スペシャルスキル
しかし、このままダンジョンに向かう訳にはいかない。
今日は、顔合わせが目的だ。
朽野としては『ボロがでる前に』さっさと突撃したいと言うのが本音の気持ちだ。
しかし、あそこに行くにはそれ相応の準備が必要になる。
そもそも、月歌も朽野も大分抜けてはいるがアルコールが入った常態だ。
この状況であの森に行くのは自殺行為だ。
と言う訳で・・・・・・
「ま、偵察だけでもしておきますか」
都子と別れ、彼らは帰らずの森へと向かっていた。
少しアルコールは残っているが、朽野も月歌もここらのモンスターにやられるような存在ではない。
「あははは、だめですよ~先輩。仕事に響くような酒の飲み方は~」
「お前が言うな」
話を聞くとどうやら、月歌は百合と飲み明かしたらしい。
「まぁ、お前と百合ちゃん、仲良いもんなぁ」
「あれ?先輩と百合ちゃんも仲良く見えるけど」
「あー、俺も仲良くなりたいけどなー。別の意味で」
「うわっ、最悪ですよ。先輩」
月歌と百合は友人同士だ。大崩壊後、神奈川を統一した救世軍とそれに対抗した義勇軍『円卓の騎士団』。
そこの諜報部員として各地に侵入していた百合と偶然知り合った訳だが、組織は違うものの、互いに助け合うような関係を築けていたと思う。
他人から情報を引き出す諜報部員。その素性を知りながらも仲良くなるのは難しい。
しかし、月歌は違う、人間的に好きか嫌いかだけでしかみない月歌は、百合から見ればありがたい友人だっただろう。
では、朽野と百合はどうだろうか?
表向きはキャバクラにおいての客と嬢の関係。
しかし、裏側は違う。百合は朽野に情報という恩を売り、朽野は何らかの形で百合に返すという関係だ。
ある程度の信頼関係は出来てはいるが、仕事上のつき合いというのが本当のところだ。
互いの利害関係がイコールでは無い立場の二人だ。友人とか彼氏彼女の関係になるには立ち位置の違いや後ろめたいことが多すぎる。
(まぁ、つまりは俺は心が汚れ過ぎているんだよなぁ~)
「大丈夫です!先輩の心は綺麗ですよっ!ただ、欲望にまみれているだけでっ!」
「それって喜んでいいことじゃないだろ。というか、勝手に心を読むな」
「『能力』使わなくても、先輩の考えは解りやすいですよ!先輩と僕の中じゃないですか~」
月歌の勘の良さも、それに付随する能力もよく理解している。
いろんな意味で、常識からはずれている月歌だが、朽野は、小さく苦笑するだけで何も言わない。
何だかんだで死線を共にした仲だ。この程度のことで月歌を避けるようなことは無い。
「だから先輩好きなんですよ~」
「あー、はいはい」
これが本当に女の子だったらと、とほほな気分になる。
そんなことを考えていると林を抜け、帰らずの森の手前に到着する。
鬱蒼とした森。自然ではないような密度で密集した木々に一カ所ぽつんと開いた入り口。
普段は、寒気を感じるような気配が入り口から感じるが、今はただ暗いだけで気配は全くない。
しかし、彼女は違ったようだ。
「先輩」
先までのにこやかな笑顔は消え去り、真面目な顔で朽野を見上げてくる。
「脱いでいいっすか?」
無言で、月歌の頭を叩く。
「うー、真面目だったのにぃ」
「黙れ変態。何でもかんでも脱ごうとするな、『手』だけでやれ」
「うーっす」
月歌が面倒くさそうに森の方へ手を伸ばす。
「オーダー『月読』」
月歌の纏う空気が透明になる。
そこに彼がいるはずなのにまるで溶けるように周囲の気配と同化していく。
それなのに、彼から視線を外すことが出来ない。
透明な雰囲気の奥にある不思議な神性が、朽野を捕らえて離さない。
『月読』
それは、ゲームシステムには無い月歌個人の持つ能力だ。
ゲームと現実が融合したことで、人間はゲームのシステムに縛られることになった。
オーダーすることでゲーム内のスキルを使うことが出来るようになったが、所詮はゲーム内のスキル。システムに定められたスキルしか存在せず、努力しようともその数を増やすことは『通常は』出来ない。
しかし、一部の天才は違った。
特異な生まれ、特異な体質、或いは極限まで鍛えられたその技は、システムに取り込まれその人個人のスキルとして開花することがあった。
それらは『スペシャルスキル』と呼ばれ、月歌の『月読』もそんなスキルの一つとされている。
「先輩、なんか変だよ。この森」
『月読』は幾つか効果あるが、一つは広範囲の探知能力だ。
負担は大きいので使えて一日一回で限られた時間でしか発動しないが効果は素晴らしい。
「森の手前は全然、モンスターの気配がしないけど、奥に集まっている。けど、変だよ、なんかモンスターを粘土みたいに無理矢理こねて、固めたような気配。正直、すごく気持ち悪い」
「了解。もういいぞ」
朽野の言葉に、月歌は、小さく息を吐く。
それと同時に、彼女の希薄な雰囲気が元へと戻る。
「で、先輩!僕役だった?」
「あー、はいはい便利、便利」
いつものウザったい言動に朽野は彼の頭をポンポンと撫でる。
「あー、先輩。愛が足りない。もっと僕を愛せ~」
うざいと思いながらも、彼の昔と変わらない反応に朽野は小さく苦笑するのだった。




