〜第3話〜オーティズ、龍の巣を行く
ガイエルの歩みは凄まじいものだった。
雪の上だと言うのに、まるで舗装された道路の上を歩くがごとくスタスタと進んでいた。不思議なことに雪には足跡ひとつつかない。
オーティズたちが乗る犬ゾリはかなり速く走っているが、ガイエルの歩みはそれより速い。
「凄いですね。これがニンジャですか」
マヤは爛々と目を輝かせた。
ガイエルは急に脚を止めた。犬ソリも急ブレーキをかけた。
「ここだ」
ガイエルはぽつりと言った。ガイエルの目の先にはぽっかりと洞窟の入り口が見えていた。
「……これが魔法学校ですか?」
マヤが不思議そうに聞く。
「……龍の臭いがするなあ」
オーティズがこう言うと、ガイエルの口もとがニヤリと笑った。
「そりゃそうだ。ここは龍の巣だからなあ」
「…………ちょっと、話が違うじゃないですか」
「どう言うことだ。説明しろ」
オーティズがガイエルを睨みつける。
「私が聞いた噂というのがそうだからだ。『魔法学校は龍の巣の奥にある』と」
「何っ」
「……まぁ、あくまで私が聞いた話だ。本当かどうかはわからん」
「……」
「では、私はこれで」
「ちょっと待て」
「……なんだ。私は修行に戻りたいのだが」
「案内、感謝する」
「……驚いた。まさか礼を言われると思わなかった。ものすごく冷淡そうな奴だと思ったものでな」
「冷淡な者でも、世話になれば礼くらい言う」
「……お前、あれか、もしかしてツンデレという奴ではなかろうか」
「ふざけたこと言うと斬るぞ」
「はい、私もオーティズさんはツンデレではないかと思います」
「お前まで何を」
突如口を挟んだマヤにオーティズは驚きの目を向けた。
その隙にガイエルは「では」と言い、さっと姿を消していた。
「……」
オーティズとマヤは洞窟の入り口の前、横なぐりの吹雪の中、立ち尽くした。
「オーティズさん。行きましょうか」
マヤはグッと拳を握りしめて言う。
「それなのだが。キミはここで待っているか、遠くへ行った方がいい」
「え?」
「ここは龍の巣だ。獰猛な龍どもが無数といる。キミには危険すぎる」
「あ、でも、オーティズさんは?」
「私か?私なら心配ない」
オーティズの目の奥がぎらりと光った。
◇◇◇
オーティズは歩みを進めていく。足音がたたないように静かに、そして速やかに。
明かり一つない洞窟をオーティズの目は紅く妖しく光り、蹴つまずくこともなく進んでいく。
10分ほど歩みを進めたところでオーティズは脚を止めた。
彼の目の先には黄金色に輝く巨大な空間が広がっていた。
ドシドシと地鳴りがしたので、オーティズはとっさに身体を翻し、物陰に身体を隠した。
目の前を黄金の身体をもつドラゴンが五体ほど通った。
ドラゴンの姿を見た瞬間、オーティズの右手はブルブルと震えていた。
ブルブルと震える右手を左手で押さえつけるが、身体中が震えているため、少しも震えが止まらない。
何とか物音を立てないないように震えを押さえていると、ドラゴン達が通り過ぎた。
オーティズはひと息をつき、物陰から身体を出す。
「何者だお前は!?」
オーティズの背中から声が飛んだ。
そこには金色の髪をした男がいた。
「お前は龍族ではないな」
金色の髪の男は腰に携えていた笛を吹く。
「……擬人化したドラゴンか」
オーティズは呟く。笛の音が響き、ドシドシという足音や羽音が殺到する。
気がつくとオーティズは無数のドラゴンに囲まれていた。
オーティズの髪は汗でびっしょりと濡れていて震えが止まらない。
「……やめろ……近づくな」
オーティズはそう呟くが、何人かの擬人化したドラゴン、巨体のままのドラゴンがオーティズに近づく。
「……やめろ……これ以上、龍の臭いを俺に嗅がせるな」
オーティズはうずくまる。
ドラゴンは彼を完全に包囲し、彼を捕らえようとしていた。
オーティズはぎろりと目をむく。
「これ以上近づいたら……また……龍を皆殺しにしたくなってしまうではないか」
オーティズは赤い口を三角にして言った。




