011.解放
「メメント。見つかったか?」
東側の敵を一掃し、村へ戻って来た。だが、メメントと連絡がつかない。
とはいえ村の中は結界内だ。あいつに何かあれば結界が維持できなくなるはず。
「ちっ。連絡用のエレメントも万能じゃないな」
何度か話しかけたが一向に返事がない。俺はこのエレメントに期待するのを止めた。
村の中は戦闘の気配もなく、静まり返っている。
「仕方ない。手がかりもないし、一度メメントの家に向かおう」
秘密主義のメメントのことだ。どうせ秘密の地下室とか隠し扉とかそういったものがあるのだろう。
そんなことを考えていたが、当たりだった。メメント邸の玄関をくぐる。中は明かりも灯っておらず誰もいない。ただ、床には水と泥で作られた足跡が残っている。辿っていくとその先はメメントの私室に続いていた。
戸は開いたままになっており、中では地下へ向かう階段が顔をのぞかせていた。
魔王が先に来たのならもっとボロボロなのかと思ったが、綺麗なものだ。よく見るとこの階段から先にも結界が貼ってあるらしい。
俺は先ほどまで期待していたエレメントに再び話しかける。
「ルビー。終わったらメメントの家に集合だ。地下室がある」
「わかりました!」
「危なかったら無理するなよ」
「んー……こっちは大丈夫そうです。でも、心配してくれてありがとうございます!」
ルビーとは繋がっているようだ。連絡がつかなくて面倒な思いをしたので、俺はちゃんと行先を伝えておく。
「さ、行くか」
闇の底に待つものは。魔王か、それとも。
「――それで今、どういう状況なんだ?」
地下にはそれなりに広い空間があり、隅にはいくつかの石碑が並んでいた。
その部屋の中央には台座、そばには魔王がいて、少し離れてメメントがこちらに背を向けて魔王と向かい合っている。
「その子を解放してくれんか、アズリエル」
「勇者か。丁度いい。そこで見ていろ」
よく見ると魔王の腕にはジャスミンが抱かれていた。
まだ意識が戻ってないようだが、人質ということか。
それに、何かの儀式の最中のようだ。
「ジャスミンをどうする気だ?」
「別にどうもしないさ。儀式を邪魔されないための保険だよ」
「儀式だと?それが襲撃の目的か?」
「もちろん。その様子では、賢者からは何も聞いていないようだね?」
「おそらく勇者の遺物が狙いだろう、としか」
横目でメメントを見たが、当のメメントはこちらから目をそらしている。
こいつはわかっていて黙ってたのだ。
後ろめたいことでもあるのかもしれない。
「まあ、言いづらいだろうね。世間でいうところの邪神が、まさか村の地下に封印されてるなんて。」
「邪神?大昔に勇者が封印したっていうあれか?」
「そうとも。だが、できれば邪神とは呼ばないでくれないかな?それは我ら翼魔族の神だ。世間にとっては邪神でも、我らには尊い柱なのでね」
「それは初耳だな」
「名をサリエルという。神格化を受けた後に、個人的な理由で神の力を振るってしまった。それ故に、勇者に封印されたのだ」
「それは……!」
メメントが異議ありと言わんばかりに声をあげる。
「どうした賢者?君の方が詳しいだろう?実際に封印に立ち会ったのだから。なんなら私の代わりに勇者に話すかい?」
「……。」
「ふん。まあいい。ともかくサリエル様はその出来事が元で邪神と呼ばれるようになった。神の乱心、そして封印。その結果がもたらしたのは、かの神が守護する種族の堕落。それ以来、我らの白い羽は黒く濁ってしまった。あの日以来、我々が天使族と呼ばれることは無くなってしまったのだ。加護を失い、魔力も大幅に衰えた。これが翼魔族の始まりだ」
アズリエルは儀式を終えたようだ。足元から大きく地鳴りがする。
地下だがこのまま生き埋めになったりしないだろうか?
「我らの目的はサリエル様を解放し……滅ぼすことだ。そして新たな神を立て、翼魔族に、いや、天使族に白い翼を取り戻す!」
アズリエルは、そう力強く言い切った。だが、そもそも。
「神を倒すことなどできるのか?」
「できるとも。勇者である君が味方してくれればね」
「偉そうに語った割にはずいぶんと人任せな考えだな?」
「もちろん他にも方法は考えてあるよ。だが、我が軍勢が壊滅した今、君の力を借りるのが最も確実性が高い。それに、封印が解かれれば君は協力せざるをえない。この村を守るためには、ね」
アズリエルが不敵に笑い、地鳴りが止んだ。
中央の台座から手のひらサイズの球体が浮かび、ヒビが入っていく。
「長かったよ、ここまで。魔法発動を失敗に見せかけて魔力を集めるシステムの構築が難航したんだ。大賢者に悟らせないための高度な偽装魔法の組み込みも必要だったしね。世界中からほんの少しずつ、封印を解くための魔力と、弱体化した我らが賢者を倒しきるだけの魔力を吸収した。ここまで魔力を集めきるのは、本当に、長かった……」
恍惚と言った様子でアズリエルは語り続ける。
その内容はルビーの語った都市伝説が事実だったことを示した。それにやはり認識阻害の魔法があったようだ。
知らなかったとはいえ、意図的に失敗を重ねる先日の修行は裏目だったかもしれない。
「では魔法はもう失敗しないのか?」
「もう魔力を集める必要が無くなったからね。魔法の確率表示も消えているはずさ。」
ステータスを確認してみる。そこには確かに忌々しい発動確率の表記はなくなっていた。パーティを追放された元凶が、こんなにもあっさりと。
「さあ、復活だ!」
ヒビが入った球体がついに砕け、辺りは眩い光に包まれた。邪神サリエルが復活する。
「サリー……」
メメントのかすかな呟きは、封印の砕けちる音にかき消された。




