〜第8話〜魔王、勇者、魔法使い、女剣士……などの穏やかなお茶会(第4章完)
ゾゾリマの城の応接間で、勇者オチョアと魔法使いビョンキはハーブティーをすすっていた。
ビョンキは意外な美味しさに、内心「やるわね」と思っていた。
「ゾゾリマは初めてですか?」
レオンがオチョアに聞く。
「……うーん、どうだったかなあ。初めてだったような……そうでもないような……うーんどうだろう……」
これにビョンキが口を挟む。
「この男は基本的にどこに行ったとか何食べたとかは、翌日には忘れているから……。そもそも魔王、この男がゾゾリマに来たってことは、あんたの国が勇者に攻められたってことだから、のほほんと聞くことじゃないわよ」
「えへへ、そうですね。ビョンキさんは魔大陸は初めてですか」
「ゾゾリマはもちろん初めてだけど、魔大陸にはしばらく住んでいたわ」
「そうなんですか」
「ビョンキちゃん、親父さんが国王で、今人間で一番偉い人だけど、叔父さんがまた、凄腕の魔法使いでねえ」
「……この男とパーティーを組んでいたのよ」
ビョンキが口をはさむ。
「でねえ、そのあと叔父さんは魔大陸で魔法学校を開いたのよ。魔族、人間関わらず入れるね」
ここで、ゾゾリマの城がドシンと揺れた。ティーカップのハーブティーに波紋が広がる。
皆、立って身構えた。
応接間にゾゾリマの魔族兵士が入ってくる。
「レオン様、大変です!!」
「どうしたのですか?」
「その……、捉えていた大男が爆発魔法で牢を破壊しました」
「……魔法を封じる鎖に繋いでいたのではないのか?」
脇で佇んでいたラミアが聞く。
「それが、鎖を力で引きちぎられまして、それで……」
レオンとラミアはそれを兵士が言い終わるか言い終わらないかのところで地下へ走った。
そこには腕に引きちぎられた鎖がぶら下がったままの大男。そして顔を真っ青にして槍を突きつけていた。
レオンもラミアも身構える。そこにオチョアもビョンキも降りてきた。
そして、ビョンキが大男を見るなり言った。
「……あれ、タカマっちじゃない」
「…………ごお?」
険しい顔つきだった大男の顔が緩む。
「あんた、何してんのこんなところで?」
「ごおお、ごお、ごおおお、おお」
「はぁ、なるほどねえ」
ビョンキは頷いた。
「あのお、お知り合いですか?」
レオンが聞く。
「ええ、さっき話した魔法学校の同期よ」
ビョンキはさらりと答えた。
◇◇◇
応接間にて、ハーブティーをすするレオン、オチョア、ビョンキ、ラミア、そして大男タカマ。
レオンが口を開いた。
「いやあ、まさかビョンキさんのご学友だとは」
「……それだけで、自分を殺そうとした男をハーブティーでもてなすなんてねえ……。タカマっちもタカマっちよ。自分が殺そうとした魔王が出したハーブティーをのほほんと飲むなんてホント非常識よ」
ビョンキが口を挟む。
「お前がいうな」
ラミアがさらりと突っ込む。
「ごお、ごおおおお」
タカマが口を開き、ビョンキがふむふむと頷く。
「はぁ、なるほどねえ」
ビョンキはすべて聴き終わった後で、ひとりしたり顔でハーブティーをすすった。
「こらこら、今その男が何を言ったか説明しろ」
ラミアがビョンキを睨む。
「シオミとふたりで、魔王レオンとホーハムの姫を襲ったのは、ある人にお仕事として頼まれたからだって」
「……ビョンキちゃん、そんなモヤっとした言い方だと、あちらさん不満じゃないかい」
オチョアがレオンたちの意見を代弁して述べる。
「あのねえオチョア、ここで私が黒幕の名をべらべら喋れるわけないでしょうが。あくまで私は変な魔族の争いに全く関係ない、ただの客人なんだから」
「それはそうだけどさあ」
オチョアがやれやれと息を吐く。
ここでビョンキの喉元にレイピアの刃が突きつけられる。
「言え、黒幕を」
ラミアがビョンキを睨んでいた。
ビョンキはラミアを睨み返したあと、ため息をついて言った。
「というか、タカマっちは黒幕の名前しゃべってないから、私を脅してもわかんないわよ」
「……本当か?」
「本当も何も、さっきのタカマっちの言葉聞いてればわかるでしょ」
「いや、奴の言葉わかるのアンタだけだよ」
ラミアがつっこんだ。
「いやあ、それにしてもタカマっち久しぶりねえ。あの性格の悪いシオミとはまだ仲良くしてるの?」
「ごおおお、ごお」
「あらら、友達は選んだ方がいいわよ」
「おい、勝手に世間話始めるな」
ラミアがさらに怒る。
「いいじゃない。久しぶりなんだから。いい人ばかりだった魔法学校の中でもタカマっちは本当にいいコでねえ。悪い奴なんて、あのおしゃべりクソ野郎のシオミとあとアイツ……」
ビョンキは何かを思い出したかのように床をジリジリ、ブーツで踏みつける。
「……わずか14歳にして、ありとあらゆる魔法を習得した大天才の私が目の前にいるのに、ことあるごとに自分を『天才』って言う、頭のイカれた魔族よ……」
ビョンキはここから数十分、その嫌いな学友について語った。
それは、ビョンキ以外のそこにいる全ての者にとってどうでもいい話だった。
人の良いレオンは、いちいちビョンキの話に「そうなんですか」と相槌を打ってあげるが、話の内容自体全く頭に入っていなかった。
だがしかし……
この話が後に、レオンにとって重要な意味を持ってくるのだが、それはまた別の話。




