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ふたりの夜


そして、夜になる。


「ここが先輩の部屋ですかー!」

朽野の住む部屋にやけにテンションの高い声が響く。


ベットと机、それと簡単なキッチン、風呂トイレ。

二人いれば結構狭いその部屋を月歌は楽しげに彼女は見ている。


「とう!」


月歌がベットへと飛び込む。

「うへへへ、先輩の匂いだ~」

ゴロゴロとベットの上で転がる月歌。

「ほら、変態。そのままでいいから話を聞け」

朽野は、疲れた様子でため息をつき、そんな月歌に話しかける。


「明日、森に入る。その前にすりあわせしておきたいんだけど、お前、森の表層部分には敵が少なくて、奥に固まっているって言ってたよな?」

「はい、どう考えても、自然な感じじゃなかったです」

モンスターはシステム上の存在だ。

まるで生きているように動くが、その動きはシステムに沿った動きしかしない。

外的要因無しにその動きが変わるとなると2パターンある。


一つは、スタンピート。特定のシーズンに発生するようシステムに定められているが、時々、何かの拍子にその時期がずれることがある。


もう一つは、バグだ。

システムの一部が暴走しモンスターが異常な行動をするパターンだ。

滅多に起きない現象ではあるが神奈川全体で見ても年に一度程度の確率で発生することがある。


「可能性としては後者だけど。もしかしたら・・・・・・」

「先輩は人為的な可能性があると考えているのですか?」

「あー、まぁ可能性は低いけどな~」


そして、あえてもう一つあり得るとしたら、外的な要因が絡んだ場合だ。

一カ所に敵を集めること。それは人為的に起こすことは可能だ。

方法としては二つ。アイテムを使って現象を起こすか、或いは何らかのスペシャルスキルを使うか、だ。

しかし・・・・・・


「だけど、そんなことして何の特があるんだ?規模から考えて個人じゃないぞ」

「可能性があるとしたら、東京。普通なら考えるんでしょうけどね」

神奈川に隣接しているのは、静岡、山梨、東京、海を挟んで千葉だ。

現在、静岡と神奈川は同盟関係にあり、山梨はまだ幾つかの陣営に別れ争っている状況だ。こちらに手を出す余裕などない。

千葉県はこの前密偵を送り込んできたが、しかし言ってみれば干渉はその程度、ダンジョンに大がかりに仕掛けをする程ではない。

どちらかといえば、東京との緊張が高まっており、そちらにリソースを割いているのが千葉の状況だ。


残る可能性としては、東京だ。


東京と神奈川は、同じ救世軍を破った者同士だが仲は良くはない。

何しろ、東京と神奈川では主張が全く逆なのだ。


神奈川政府の方針は現実世界への帰還を目指す『帰還派』で、東京はこの世界で発展することを目指す『残留派』とまっぷたつに割れている。


方針の問題。そして、国ができてからのイザコザから双方とも、仮想敵国と見なしている。

世間一般では、いつか両国はぶつかるのではないか、と囁かれているが・・

「まぁ、東京もまずあり得ないからなぁ」

「ありえないですねー」


そう断言する二人。

東京と神奈川の裏側を知る彼らからすると東京が本格的に神奈川に被害が出るような真似はまずしてこない。

迷いの森に何かあったら神奈川は大ダメージをおうのは東京も理解している。よって、東京の可能性は低いと言える。


「本当、円卓様万歳って感じだ」

「神奈川って本当、安定してますよねー」


他県を見るとやはり神奈川は恵まれている。

東北では、旧日本政府と新勢力が色々と揉めているし、

青森は豊富な食料を生産している北海道と年中ドンパチしている。


関西圏などは大阪中心に纏まっているが、中での政治闘争は激化しているという。

九州は完全戦国状態。唯一、沖縄はそれに巻き込まれることなく安定した国作りをしているとか。


「まぁ、可能性としてはバグか、他にあり得るとしたら・・・・・」

「救世軍の残党ですかね」


救世軍。

大崩壊を起こした謎の人物『運営』に心酔した者で結成された軍隊。

その実体はカルト集団のような連中で日本全国を運営に捧げようと活動してきた者達だ。

運営が討たれた後、数を減らし、各地でゲリラ活動をしているようだ。


「可能性としてはそこらかな。じゃあ、明日は、対人用の道具も一応買い足しておくか。お前も念の為、聖典多めに用意しておけよ」

「了解!!」

世界が切り替わってから便利な点の一つがアイテムボックスの存在だ。

手持ちの荷物をしまうことの出来る謎空間。

突っ込んでおけば、いつでも取り出せて、しかも重さを感じることは無い。

便利きわまりないこの使用だが、持ち運べるアイテム数に限りがある。

だから、長期の調査なのか短期なのか、対人を想定するか、モンスターを想定するかで持ち運ぶアイテムが変わってくる。


「それじゃ、買い出しは明日にするにして、ほら、どけ。そこは俺のベットだ」

「へい!先輩、カモーン!!」

ベットで両手を広げ、誘ってくる後輩。

無駄に色気があるのがやけに腹が立つ。とりあえず、月歌の隣に寝るフリをして、そのままけっ飛ばす。


うげ、とカエルを押しつぶしたような声を上げながら月歌がベットから

落ちる。


「先輩。ひどーい。おにー。女の子には優しくしないとモテませんよ」

「男はノーカンだ。ほら」

床で文句を言っている月歌に向かって毛布を一枚投げる。


「おー、先輩の使っている毛布だ。くんか、くんか。何だかんだで優しいですよね。先輩」

「風邪引いたら俺の負担が増えるだけだ」

一枚、かけるものがなくなって寒くなるが、布団で丸くなれば問題ない。

「うへへぇ」


気味の悪い笑みを浮かべる月歌を無視し、ランタンの明かりを消す。


東京製の時計がカチカチ、と音を立てる。

静かな時間。ぬくぬくと布団の暖かさを楽しんでいると


「ねぇ、先輩、起きてます」


ふと、月歌が朽野に声をかけてくる。

返事はしない。布団で丸くなった朽野はまさに蓑虫。虫は人の言葉を喋れないのだ。


「どうして、神奈川に戻ってきたこと。僕に教えてくれなかったのですか?」


その問いに、朽野は返事はしない。いや、することが出来ない。


「みんな、先輩が戻ってくることを期待しています。だから、先輩・・・・・・」

その問いは重い。

戻りたい、という気持ちはある。

しかし、仲間達の元に戻るには、朽野は色々と『知りすぎた』


知識とは時に毒となる。

朽野伸也が取り込んだ知識(毒)は、彼という存在を作り替えてしまった。

戻れない。戻るわけにはいかない。

会ってしまえば仲間達は、自分の変化にいずれ気づくだろう。

その時、彼らがどんな反応をするか、何れにしろ死にたい気分になることは間違いない。


だから、沈黙をもって朽野は答える。


二人の間に訪れる沈黙。重い空気の中、ただ時計の針だけが音を立てて進んでいくのだった。


すみません、今週はこの話のみのなります。ストックはあるのですが、ちょっと問題が(汗

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