〜第2話〜オーティズ、忍者に会う
「あれ、ニンジャではないですか?」
マヤが静かにオーティズに耳打ちした。
「……ニンジャ?」
「ああいう風に全身を黒く包み、修行により魔法とは異なる不思議な術を身につけた方々らしいです」
「ほう、博識なのだな」
「あ、全然です。たまたま本で読んだだけですから」
オーティズに褒められて、マヤは顔を少し紅潮させて謙遜する。
「私はオーティズという。訳あって身元は話せん。そして重要な仕事の途中だ。内密ななあ……」
オーティズの切れ長な目が、ガイエルというニンジャに向けられる。
「よって、残念ながらお前を始末しなければならん」
オーティズは剣先をガイエルに向ける。マヤはギョッとする。
「……私は以前、ジング傭兵団というところにいた」
「ほう」
ジング傭兵団。戦闘力の高い人間たちを多く擁する魔族狩りのエキスパート集団であったが、レオンにより壊滅していた。
「では魔族を大変恨んでいるというわけか?」
「話を最後まで聞け。元々私がジング傭兵団にいたのは、私の能力を最も高値で買い取ってくれたところがジング傭兵団だったからだ。別に魔族に恨みなどない。だが……とても困ったのだ」
自分を雇ってくれていたジング傭兵団は、自分が任務に出ている間に、建物ごと真っ平らになって消えており、団長のハーストを始め、皆重症で、病院で包帯ぐるぐる巻きの状態となっていた。
これでは、もうジング傭兵団は何もできない。
「私は急に無職になったのだ。そこで私が考えることは一つしかない」
「復讐か?」
「だから、話を最後まで聞け。そしてどれだけ私に復讐をさせたいんだお前は」
オーティズをたしなめながらガイエルは続ける。
「無職になった私は考えた。そう、今まで仕事で忙しかった分思いっきりバカンスができると」
「…………バカンス?」
オーティズは虚をつかれたような表情を浮かべる。
「あの、バカンスでこんな寒さの厳しい雪国に来て、しかも雪の中に埋まっていたのですか?」
マヤも驚いて聞く。
「ああ、グルスは魔大陸の中でも最も環境が厳しい場所と聞いていたからな。修行にうってつけなのだ」
「バカンスなのか修行なのかどっちなのだ?」
「修行こそ、我にとって最高のバカンスなのだ」
「は?」
「普通の者が休暇にスポーツや読書や観劇に興じるように、私は修行を興じているのだ。修行こそ、忍びたる私にとって最高の娯楽。よく知り合いは我を勤勉だと言うが、我は本当は1秒たりともはたらきたくないのだ。『仕事」というものは嫌いでしょうがないのだ。そして1秒でも多く修行をしていたいのだ」
「……」
オーティズは口をつむぐ。
「なんか、変わったお方ですね」
「それは見た目からしてそうだろう」
マヤとオーティズはひそりと言葉を交わす。
「つまり我の言いたいことは、過去に魔族と戦っていたのは仕事なので無理やりさせられていたことであり、魔族と戦うなどこのプライベートの時間に一切やりたくないのだ。なのでお願いする。黙ってここを素通りして我の修行の邪魔をしないでくれ」
ガイエルは頭を下げた。
「オーティズさん。そこまで言うのでしたら。そっとしておいてあげたほうがよいのではないでしょうか」
マヤが言う。
「……では、一つだけ聞かせてもらおう」
オーティズは一歩前に出る。
「ここら辺で、魔法学校があるという噂を聞いていないか?」
ガイエルはしばし無言になる。
「……着いてこい」
彼は黙って歩き始めた。




