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010.反撃

 まずは魔王様に挨拶しなくてはな。

 結界の内から駆けてきた勢いのまま、メメントと交戦中のアズリエルに横から斬りかかった。


「ちっ!邪魔を……!」


 アズリエルは俺の斬撃を盾で防ぎ、態勢を崩しつつも勢いを後ろへ飛んで逃がす。

 そこに俺よりわずかに遅れて突っ込んできたルビーが、追撃の蹴りを見舞った。


「とりゃあーっ!」

「ぐぅっ……!」


 魔王といえどもルビー渾身の蹴りでダメージが通ったようだ。

 先ほど俺を挑発したときの余裕ぶった顔がわずかに歪む。


「アレク、ルビー。うぐっ……」

「よおメメント。まだ動けるか?」

「なんとかの」


 少しふらついているようだが、杖もついているし大丈夫だろう。


「ルビー、ここは俺が。君は向こうのザコどもを片づけてくれ」

「わかりました!任せて下さい!」


 いい返事だ。

 ルビーをほぼ壊滅状態のエレメント達の援護に向かわせることにする。


「メメント、戦えるならルビーの援護を」

「全く、人使いが荒いのう。お主も死ぬなよ」


 彼女はため息をつきながらもルビーの後を追ってくれた。

 ダメージもあり疲労の色も濃いメメントだが、戦力としてはまだ十分な力を持っている。

 彼女が限界だというならエレメントも結界も維持できていないはずだ。

 それに、俺の足についてこれる今のルビーが前衛で暴れていれば、メメントも一息つけるだろう。

 残りの問題は。


「勇者一人で私に挑むのか?」


 ルビーの蹴りから復帰した魔王と対峙する。

 メメント相手にはかなり一方的だったのか、魔王には大きなダメージが見られない。驚くべき強さだ。


「形成は逆転したな?撤退するなら今だぞ」

「私に勝てる気でいるとは。笑わせる」

「手負いのメメントも倒せないようではな。魔王の実力も知れてるだろ?」

「では、試してみるか?」


 俺と魔王の一騎打ちが始まった。魔王というだけあって俺の剣を防いでくる。

 しかしこの女、俺には手を抜いているように思えた。先ほどのプレッシャーを感じない。


 何だ?何かおかしい。俺が到着した時点では、会話で時間を稼げば魔王軍が優位になる戦況だった。

 だが今は違う。俺とルビーが戦線に戻り、なぜ今もこいつは手を抜く余裕がある?

 それに、俺が来るまで圧倒していたのにも関わらず、俺が離れている間になぜメメントを倒さなかった?

 ……それとも、倒せなかった?


「お前、魔王じゃないな?何者だ?」

「何?」

「弱すぎる。お前はメメントを追い詰めるようなレベルにない。防御は上手いがな。先ほどの魔王と入れ替わった何者か、だろう?あるいはさっきの手練れ魔王が影武者だったのか?」

「……素晴らしい。まさか気付かれるとは。流石は勇者と言ったところか。確かに私は先ほどの者と入れ替わり、ここに立っている。なぜだと思う?」


 確証はなかったが当たりだったようだ。

 入れ替わりを隠すつもりはなく、時間稼ぎを続ける理由とは?無視して殲滅すべきだろうか。


「大方、既に村に潜入しているんだろうな。そいつが勇者の遺物を見つけるまで、持ちこたえられるといいな?」

「いやはや、手厳しい。しかし、一つ勘違いがあるようだ」

「ほう?」


 問答しつつも横目でルビー達の様子をうかがう。

 ルビーの身体強化はかなり強力なようで、敵を圧倒できている。

 少数の魔族を突撃して倒すのがルビー、範囲魔法で魔獣を減らすのはメメントだ。

 俺の予想通りルビーは少し前のめり気味になっているようだが、そんな彼女をメメントが上手くサポートしてくれている。

 あれならば大丈夫そうだ。


「我々の目的は勇者の遺物などではない。もちろん副産物として手に入ればありがたいがね。この村には他に何があるか、大賢者は言わなかったかな?」

「さあな。」

「おや?勇者ともあろうものが、大賢者に上手く利用されているようだな」

「そんな大賢者でも、いきなり実力行使のお前たちよりはマシだろう」

「はははっ。確かに。では大賢者が明かさなかったこの村の秘密を教えてやろう」

「いらん。消えろ」


 実際に何があるかは自分で確かめるとしよう。俺はそう言うと同時に雷撃を魔王、いや魔王の偽物に向けて放つ。

 パーティは会話中に抜けておいた。


「がは……」

「やはり盾も偽物か。幻覚や錯覚の類か?」


 口をぱくぱくとさせて何か言いかけているようだが言葉にはなっていない。それに、倒しても魔王の姿のままだ。ということは、魔王にかけられた魔法だろう。

 無視してルビー達のもとへ急ぐ。

 突然パーティを抜けてしまったので少しだけ心配だ。




「どうだ?問題はないか?」


 後衛のメメントに合流し、一応尋ねた。


「ま、何とかのう」

「手短に言うぞ。魔王は偽物だった。本物は既に村へ潜入している」

「な、何じゃと!?」


 驚いた様子のメメントに、俺は手短に要件を伝える。


「もう東サイドのエレメントは回収していいぞ。代わりに連絡用のエレメントを寄こせ。ルビーの分もだ。俺たちは他の魔王軍を殲滅するから、お前は先に村へ行って魔王を探せ。居場所の目星はつくんだろ?」

「あ、ああ……わかった」

「一度ボロ負けしてるんだ。直接の戦闘は避けろよ。じゃあな」


 メメントからエレメントを奪い取り、村へ送り出してその背中をこちらも背中で見送る。

 俺は逆方向、戦闘中のルビーの元へ向かった。


「ルビー。大丈夫だったか?」

「あっ、アレク様!どうしたんですか?」


 無事そうな返事で安心した。顔が泥にまみれているが、たぶん俺がパーティを抜けたときに俺のパーティ強化が外れて転んだのだろう。

 ちょっと申し訳ないな。


「ここは俺が引き受ける。ルビーには西の残党を片づけてほしい。できるか?」

「わかりました。でも、魔王は?」

「さっきの魔王は偽物だ。本物はメメントに探させる。ほら、連絡用のエレメント」


 手のひらサイズのエレメントをルビーに手渡した。

 話をしながらも、周りの魔族を適度に雷撃で削っていく。


「あ、ありがとうございます。って、えっ、偽物!?」

「じゃ、頼むぞ」

「えっ、え?はい」


 あまり時間がなさそうので説明はしなかった。現状では俺も全て把握できているわけではないし、仕方ない。

 ルビーも納得したわけではなかったが、踵を返し、すごいスピードで村の結界へ入っていく。素直で良い子だ。すみやかに離脱してくれたので、俺も戦いやすい。


「さあ、待たせたな?」


 既に魔族と魔獣に囲まれているが、問題ない。さっさと片づけて村へ戻ろう。

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