金は持っているのか?
数日後、昼前には王都に着く。周囲を高い壁に覆われており、出入り口には検問がある。騎士団長が何やら話していたが待ち時間もほとんどなく、すんなりと入ることができた。ここまで王国自慢の駿馬に引かせた馬車で来たのだが、王都に入ってからはメメントが街を見たいと言って聞かず、中央の広場で一度馬車を降りたところだ。
「ほー、ここが王都か。ずいぶん立派になったのう。おいアレク、あの店はなんじゃろな? ちょっと覗いてみんか?」
大人のメメントがはしゃいでいる姿は俺も見慣れない。それは行き交う人々も同じ気持ちだったようで、周囲からも好奇の目を引いている。誰がどう見ても立派なおのぼりさんだ。
「先に王城へ向かって、王都の散策はそれからの予定だって馬車で話したろ」
俺は呆れながらメメントを制する。
「まあまあ、そう言うでない。ちょっとくらいええじゃろ?」
そう言ってメメントは監視役の騎士団長をちらちらと見やる。ウインクまでして、どれだけ欲望に忠実なんだ。賢者という肩書の再定義が必要なんじゃないか?
「今更逃げたりはされないでしょうし、城には昼食の後でも構いませんよ。ただ、徒歩で来ていただくことになりますが……」
根負けしたのか、面会前に大賢者様の機嫌を損ねたくなかったのか。騎士団長は苦笑いで了承した。
「それで構わんよ。いやー話が分かるのう、騎士団長殿は! どこぞの真面目君とはえらい違いじゃな」
メメントは上機嫌でザカライアの鎧をばしばし叩き、こっちをどや顔で見ている。
「ふん。まあ騎士団長がそう言うならいいんじゃないか」
俺はため息を一つ吐き、二人の決定に従う。どうせ俺は大賢者様のおまけだ。
「それでは、城の門番には私から話をしておきますので、あまり遅くなりすぎないようにお越しいただけると助かります」
「うむ、そうしよう」
そこで騎士団長と別れ、俺たちは店を見回ることになった。
「はあ~、食った食った。王都の食はなかなかレベルが高いのう。これは村でも広めていかなくてはな」
大賢者様は腹が減ったとのことで、メメントの見立てで高級そうな店に入ることになり、食事を済ませた。店内は半個室になっていたので正確にはわからないが、店の広さに対してお客は少ないように見える。落ち着いて話をするにはちょうどいいし、そういう店なのだろう。
「それで、どうするんだ?」
「ああ、わしはこのおススメのトゥンカロンなるものが気になっておるんじゃが、お主はどうする?」
キラキラした目でメニューを指さすメメント。完全に目的を忘れていないか?
「デザートの話じゃない。王との謁見のことだ。その打ち合わせで騎士団長と別れたんじゃないのか?」
「なんじゃ、そっちか。あ、お嬢さん。追加のオーダーいいかの? トゥンカロンとコーヒーを二つ頼む」
かしこまりました、と店員のお姉さんは笑顔で注文を聞いていった。
「それで、謁見でどうするかじゃったな。要は真実を伝えるか、理由などわからんとごまかすかじゃろ?」
「そうだ。どうするんだ?」
「知らんふりでええじゃろ。やっぱりお主は真面目じゃな。どうせ何と答えようが証拠などないんじゃから」
真面目というか、相手は国だ。慎重に立ち回らないと難癖をつけられて厄介なことになる。
「それはそうだが……。王が既に何か掴んでいたらどうする? 嘘だとバレたら面倒なことになるぞ」
「その時はその時じゃ。それとも全て話してしまうか? 魔王のことも、サリーのことも。そうすれば王国は今が好機と魔王領に攻め入るかもしれんし、わしらに情報提供料として報酬をよこしたりするかもしれんの? 逆に魔王と通じているとして、わしらが裁判にかけられることもあるかもしれんぞ?」
「だからこうして今、面会の前に話をしているんだろう?」
「同じなんじゃ、どちらでも。ならばあえて情報をくれてやる必要はないんじゃよ」
どうも腑に落ちないが、方針自体は俺と一致しているようだったので追及はしないことにした。
「お待たせいたしました、こちらトゥンカロンでございます。コーヒーにもよく合いますよ。ごゆっくりどうぞ」
「おお、すまんな!」
大量の菓子を前にメメントの意識はそちらにくぎ付けにされた。
「わかった。俺も話したくはなかったし、お前に合わせるよ」
「そうかそうか。ま、今回お主は付き添いじゃからな、わしにどーんと任せておけばよい。どれ、味の方は……」
これはもう俺の言葉など耳に入っていなさそうだ。一つを口に放り込み、ぱっと目を見開いたかと思うと今度は頬が緩んでいる。
「ウマいのう、このトゥンカロンとやらは。上品な甘さと口溶け……。確かにコーヒーにも合いそうじゃ。なあアレク、日持ちするならこれを土産として持ち帰らんか?」
「後で聞いてみな。お前の魔法で凍らせれば多少は大丈夫じゃないか?」
「それはいい考えじゃな。おっと、そういえばもう一つ話があった。あの騎士団長のことじゃ」
菓子を頬張りながら、メメントは次の議題へと進む。
「ザカライアだったか。あいつがどうした?」
「あいつよりも、その装備じゃ。鎧は高度に魔法的な加工が施してあったし、それに持っていた剣の一振り。……あれは遺物じゃった」
「遺物って、古の勇者とかの装備、だったか? まあ、騎士団長だからじゃないのか?」
「遺物は国防の要じゃぞ? 戦闘でもないのに、たった一人で外に持ち出すような運用をするバカはおらん。王がよほどの間抜けでなければ、この国の力は案外侮れんかもしれんな」
「その遺物を使っての力づくになってでも俺たちを連れてこさせる必要があったということか?」
「いや、わからんが……。ともかく、注意せえよ」
気付くとメメントは最後のトゥンカロンを頬張っていた。俺はまだ一つも食べてないんだが。
そろそろ会計をして城へ出発しようというとき、俺はふと気になってメメントに質問した。
「ところでメメント。お前、金は持っているのか?」
「は? わしは国賓じゃぞ? どうしてわしが金を出す必要があるんじゃ」
こいつは何を言っているんだ?
「騎士団長と別れておいて、一体それを誰が証明するんだよ」
「ふむ……?」
賢者という言葉の再定義は大至急行うべきだと、王に進言することにしよう。
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