暴走
國武に突き立てたマンゴーシュを引き抜くと共に、奥のほうで燃え盛っていた炎が突如として消える。
「ん? あっちも終わったか」
朽野は月歌が負けた、とは思っていない。
それは根拠の無い信頼ではない。
理由は二つ。
一つはダラスが戦闘慣れしてないこと。
もう一つは相性の問題だ。
ダラスの炎。あれは遠くから見ても破格なものなのは理解しているが、それでも月歌の能力には勝てるとは思えない。
何かを放出するタイプの力に対し、月歌の力は鬼門と言ってもいい程効果を発揮する。
攻撃のパターンをすべて読まれ、分解され、再構成した上で反撃してくる。
逆に、國武のような武器で戦うタイプとは相性が悪い。
多少なら月歌の能力で読むことは出来るが、人や武器などの器の中の力の流れは読みにくいそうだ。
「まぁ、触手とバグの件もあるし、さっさと合流するか」
実をいうと気になる点は幾つかある。
國武は、あの炎をダラスの炎と呼んでいた。
ならば、あのバグをまき散らす触手を操っていたのは誰なのだろうか?
「朽野殿~~~」
遠くから声がした。どうやら岩島達が戻ってきたようだ。
泥だらけで、疲れている様子、HPもかなり削れているが、何かを成し遂げたのだろう。
その表情はかなり晴れやかだ。
あちらはあちらで大変だったのだろう。
朽野は、手を振って答える。
こうして、朽野は再び岩島達と合流出来た。
後は月歌と合流するだけだ。
◇◆◇◆
三人を引き連れて森の奥へと入る。
当初に比べるとバグも触手の数も減っている。
生えている触手もあるが、襲ってくる様子も無く、ただの気味の悪いオプシェと化している。
「なんというか、すべて終わったのかな?」
安部の言葉に、霧崎が首を振る。
「アホですか。この森のバグは消えていません。広がるか縮まるか解りませんがもし広がるようでしたら確実に海老名、厚木間の交易に支障が出ます」
「それにこのダンジョンの素材、あまり求められていないが、それでもここでしか手に入らない素材は確かに存在する。完全に手に入らなくなるとそのうち問題になるぞ」
三人の会話に耳を傾けながらも朽野は考える。
一体、この触手は何なのだろう、と
この世界は現実世界とゲームの世界が融合して出来たものだ。
しかし、現実世界の法則はかき消され、世界の法則はゲームの世界の延長線上にある。
ゆえに、人に作れるのはゲームの延長線上にあるもののみ。ゲームのシステムを悪用、もしくは応用し独自の発展し初めているが、それでもこのような触手を作り出せるような技術は存在しないはずだ。
触手そのものを作り出すだけなら、幾つか候補になるゲームは存在するが、ダンジョン全体という広範囲に根を張り、そしてバグを作り出す能力。
そんなの見たことも聞いたこともない。
色々調べたい、そう思うが……
「まぁ、月歌がダラスを殺さないでいてくれると助かるけど」
國武との戦いは、余裕ある風に戦っていたが、実の処、朽野もそんなに余裕があった訳ではない。
生きて捕らえるつもりだった國武を殺してしまったのがいい証拠だ。
「あ、せんぱーい。こっちこっち~」
しばらく歩くと左方より月歌の明るい声が聞こえてくる。
どうやら、朽野の予想通り、月歌がダラスを倒したらしい。
予想はしてはいたが、少しほっとして声の方向に顔を向ける。
そこには明るい表情で手を振る月歌の姿。マッパで、局部と胸を謎の光で隠した状態で……
パチパチと周囲を焼く黒い炎に照らされ、その足元には、顔をボコボコにされたダラスの姿がある。
何というか、理解に苦しむ光景だ。
案の定、安倍は嬉しそうな声を上げ、岩島と霧島は酸欠の金魚のように顔を真っ赤にして口をパクパクしている。
ドシドシ、と月歌に近づく朽野。その姿に月歌が嬉しそうな声を上げる。
「先輩!僕、やりましたよ。強い相手でしたけどこうして生け捕りにしてやりましたよ。さあ!先輩、思う存分、僕を褒め……ぐえっ!」
そんな馬鹿なことをいう月歌の頭をはたき倒す。
「良いから服を着ろ!」
「え?だって、先輩知っているでしょ?僕の能力、服を脱がないと効果半減するって」
そう、月歌の能力は五感で感じ取ることが大事となる。肌からの感じ取る感覚、つまりは触覚を妨げる服はどうしても邪魔になるのだ。
しかし……
「戦いはもう終わってるのは解るし、『月詠』の効果時間はすでに過ぎているのは解っているんだ。なんで服を着ない」
『月詠』は強力なスキルではあるが、12時間につき5分間しか発動出来ないというデメリットが存在する。
「え?先輩来るの解ってたし、どうせなら誘惑しようかな、と痛っ、痛いですよっ!やめ、ギブですっ!先輩」
朽野の指が月歌の頭にめり込む。俗にいうアイアンクローというやつだ。
「服を着たらやめてやる」
「頭掴まれた状態で着替えなんて出来るはずが、イダ、イダダダダダダッ」
月歌の悲鳴が響き渡る中、安部達三人が困った表情を浮かべる。
「お、おーい。じゃれるのはいいけど、こいつどーすんだよ」
HPがゼロの状態ではあるが、まだ意識がある様子のダラス。
HPがゼロということは、スキルも武器も使えない。
どうやろうと安倍達を傷つけるが出来ない状態ではあるが、この惨状を作り出した東京軍の指揮官だ。
何をしでかすか分かったものではない。
「ん、ああそうだった。で、君がダラスか。あー、そういえばちゃんと名乗っていなかったな。俺の名前は……」
「朽野伸也。現在、東京を統一してている政府の前身、反乱軍を作り上げ、その後神奈川の陰の部隊。深緑の騎士団ダークネスグリーンの元隊長。現在は一介の冒険者として活動中」
スラスラと述べられる朽野の経歴に、小さく苦笑。
「よーく知っているな。なら、俺がどんな人間かも理解しているだろう?」
「ええ、よく解っていますよ。優しく、だけど必要であれば非情なことも出来る人間。ですが、あなたは私のことを知らない」
HPもゼロの状況で敵に囲まれた状態。なのに、ダラスの表情には余裕さえある。
いや、これは余裕ではない。恐らくは……
「自決するつもりか?舌を噛む?それとも……」
ダラスが動く。ポケットから取り出したのはナイフ。自分の首を割かんとナイフの刃を自身に向ける。
「まぁ、定番な行動ではあるわな」
そんなダラスの行動を読んでいた朽野がダラスのナイフを手で受け止める。
朽野の手のひらに突き立てられたナイフ。しかし、HPがゼロのダラスに朽野のHPを1さえ削ることが出来ない。
そのまま、ナイフを奪い地面に押さえつける。
ポケットを漁り、他に何かないか確認。アイテムボックスにしまったアイテムHPがゼロになると取り出せなくなるが、身に着けたアイテムは消えない。
「くそっ、そう簡単に死なせてくれませんか」
「月歌っ、お前しっかり持ち物確認しておけ!」
「あ、あははは、ごめんなさい。なんというか生にしがみ付くタイプだと思ってたので」
確かに自ら死を選ぶタイプには見えない。朽野から見ても何かに忠誠を誓うタイプというより自身の利益を追求するタイプに見える。
「は、はははははっ、確かに東京には愛着はありますし、そこそこの忠誠心はありますが命をかける程でもない。ですが……」
そう言ってダラスの体がガタガタと震えだす。
「アレに逆らうことは出来ない。アレの手にかかるくらいなら死んだほうがマシだ」
彼は転生者だ。
どういう仕組か解らないが、歴史に名を遺す英雄、悪漢しか転生は行われない。
そのような人物が怯え、それに逆らうくらいなら死を選ぶ。そんな相手ならば朽野の耳に入っていてもおかしくないが、正直そこまでの相手は覚えがない。
「あー、しっかりしろ。お前、元とはいえ英雄かなんかだろ?ともあれ、円卓にお前を預ける。その後は、東京に手を出せない場所に連れていかれる。お前にとって幸か不幸か解らないけど、な」
「あは、あはははは、お前は、私のことも、そしてあの人のことも知らない。東京は、お前の知っている東京じゃないんだよ」
狂ったようにダラスは笑い、そして小さく呟く。
「ほら、チェックメイトだ」
その言葉が放たれると共に、邪樹クリフォトがドクン、と大きく震える。
それと共に、大きく揺れ出す大地。それと共に、視界にノイズが走り始める。
「バグ?」
「ああ、でもどうして!!」
今回のバグの発生源。それは触手の大本である邪樹だ。
ダラスの声をと共に動きを活性化させた邪樹。しかし、ダラスのHPはゼロ。スキルは使えないはずだ。
「あは、あはははは、私のオリジナルスキルが『ファウスト』だけだと思いましたか?黒炎を操る力でどうやってあの理の外側にある邪樹を動かせる?」
「お前っ!何をした!!」
朽野がダラスに詰め寄るが、しかしダラスはケタケタと笑うのみ。
「何も?何もしてないさ。ただ、何もできなくなったから暴走した。私のもう一つのスキル『フランケンシュタイン』。そのスキルで私と邪樹は常に接続され制御していた。あれはどーーーしようもない暴れん坊でね。放っておけば、周囲を巻き込み全てを破壊しようとする。
で、今の状況を説明すると私のHPがゼロになりスキルの効果が切れた。つまりどうなる?わかるよね?」
触手の能力。いままでのあの触手が起こした現象を思い出す。
大地に根を張り、広がりそしてその範囲内でバグを撒き散らす、それが際限なく暴れまわるということは……
想像した未来に、朽野達の表情が引きつる。
そんな彼らの表情を見てダラスは、満足そうに笑う。
「さあ?仲良くみんなで死のうぜ」




