恐怖と矜持
今回は短いです。申し訳ございません
「はぁはぁはぁ」
岩島は駆けていた。
「おい、岩島、ペースを落とせ!」
「お前らこそ、ペースを上げろ!」
その彼を追うのは、仲間の二人。そんな言葉が耳に入らないのか一糸不乱に前へと駆ける。
彼らは、朽野に来た道を守るように命令された。
自分の役割を全うすべく走っている岩島、しかしその表情は追い詰められた獣のようだ。
岩島達が朽野に命じられたのは、退路の確保だ。
それは、本来であれば重要な仕事だ。何しろ朽野達の相手は、控えめに言って強敵だ。
たとえ、勝てたとしても余力が残っているとは思えない。
だから、道を確保し、そこを通ろうとする敵を倒すのは、大事な仕事だ。
しかし、同時に、協力して敵を倒すこと。
こちらも重要なことだ。いや、普通に考えればそちらのほうが優先順位が高い。
朽野が最初から通路の確保を命じるのではなく、ついて来させたのは最初はそのつもりだったのだろう。
しかし、その予定が変わったのは、予想より老人が強かったこと
そして、岩島達が予想より弱かったからなのだろう。
つまり、朽野は彼らは役立たずと断じたと言っても過言ではないだろう。
それが、岩島からすれば、とても悔しい。
朽野を格下に見ているからではない。
朽野の強さの一端を見て、そんなことを思える程うぬぼれてはいない。
どこか軽薄な男。その印象は変わらない。だが、その仮面の下には鋭い刃が隠れている。
そのことを理解できたからこそ、彼の指示には従うと決めた。
寧ろ、武人として、格上である朽野の手足となって動けることに僅かながら誇りを持つことが出来た。
だからこそ、手助けよりも、戦いの場から離れるよう指示されたことが悔しかった。
気がつくと、彼が下したマギカの前にたどり着いていた。
マギカの前に広がる巨大な穴。それ以外何もない風景に、僅かながら岩島の心に落ち着きを取り戻す。
「で?少しは落ち着きましたか?」
背後から、僅かに息を切らした霧崎が声をかけてくる。
「ああ、そうだな。役立たず、と思われたのは悔しいが、せめて、我らは我らの出来ることをしよう」
少なくとも、退路確保も大事な仕事であることには違いない。
それくらいの仕事は出来る、と朽野が信頼していると、そう考えよう。
頭をそう切り替えると、霧崎は一瞬、きょとんとした表情を浮かべ小さく苦笑する。
「ああ、そのことではないですよ。もしかして、気づいてない?」
「何がだ?」
「手、震えてますよ」
岩島は、自分の手を見る。
その握りこんだ拳が震えていた。
武者震えか、と一瞬考えたが、首を振る。
(違う。俺は、この状況に恐れをなしたんだ)
岩島は元傭兵。激戦区と言われる四国で生き抜いてきた。
恐怖という感情には慣れ親しんでおり、それゆえに岩島は今まで生き延びてきた。
だが、今回ばかりは、本能の恐怖を岩島は眼を背けていた。
首を刈り取らんとするあの刃。芸術的にまで人の首を切ることに特化したその一撃。
認めたくなかったのだ。
あの一撃を今にも倒れそうな老人が放ったこと。
そして、朽野に言われたとはいえ、祖国の危機的な状況の中で、敵に恐怖し脱兎の如く逃げ出してしまった、という事実を。
「全く、本当に愚かだな。自分は」
「や、岩ちゃん。別におかしくないっしょ。俺なんて少しちびったし」
「……少しだけ?」
「あー、本当少しだけだって!」
霧崎の言葉に、僅かに目をそらす安部。そんな二人の様子に、岩島の肩の力が抜ける。
そんな岩島を見て、霧崎は小さくため息をつく。
「まぁ、朽野さんは私達を退避させる意図を込めて我々にここを守るような命令しましたが、案外、結果的に良かったのかもしれませんね」
「それはどういう?」
霧崎の言葉に、質問しようと岩島は口を開き、そして気づく。
ズシン、ズシン、と僅かに振動する地面。そして、聞こえる人の話声。
視界をそちらの方向に向ける。
そこにいるのは、3体のマギカと5人の東京軍の兵士達。
「さて、どうします?命乞いでもしますか?」
「さあ?リーダー、お前はどうしたい?」
楽しそうな霧崎の言葉をそのまま、安倍に振る。
彼がどう言おうとも岩島はここに残るつもりだが、リーダーの考えを聞いておきたい、そう思ったのだ。
「なあ、岩ちゃん。俺、思うんだよ」
安倍が、あのおちゃらけた安倍が今までにない真面目な表情で、岩島を見る。
「今、この場ってさ。月歌ちゃんにアピールする絶好の場なんじゃないかなって」
きりりっ、とした表情でどうでもいいことをいう安倍に、岩島は小さく吹き出す。
「おま、月歌さん、男だって、朽野さんも言ってたじゃないか」
「あんなにかわいい子が男の子のはずがないっ!いや、寧ろ、月歌ちゃんなら男でもいける!!」
「あー、はいはい。どうでもいいから準備しますよ。ほら、相手も我々に気づいたようですし」
締まらない状況。しかし、士気は高い。
「霧崎。何かいい案はあるか?」
「ええ、一応は」
作戦関係も霧崎は用意している様子。
ならば、すべきことはただ一つ。
「では、行くぞ」
この拳をもって、敵を砕く。それだけだ。
禁煙一ヶ月。一回の執筆(3000字程度)で1箱近く開けてたのですんごく辛い(涙)
ともあれ、今回評価してくれた方ありがとうございます。
お陰でなんとかテンションが元に戻りました。来週、再来週の土日は所要で執筆出来ないですが、出来るだけ間を開けないようにします(汗)




