〜第10話〜第1ラウンド、vs鏡師、決着
ぼろぼろになり、廊下に倒れたレオンとクリヤのふたり。
鏡からひょいと現れたシオミは口を開いた。
「……いったい、何が起きたんだ?……って言いたそうな顔してんなあ」
起き上がろうとするレオンに近づくシオミ。
「アレからお前に勝つ方法色々考えたんだわ。鏡の世界に閉じこめて、魔法禁止ルールにしたとしてもお前は体術も超一流ときている。ならば俺の鏡魔術を応用してどうにか致命傷を与える攻撃をと考えた。それがこの【ソニックミラージュ】だ」
シオミは大げさに両手を広げてみせる。
「俺は鏡と鏡を移動することができる。その速さは光と同じだ。光速で鏡と鏡を移動し、ついでに身体を斬り刻む。どうだ魔王レオン。流石のお前でもこれは破れねえだろ」
シオミはゲラゲラと笑った。
レオンはそれを一瞥もせず、クリヤを抱きおこす。
「大丈夫ですか、クリヤさん」
「私は大丈夫です。レオン様は……、あっ!!切り傷だらけ。すぐにペロペロしないと」
クリヤは舌を出す。
「あのクリヤさん、先ほども言いましたが汚いですからっ。それに僕は大丈夫です。クリヤさんこそ傷が」
クリヤのドレスはところどころ千切れていて、白い肌にいくつか赤い線が入っていた。
「私も大丈夫ですこれくらい。実はちっちゃな頃から野山を駆け回るのが好きで、生傷がたえなくて、よくお父様に注意されていたくらいなので……」
「でも、痛そうです……、どうにかしないと。何かいい応急処置は……」
「あっ……。そ、それでは……レオン様……私の傷をペロペロして下さい?」
「えっ?」
「ここの首すじのところか太もものところがペロペロしやすいと思いますので是非」
「……。いや、それこそ汚くて迷惑だと思いますので」
「そんな、レオン様の舌が汚いとかありえません。ぜ、是非ここをペロペロして下さい」
「……あ、いや……その……。まあクリヤさんがそこまで言うのでしたら……」
レオンはクリヤの首すじに口を近づける。クリヤは勢いで大胆すぎることを言ったかなと思いつつ、顔を真っ赤にしながら目をキュッとつむり、近づくレオンの舌を堪能しようと、全神経をそこに集中させた。
「おいお前ら、何をいちゃいちゃしてんだよ」
この声でふたりはハッとした。
振り返ると、呆れた顔でこちらを見つめるシオミとタカマがいた。
「いちゃいちゃは地獄で続きをやってもらおうか。とにかくこの戦いをちゃっちゃと終わらせようや」
シオミは一番奥の鏡に入りこむ。そして鏡の中でナイフを構えた。
「【ソニックミラージュ】」
シオミは鏡と鏡を光速で移動をはじめる。交互に左右の鏡がキラリと光る。
そして、レオンとクリヤのすぐ横の鏡が光った。
「死ね」
間もなく連続でシオミのナイフが1秒間に数億回レオンとクリヤの身体を斬り刻む……はずだった。
ドンッ!!
シオミのナイフは一度も彼らを傷つけることはなかった。
レオンの右拳がシオミの左頰を、クリヤの左拳がシオミの右頬にめり込んでいた。
シオミが圧倒的に自信を持っていた光速での攻撃だが、まずレオンは一度それを受けたことで目を慣らし、それを迎撃することに成功していた。
そしてシオミの不幸は、超人的な動体視力と迎撃可能な素早さを持っている人間がもう一人いたことだった。
パーフェクトな肉体を持つホーハムの姫クリヤ。彼女は動体視力も腕の筋肉も魔族の中でトップクラスであった。
結果、ふたりの拳にシオミの顔はふたりの拳にサンドイッチされ、顎の骨が砕け散っていた。
馬鹿なっ!?
そうシオミは叫びたかったが、顎の骨が砕けてしまっているため、一言もしゃべることができない。
さらに、一発で遠慮したレオンと違ってクリヤは二発目の拳をみぞおちめがけて突き上げていた。
クリヤの右拳はシオミのみぞおちに突き刺さり、その瞬間シオミは意識を失った。
◇◇◇
「……大丈夫ですか?すみません。本当につい力が入りすぎて」
昏倒して地面に倒れたシオミに語りかけるレオン。
しかし顎の骨が砕け白眼をむいた情けない顔のシオミには聞こえるはずもない。
「あの……レオン様、そんな奴の心配はしない方が」
クリヤがレオンに語りかける。その瞬間だった。
クリヤのドレスの肩の部分が千切れて、ストンとドレスが彼女の足元に落ちた。
白いブラジャーと白いショーツ、そして真っ白な肌が丸見えとなった。
「…………いやあああああああああ!!!!」
クリヤは顔を真っ赤にして叫んだ。
なんて事だ。人様に下着姿を見せてしまうなんて、これは赤ちゃんができてしまうかもしれない。……ん?でも今私の下着姿を見ているのはレオン様だけ。レオン様にならいくら見られてもいいし、むしろレオン様の赤ちゃんが欲しい。じゃあ一安心……。
クリヤはそう考えて顔を上げた。
「ごお?」
シオミを心配して、彼の身体をレオンといっしょに揺すっていたタカマと目が合った。
「…………きゃあああああああああああああああああ!!!!!!」
クリヤは顔を真っ赤にしながらタカマに向かって拳を振り下ろした。
◇◇◇
1階の客間のベッドに、シオミ、タカマ、そしてクリヤが仲良く寝かされた。
クリヤの身体は純白の下着姿の上に身体中に包帯を巻かれた姿になっている。そして彼女の鼻の穴にはティッシュがつめられていた。
「よし、と」
レオンは額の汗を拭った。
タカマをボコボコに殴ったあと、興奮のあまり鼻血を出してぶっ倒れたクリヤ。
レオンは結局、三人を運び、応急処置をしなければならなくなった。
その作業も終わり、もぼろぼろになった上着を脱いで上半身裸となったレオン。
すでにシオミに切り刻まれた傷は治癒しかかっていた。
客間を出て廊下を進むと、中庭が目に入る。
そこには花園の花々が色とりどりと咲きほこっていた。
ラミアさん……、無事だろうか?
レオンはそんなことを思いながらふと中庭に降りたった。
そんなレオンにザシュリと斬撃が飛んだ。
レオンはひらりと避ける。
「……よう魔王レオン」
花園の花をかき分け、黒い獅子の姿をした獣人が現れた。
「俺の名は、デストラ。インボイの新しい魔王だ」
黒い獅子はそう言い放った。




