危険を感じたアズリエルの叫びがかすかに聞こえた。だが、運の悪いことにジョーもこれを聞き逃さなかった。


「やはり魔王! その首、もらったあああ!」


 剣に蓄えた光をアズリエルのいる方角に向けて振り下ろす。守ってやるにも少し距離がある。間に合うか……?


辺りに衝撃が響き、まばゆい光が照らす。アズリエルたちを庇えば俺は防御態勢が取れそうにない。



このままでは俺は……死ぬ。




――――――――



 少しして、剣から放たれた光が収まった。ジョーは俺の正面に、メメント、アズリエルは俺の後ろにいて、ちょうど一直線上に並んでいる。今の一撃を防いだのでは俺ではなかった。俺とジョーの間にもう一人、俺をかばうような位置に立っている人影がある。


「間に合ったみたいだね」


 華奢な体に似合わない大きな籠手をつけた少女。俺がマーリンと出会ったのは、これが初めてだった。


「が……は」


 ジョーが息も絶え絶えと言った様子で、立ったままこちらを睨んでいる。


「へえ、すごい。生身であれを受けて生きてるなんて」


 あの瞬間。俺が身を挺してでもアズリエル達を守ろうとしたとき、こいつはさらに俺とジョーの間に割って入った。そして魔法でジョーの一撃を防ぎ、反撃した。俺の前に立った人物は、その反撃でジョーが生きていることに驚いているようだったが、俺も驚いていた。


「今のは雷魔法か? 君、どうして……」


 俺と同じで、伝説の勇者とも同じ魔法。そして、今は確率がゼロであるはずの魔法。この少女は、それを使って俺たちを助けた。


「あなたが、アレク……さんでいいですか?」


 少女が振り返って俺に尋ねる。俺のことも知っているようだ。


「ああ。確かに俺はアレクだが……」

「ボクはマーリン。あなたの力が必要です」

「とてもそうは思えないが」

「そんなことはありません。それより……急ぎましょう」




「止め、刺さなくて良かったんですか?」


 マーリンと名乗った少女が顔に似合わず物騒なことを口にする。おそらく歳は俺より少し下、ルビーと同じくらいだろうか。下ろせば肩くらいの髪はポニーテールにまとめている。


「ああ、どうせあの様子じゃ戦えないだろうし。魔法無しじゃ復帰まで相当かかるだろう」

「せめて武器くらいは奪えばよかったのに。離さなければ最悪、握ったままの腕ごと回収すれば」

「まだ意識があったし、下手に手を出して暴れられでもしたら面倒だ。それに、急ぐんだろう?」


 今、俺たちは四人で村へ向かっている。森では足の遅いアズリエルだけは俺がおぶっていくことになった。


「まあ、そうですけど。後の戦いが楽になると思うんだけどなあ」


 マーリンは非常にシビアな考え方をする。歳は近いはずだが楽観的なルビーとは大違いだ。こういうところは俺の発想に近いかもしれない。


「それで、どうして急ぐ必要があるんだ?」

「村が……メメント・モリが襲われています」

「王国か。いくらなんでも早すぎんか?」


 メメントが疑問を呈する。


「いえ……魔族からです」

「何? 魔族が?」


 背中からアズリエルが顔を出した。


「状況がぐちゃぐちゃだな。それに、そんなことどうして知っている?」

「今プロバビロンを乗っ取っている一派の動きを追っていました。魔族の狙いはメメント・モリにある遺物です。魔法が使えないこの状況、遺物の価値が大きくなっている」

「君は魔法を使えたじゃないか。それも、遺物なのか?」


 俺は籠手を顎で指して尋ねる。


「これは遺物ではありません。ただ、魔法を事前に蓄えておけるアイテムです。プロバビロンは発動済の魔法には影響ありませんから」

「へえ、便利なものだな。まるでこうなることがわかってたみたいだ」


 マーリンは何も答えなかった。わからないことは尽きないので、俺は別の質問をする。


「俺の協力が必要とはどういうことだ?」

「詳しくは落ち着いてから話しますが、アレクさんにはプロバビロン奪還をお願いしたいのです」


 奇しくもアズリエルと同じ依頼だ。しかし、なぜどいつもこいつも大して仲良くもない俺を頼るのだろうか。


「魔法が使えるマーリンの方が適任だと思うが」

「蓄えている魔法には限りがあります。それにボクは……弱い」


 浮かない顔のマーリン。夕暮れはそんな彼女の哀愁を助長しているようだった。

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