円卓を目指す者
「しかし、あなたのような高名な方がこの森に来てて助かりました。あのままだったら、僕たちは確実にこの森の養分になっていましたので」
「へー、僕の名前って厚木にまで届いているんだ」
有名と言われて、悪い気がしない。
「ええ、まさかデス・キンキーが冒険者をやっているとは思いもしませんでし・・・・・・」
その言葉は最後まで言うことは出来なかった。
いつの間にか、月歌の刃が、霧崎の喉元に突きつけられていたからだ。
「って、おおい、後輩ちゃん!いきなり何?」
「月歌殿っ!その武器をしまってくれ」
阿部と、岩島は慌てるが二人は意に介さない。
「僕としては、剣舞鬼のほうが嬉しいけどなぁ。で?僕をそう呼ぶってことは、君、救世軍の人?」
殺気もなく、呼吸するかのように刃を突きつけてくる月歌に、霧崎は冷や汗を書きながらも笑顔を崩さない。
そう、デスキンキーの名前を出した段階で、こうなることは予想出来ていた。
その名前は、救世軍の間で呼ばれていた月歌の二つ名。
そして、その名を知る者はいても、正体を知る者は殆どいない。
知っているとすれば、神奈川、東京の上層部か戦場でデスキンキーと接触したことがあるもののみ。
彼は、神奈川の上層部の人間というわけではない。
つまりは、彼女の敵ということだ。
「はあ、物騒なものはしまってくださいよ」
それでも、霧崎は黙らない。
デスキンキーの名前を出すことはリスクがあった。
見た目は可愛らしい女の子である月歌ではあるが、敵には全く容赦しない。しかし、むやみやたらと敵を殺す残酷な人間ではなく、必要であれば殺す冷酷なタイプだ。
だから、いきなり殺されることはない。
(拷問にかけられる可能性はありますけどね)
それでも、リスクを背負ってでもやるべきことはある。
「深緑の騎士団副団長、月歌さん。あなたは私のことは知らないと思いますよ。私は、厚木の攻防戦の際、城壁からあなたを見かけた。それだけだ」
厚木の攻防戦。まだ、神奈川県を救世軍が支配していた時期、円卓の騎士団の猛攻で、救世軍が厚木に立てこもったことがある。
深緑の騎士団。当時、月歌が所属していた部隊も、その戦いに参加していた。
城壁からみた、つまりそれは彼が救世軍側にいたと白状するものである。
「霧崎!お前、その話はっ」
岩島が慌てて、霧崎を止めようとする。
その様子で、岩島も彼が救世軍に居たことを知っていると悟る。
「ふうん、君も知っていたんだ? で?何で僕の前で救世軍であることをほのめかしたの?」
「ええ、月歌さんは、表面上人当たりがよいけど、興味を持った相手でないと話を聞いて貰えない、と百合さんから聞いた、だから、興味を持って貰えそうな話題を振ってみた。それだけです」
百合。それは現在、厚木に駐在している諜報部の人間であり、月歌の友人でもある。
百合と繋がりがあり、そして、その彼女が月歌と彼を繋げようとしたということは、彼らが朽野に害する存在ではないということだ。
「つまり、君は」
「元救世軍。そして、救世軍の裏切り者と言うわけです」
厚木の攻城戦時、朽野は何故か厚木のどこが守備が甘いか、誰と誰が仲が悪いか、兵士達の志気の高さ、内部の兵士達が何に不満を持っていたか、など事細かに把握していた。内通者がいるのだろう、と噂されていたが・・・
「そっか。君があの時の内通者、か」
「ええ、あそこでは参謀のような役割にいたので情報を集めるのは簡単でしたよ」
「君、仲間を裏切ったの?」
「裏切り? あんな形で暴走するような連中仲間なんて思っていませんよ。私は私の目的の為に救世軍入りましたが、見込み違いでした」
「目的?」
「ええ、大崩壊以前、私はいい高校、良い大学に入ること為努力してきました。上へ、更に上を目指すために、ね」
「だから、世界が変わって、救世軍に入った。彼らがこの国のトップに一番近かったから」
彼らは強かった。
ゲーム時代の強さをそのまま引き継いだプレイヤーの集団。それにこの世界における神とも言える『運営』が力を貸していたこともあり、彼らがこの日本を支配すると思われていた。
「ええ、そうです。本当は官僚か政治家になりたかったのですが、旧日本の中枢、霞ヶ浦は潰されてしまいましたからね。上へ目指す為に救世軍に所属することにしましたが、まぁ連中、ゲームをやりこんでいただけの馬鹿ばかり。愛想尽きるのも時間の問題でしたよ」
「で?厚木陥落のお手伝いを手みやげに神奈川の陣営に入ろうとした、と」
「ですがなかなか信用して貰えませんでした。負けて神奈川の軍に吸収された連中に比べれば扱いはいいですが、神奈川の中枢ともいえる円卓には近づかせて貰えず、こうして冒険者をしている訳です」
普通に考えればそうだろう。こうして在野の冒険者として活動出来ているだけ、かなり優遇されているほうだ。
「ですから、私は冒険者として成り上がる。そして、神奈川軍へ入り、円卓の席を目指す」
そういって、彼は月歌の目をじっと見る。
一瞬、歴戦の猛者ともいえる月歌が気圧された。
その瞳に宿るのは静かだが激しく燃える意志の光。
何が彼をそこまで駆り立てるのか、解らない。
円卓の席、その意味するところは、国のトップともいえる12人。
その一人になるということだ。
困難な道だ。彼がなんと言おうと元救世軍というレッテルははがれることはない。
本来であれば不可能。それだけ救世軍という過去は重い。
それでも彼は諦めない。愚直ともいえる真っ直ぐさでこの国の中枢を目指している。
「円卓を目指す以上武力は必要。ですから」
彼の視線の先、そこにはモンスター達の群。
「見せて差し上げましょう。私の戦い方という奴を」
そういって彼は、一人飛び出す。
自分はここにいる、と天に知らしめるように、その武器を掲げるのだった。
デス・キンキー
death:死
kinky:変態的、気まぐれな




