〜第1話〜終わりの戦いの始まり
ある小高い丘の頂上。そこは平らな広場となっている。
そこで2人の男が対峙していた。
ひとりは武神勇者と呼ばれた伝説の勇者オチョア。そしてもうひとりは魔王レオンであった。
ふたりは上半身裸で、お互い右手に剣を持っていた。
「では行くぞ」
「はい」
ふたりは同時に飛ぶ。剣がぶつかり合い5メートル四方がきらめく。
それを皮切りにふたりの剣は凄まじい速さで動き、凄まじい回数ぶつかり合った。
何度目かの激突の後、ふたりの剣は止まった。鍔迫り合い。グググと互いの腕の筋肉に血管が浮く。
オチョアがニヤリと笑う。
バッとレオンの剣を押し上げ、レオンの胴ががら空きとなった。オチョアの剣の刃がそこを狙う。
「うおおおおお」
そのとき、レオンの剣が高速で動く。ぐるりと回転してオチョアの剣を跳ね上げる。
オチョアの剣が天を舞う。そしてレオンの剣の刃はオチョアののど元に差し出された。
「…………俺の負けだな、魔王くん」
オチョアは笑った。レオンの表情も緩む。
「いえ、まだまだ先生は加減しておられます。僕はまだまだですよ」
「いやあ、正直今回はマジでやったよ。さっきの刃も腹に本気で突きたてるつもりだった。いやあ見事だよ」
オチョアは脱ぎ捨ててあった上着を拾い、静かに肩を通す。
「……おーいバカ勇者あ」
そこに現れたのはホウキに乗った魔法使いの少女。
「あ、ビョンキちゃん」
「世界最強だったくせに、魔王を弟子として鍛え上げて世界最強の座を明け渡してしまうとか、歴史に永久に名前が残るわよ。もちろん伝説的なバカとしてね」
「……相変わらずきっついなあ、ビョンキちゃんは」
オチョアは苦笑いする。
「でもさぁ、魔王くんはすごいよ。三ヶ月間、俺の教えを愚直に守り愚直に腕を上げていった。毎日毎日強くなっていく彼に、後半はドキドキしっぱなしだったよ」
オチョアは心臓に手をあてながら言った。
そんなオチョアをジト目で見るビョンキ。
「あ、ビョンキさん、こんなところまで来ていただいてありがとうございます」
レオンはビョンキに頭を下げる。ビョンキも顔は禍々しいが、礼儀正しいレオンにそんな悪い感情が抱けないのが現状だ。
オチョアがレオンと修行を行なっている三ヶ月間、ビョンキはゾゾリマにお世話になった。
頭の悪い魔族たちに囲まれてではあったが、巨大な露天風呂に豪華な食事と最高級ホテルのような暮らしをビョンキは正直ものすごく満喫していた。肌つやも良くなりさらに可愛くなってしまった。
そう考えながら、ふと地面に突き刺さっている剣の刃を見た。それは先ほどレオンが跳ね飛ばしたオチョアの剣。
そこに、自分の顔と…………見覚えのある男の顔がうつっていた。
「!?」
ビョンキは驚く。さらにその顔は、ニタリと笑った。
「よう、久しぶりだなビョンキ。会いたかったぜ」
「……私は二度と会いたくなかったけどねえ、シオミ……」
その男は【鏡師シオミ】。鏡の中の空間を用いる奇妙な魔術を使い、以前レオンやホーハムの姫のクリヤを襲った男だ。
「何しに来たの?」
「おいおい、そんなケンカ腰はやめてくれよ。久しぶりなんだから」
「何しに来たの?」
「…………。忠告に来た」
「忠告?」
「もうそろそろ大きな戦が始まる。ものすごく大きな戦がなあ……。それはゾゾリマを、魔王レオンを滅ぼすために始まる」
「……」
「ビョンキ、そして勇者オチョアには、こちら側についてもらいたい。魔王レオンを滅ぼす側にな」
「……その戦い仕組んでんのってアイツ?」
「おいおい、頼みごとに質問で返すなって。まぁそういうことだがよ」
「……はぁ。それなら言っておきましょうか。私はこの世で3つ大嫌いなモノがあんの。クモ、アンタ、そして……アイツよ」
こう言い放ったビョンキに対し、シオミの顔は少しも曇らなかった。むしろにんまりと笑っていた。
「そう言うと思ってよお。もうひとり連れて来てんだよ」
刃にもうひとりの顔がうつった。ビョンキの瞳孔は、ギュッと広がった。
「ペロス叔父さま……?」
そこにはひとりの魔導師の姿があった。
「ビョンキよ久しぶりだな」
「叔父さま、お久しぶりです」
高飛車なビョンキといえどもここはとっさに頭を下げた。それは自らの叔父であり、自分の魔法の師であるからだ。
「あまり時間がないから手短に言う。魔王レオンはあまりに危険だ。よって滅ぼさねばならん。それは私の、そしてお前の父との共通認識だ」
ビョンキの父は人間の政府連合の長であった。
「魔王レオンと直接戦えとは言わんが、奴の味方だけは絶対にするな。もしそうなれば例えお前といえど容赦しない……そして……」
ペロスはヒゲを触る。
「かつての仲間、勇者オチョアであってもだ」
ビョンキの目は漆黒に染まっていた。
「このことをオチョアにも伝えてくれ。では」
刃からペロスとシオミの姿が消える。ビョンキは愕然として一歩も動けない。
「ビョンキちゃん」
突如、声がかけられる。振り向いた先には深妙な顔をしたオチョアがいた。
「……今の、ペロスのおっさんだろ」
その質問に、ビョンキはしばらく首を縦に振ることすらできなかった。




