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ハイヤーズ

とりあえず、三人の頭をぶったたく。

無論、力を入れれば死んでしまうのは確実なので手加減はしている。

それでも、HP0の者と、高レベルプレイヤーの力の差は歴然としている。

「ぐ、おおおおおお」

「いってぇぇぇぇぇ」

「・・・・・・痛い」


地面に掘り出されたミミズのようにのたうち回っている三人を見下しながら、三人にガラス瓶を放り投げる。

ネクタル、ナイツオブラウンドオンラインにおいて死者を蘇らせる効果のある薬だ。


とはいえ、それはゲーム内の設定だ。ゲームと融合したからといって、死者を蘇らせる方法は無いとされている。

しかし、この薬は、この世界で生き抜くには必要な効果を持っている。

それはHP0の状態を回復させるというもの。


この世界、HP0という状態は、かなりきつい状況だ。

あちらこちらで危険が転がっているこの世界、HP0ということは、喧嘩の流れ弾でも即死だし、何もスキルを使えなくなる。それに加え身体能力も大幅に下がるのは避けられない。


だから、かなり高価なものではあるが、一家に一つはこのアイテムを用意しておくのが常識だ。


三人は、その薬を手にし、一気にあおる。

光が降り注ぐエフェクト共に、三人は起きあがる


「助かった。正直、あのまま捕まったままだったら殺されていた。礼をいう」

格闘家風の男が、月歌にぺこり、と頭を下げる。

「ええ、あのままでしたらろくな最後になりませんでした。感謝します」

と、僧侶風の男も素直に礼をいう。

その素直な態度に、さっきの苛々が収まったところで・・・・・・


「やー、助かった。えーっと、臆病者ちきん先輩の後輩ちゃん」

三人目のチャラ男が爆弾を投げ込んでくる。


チャラ男の一言で、ピシリと空気が氷つく。

「あれ?岩ちゃん?ザッキー?何で、距離を取ろうと?あ、後輩ちゃん、え?何?」

チャラ男から距離を取る格闘家風の男と、僧侶の男、そして笑顔でチャラ男に近づいた月歌が、その頭を掴む。

「あはは、先輩は臆病者チキンではありませんよ?月歌ちゃんの恋人、朽野先輩です。はい、りぴーとあふたみー」

「は、え?何」

「りぴーとあふたみー」

「は、え、いででででででででででで、つ、月歌ちゃんの恋人、朽野先輩ですっ」

「あ、偉大な、が抜けてますよ~。やり直し」

「え?そ、そんなこといっていな、あ、解りました!解りましたから、だからやめて~~~~~」


こうしてしばらくの間、静かな森に、チャラ男の声が響きわたるのであった。


◆◇◆◇


月歌の制裁が終わった後で、三人は月歌の前に並んでいる。


「あー、自己紹介が遅れたな。俺は岩島 紀史。よろしく、月歌殿」

「阿部 隆だ。よろしくねー。後輩ちゃん」

「霧崎 満、よろしく」


岩島が挌闘家風の男、角刈りの頭に筋肉質の体。

三人のうち最年長に見える。明らかに格闘技を嗜んだ者の体だ。


阿部は金髪でひょろっとした体付き、へらへらと浮かべる表情と、騎士の鎧が全くあっていない。


霧島は、十代後半といったところか、三人のうち最年少の僧侶職。

最年少ではあるが、三人の中で一番落ち着いた雰囲気を持っている。


三人は、厚木の冒険者ギルド『ハイヤーズ』というクランを組んでいるらしい。

三人だけのパーティーだが、厚木の冒険者の中では有望株とのことだ。


だが、所詮は厚木の中では、だ。

奇襲を食らったとはいえ、一般の東京兵に負けるあたり、厚木の冒険者の質が解るというものだ。


もっとも仕方がない面もある。

厚木は内陸部。魔物が多く住む西部と東部の境界部分の都市とはいえ、出るモンスターは基本雑魚ばかりだ。


国からちゃんと衣食住を保証されている軍人は別として、冒険者達は自分達ですべてを賄わなければならない。

そうなると、ある程度強くなった冒険者は、更に強いモンスターの出る場所へ移動するのが基本だ。


つまりは、厚木で有望株ということは、精々、更に西へ進むことが出来る程度に育った冒険者ということになる。


(この三人と一緒に奥に入るとなると自殺行為、か)


はぁ、と月歌は小さくため息をつく。

となると、月歌のとれる行動は二つ。


一つ目は、月歌は一人で森の奥へと進み。三人は厚木に帰って貰い、援軍を要請して貰う。

二つ目は、月歌と三人の冒険者と共に厚木に戻り、準備が整い次第、再度帰らずの森をアタックするというものだ。


一つ目を選択するには、朽野と合流出来ることが前提だ。スペシャルスキル持ち。もしくはそれ以上の存在を相手に、ただのスペシャルスキル持ちでしかない月歌が戦うのは自殺行為だ。それでも、生きるか死ぬかの厳しい戦いになるだろう。


二つ目は一番安全で確実な手段だ。厚木の冒険者は質が悪いが軍はそうではない。

駐在しているのは正規軍に相応しい力を持った者ばかりだ。

何より、兵の数が多い。数の暴力を個の武勇で押し返せる世界だとしても、そこに朽野や月歌などの力が加われば大きな戦力となる。


通常であれば二つ目を選択すべきだ。

しかし、気になるのが一つ。


「戻るべきではない、と思いますよ」

三人の中の一人、霧島が月歌の悩みを読んだかのように答える。

「帰らずの森の異変が起きていることに気づいて四日。多分、東京軍側もそろそろ捜査が入ることは解っていると思います。ここに厚木の軍を蹴散らすだけの戦力があるとは思えない。撤退することを加味するなら、そろそろ東京軍の仕掛けが完成すると考えるのが普通だと思いますが」


そうだ。これは自然現象ではない。

当初はそう思っていたから、多少の猶予はあると思っていたが、これは東京軍からの攻撃だ、彼らの行動が順調に進んでいるとしたら、仕掛けが完成するのはそろそろのはずだ。


なら、すべきは一つ・・・


「進む、しかないなぁ」

どう考えても分が悪いが、それしか選択肢は無さそうだ。

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