〜第6話〜オーティズ、大いなる危機(第5章完)
「……どうしましょう」
マヤは困ったように声を出した。
オーティズとマヤは、オレンジ色の四角い箱の中にいた。
そのオレンジの箱は物置部屋くらいの広さだが、外に出る扉はまったくつけられていなかった。
彼らは、魔法学校の創設者であるペロスの魔法によって閉じ込められていた。
「くそッ!!不覚だった」
オーティズは苛立ちを隠せなかった。
やはり、レオンたちを襲っていた妙な魔術師たちはグルスにある魔法学校の関係者であった。それどころか創設者であるペロスという人間の魔導師も関与していた。
そして、黒幕は魔法学校の卒業生のダックワースという男。
しかし、それが分かったところでこの状況は……。
オーティズは剣を抜き、剣に魔力をこめる。マヤが身を引く中、オーティズは壁に、斬りかかる。
が、壁はスポンジのようにオーティズの剣の斬撃を受け止め、さらに剣の魔力をも吸収した。
「……なるほど」
ここでオーティズは怒りを抑えてゆっくりとその場に座った。
「どうなったのでしょうか?」
「さすが凄腕の魔導師だ。ぬかりはない。物理的衝撃も魔力も吸収するようになっている」
「……では」
壁を壊して外に出ることはできない。マヤもその場にへたり込んだ。
「すまぬな」
ここでオーティズが口にしたのはマヤへの謝罪の言葉だった。意外な言葉にマヤは少し焦ってしまう。
「単なる案内人のキミにまで迷惑をかけてしまって」
「いやいやそんな、オーティズさんのほうが大変じゃないですか。自分の国が大変なのに。私のことなんか気にしている場合じゃないですよ」
その瞬間、オーティズの手がマヤの頭を撫でた。
「小娘が強がるな」
「……あっ、はい」
マヤは顔を赤くしながらうずくまった。ぼーっとしながら、そういえば父親以外の男の人とふたりっきりになるのははじめてであることに気がついた。
オーティズの方は焦りを覆い隠しながら腰をかけた。そして脱出法を考えはじめる。そっとオレンジの地面に手を添えた。さらさらと触れながら頭に人差し指をやる。マヤはその様子を固唾を飲んで見守っている。
しばらくしてオーティズはため息をついた。
「……やはりダメですか?」
マヤがオーティズに聞く。
「いや、方法がないわけではないのだが」
オーティズは説明を始める。
「このオレンジの部屋というのは魔術障壁……いわゆるバリアの一種だ。普通バリアというのは外部の攻撃か
ら内を守るものだ。だから外側からの衝撃に絶対的な強度を用意する。だが、私たちが閉じ込められているのは、それを外側と内側を逆にしたものだ」
マヤは目をパチクリとする。
「バリアを卵に例えると、今我々が触っている内側の部分が卵の殻なのだ」
マヤは毎朝向いて食べるゆで卵を想像しながらさわさわと床をさわる。
「では、それを破る方法というのは?」
「卵の殻は外側は硬いが、内側は弱々しい雛が破れる程度に脆い。そういうことだ」
マヤの表情がパッと明るくなる。
「では、誰かに頼んで外側から破ってもらえば」
ここでオーティズの表情は暗くなる。
「が、その方法がない」
「え?」
「この魔術障壁の完成度は見事だ。先程から魔力を細くして外にもれさそうとしているが、すべてはね返ってくる。微細な伝達魔法にも対策をしているのだ」
「えーと……それじゃあ……誰かあああーーーーーー!!」
マヤは大声を出す。
「無駄だ。声や物理的な音ももれんだろう。そもそももれても、まわりを取り囲んでいるのはあの魔術師か龍族たちだ」
オーティズは息を吐いた。
「じゃあ私たちが外に出る方法は、偶然誰かがこのオレンジの箱を見つけて偶然破ってもらおうと思うしかないってことですか」
オーティズはうなずく。そして言う。
「ああその通りだ。そしてそんな物好きがこの世にいるわけ……」
ボコッ!!
「「……」」
オーティズとマヤの中間の壁から頭が顔を出した。
その顔は見覚えのある黒い仮面だった。
「……む、おぬしたちだったか?」
「……ガイエルさん?」
マヤは先ほどまで一緒に行動をしていたニンジャの名を呼ぶ。
「おお、久しぶりであるな」
「お前、なぜここに?」
オーティズが聞く。
「それはこちらのセリフだが……。私は修行の一環で、龍族がいた洞窟の中に入ってみたのだ。そして気になるオレンジ色の箱があったので、試しに顔をつっこんでみたのだ」
「ニンジャの方って、随分好奇心旺盛なんですね」
マヤは感心したように言う。
「……いや、よく知らぬがそれはニンジャとして慎重さにかけまくる行動の気がするが、まぁ助かった。頼む出してくれ」
「おおそうだな。私もこのまま顔がはまっていたのでは何もできん」
ガイエルは顔を引き抜くと、腰から刀を抜き下から上へかち上げた。
オレンジの箱は真っ二つに割れ、オーティズとマヤは外に出ることができた。
「うわぁありがとうございます」
マヤはお礼を言った。
オーティズはすぐに聞く。
「ところで、この洞窟にいたドラゴンたちはどこに行った」
周りにはドラゴン一匹すらの気配もない。
「……一ヶ月前にすべて出ていったぞ。どうやら奴らもゾゾリマの攻撃に参加するらしいな」
ガイエルの言葉はオーティズに色々な意味で衝撃を与えた。疑問と怒りがいくつも押し寄せるなか、まずオーティズは聞く。
「一ヶ月前?何を言っているんだ?私たちが閉じ込められたのは数分前だ」
このオーティズの言葉に、今度はガイエルの眉毛が困った角度となった。
マヤは言う。
「そういえばガイエルさんさっき『久しぶり』って言いましたよね」
「ああ、お前たちと会うのは三ヶ月ぶりだからなあ。あれから音沙汰がないから多少は心配をしていたのだぞ」
「ちょっと待て!!」
オーティズが声を荒げる。
「それは本当なのだな」
「……本当も何も」
困ったように答えるガイエル。マヤが不安そうに口を挟む。
「どういうことでしょうか?」
「あの男。あの箱に時間の進み方を遅く感じさせる魔術も仕込んでいやがった」
「え?」
「だから我々は中で数分しか過ごしていなくとも、もう外では三ヶ月も経っていたのだ、クソッ!!」
オーティズは彼に珍しい下品な言葉で苛立ちを表す。そして矢継ぎ早に次の質問をガイエルに浴びせる。
「『ゾゾリマの攻撃』と言っていたな。それはどういうことだ?」
「ああ、とうとうグルスは動いたぞ。全軍をまとめてゾゾリマを攻めこみに行っている」
「……何っ!!」
オーティズはそれを聞いた瞬間にマントをなびかせて踵を返した。一刻も早くレオンにこのことを伝えなければ、と。
「待て!!」
「何だ?」
呼び止めるガイエルにオーティズは聞く。
「ここだけの話だが教えてやろう。実はゾゾリマに攻め入ろうとしているのはグルスだけではない」
オーティズは息をのむ。
「オリクサ……クヤフ……ホーハム……インボイ……、ゾゾリマ以外の魔の六国すべてだ」
「何……だ……と……」
オーティズは膝をついてしまった。
オリクサやクヤフはまだしも、ホーハムは友好国であり、インボイは属国であったはずだ、それがなぜ…………。
【ダックワース】
ペロスが口にした、会ったこともない男の高笑いが、オーティズの耳をくすぐっていた。




