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お初にお目にかかります

 結局は俺が一食では考えられないような額の支払いを済ませ、城へ向かった。


 以前一人でグランドケイブを攻略したときの蓄えがなければ、危うく別件で王の前に連行されているところだ。もう余分な金はないので何も買えないと伝えたが、メメントが見るだけでもというので少しだけ商店を見て回ってから城を訪れた。もし潤沢な資金があれば俺たちは騎士団長との約束を反故にしていたかもしれない、メメントはそのくらい通りがかりの店全てで足を止めていた。


「近くで見ると……大きいのう」


 城の前で口をぽかんと開けるメメントをよそに、俺は門番に名を告げる。彼らはすぐに騎士団長へと取り次いでくれた。


「お待ちしておりました。どうぞ」


 城の中は見た目通り広く、よく手入れされている。当然だが王には先客があるとのことで、俺たちは一度待合室のような部屋に案内され、少し待ってから謁見の間へ通された。



「よくぞ来られた、大賢者よ。それに冒険者アレク・サンドーラ。お会いするのは初めてだな。ギルバート・ヘーゼルウルク四世だ」


 歳は騎士団長よりもさらに上、だが王というには少し若い印象を受けた。騎士団長と比べても見劣りしない体格のせいだろうか。髭は騎士団長よりも長く伸ばしていて、厳しい目つきと合わせて威厳を感じさせる。謁見の間には俺たちを警戒しているのか、衛兵の数がかなり多いように感じた。


「ああ、わしが大賢者メメント。わしが国王と会うのは、そうじゃな。お主の祖父ヘーゼルウルク二世がお主ぐらいのときに会って以来かの」

「お初にお目にかかります、陛下」


 王に対してのメメントの態度で、今俺の隣に立っている女がこの中ではるかに最年長だという事実をあらためて思い知らされる。一体何歳なんだこいつ。


「そうか。今日はそなたの年の功を見込んで、知恵を貸してもらうためにわざわざ足を運んでもらった」

「そちらの騎士団長より聞いておる。じゃが、残念ながらわしの力になれることはなさそうじゃ」

「というと?」


 王は驚きもせず、髭を撫でながら説明を求める。


「そもそもの話じゃが、わしは確率というものがいつから設定されておったのかさえ知らんかった。わしが生まれた頃にはそんなものなかったからの。それが先日アレク達に言われ、そこで初めて気になって調べようとしたんじゃが、今度はいつの間にか無くなったという。それならばもう良いのではないかと思っておるんじゃが、それでは納得できんかの?」

「設定された原因も、なぜ無くなったのかもわからない。国を運営する立場としては、民の生活を大きく左右する事象がそんな天災のように気まぐれに起こってはたまらんのだ」


メメントの遠回しな断りに一切引かない王。その言葉は国の指導者としてはもっともな意見だ。


「言いたいことはわかる。じゃが、調べようにも、今は難しい。先日、わしの村で起こった戦いのことはもう知っておるな? あのとき防衛で力を使いすぎて、世界に放っていた情報収集用のエレメントをほとんど回収してしまったのでな」

「情報なら我らが集めたものも使ってくれて構わん。そのための資料はまとめさせてある」


 王が合図をすると、衛兵が大量の紙の束を持ってきた。


「……わかった。目を通したうえで、新たに考えがまとまったらわしの推測を話す。期待される結果は出せんかもしれんがの。それでよいか?」

「ああ、構わない。こちらとしては少しでも情報が欲しい所だからな。……アレク君の考えも聞きたいのだが、どうだ?」

「私の意見は、大賢者様と同じです」


 俺は感情を殺して返事をした。あれほど膨大な資料、目を通すだけでも大変だ。何かいい方法はないだろうか。


「そうか。君も資料を見て、少しでも気付いたことがあれば言ってくれ」

「わかりました。あの、陛下……」

「どうした?」

「少し話を聞いてみたいのですが、この資料をまとめたのはどなたでしょうか?」

「研究チームのリーダー、ダリウスだ。そうだな、彼の意見も参考にするといいだろう。話を通しておく」

「ありがとうございます」

「それでは下がってよい。資料は部屋に持って行かせよう。考えがまとまったなら教えてくれ。それまでは来客用の部屋を使うといい。世話係をつけるから、他に必要なものはその者に伝えてくれ」


王との面会はそこで終わった。




「最後のは良かったぞ、アレクよ」


 案内された部屋に着くなり、メメントが気持ちの悪いことを言い出した。


「何だ?」


 俺はつい眉をひそめて聞き返す。


「だから、最後に資料をまとめた者を聞いたじゃろ? あれでぐっと動きやすくなったという話じゃよ」

「俺は資料を見るのが面倒だから、識者に話を聞いた方が楽だと思っただけだ」

「それでもじゃ。お主は早速ダリウスとやらに会って来てくれ。わしは一応あの資料の山に目を通さねばならん。後で擦り合わせようぞ」

「わかった、行ってくる」

「こうして分担できるのも、お主の手柄じゃよ」


 人と話すのは得意ではないのだが、ひたすら資料を眺めるよりはマシか。俺は案内されたばかりの部屋を出て、ダリウスに会いに向かった。


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