〜第4話〜武神勇者の力
紺のローブを着た女の子はほうきに乗って浮いていた。
またがって乗っているのではなく、ベンチに腰掛けるようにしている。
よく見るとほうきには、楽に座れるような座椅子がついていた。
「……どういうつもり…………オチョア」
ほうきに乗った女の子は、ラミアをスルーし、倒れている勇者オチョアの元に向かう。
「さっきから……めちゃくちゃ手を抜いて戦って、どういうつもり!!」
このセリフにオチョアはにやりと笑う。ラミアは「え……?」と言葉を漏らす。
「めちゃくちゃどころじゃないわ。あんた1パーセントも……いや0.1パーセントも力を出していないんじゃないの」
女の子の口調は激しくなる。
「お父様の指令にあんたちゃんと首を縦に振ったわよね。『魔王レオンを倒します』って指令に」
「ああ」
「じゃあ何で手を抜いたの?」
ここで少し空を見上げてからオチョアは言った。
「…………パンツが見たかったからだ」
「……………はぁ?」
女の子は表情を崩した。
「だって、ワンピース姿で動きまわってくれるおかけですんごいパンツ見えるんだよ。こんな可愛いコのパンツをたくさん見れる機会なんて滅多にないから、少しでも長い間見ていたかったんだよ」
これを聞いて、ラミアは顔面を真っ赤にしながらスカートを押さえた。
ほうきに乗った女の子はあきれ顔だ。
「…………オチョア、あんた、もういい歳なのに一向にそのスケベ根性治らないわねえ、もはや病気よ」
「そりゃあ男の子なんだもの。可愛いコのパンツを見るためなら多少のことはするさ」
「だからあオチョアぁ、この可愛いコのパンツがいくら見たくても、もうオッサンなんだから、ちゃんと言われた仕事を優先しなさい、わかったあ?」
『可愛い』と『パンツ』という単語を聞くたびに、ラミアは真っ赤になってもじもじし、とろけそうになっていた。
「……わかりましたよビョンキちゃん、そろそろこの女の子倒して進軍するよ」
オチョアはバッと立ち上がり両手に剣を構えた。
ラミアも気をとり直してレイピアを構える。そのラミアに遠巻きに見ていたアグバが声をかける。
「おい、奴隷女、勇者オチョアは可愛いお前のパンツに気を取られておるのだから見せまくってやれ。減るもんじゃないから出し惜しみするな」
「うるさい!!せっかく気を入れなおしたのだから『可愛い』と『パンツ』って言うなあ!!」
ラミアは内股で赤面し、再びモジモジしてしまう。
が、ここでオチョアが飛びこんでくる。先ほどとはまるで違う殺気に、ラミアは真剣にならざるを得なかった。
オチョアの剣をレイピアで受ける。
が、先ほどとは力があまりに違う。思わず受けた瞬間にレイピアが弾き飛ばされそうになった。
かろうじてレイピアを握ったままこらえるが、手がしびれている。
まずい。そう思った。
もう、二撃目のもう片方の刃が来ている。これをしびれた腕を必死に動かして受ける。
カキンと音が鳴り、レイピアが宙に飛ばされた。
そして三撃目が来た。
がら空きのラミアの胴。オチョアの剣を握った拳がめりこんだ。
「……ぐはっ」
ラミアのうめき声。その衝撃にそのままラミアの意識は途切れ前に倒れこんだ。
「悪いな嬢ちゃん」
オチョアは倒れこむラミアを優しく抱きとめたあと、そっと地面に寝かした。
「……そう、やればできるじゃない」
ほうきに乗った女の子はにっこりと褒めた。
「さぁ、進むか」
オチョアはとめてあった馬に乗ろうとする。
この様子を見て、アグバはガタガタと震えていた。
「……アグバ様、どうしましょう」
部下が聞く。
「……終わりだ」
「…………は?」
「ゾゾリマは終わったのだ…………」
「……ええ」
次の瞬間、ゾゾリマ魔族たちは一斉に逃げ始めた。
「お前ら、先に逃げるなずるいぞ」
アグバもそう言って踵を返した。
その時だった。
「アグバさん、ここにいらっしゃったんですか」
のんびりした声が聞こえた。
「……うるさい、話しかけるな!!」
その声に応えることなくアグバは逃げようとする。
「お忙しいのですか?」
「見てたらわかるだろう!!」
「……すみません」
声がシュンとした。ここで少し冷静になったアグバが声の主を見た。
「…………レオン様ぁ」
アグバは柔和な表情になる。ホーハムにいるはずのレオンが、なぜかそこにいた。
「…………ほう」
馬上のオチョアは楽しげな表情を見せた。




