〜第2話〜勇者の襲来
「勇者オチョア…………とっくに死んだんじゃないのか」
アグバは呟いた。
勇者オチョア。人間でありながら魔王クラスの力を持ち、多くの有力魔族が彼に狩られた。
人間離れした恐ろしい力を持つことから【武神】とも呼ばれた。
しかし、20年前に突如魔族との戦いを止め、山に籠り、それ以来彼の名前が表舞台に出ることはなかった。
ゆえに彼はどこかで死んだと考えられていた。だがしかし……
「何で今さら現れて、我が国を攻めているのだ!!」
アグバは叫んだ。
「……勇者オチョアは、こちらに向かって進んでいるとか……アグバ様、いかがいたしましょうか?」
部下の声も震えている。
「オーティズは。オーティズはいないのか?」
「先ほど出ていかれたばかりでして」
「オイ、数分前まで私としゃべっていたろ。何て行動の早い奴なのだ」
アグバは地団駄を踏んだ。
「……レオンは?」
アグバは聞く。
「……そのおレオン様も、普段、姫がよく来ていただいているお礼にと、ただいまホーハムに来訪中です」
「…………それでは…………、勇者オチョアに対抗する戦力がまるで無いではないかーーー!!」
アグバは叫んだ。
「……しかし、我がゾゾリマには自慢の屈強な魔族たちがまだまだおります」
「バカか。レオンとオーティズ以外の我がゾゾリマ魔族など弱っちいやつばかりだわ。現に勇者オチョアにめちゃくちゃやられてるだろうが」
「…………、アグバ様は?まだゾゾリマにはアグバ様が……」
「やっぱり頭バカだなお前。わしは手ではなく頭を動かすタイプ。勝てるわけ無いだろう!!」
そう叫んでアグバは頭を抱えた。
オーティズは言っていた。「私がいない間にゾゾリマを滅したら承知せんからな」と。
あの男は冗談が通じない男であるから、ゾゾリマが危機に陥ったら、本当に自分を殺すかもしれない。
そして、あの残忍なレオンも、留守中に国を守れなかった自分を処刑するに違いない。
ヤバイ。ヤバすぎる。
アグバは顔を真っ青にしてガタガタと震えた。
そのとき、廊下を横切った。
水色のワンピースに腰にレイピアをさした少女が、うんしょうんしょと肥料のふくろを抱えながら。
「っ!?」
アグバの目の色が輝いた。彼は少女……ラミアの元に走り寄った。
「奴隷女、ちょっと待て」
「…………」
ラミアは無視して通り過ぎようとする。
「オイ、露骨に無視をするな。頼む。もう勇者オチョアに勝てそうなのはお前しかおらんのだ」
「……はあ?」
「ゾゾリマを、武神と呼ばれたヤバイ勇者が攻めてきている。頼む。奴と戦って撃退してくれ」
「…………、私は花園の手入れで忙しいのだ」
「頼む」
「……」
「頼むよ、奴隷……いや、ラミアさん……」
「……」
ラミアはあくまでアグバを無視しようとする。
「お願いします。ラミアさま。…………ラミアさまぁ」
アグバは涙目で追いすがる。とうとう倒れこみラミアのスカートの裾をぎゅうと握って懇願した。
「……はなせ」
ラミアは、ゴミを見るような目でアグバを見下し、とうとう彼の顔をふんづけた。
「助けてください、ラミアさまぁ。実は貴女の強さにはずっと前から一目置いていました」
ラミアはアグバをぎゅうぎゅうとふみつけ続ける。
「それだけでなく……そして、最近、ずいぶんとお可愛くなられた」
「えっ?」
アグバをふむ力が弱まった。
アグバが顔を上げると、ラミアの顔が少し赤くなっていた。
「……花園の世話をしている姿はとてもお可愛く……魅力的であると私は思う」
「……そんなわけないだろう。わ、私が可愛いとか……」
「いやあ、本当だ。魔族である私でもお前に近づくと、艶々とした髪の毛や、細くなだらか腰など、魅力的すぎてどきどきしてしまう」
ラミアは赤面したまま、あわわと何も言えなくなっている。
アグバはにやりと押し続ける。
「私だけでない。きっとレオン様もそう思っているだろう」
「なっ!?」
ラミアは肥料のふくろを落とした。
「レオン様も、こんな可愛い女の子が近くにいて好きにならないわけが……」
「わかった!!」
ラミアは大声を出してアグバの声を遮った。
「わかった、戦ってやるからもう、そんなこと言うのやめてくれ。お尻がむずがゆくて、もう我慢できないよぉ……」
最後はラミアはうつむきながら言った。




