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ふたりの関係

本日、2話目となります。



「さて、月歌も見つけたし、帰るか」


月歌が落ち着いたのを見計らって朽野がぼそっと呟く。


「貴様、本気で言っているのか?」

岩島が、朽野に近づき、その胸ぐらを掴み持ち上げる。

大きく、そして厳つい顔と体をした岩島と一見、ひょろっとした朽野。その光景はヤクザに絡まれた一般人の光景にしか見えない。


「あー、君誰だっけ?ともかく、落ち着くなよ」

ゲームが現実化した世界。鍛え上げられた筋肉も、大崩壊前ほど戦いに有利になる訳ではない。

それより重要視されるのはステータスだ。ステータスが高ければ、引きこもりでさえこの男に勝つことが出来る。

しかし、鍛え上げられた肉体も何の意味がない、という訳ではない。


その一つが、凄みだ。

鍛え上げられた肉体は、仲間達に安心感を与え、敵には威圧感を与える。

それは、野生において弱者であった人間の本能に未だこびりついている本能。

かつて程、筋肉の重要性が求められていないこの世界でも相手を怯えさせるには有効な武器とされている。

しかし、朽野の表情には怯えが一切ない。足が宙を浮いていても朽野の表情にはヘラヘラとした笑みしか浮かんでいない。


「お、おーい、岩島~。そんなマジになるなよ」

慌てて岩島を止めようとする阿部を、岩島は人にらみで黙らせる。

霧崎は何かを探るような目で朽野を見ているが、何も言おうとしない。

邪魔する者がいないことを確認すると再び目線を朽野に向ける。

「少しは落ち着い・・・・・・てはいなさそうだね」

困った、と小さくため息をつく朽野に怒りが爆発する。


「落ち着く?あんなこと言う奴を前に落ち着いていられるかっ! お前、このような現象を放って置いたらどのようなことが起きるのか予想も出来ないのかっ!」

「解ってはいるさ。あのへんてこな木がバグの原因だとするなら、あれを取り除かない限り本厚木~海老名間の交通に大きな影響が出る。本厚木近辺の狩り場にいるモンスターの流れが変わるかもしれない。そうなると、本厚木の町の経済に大きな影響が出る」

スラスラと述べる朽野に岩島の表情に僅かに戸惑いが生まれる。


「交通が滞るということは、経済や軍事にも大きな影響が出るね。そんな時、東京が本厚木にテロでもやれば、場合によってはスタンピートで厚木の壁が破られるかもしれない。最初は何とか凌げるかもしれないけど、二度、三度と続けば本厚木の町が滅びるかもね。そうなれば、東部は甚大なダメージを追うことになる。結果は理解出来ると思うけど、神奈川の国力は大幅に落ちる。で、東京軍は侵略しやすくなると言うわけだ。多分、東京の狙いはここだね」


本厚木が滅びること、それはスタンピートから東部を守っている結界が破れるということ。その危険性が解らない人間は神奈川には存在しない。

自分の予想を大きく上回る最悪な事態に岩島の表情が一瞬、強ばり、そして腕に込める力が強くなる。


「そこまでっ!予想出来てお前は何でこの状況を解決しようと考えないっ!」

「俺は、ただの冒険者。で、こういうのは軍の仕事。下手に首突っ込んで痛い目見たくないしね。ここらが潮時だよ。君たちも帰りな?英雄願望も解るけど、生きて帰って情報も持ち帰るのも大事な仕事だと思うけど? 帰りは、月歌が案内してくれるだろうし。ほら、手を離してよ」

朽野の手が、岩島の腕を握る。ゆっくりと引きはがされる腕。

その際、岩島は朽野の腕が目に入る。

細い腕。しかし、それは引き締まり極限まで絞り込まれた戦士の腕だ。

それが、彼が臆病者チキンと呼ばれるだけの男ではないのだ、と本能的に理解する。


「ちっ」

岩島は小さく舌打ちする。

彼の言うことも理解出来る。理性は彼の提案を受け入れるべきだ、と訴えるが、彼の感情が納得しない。

岩島は助けを求め、月歌に目を向け、そして驚く。

月歌の顔に浮かぶのは笑み。二人の争いを面白そうに眺めている。

その表情に気づいた朽野の表情が次第に苦々しげに歪んでいく。

理解出来ない変化に岩島が戸惑っていると、月歌がゆっくりと口を開く。


「せんぱーい、僕達と一緒に本厚木まで帰るつもりなのですか?」

「いや、俺が一番足早いから、本厚木の町まで一気に戻る。事態はかなり緊迫しているからね」

自分だけさっさと逃げるつもりだ。そのことに岩島の中で怒りの火が再び灯る。

「先輩が本気なら、それに従いますけど」

月歌の言葉に岩島は声を上げそうになるが、月歌の崩れない表情に言葉を飲む。

その表情に浮かぶのは信頼の色だ。

「どうせ、先輩のことですから、帰ったふりして僕達が撤退したのを確認してから、一人であの化け物を倒す気でしょう?」


その言葉を聞いても朽野のヘラヘラとした表情には変化がない。

「おいおい、お前、俺のことなんだと思っているんだよ。いいか、今の俺がかつての俺だと思うなよ?日本各地を回って思ったよ。自分の分ってやつをさ。あんなのと戦ってたら命が何個あっても足りしない」

「あははは、先輩おかしなこと言いますね。命が何個あっても足りないって。先輩なら『命一つ賭ければ』十分勝てると踏んでるんじゃないですか?」

そう、一回言葉を切り、そして何かを確かめるように口を開く。

「先輩、あれを使うつもりでしょう?」


理解出来ない会話。しかし、二人には通じているらしく、朽野の目に一瞬動揺が走り、そして月歌の笑顔に怒りの色が混じり始める。


朽野は、何も答えない。

それは、理解出来ないが月歌の言葉を認めたということだ。


「安心したけど、すごく腹が立ちました。先輩、自分は変わったと言いましたけど、根っこの部分は全っ然、変わりませんね。女の子をダシにされるとすぐ飛びつくし、その癖、いざとなったらヘタレるし。女の子の気持ち全く理解できてないし、だから、先輩、彼女出来ないんですよっ!」

「ちょっ、おま、今それ関係ない」

「関係ありますよっ! さっきは憎まれ役買って出て僕達の安全な場所に退避させようとしたのでしょう? 僕のこと心配してくれるのは嬉しいですけど余計なお世話です。そんなに僕のこと信用出来ませんか!」

彼女の笑顔の仮面が剥がれ落ち、別の表情が露わになる。

それは、岩島達を指揮した戦士としての彼女ではなく、泣きそうな顔をした女の子の表情だ。


「先輩、もし先輩が戦えというなら戦いますし、死ねというなら死んで見せます。僕は、あの時から先輩のものなんです。だから、だから・・・・・・」

その後の言葉が続かない。ただ、彼女の口の動きがある言葉を形取る。


置いていかないで


声にならずとも、そこに込められた思いに岩島の胸が締め付けられる。

そこに、どれだけの思いが込められていたのだろうか。

ただ、そこにいた誰もが彼女から視線を逃すことが出来ずにいる。


その沈黙を破ったのは朽野だった。

乱暴に月歌の頭を撫でる。

「男がそんな表情浮かべるな。きもいぞ」

「うるさいです。ツッキーはツッキーという性別なんですよ」

そう答える月歌の声は僅かに上擦っている。朽野はそれに気づかないふりをして、もう一度、月歌の頭を撫でる。

「たっく、本当、意味解らないよな。お前は」

「先輩に言われたくないです」

そう苦笑する朽野に、つられたように月歌も笑みを浮かべる。


「・・・・・・いいんだな。前の俺とは違っても」

「そうやってビクビクしてるあたりがヘタレてますね。童貞臭いですよ。先輩」

「ど、童貞ちゃうわ」

真面目な空気を纏っていた朽野に動揺が走る。そんな姿を月歌は愛おしそうに眺めている。

「変わってませんよ。表面上は確かに変わったかもしれない。けど、大事なところは全然変わってない。僕の大好きな先輩のままです」


その笑みに、朽野が何かを言い掛け、そして、地面が大きく振動する。


「全く、奥で何か起きてるみたいだな」

「みたいですね。少しくらい空気を読んでくれてもいいのに」


どこかほっとした表情を浮かべる朽野と、何やら不満そうな月歌。

「まぁ、話はまた後で、それじゃ、行くぞ。副官殿」

その言葉に、月歌ははっと朽野の顔を見て、満身の笑みを浮かべ、そして答える。

「了解です。団長!」






朽野は、月歌を男だと思っていますが実際は不明です。


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