〜第11話〜第2ラウンド、黒い獅子と黄金の獅子
「……どうも、初めましてレオンです」
レオンは頭を下げながらも、疑問がよぎった。
「あれ?インボイの王はオレステスさんでは?」
それを聞き黒い獅子デストラは笑った。
「はははははははははは、あの臆病者の老いぼれのことか」
笑い続けるデストラにレオンはきょとんとする。
「あんな奴が王であったせいで、我がインボイはゾゾリマの属国となったのだ……。だからこそ俺は反乱を起こし……そしてオレステスを始末した」
デストラは爪を差し出す。
「そして魔王レオン、貴様を殺してオレステスが怪我したインボイの名誉を取り戻す」
デストラはその爪でレオンの身体を貫こうとした。
「……誰を始末したって?」
奥から足を引きずりながら歩く、黄金のたてがみの獅子が現れた。
「オレステスさん」
「オレステス、貴様死んだはずでは?」
レオンとデストラは同時に声を出した。
オレステスは全身に傷を負い、その足は歩くのもおぼつかない様子であった。
「……本当に酷い目にあった。近頃の若い奴は礼儀も身の程も知らねえことがよくわかった」
血が滲む顔で、オレステスはデストラを睨む。
「あのおオレステスさん大丈夫ですか?ずいぶんと傷だらけのようですが?」
「魔王レオンよ、それはお互い様だろう」
「あ、ええ、確かに」
レオンは治りかけているとはいえ傷だらけの自分の身体を見ながら頷いた。
「オレステス、なぜ生きている?そしてなぜここにいる?」
デストラは焦りながら疑問を投げかける。
「なぜここにいるか?そんなのなあ、聞き分けのねえ若僧を叩きのめすために決まってんだろ」
死にぞこないが何言ってんだ。すでにお前はインボイの造反組にリンチされて立っているのがやっとなはずだろう。
「いいぜ。魔王レオンの前にお前を殺してやる」
そうデストラが言おうとしたときだった。
「え…………」
デストラの目の前に黄金の闘気でつくられた巨大な2本の腕が現れていた。
「……お前、まだこんなものをつくる力が……」
「死ね……」
オレステスの闘気の腕はデストラの身体を殴打した後、激しいアッパーをくり出し、デストラを遥か天空へと吹き飛ばした。
「…………」
その様をレオンは、何とも言えず立ちつくしながら見ていた。
オレステスはふぅと息をつくと、足を引きずりながら城の外へと歩きはじめた。
「オレステスさん、どちらへ?」
「……ウチの国のバカどもを連れてインボイに帰る」
「……」
「邪魔したな魔王レオン」
オレステスは静かに歩いた。レオンはあまりによろよろなオレステスの歩みに手を貸そうと思ったが、その背中がそれを拒否していた。
そしてオレステスの背中を見て思った。かつて彼は我が父のレロンと何度も手を合わせたことがある強大な存在だ。自分は自らの父の背中を一度も見ることはなかったが、父の背中とはこういうものなのだろうと。
「オレステスさん」
最後にレオンはオレステスの背中に一言だけ声を掛けた。
「これからも、ゾゾリマはインボイと仲良くしていこうと思います」
オレステスは一瞬だけ立ち止まり、そしてまた静かに進んで行った。
◇◇◇
「……ふぅん。こんなのが天才様の描いたゲームなの?」
ゾゾリマの玉座の間。帽子を被った魔法使いの少女ビョンキが頬杖をつきながら言った。
「第2ラウンドとして用意した黒いライオン、ただの負け犬じゃない。コレ張り合い無さすぎよ」
ビョンキがそう問いかけた相手は横に座るグルスの軍師ダックワースだった。
「いや、面白かったじゃないですか。喜劇みたいだったでしょう。タイトルは『オヤジ狩り失敗』。いやあ笑えました。オレステスさんを半殺しのまま生かしておいた甲斐があるというものです」
「あんた悪趣味ねえ」
ビョンキがジト目で言う。
「第2ラウンドはいいとして、第1ラウンドはホーハムの姫が乱入して、シオミが無残にボコボコになっちゃったけど」
「ああ、あれも計算通りです。シオミさん、昔からちょっと口うるさいと思っていたので、少し静かになって欲しいということで」
「……ああそうだったの」
ビョンキは、その点に関してはダックワースと同じ思いだったので、特に何も言わなかった。ただ巻き添えを食って一緒にボコボコになったタカマっちは可哀想、だと思っていたが。
「第1ラウンドと第2ラウンド、これは魔王レオンを勝たせるための前座マッチです。いきなり勝負が決するのはいくらなんでもゲームとして興ざめですから」
「……それだけじゃないでしょ?」
「はいい?」
ダックワースはわざとらしく聞き返す。
「ホーハムの姫が乱入してレオン側についたことでホーハムは内部分裂状態になってもはやゾゾリマを攻めるどころじゃないでしょうね。インボイももとから内部分裂状態なのが、さっきの王様と反対勢力の頭目の争いがあって同じくゾゾリマどころじゃない。オリクサも魔王レオンとの戦いで大打撃で、退却を始めてる。結局もうゾゾリマにいる大きな勢力はグルスのみ。すべてはグルスだけでゾゾリマを支配するための策略だったんでしょう」
「ご明察です。さすがビョンキさん。魔法学校で私に次ぐ天才だっただけのことはあります」
この全く褒め言葉になっていない褒め言葉にビョンキは顔を歪ませた。
だから私は嫌いなのだ。おしゃべりのシオミ以上にお前が、と。
「でもまあ、第3ラウンドで終わりです」
「え?」
「魔王レオンが勝てない相手を選びましたから」
「…………」
まわりを見渡すビョンキ。
そういえばこの部屋から、ひとりいるべき人間が消えていることにビョンキは気づいた。
◇◇◇
レオンは階段を上がり、2階の大広間へとやってきた。
壁にはきらびやかな金の模様。天井にはいくつものシャンデリアがぶら下がっている。
「よう、魔王くん」
のんびりとした声が聞こえた。
「先生」
レオンはにっこりと笑った。自分の師匠でもある武神勇者オチョアが大広間の真ん中であぐらをかいて座っていた。
「先生、まだいらしたんですか?もう人間の大陸に帰ったかと思いました」
「……いやあ、まだ仕事が残っていたモンでね」
「そうなんですか」
「ハハ、魔王レオンを殺すって仕事がね」
「……え?」
レオンの顔が真っ青になる。
「ひとつ思い出した。俺は勇者なんだよ魔王くん。そして勇者は魔王を倒さなくてはならない」
オチョアは静かに立ち上がった。




