〜第7話〜土使いvs女戦士
モリワは突如、宙を仰いで語りはじめた。
「3年前、我がオリクサは、父ドンデの強大な魔力の元、他の国たちを飲み込もうとしていた……。そんな中、私はひとり遠くグルスにある魔法学校で魔法を学んでいた。当時の私は父の覇道に興味などまるでなく、オリクサがどうなろうと知ったことではなかった。私はただ自らの魔術を探求し続けたい。そう考えていた。次に王位を継ぐのも兄であったし、国のことは心底興味がなかった。だが……」
モリワはずしりと地面を踏みしめる。
「父は突如として死んだ。殺されたのだ。その知らせを聞いたときの私の心の動きは全く意外なものだった。私は父を殺した者をどうしても許せなかった。そして、我が祖国オリクサのためにこの身を投げうちたいと思ったのだ」
モリワは虚ろな眼をラミアに向ける。
「今まで計画のために我慢をしてきた……。が、ようやくその時が訪れた…………くく……死ね、『魔王喰い』」
ラミアのまわりの土が激しく盛り上がる。その土は細長いツタのようになり、彼女を縛ろうと迫る。ラミアは身体から魔力無効化の青いオーラを出す。
「無駄だよ魔王喰い」
先ほどのように土が溶けることはなく、ツタはラミアの身体を縛り上げた。
「ぐっ!!」
ラミアは唸った。彼女は締めつけられる苦しみの中で思い出していた。以前レオンを貫こうとした土の槍を自らの能力で無効化できなかったことを。
「ラミアさん」
レオンは土のツタをはらって彼女を救おうとするが、ツタは次々と伸び彼女に絡みつく。
「『魔王喰い』お前は魔力を無効化するんだろ。知っているよ。それを知ってからの私の修練はひたすらそれを除けることに費やされてきた」
モリワは笑う。
ラミアは必死に魔力無効化のオーラを出すが、ツタはびくともしない。そしてとうとうツタはレオンの身体も絡めとり始めた。
「……レオン。あなたの魔力でふっ飛ばして逃げて」
「……できません。そんなこと……。ラミアさんに怪我をさせてしまいます……」
「そんなの気にしないで」
ラミアはこう言うが、もちろんレオンは同意しない。
土のツタに絡まれた二人を見て、モリワは愉悦に浸っていた。
そのとき、モリワの耳に声が入った。
正確に言うと伝達魔法によって声が変換された空気の振動が耳に入った。
「……そうか」
モリワはニヤリと笑った。
土のツタはふたりへの締めつけを強くした。
「ああああああああああ!!」
ラミアは苦悶の悲鳴を挙げた。レオンも苦痛の表情を浮かべる。
「魔王レオン、ひとつ知らせをやろう。間もなく、グルス、ホーハム、インボイの3国の軍がゾゾリマの城の目の前に到達する」
「……何ですって?」
「意外かもしれんが、我々の軍は陽動だ。主力はひっそりと誰も通らない谷間をぬって脚を進めていた。さすがはダックワースといったところだ」
モリアは静かに友人を賞賛し、続ける。
「この世に生を受けて以来、快進撃を続けていた魔王レオン、そしてゾゾリマの最後がこんなに惨めになるとはさすがに私でも思わなかったがな」
モリワはありったけの魔力を込めて締めつけを強くする。
「そして『魔王喰い』。お前を殺せて私は本当に幸せだ。実はもっと長く苦しめてやりたいが、そんな悠長なことは言っていられんでな。何か最後に言い残すことは?」
モリワは、ラミアの縛りの喉の部分だけを少し緩めた。
「……レオンを離して……。私はどうでもいいから」
「……」
「あなたの父の仇は私、レオンは関係ない」
「……素晴らしい自己犠牲の精神だ。聞いてやりたいところだがそれは無理だ。私はゾゾリマを滅ぼすために魔王レオンも殺さねばいけないからな」
「……お願い。レオンを離して」
モリワは、話にならんとばかりにツタの締めつけを強くする。
「……私の頼み…………聞いてくれないの…………」
ツタはラミアの身体を引きちぎらんばかりに喰いこむ。
「……ならば…………、貴様を殺す」
ラミアは眼を見開く。
そして眩いばかりの青い光が彼女を包む。
無駄なことをと呆れた目で見るモリワであったが、様子がおかしいことに気づく。
ラミアの魔力無効化をはねのけるはずのツタ、その一部、彼女の背中の部分のものが溶解を始めていた。
ラミアの青い光は彼女の背中に集中し、固まっている。それはまるで青い太陽のように眩く光る。
そしてその光は土のツタを引き裂き始めた。ツタはずたずたに引き裂かれ、彼女の身体に自由が戻り出す。
「過去を悔やんで、修練を積んでいたのは貴様だけではない」
高圧的な口調でラミアは言う。
以前魔力無効化を跳ね返されて、レオンに大怪我をさせたことを彼女は悔やんでいた。だからこそ考えた。もう一度あの土使いにレオンが襲われたとき、絶対に彼を守る力を身につけようと。
とうとう彼女は拘束から解き放たれ、宙に漂っていた。
彼女の背中に2枚の大きな光の翼。魔力無効化の光を集約してつくった眩い翼。
「【裁きの翼】」
彼女はその翼をそう呼んだ。




