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ゼロだと?

「ああ、ああ。警戒しておいてくれ。頼むぞ、ジャスミン」


 森を進みながら、エレメントでの通信で先に村へ連絡をしておく。


「アズリエルの場所がわかればいいんだがな」

「村の近くまできておれば、エレメントを通じてわかるんじゃがの」

「手負いだし普段は飛んで移動する翼魔族の森歩きだ。あっさり王国の追っ手に捕まってるかもしれんな。少し合流しやすそうなルートに変えるか?」

「なんじゃ、そんなにアズリエルが心配か? まさかお主、惚れたのか?」

「何言ってんだ。あいつが王国に捕まったら、あの面倒な盾が王国に使われるだろうが」


 せっかく解禁した雷魔法を封じられるのはあまり面白くないだけだ。


「ま、そういうことにしておくかの。しかし一緒におるところを見られたら、さらに立場が悪くなることを忘れるでないぞ」

「うるさいやつだ。メメント、そろそろバフの上書きを頼む」

「やれやれ。うるさいのはお互い様じゃな」


 街道を馬車で数日の距離を、俺たちは森を駆け抜けようというのだ。そのくらいなくてどうする。


 バフをかけなおしてルートを最短距離から変更してなおも進んでいく。森を進んでいるのに、魔獣の類は一切出会わない。先日の魔王軍との戦闘で俺がせん滅してしまったのかもしれない。俺たちは適当な間隔で、バフのかけ直しがてら休憩を挟みつつ進む。少しずつ日が傾き始める頃、前方で木が折られたような音と衝撃が走った。戦闘か?


「メメント、急ぐぞ!」


 音がした場所に近づくと、やはりアズリエルと王国の兵士だった。


「貴様ら……命が惜しくないのか?」


 ボロボロのアズリエルが、数人の傭兵たち相手にそう強がっているのが聞こえた。


「へっ、さっきからそう言って全然撃ち返してこないじゃねえか。もう魔力が残ってないんだろ? 安心して殺されろや。これで晴れて俺たちの隊も昇進だ」


 雷魔法【中】雷伝。


 少し距離があったが、同じ隊員と思しき数人をまとめて気絶させる。その光の出どころに翼魔族の少女が気付くと、よろめきながら近づいてきた。


「あ、アレク……どうしてここに?」

「お主を助けるために大慌てで来たんじゃよ、アズリエル」


 メメントが茶化した。ここまでハイペースだったので、さすがの大賢者も少し汗をかいているようだ。


「誤解させるような言い方は止めろ。久しぶり……でもないな、アズリエル。ずいぶん人気者じゃないか」


 俺は挨拶がてら軽口をたたいたのだが、アズリエルは深刻そうに俺に縋りついた。


「会えて良かった……大変なことになったんだ。おね……いや。プロバビロンが乗っ取られた」

「プロバビロン?」


 聞きなれない言葉に、メメントの方を見る。彼女も首を横に振った。


「あらゆる魔法から魔力を抽出するための……いや、魔法の確率操作システムと言った方がわかりやすいか。代々翼魔族の魔王が管理していたんだが……」


 ずいぶんタイムリーな話題だ。


「そろそろ発動される頃だ。そうなってはまた魔法は失敗するようになる」

「もう目的は果たしたんだろ? なんでまた?」

「膨大な魔力を集め続けるシステムだ。狙っている野心家は少なくない。先日の一件で魔王軍が弱っているとみて、魔王の座を奪うために動いたんだと思う」


 メメントはそう話すアズリエルの手当をしている。


「プロバビロンがまた起動すればあなたたちも困るだろう? だから手を貸してほしい」

「話はわかったが、なぜ俺に?」

「だって、他に頼れそうな相手がいないし……」


 悲しい。とはいえ魔族の内輪揉めだし、表立った戦争はなくとも対立している人族に助けを求めるわけにもいかないか。


「……後ろじゃ、アレク!」


 その時、俺の背中を狙った何かが矢のような勢いで周囲の木をなぎ倒しながら飛んできた。俺はそれを振り返って剣で防ぐ。斬った感触からは魔力の塊のような実体のないものだと感じた。それを放った者がすごいスピードでこちらへ向かってくる。追っ手にしてはずいぶん早い到着だ。


「隠れていろ」


 アズリエルに避難を促し、俺は相手を待つ。


「よお、こんなところで会うとは奇遇だな? アレクよ」


 先ほどの攻撃を放った人物の、聞きなれた挑発的な声。


「ジョーか?」

「そうだとも。勇者ジョー・ダイエンだ。悪いがアレク、お前を重要参考人として連行するぜ」


 元パーティメンバーに追われているなんて、嫌な縁だ。


「できるかな? 以前俺に瞬殺されたのを忘れたか?」

「覚えているとも。だからこそ復讐のために俺が来たのだ。それよりも、今お前は誰と話していた?」

「大賢者だが、それがどうした」

「いや、魔王がいたように思ったんだが、俺の見間違いか?」


 おそらくわかっていて聞いているのだろう。まともに返答する義理もない。


「そうだろうな。お前は昔からよく見間違いをしていた」

「いいや、違うな。今の俺は昔の俺とは違う。お前を痛めつければ魔王が助けに出てくるかな?」

「お前は昔から、できもしないことをそうやって声高に宣言していたな」

「ほざけ! そんな口がきけなくしてやる」


 ジョーはそう言って間合いの外から素早く剣を振り降ろし、衝撃を飛ばした。こんなに早く剣を振れるようになったとは驚きだ。それに剣を振って斬撃を飛ばすなんて、まるで剣の達人のようじゃないか。この短期間に一体何があったのだろう。だが、まだ遅い。


 雷魔法【極大】雷閃。


 俺は魔法を放ち、斬撃ごとジョーを一撃でノックアウトする――そのはずだった。


「っ……!」


 魔法は発動しなかった。驚きながらも俺は飛んできた斬撃をとっさにかわしたが、地面を転がるような形になってしまった。


「ハハハッ! 無様だなあアレク!」


 笑いながら斬撃を連続で飛ばしてくるジョー。俺は起き上がりながらもそれをかわす。もうプロバビロンとやらが起動したのであれば説明がつく。しかし、先ほどパーティを抜けたつもりだったが抜けられてなかったとは、失態だ。ジョーの猛攻をかわしながらもパーティを抜けようとステータスを確認して、俺は目を疑った。


「発動確率……ゼロだと?」

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